5.誰を差し置いても、貴方は私が許しません
何でしょう、この、ネタは思いつくのにそれを文字に起こせないもどかしさ。
6/22:文章のラスト付近の名前を修正。
「ティオ」
↓
「ティナ」
そんなことするキャラじゃないですね………
その後、俺達は一日かけて、エディル湖から南に延びる大河『レレノヴァ』に到着した。
そして、そこから北上に追加で一日。
レレノヴァ沿いは様々な国や町があり、最短距離で北上出来なかったので少し時間がかかってしまった。
色々落ち着いたら、ゆっくり観光したいものだ。
川下りで街を回るのは、すごく楽しそうだ。
とりあえず急ぐ事3日目の昼。
俺は教皇国家マルスメティアに到着した。
マルスメティア正門から少し離れた道の途中。
俺は、そこにティオ様を【転移】で連れてきた。
連れてきた直後は、道の横で体を丸め休むフェンリルを見て、歓声を上げてシロに向かって飛びつき、埋もれて出てこないという一件があったが、その気持ちは分かるのでティオ様が満足するまで俺もシロを撫で続けていた。
ティオ様が満足した顔で出てきたのは、それから数十分経ってからだった。
「レイ様、本当にありがとうございました!」
ティオ様は、俺に向かって深々と頭を下げる。
「今回の出来事を私は一生忘れないでしょう!マルスメティアに戻っても、何も恥じる事無く自分の宗派を『精霊教』と名乗る事が出来ます!」
「お、おう、ありがとうございます………」
ティオ様はそう言って顔を上げ、俺をキラキラした目で見つめる。
あぁ、間違いなくこれは俺の信者だろう………。
マルスメティアに戻っても、一悶着起こしそうな予感がヒシヒシとするね。
「ティナ、ティオ様の事を頼んだぞ、本気で」
俺はそう言って、ティオ様の横でずっと佇んでいたティナの両肩を掴んだ。
「はい、マスターの期待に応えて見せます」
ティナは、シロ以上の無表情でそう頷く。
ティオが【血の眷属】で覚えたスキルは、恐ろしくチートだ。しかも『法』と『秩序』を司る契約精霊に相応しい能力だ。
ティナだけでも十分な戦力だが、ティオ様も新スキルを覚えた。
この二人は安心だろう。むしろ過剰戦力感が否めないほどだ。
「それではレイ様、またお会いしましょう!私、お待ちしておりますね!」
ティオ様はそう言って、マルスメティアの正門に向かって駆け出す。
ニコニコしたまま俺に手を振っているので、前を見ていない。普通に危ない。
やはりと言っては何だが、ティオ様はかなり無防備だ。
横にいるティナに何とか頑張ってもらおう。本気で。
「ふぅ………。それじゃ、シロ」
「………ワゥ?」
顔を埋めて丸まっていたシロは、俺の声に反応して顔を上げる。
「引き続き、北上していこうか。もう準備はいいか?」
「ゥオンッ!」
シロの一鳴きが平原に響いた。
――――――――――
マルスメティア大教会、教皇の間。
現在そこでは、教皇『アテン・マルス』が自分の信仰する世界神『アルカナ』に祈りを捧げていた。
(我が尊敬、敬愛する世界神『アルカナ』様。私の孫をどうか、どうかお守りください。私が間違っていたのです。危ないとわかっていながら、あの子に碌に護衛を付けなかった私の気の緩みなのは自覚しております。だから、あの子は何も悪くないのです。だから、どうかあの子を助けてあげてほしいのです。あの子の為なら、私は――――――)
ここ数週間、彼女はずっと祈りを捧げている。
慰安に出た切り帰らず、便りの無い孫を心配して。
今の彼女は碌な食事もとっていない為、かなりやせ細ってきている。
元々かなりのご年配なのだ。
家臣や民からしたら、教皇様がいつ死んでもおかしくない気がしていて、現在のマルスメティアは暗い雰囲気が漂っていた。
「きょ、教皇様ぁッ!!」
そんな中、そこに一人の男が飛び込んできた。
