12.ぬぉぉ………!
3月を乗り切れば、余裕が出来るはずなんだぁ………!
期末って凄い操業率ですね。
ティナに頼み事をして、精霊界に送還した後。
「まず、この腕をどうしましょうかね………」
俺は、未だに血を零す左腕を見ながら考える。
出来ればすぐにでも血を止めたい所なんだが、部位欠損クラスの傷口を塞ぐとなると最低でも【超回復】が必要だ。だが、そんな高レベルの【回復魔法】の使い手なんて、そう簡単には………。
そんな事を考えていると、横から声を掛けられる。
「あ、あのっ!」
「うぉ!?」
今は【魔力探知】を切っていたので、唐突な大声に思わず驚く。
「って、ティオ様?」
「はい!マルスメティア代表『デュエラ・マルス』が孫、『ティオ・マルス』です!」
俺が名前を呼ぶと、嬉しそうに自己紹介を始めるティオ様。
「クリス様にお名前はお聞きしましたが、レイ様で宜しいですよね?」
「あ、あぁ、確かに自分がレイで間違いないですよ」
思いっきり本名が知られてしまったからか、横でクリス先生が目を逸らしている。
「そんなレイ様にお話があるのですが、その前に少しよろしいですか?」
「何でしょう?」
「失礼ですが、その左腕を回復する目途はあるのですか?」
ティオ様は、俺の左腕から目を逸らさずじっと見つめる。
「いえ、恥ずかしながら後先考えず動いてしまった結果なので、自分もどうしようか困っていた所なんですよ」
真剣な顔をしていたので、俺も正直に返答する。
俺の回答を聞くと、ティオ様は何故か顔を少し輝かせる。
「で、では、私が【超回復】を掛けてもよろしいですか!?」
ティオ様は、そう言いながら俺の右手を掴む。
まさか、教皇国家代表格直々の【回復魔法】なんて願っても無い事だった。
「寧ろこちらからお願いしたいくらいなのですが、よろしいのですか?」
「えぇ、構いません!」
非常に元気な返答だ。元々は非常に明るい方なのだろう。ちゃんと自我が戻っているようで安心だ。
そんなティオ様は、一歩俺から距離を取ると腰に刺さっていた杖を構える。
華美な装飾の無いシンプルな枝のような見た目だが、上質な素材で出来ている事を感じるいい杖だ。ティオ様にかなり似合っている。
「それでは参ります」
ティオ様は一言宣言して、杖に魔力を込める。
淡い金色の光がティオ様の全身を包み、幻想的に輝く。
「【超回復】!」
魔法が発動すると、俺の左腕が激しい金色の光に飲み込まれる。何度見ても慣れない激しさだ。
光が消えた後には、左腕の傷口はふさがっていた。勿論新しく生えてはいないが、最初から分かっていた事だ。
懐から左腕の義手を取り出し、腕につけてみる。
「おぉ」
物凄くフィットする。思わず声が漏れた。
左腕に【魔力操作】を使う要領で、魔力を込めてみる。
ガシャンッ
「おぉ………」
左腕を握ろうとすると、殆どタイムラグ無しで左腕が握られる。
予想以上にスムーズに動く。魔力伝導率高すぎるだろう。
というより、【魔力操作】を練習していてよかった。義手を自分の思い通りに動かす事が出来る。これなら、日常生活も問題無いだろう。
ガシャンガシャンッ!
「おぉぉぉ………!」
左手を握ったり腕を振ってみたりと、義手の使い心地を確かめる。
確かめれば確かめるほど、テンションが上がってくる。
やばい、左腕アンドロイドみたいでカッコいい!
テンションが上がってくると、それに比例して徐々に動きが大きくなり、動きを確かめていただけだったのが、ジャブを撃ってみたりしはじめる。
「シッ」
シュッ!
「フッ」
シュシュッ!
「ハァッ!」
シュパァンッ!
義手は、俺の予想以上に良い動きをしてくれる。いい音だ。
徐々に力がこもってくる。
「パパ、凄い、凄いよ!」
「流石、ウチ達のあるじだよ!」
チビッ子二人組の歓声が心地いい!テンション爆上げだ。
「二人共、見てろよ!」
「「うんっ!」」
左腕を腰の辺りまで引き、力を溜める。
「ウラララァッ!」
シュパパパパパパパパッ!
