1.………兄様、ごめんなさい!
魔物娘編スタートです。
「シロ!体力は大丈夫か!?」
「ガウッ!」
『………問題無い』
「それなら、目的地までもうちょっとだ!頼むぞ!」
「ウオンッ!」
『………うん!』
俺は今、輝くほどの銀色の毛並みの狼―――神狼の姿のシロに乗って、全力疾走で森を駆け抜けている。
ひたすらに真っすぐ目的地を目指して。
北へ。
北へ。
三日月形の大陸の最北端を目指す。
そこにそびえる世界樹の麓。
エルフの里に向かって。
龍を守り、ガルザード帝国軍を蹴散らした後。
龍の正体がフランだと知り、色々訳が分からなくなった俺は、とりあえず全員を連れて洞窟に再度集合した。
そして事情を説明した後、直ぐに学園長であるトリスさんの元に俺一人で赴き、ゴブリンを連れて行ける許可をもらってから、クリカトル学園の学園長室に全員で再度【転移】した。
オルには、緊急事態という事で母さんに【眷属念話】で、とりあえず結果だけ送っている。
ちなみに急いでいたが、ティナ達を連れて行くと多すぎたので、この時点で【血の眷属】を使って、精霊組とは眷属化を済ませてある。
「―――という訳です」
「成程ねぇ………」
学園長に俺が今日の出来事を説明すると、学園長は相変わらずの艶やかで妖艶な声で一言呟いて、俺を見る。
今の俺は、フランを体の正面で抱えて、ゴブリンを帯を使って背負い、右足にリリス、左足にレナウンがくっついている。
そして、エルフ4人とティオ様の精霊教組は、やけにキラキラした目で俺を見ており、その横でクリス先生がウンウンと頷いている。
「随分と、まぁ………族長の思い人は人気者ね」
そんな俺を、学園長は机に両肘をついた掌に顔を乗せ、驚きと呆れが混じった目で見つめてくる。
「ここまでいくなんて、自分も予想外ですよ………」
龍の相手をしに行っただけなんだけどなぁ………。
「それで、君はこれからどうするつもりかしら?」
学園長は、軽く首を傾げながら俺の問いかける。
「ゴブリンは目を覚ました時に、【従属】をお願いする予定です。フランに関しても、起き次第事情を聴きます」
初めて目撃された場所はガルザード帝国じゃない筈なのに、奴らがフランを追っていたのが気になる。今回の件で、ガルザード帝国を目撃しすぎて全てが怪しく感じてしまう。
「それとエルフの4人とティオ様は、早急にでも国に返す予定です。特に、ティオ様に関しては早急に動かないと、戦争になってしまいます」
既にティオ様は助けているのに戦争になってしまえば、誰も得しない。急いで止めるべきだ。
「どうやって行くつもりかしら?」
「俺が一人で走って行きます。そして、目的地に着いたら【転移】で送ります」
恐らく、この方法が一番早く、身軽だからこそ臨機応変に動けるだろう。
「成程、確かにその方法が君への負担が大きいけれど、確実であり最適でしょうね」
学園長からも同意が得られ――
「でも、その方法には一つ問題があるわ」
た、様に思ったのだが、そうでは無いらしい。
「それは?」
「アナタの妹、シロアよ」
「シロ?あいつがどうしたんです?」
学園長の口からは、想定外の名前が出て来た。何故、シロが問題になるんだ?
「アナタ、今日のシロアの様子をまだ知らないの?」
「今日?朝別れた時以降会ってないので分からないんですが、何かあったんですか?」
朝方は、俺がドラゴンと接触するって聞いて機嫌が悪かったが、そんな問題を起こすレベルじゃなかったはずだが………。
俺の言葉を聞いて、学園長はヤレヤレといった感じで首を振る。
「今日のシロアは、私が出ていかなかったら誰にも止められないくらい暴走したわよ?」
「えっ!?」
驚きのあまり思わず声が出る。
学園長が出張る事態になったのか!?
