11.了解しました。戻り次第直ちに行います
3月なのに、まだまだ寒いです。こたつむりな自分としては、出勤がしんどい………。
「【回復魔法】のレベルを上げたい。その為なら俺の左腕をくれてやる」
俺はティナにそう言う。
その瞬間、まだ感情を感じた両の赤目からハイライトが消える。
そして膝立ちの状態から立ち上がると、空中に浮かび上がる。
「起動命令を確認。シーケンス『犠牲取引』を起動」
そして完全に感情が消えた状態でそう喋る。
なんとか、予想通りの状態に持ち込む事が出来た。
この方法は、ティオ様が行ったという【自贄の取引】の話を聞いて思いついた。
俺は【自贄の取引】は覚えていない。だが、『契約精霊』であるティナにダイレクトに頼めばいけるのではないか、と考えた。
その結果、その試みは成功した。
正直、この方法はあまり使いたくは無かった。
自分を生贄にするなんてどんな事になるか分からないし、母さんやシロといった周りに心配をかけてしまうので、本当の緊急の時に備えた最終策の一つにする予定だった。
だが、夕莉に『このエルフ達の事は任せろ』と大見得を切った以上、折れるつもりは無い。夕莉との約束は必ず守ると子供の頃に約束しているのだ。妥協は許されない。
それに、俺自身こんな状態のエルフ達は放ってはおけない。
「『犠牲取引』は一度しか不可能。良いか?」
「あぁ、構わない」
こんな事何回もしたら、それこそガチ説教されるわ。
「汝、何を贄に何を望む?」
ティナがそう聞いてくる。
「【回復魔法】のレベルアップだ。贄なら左腕でどうだ?」
俺は迷いなく答える。
【回復魔法Lv.4】から【回復魔法Lv.5】にするには、並みの代償では無理だろう。
だが俺は子供の頃に、『人体は代償として上位の素材だ。大抵の贄として成立する』という事が『黒魔術入門』という本に書いてあったはずだ。
………母さんそんな本持って何がしたかったんだろうな?
しかし―――。
「否。取引不成立」
にべもなく断られてしまう。
「まじかいな………。なぜだ?」
「不成立理由:【回復魔法Lv.5】【神の軌跡】による修復可能な為、贄として価値無しと判断」
チッ、ばれたか。
あわよくば、と思ったがそううまくはいかないか。
まぁ、予想通りだ。
「なら追加条件だ」
俺は再度ティナに訴える。
「『自己回復の禁止』でどうだ?」
「御大将ッ!?」
今まで黙って見ていたクリス先生が声を上げる。
やはり心配をかけてしまうか。他の皆にも申し訳ないとは思う。
だが、元々ここまでは妥協ラインとして考えていた所だ。どうせ高性能な義手があるなら、動かない左腕ならくれてやろうじゃないか。
後、自己回復の禁止が一番左腕を贄としての価値を上げてくれるだろうよ。
これからの事は後から考えよう。
「………………」
熟考するティナ。
「………承認、取引成立」
その結果、承認が下りる。
「取引内容確認。
1:【回復魔法Lv.5】の習得。
2:対象者の左腕消失。
3:自己回復を生涯封印。
以上。相違ないか?」
「了解だ。早速頼むぜ」
俺が即答すると、急にティナの眼にハイライトが戻る。
「マスター、取引中ですが一つ宜しいでしょうか?」
「お、おう、急にどうした」
正直、いつ左腕持っていかれるかとビクビクしてるから、一思いにやって欲しいのが本音です。
「私は、この世の理を司る精霊と呼ばれています」
「お、おう」
御存知ですよ。
「なので私は契約について妥協や贔屓はしません」
「そうだな。それがいいだろうよ」
俺が精霊王だからって契約を贔屓なんてしようものなら、契約の公平性が無くなるしな。
「ですが、私も新王の就任には何かをしたいのが配下心というもの」
「おぉ、それはうれしいな」
「なので今回限りですが、この場で発動している契約条件を一つ廃棄したいと思います」
「おぉぃ!?」
思いっきり贔屓しとるやんけ!
