★プロローグ 「結ぶ廊下」
プロローグから第4話まで、女神たちの日常を描写しました。
永遠に続く白く長い廊下を1人の女神が歩いている。
廊下に溶け込んでしまう様な真っ白な羽衣に真っ白なロングヘアー。
一歩進むごとにそれらが気怠そうに揺れた。
彼女の左右には無数の扉が並んでおり、その一つ一つに番号が彫られている。
331……332……333……
彼女はそれらを尻目にゆっくりと歩みを進めた。
「……はぁ」
『1115』と彫られた扉の前に立ち止まると、大きなため息をついた。
「めんどくさいなぁもう」
そう呟くと、女神リッカは扉に手をかけ押し開けた。
天界―――それは神々が生きる世界。
大理石で建てられた美しい造形の建物がいくつも立ち並び、青い空には天使たちが飛び交う……。
そんな世界にひと際目立つ建物がある。
天界のちょうど中央にある建物だ。
とてもとても大きく、天使の飛行速度だと端から端まで半日も移動に時間がかかってしまう。
そんな巨大な建物にかかわらず、ふわふわと宙に浮いている。
天界の中央区であれば、その建物『中央局』は必ず目に入るだろう。
中央局は大きく二つ役割がある。まず一つ目が天界を管理する役割だ。ほかの局と連携を取り合う通信課。天使たちの学校を管理する教育課。神々の堕天を防ぐ監視課などがある。
もう一つの役割が、異世界を管理する役割だ。無数に存在する異世界を制御することで、世界間のバランスを保ち、互いに干渉することがないようにする。
様々な世界で死んだ生物たちを転生させる転生課。バランスを保つために異世界に干渉する奇跡課。異世界の文化を調査する研究課などがある。
扉の先は、真っ白な廊下とは正反対の暗い世界だ。
暗闇の世界にはリッカの姿がだけが浮いている。
ぐっ…と背伸びをしながらリッカが片手を突き出すと、そこに二つの椅子が召喚された。
「えっへん。
あー、あー」
声の調子を確認しながら片方の椅子に座る。
長髪を整え、装飾用な光の玉を召喚し落ち着いた空間を作る。
顔をパチパチと叩いて眠気を吹き飛ばし、目をしっかりと見開いた。
正面の椅子へ向き直り、暗闇の世界で一人つぶやく。
「1115番。女神リッカ、準備が整いました。対象生物の転送をお願いします。」
目の前の椅子が淡い緑色の光に包まれ、生物がそこに転送され始める。
今日は何人くらい裁けるかな?
そんなことを考えながら、召喚された対象生物へと注意を向けた。
毎日繰り返す転生のお仕事。
最初の頃は現れる生物たちを観察し、楽しい時間を過ごした。
ただ、何百年も同じことを繰り返すと流石に飽きてきた。
今日もまた退屈な時間が始まる。
彼女の本日最初の対象生物は、椅子の上にちょこんと乗った緑色の生物。
トカゲだった。
2018.9.25 挿絵を追加
2021.5.11 リッカ正面顔挿絵を追加