「あの子、クリスやアナタに鍛えられてるから単騎じゃ同学年一番どころか、そこらの教師よりも普通に強いのよね。そんな子が、試験中に手当たり次第に暴れまわったのよ」
話をまとめるとこんな感じだ。
昇級試験の一つ『集団戦』という物がある。
参加者全員同時に戦うという大規模なもので、『多数の相手を同時に相手取れるか』という技術を見る試験だ。
この試験では『10人以上戦闘不能にしたら試験終了』というルールがあり、一人が全てを倒すといった事態を防ぐための物なんだとか。
その中で、緊急時のストッパーの役目の教師も混じった状態で試験を行った。
そこでシロアが生徒教師構わず手当たり次第に、持ち前のスピード全開で相手を戦闘不能に追い込んだらしい。
教師には手を出さない。教師のストップには従う。10人を超えたら止める。
といった指示を無視し、まさしく暴走していたらしい。
そんなシロを、冒険科の教師数名と剣士4人組が相手をして、被害が広がる前に抑え込んで、その間に別の生徒が学園長を呼んで来て、事態を聞いた学園長が抑えこんだらしい。
学園長が来た時には、剣士4人組しか立っていなかったらしい。
「すみませんでしたッ!」
その話を聞いて、俺は全力で頭を下げた。
まさか、そんな事になっていようとは………。だが、シロは何も無しにそんな事をする子じゃないはずなんだ。
「あぁ、別に気にしないでいいのよ―――と、言いたいところだけれど、君にも少なからず原因があるのよね」
そう言って学園長は、溜息を吐く。
「シロアが暴走していた理由はスキルのせいよ」
「スキル?」
「彼女は【獣化】というスキルを持っていたでしょう?」
「はい」
持っていたが、あれは『自信を獣の姿に変えるスキル』のはずだ。今回みたいに暴走するような事は今まで一度も無かったが………。
「同じスキルを持っている今の獣王に会った事があるのだけれど、あのスキルは不満や恐怖といった負の感情が募ると勝手に発動する事があるらしいのよ」
「そうなんですか!?」
その情報は初耳だった。
「その状態で発動すると正しく『獣』になるらしくて、コントロールが効かなくなるらしいわ」
「はぁ、そんな事が………」
予想外の新情報に、俺は思わず唖然としてしまう。
「実際、今回の件でもあの子は『銀狼』の姿になって暴れまわっていたわ。あの状態でも人を殺す事が無かったのは、あの子なりにスキルに抵抗していたのかもしれないわね。仲良しの剣士組が残っていたのも、それが理由の一つでしょうね」
そうか、シロも本意では無かったというのは、俺の心理的に良かった。
だがシロが、暴走するくらいの不満を抱えていたというのは、明らかに俺の事だろう。
「不満の原因も心当たりがあるようね」
俺の表情の変化を読み取ったのか、学園長に一目でばれる
「はい、今回の件だと思います。シロは、危険な事に俺一人では行かせたくない所を無理言って行きましたので。それに前回、俺がドラゴンと戦闘した時に左腕がダメになったのが余程堪えたみたいなんです」
まぁ、一番の要因は一回死んでるからだろうな。
「成程ね。それは心配になってもしょうがないわね。あの子にとってはたった一人の兄ですもの」
そう言って学園長は自身の言葉にうなずく。
「そんな感じで、学園内では偶にスキルの暴発もあるわ。だから今回の件も『処置無し』で片づけたい―――のだけれど、一部の教師が反対してるのよね」
「そうなんですか?」
「えぇ。『あんな危険な存在を野放しにするなんて間違っている!拘束、又は追放すべきだ!』ってね」
学園長は、情けないといわんばかりの溜息をつく。
「本当、馬鹿よね。自分で抑えられないからって、罰で押さえつけようとして。ここは『誰でも』『自由に』『好きな事を』学べる場よ。コントロールできないスキルの習得なんて、ここは最適な場所のはずよ」
そう言って学園長は頭を抑える。
「全く、教師だからって自分の成長を辞めて、生徒を自分より下に押さえようとする様な人材、ココにはいらないのよ。本当、私が居ない内に落ちたものね」
そう言って学園長から、一瞬強烈な威圧が飛ぶ。
ドラゴンとまではいかないが、そこに届きうるレベルの圧だった。そんな圧を瞬間で放出出来るとは、流石は世界トップクラスの白金冒険者だ。
威圧を直接受けてしまった、後ろのエルフ達とティオ様は直立の状態で硬直し、メニとクリス先生は咄嗟に戦闘の構えを取っているが、冷や汗をかいているのが見える。
俺の足にしがみついていたチビッ子二人組に関しては、ガタガタ震えて今にも泣きそうだ。寧ろ、この威圧で泣かないこの子たちは優秀なのだろう。
「二人共、大丈夫。俺がいるよ」
「「う、うんっ」」
俺が声を掛けると、二人は慌てて頷き、俺の後ろに回る。
「あらら、ごめんなさいね。私自身も、自分の感情を抑えきれなかったみたいね。これじゃ、シロアの事を大きく言えないわね」
学園長も思わずといった感じの様で、苦笑いをしている。相当ストレスが溜まっていそうだ。
「シロに関してですが、出来る限り不満なんかを聞いてあげて、一緒にいてあげたいと思います。その辺りの折衷案が決まり次第、再度報告します」
「そこら辺の匙加減はお願いするわ。私より、アナタの方がシロアについては詳しいですもの。今シロアは、アナタの家で寝ているわ。申し訳ないけれど、暴走させた時に気絶させたのよ」
「いえ、寧ろありがとうございます」
そう言って俺は軽く頭を下げると、学園長の机に【空間収納】からとある食べ物を取り出す。
「お疲れのようなので、これでもどうぞ」
「これは?」
学園長は俺が差し出した器を手に抱え、首を傾げる。
「見たまんまの通り、アイスですよ。冷たくて甘いので、今の学園長には最適かと思いまして」
「あら、ありがとう。でも、アイスって高かったでしょう?本当にいいのかしら?」
「大丈夫ですよ。これ、俺の手作りですから」
俺の手作りと聞いて、学園長は驚いた顔をする。
最近、シロ達と研究を重ねて作った完成品の一つである。味にはちゃんと自信あるよ!
「そうなの?それは凄いわね。美味しく頂いておくわ。だから、アナタは早くシロアの元に向かってあげなさい」
そう言って学園長はアイスを食べ始めたので、俺もシロの元に向かう事にした。
「………兄様、ごめんなさい!」
俺が家に帰ると、真っ先にシロの土下座が出迎えてくれた。いきなり潔すぎる。
この章はバトル少な目の、のんびりパートにしていこうかなと思っています。
代わりに次の章はバトルでいっぱいになるかもしれませんが。