「………どうしたのですか?」
アテンは祈りの最中だったが、顔を上げ彼の方に向き直る。
教皇の祈りの妨害は、この国の中では罪となる。が、別に咎めるつもりは無かった。
彼はこの国の枢機卿の一人だが、普段は礼儀に厳しくルールを破る事の無い男だ。周囲も認めるほどの敬愛な信者なのだ。
そんな彼がこんな事をするにはそれなりの理由が存在するのだろう。
すると彼は私の予想通りに、それなりの報告を持ってきてくれた。
「ティオ様がッ、ティオ様が帰ってきましたッ!」
それは、私の願いに願った吉報。
私はその報告を聞いて、いてもたってもいられずに駆けだそうとする。
だが急かす意思があるも、弱った体が全く付いて来てくれない。
立ち上がろうとして転んだ私を見て枢機卿は慌てて駆け寄って来て、私に肩を貸してくれた。
その状態で教会内にある広間に向かう。
私が広間に到着した時には、6人の全枢機卿といったマルスメティアの幹部格が勢ぞろいしており、その輪の中に―――。
「ティオッ!」
「おばあ様っ!」
私を見つけたティオが、一目散に私に抱き着いてきた。
「おばあ様ぁ………会いたかったっ………会いたかったです………」
そして私の胸元に顔を埋め、ぼろぼろと涙をこぼす。
その姿を見ていると、私も涙が止まらなくなってくる。
「ティオ………ごめんなさい、私がちゃんと危険予知できていればこんな事には………」
「いいえ、私も悪かったのです。世の中には怖い人もいっぱいいる、という事を軽く見てたのは事実ですから………」
涙をこぼして懺悔する私を見て、ティオは自分も泣いているのに私を優先して即座にフォローしてくれる。
本当に心優しく成長してくれたと思う。
だが、この子はその優しさを付け狙われて、ガルザードに捕まってしまった。
「でも、ティオはどうやってあの国から逃げてきたのかい?」
私が質問をすると、ティオは誇らしげな顔でトンデモ発言をした。
「実は、精霊王が私を助けてくれたのです!」
「せ、精霊王?」
孫の口から唐突に語られた、神と同等の存在であり信仰の対象となる伝説の存在の話に、私は思わずオウム返しになってしまう。
「はいっ!実は―――」
ガルザードの勇者に奴隷されていた所を、精霊王に助けられた。という内容をザックリと説明中。
「―――という訳なんです!」
ティオの口から語られた内容は、その年齢・性格で受けるには酷過ぎる仕打ちだった。
恐らく、その優しすぎる心には多大で絶大な傷を負った事に間違いは無いだろう。
だが、ティオの様子に他者や外部への恐怖は見られない。
「精霊王様のお陰で私は無事に帰って来る事が出来たのです!」
それはひとえに、精霊王を名乗る人物が様々な面からティオを助けてくれたのだろう、と分かる。
「彼の王になら、純潔を捧げるのも悪くないと思うほどに私は恩義を感じております!」
「そ、そうなのですか………」
自分の孫から放たれる、予想以上の好意の言葉に私は思わず詰まってしまった。
どうやら、負の境地から徹底的に救い上げられた私の孫である純潔生娘は、その心を精霊王に奪われてしまったようだ。
本人は『恩義』や『忠義』、『尊敬』の類の感情を抱いていると思っているようだが、そんなキラキラした目をして、頬を赤く染めながら言われても説得力は全く無い。
元々世話役も女性で固めていたし、周辺にいた男性も枢機卿だったりと物静かな者が多い環境で育ってしまった為、ティオは世間の男性像を『最底辺の屑』基準に考えてしまったのだろう。
だが、そんな中で『頼りになる男性』に助けられたので、その振り幅から心を簡単に奪われてしまったのだろうと予想が出来た。
それに元々この子は公には話していなかったが、『精霊教』を己の宗派として定めている感じが所々で見受けられていた。
その信仰の相手がそんな人物だったという感動もひとしおなのだろう。
