第12話 「踏まれし者 5」
「……アマンデオ。アマンデオ!」
「…!?お兄ちゃん!」
「静かにしろ。今出してやる。」
屋敷を抜け出した俺は、アマンデオを助ける為に街へ戻ってきていた。
一人の奴隷が貴族の使用人を殺して逃げてきたのだ。
この国で生きづらくなることは間違いない。
なら、別の国の王族であるアマンデオを救い、その国で生きるほうが容易いと考えた。
盗みをして僅かに得た金を使い、アマンデオの国へ向かう荷馬車に乗せてもらった。
そして俺はアマンデオの国へたどり着き、保護された。
アマンデオは王子、俺は国の兵士となった。
お互いに深くかかわることのないまま、十数年が経った。
兵士となった俺は、『強さ』に飢えた。
執事を、人間を初めて殺したときの高揚感。
俺はそれが忘れられなかった。
戦うことを初めてから、俺は自分の特殊な能力を持っていることに気が付いた。
どうやら俺は『踏まれる』と相手の力をコピーすることができるらしい。
それは身体能力だけでなく、魔力、魔法、技術、知識までも吸収することができる。
しかも、吸収した力は僅かに相手より上回る。
この力を利用して力を蓄え、騎士という身分になった。
そんなある日、俺は王に呼び出される。
たくさんの兵士たちが並ぶ王の間
その中央に俺は跪いている。
玉座には父を亡くし、若くして王となったアマンデオがいる。
奴隷の頃には想像できない程、凛々しく育ったアマンデオはゆっくりと口を開いた。
「よく来てくれた、バルト。今日来てもらった理由、察しはつくだろう。
ここ数年世界を荒らしまわっている…魔王についてだ。」
『魔王』、それは通称で付けられた名前であり、おとぎ話に出てくるような魔物の王ではない。
絶大な魔力を持つ一人の人間だ。
現れたところの魔力を根こそぎ吸収し消えていくという。
その魔王の住処が最近判明した。
そして『魔王討伐』という功績を欲しい国の一つが討伐部隊を送った聞いている。
「つい先ほど、南の王国が送った討伐部隊が、魔王の攻撃により全滅したと知らせがきた。」
兵士たちがざわざわとし始める。
そうだろうな。
あの程度の兵力で済むようなら『魔王』という名もつかないだろう。
「どう思う?『多才なる騎士』バルトよ。
我が国一番の実力者とも言われる君なら、魔王を討つことができるか?」
「もちろん可能です、我が王。
魔王を討ち、この世界に平和をもたらしましょう。」
単純に考えればいい。
魔王に踏まれればいいだけだ。
それだけで俺は魔王の力を上回ることができるだろう。
玉座からアマンデオが降りてきて、目の前に膝を着く。
「バルト。君に救ってもらったことを感謝している。
もしも君が居なかったら私は王座に座っていることはなかっただろう。
そんな君を魔王討伐に利用するなんて…。不甲斐ない。どうか許してくれ。」
「気にするな。アマンデオ王。」
俺もお前を十分利用できた。
魔王の力を吸収できるのなら、もう必要ない。