少し前に見たシロとクリス先生の乱舞を真似て、左腕で全力のジャブを撃つ。それと共に、空気を裂くような鋭い音が巻き起こる。
「「キャー!」」
チビッ子二人は、そんな音と動きの激しさにハイテンションだ。俺も凄く楽しい!
盛り上がる俺達を遠くから見る5人。
「凄い、あの方が我らの主なのか………!」
「ふわぁー、これは凄い方の下に付く事が出来たみたいね………」
「カッコいい………!」
「これが、本物の………」
「フッ、御大将なら近いうちに速さでも私と競えそうだな」
そんな5人の呟きを気にする事無く、俺は試し打ちを続けた。
「ふぅ………」
それから数分後。
ある程度体を動かす事で満足してきて、ようやく落ち着いてきた。
とりあえず、これだけ動ければ十分すぎる。デモンストレーションとしては大丈夫だろう。
「………そろそろ大丈夫ですか?」
「うぉっ!?」
息を整えている最中に横から声を掛けられて、俺は思わず驚いた声を上げてしまう。
振り返ると、そこにはニコニコした顔のティオ様がいた。
しまった、ティオ様の話の途中だったぁ………!
「す、すみません!義手の使い心地を確かめてる内に、思わず………!」
「いえいえ、気にしないでください!私も見てて面白かったです!」
言い訳じみた言葉しか言えない俺に対して、ニコニコと謝罪を受け入れてくれるティオ様。
ティオ様まじ聖女。
「それで、話とは?」
とりあえず、話を振ってみる。
「はいっ!私はレイ様にお礼がしたかったんです!」
話を振られると、ティオ様は元気に答える。
そして、ティオ様は俺に向かって頭を下げる。
「えっ、ちょ!?」
女子から頭を下げられる事なんて精霊王になった以来だったので、思わず狼狽してしまう。
そんな俺を尻目に、ティオ様はお礼を始める。
「私を助けていただき、本当にありがとうございましたぁ!」
ティオ様は顔を上げないまま、言葉を続ける。
「私は周りから散々『他人をそう簡単に信用するのは不用心だ』と心配されていました。今回の件は、その事をあまり深く考えないで行動した、私に対する相応の報いだと思っています」
そこまで続けると、ティオ様はパッと顔を上げる。
「そんな私を助けていただけるなんて、感謝の気持ちしかありません!」
あちらも気分が高揚してきたのか、俺の両腕を握ってくる。
「なので、私ができる最大限のお礼をしたいと思ってます!何でも構いません、何がいいですか!?」
おいおい、早速無防備じゃないかこの娘は。ティオ様に関しては、煩悩よりも心配のの方が大きいですわ。
「ティ、ティオ様、よく知らない相手に『何でもする』とは言ってはいけません。また、今回みたいな事になってしまいます………!」
でも煩悩をあまり感じないにしろ、美人に急接近されると照れるのはしょうがないと思う。しょうがないんだぁ………!
「問題ありません!レイ様なら大丈夫です!」
その確証はどこから来てるんですかねぇ………!
迫ってくるティオ様に、後日相談しましょう!と、何とか説得しました。俗に言う、問題の後回しです。
まぁ、今はそれよりもする事がありますし!
「さて、遅くなってしまって済まない」
俺は、4人のエルフの前に立つ。
色々あって遅くなってしまったが、ようやく本題だ。
「今から【神の軌跡】を使ってみようと思う」
「「「「ッ!」」」」
4人は俺の言葉に、ビクッと反応する。
さて、うまくいくかな………。うまくいってもらわないと困ってしまう。
俺は4人に向けて、右腕を構える。
「【神の軌跡】」
そして魔法を唱えると、急激な虚脱感に襲われる。恐らくだが、かなりごっそりMPを持っていかれてしまったのだろう。
しかし、その分の効果は出ていた。
「わ、わぁ!?」
「何!?」
「お姉ちゃん達!?」
「くっ!」
エルフ達がまばゆいほどの光に包まれる。
直視できないどころか、目を開ける事すら不可能なレベルの光が発せられている。
「ぬぉぉ………!」
俺はその光を普通に直視してしまった為、目の痛みに襲われている。
そして、光は徐々に小さくなり―――。
切り所が見当たらなかったので、ここでいったん切ります!