「うふふ、それは素晴らしい御方ね」
だが、問題は全く無い。
寧ろ、この世の中でそのような男性に出会えた事を喜ぶべきだと私は考えている。
「それで精霊王様が遣わしてくれた護衛が、貴方の後ろにいらっしゃる方ですか」
私は、先ほどから私達の少し後ろで佇む女性を見る。
やはり、只者ではない。
溢れる魔力と漂う雰囲気が、私が見た事ある精霊の中でも一線を画していた。
「はいっ!此方が契約精霊のティナ様です!ふふ、名前もそっくりなんですよ!」
ティオはあっけらかんと彼女を紹介しているが、周りの私達はただ事では無かった。
『契約精霊』と言えば、初代特級精霊の一人だという事は有名な話だ。
そんな精霊をティオにポンと付けられるのは、流石精霊王と言うべきか。
「発言いいでしょうか」
そんな彼女が挙手をする。
「はい、ティナ様。何でしょうか?」
「私はマスターから、『ティオ・マルスの護衛』を頼まれています。その為、ティオ・マルスの付近での不穏分子を排除したいと考えています。排除行動を実行してもよろしいですか?」
彼女は淡々と語り、許可を求める。
私に確認を取ってはいるが、形式的な質問なのは直ぐに分かった。
彼女は精霊王の指示を最優先で行動しているようなので、その為なら実力行使を厭わないだろう。
でも彼女の提案は、私としても願ってもいない事だった。
「えぇ、構いませんよ。どうか、よろしくお願いします」
この国の中に内通者がいるとは考えたくは無い。
だがティオが誘拐された時、相手の動きが早すぎたし、私への情報が来るのがあまりにも遅かった。
その点がどうしても引っかかるのだ。
「了解しました。スキルを発動します」
ティナ様はそう呟く。
「【審判】」
ティナ様の眼が変わる。
ハイライトが消え、その感情を宿してすらいない深淵を覗かせる様な瞳に。
それと同時に、この場の雰囲気が一瞬で緊張感のある、張り詰めた雰囲気にガラッと切り替わった。
これが特級精霊の放つ威圧なのか、と慄いているのは私だけでは無いだろう。
「『被告人:この広場にいる者』。『罪人:ティオ・マルスに危害を加える者』。『罰則:ティオ・マルスに加えた危害の大きさ』」
この身じろぎ一つ許されないような緊張感の中、ティナ様は淡々と言葉を紡ぐ。
「以下の条件で裁判を始める」
ティナ様は右腕を上げる。
「判決」
緊張感のピーク。
全員の足元に魔法陣が浮かび輝き始める。
本能が警報を鳴らす中、誰一人として身動きすら取れていない。
「You're ,guilty」
その言葉の瞬間に、数名の者の足元から紫に輝く蔦が溢れだして、その者を雁字搦めに縛り倒した。
ティナ様の眼に光が戻る。
「今縛られている者が罪人です。その蔦が多ければ多いほど、罪が重い者です」
ティナ様はそう言って、ミノムシの様に縛られた者達を冷めた目で見下す。
私もその者達の顔を見渡す。
「ミクシア殿………。まさか貴方もだとは思いませんでした………」
その中には、『叡智教』の枢機卿もいた。
「こ、これは何かの間違いだ!この俺がそのような真似をする訳が―――」
「重罪」
「ッぐわあぁァァァ!」
ティナ様が一言呟くと、蔦の数が増大して締め付ける力が明らかに増す。
普段は冷静沈着な枢機卿も苦痛の悲鳴を上げる。
「『法』と『秩序』の法則を生み出した私が『嘘を付く』と。面白い冗談です」
ティナ様はそう呟きながら枢機卿に歩み寄る。
「ガッ!?」
そして、思いっきり頭を踏みつけた。
「ですが、それは私にとって至上最低の侮蔑です」
その目は、スキルを発動していた時に近しいほどの冷徹な目をしていた。
「誰を差し置いても、貴方は私が許しません」
先に言いますと、エルフの里には次回着きますが、夕莉には会いません。
話を早く進めないとね!