「俺としてはありがたいが………本当にいいのか?」
俺がそう問いかけると、ティナは迷いなく頷く。
「えぇ、今回限りですが構いません。その代わりと言っては何ですが、是非私も王の眷属にしていただきたく思います」
「それならむしろ俺からお願いしたいところだ」
特級精霊が眷属に増えるのは、俺としてもありがたい限りだ。
「それでは後程よろしくお願いします。それではマスター、廃棄したい契約条件をどうぞ」
ティナは俺に向かって軽く頭を下げると、再度問いかけて来る。
この場で発動している中で廃棄したい契約条件か………。まぁその場合、決まっているだろう。
「『ティオ様の感情と自我の喪失』の解除を頼むぜ」
俺の腕より、そっちが大事だろうよ。
「流石マスター、お見事です。これからも一生ついていきます」
ティナは最後にそう一言括ると、再度目のハイライトが消える。そんなにポンポン感情って飛ばせるもんでしたっけ?ある意味すげーわ。
「追加条件。
4:対象者の感情と自我の回復。
を追加」
そう言いながらティナは、クリス先生の横で眠っているティオ様に左腕を向ける。そして、左手から紫の光を飛ばす。
それを見てクリス先生は一瞬ビクッとするが、そのままスルーしてくれる。
紫色の光がティオ様に命中すると、ティオ様の全身が光に包まれる。
そして―――。
「………ん、んん」
ティオ様が声を漏らす。まるで、朝起きる時のような感じだ。
「ティオ様ッ!」
それを見たクリス先生は、ティオ様に慌てて駆け寄って上半身を抱き起す。
「ティオ様!大丈夫ですか!?」
「………ぅぅん?あれ、クリス様………?」
ティオ様はそう零しながら、寝起きの眼を擦りつつ周りを見渡す。
これでよか―――。
「残りの契約条件を付与」
一瞬気の抜けた俺に、感情の無い声が飛ぶ。
「ッ!」
慌ててティナに向き直る。
そこには、紫の光に包まれた右腕を俺に向かって振りかぶるティナがいた。
「執行」
ボソッと一言呟くと、右腕を振り抜く。
そして先ほどと同じ様に、紫の光が俺に飛んできて俺の全身を覆う。
「ッ!?………………ん?」
どんな痛みが俺を!?っと思い、思わずビクッとするも痛みが襲ってこない。ていうか、寧ろ―――。
「………寧ろ、全身に力がみな―――ギッ!?」
体の奥から湧き上がる力の正体を探ろうとした瞬間、痛みは遅れてやってきた。
十数秒の間、全身が軋む。
全身の軋みがやむと同時に、感覚が殆ど無い筈の左腕が痛み始める。これが予想以上に痛い。
よく見ると左腕に紫の光が集中していた。
「ギィッ………!?」
左腕に魔力が勝手に集中していて、破裂しそうだッ!?
「お、御大将ッ!?」
そんな俺を見たクリス先生が、ティオ様を降ろして俺に駆け寄ろうとする。
「ク、クリス先生、ストップですッ!これ以上来ちゃダメだッ!」
この左腕は確実に爆散する。
その際に、今集まっている魔力を巻き散らすだろう。なら、俺に近寄るのは危ないはずだ。
「だ、だがッ」
「ダメだッ!もう持たないッ!」
それでも尚、近寄ろうとするクリス先生に静止の声を上げた瞬間、遂に限界が来る。
「対象者の左腕を削除」
ドパァンッ!
「ッ!!ガァァァァッ!!」
俺の左腕を中心とした爆風が巻き起こる。意外と、周りへの被害は無い。
おまけに、左腕が粉々になって飛び散る、というグロテスクな光景にはなっていない。そこは幸いだ。
だが勿論、もう左腕は無い。
二の腕の真ん中くらいで腕が無くなっており、血がダラダラと流れている。
ていうか、やっぱマジで痛ってぇな!?
「御大将ッ!」
クリス先生が、急いで俺に駆け寄ってくる。
俺に近寄っても、もう問題無いと思うので止めはしない。
「大丈夫か!?」
「なんとか大丈夫だと思います………」
立ってるのも不安定な状態の俺に、クリス先生は躊躇い無く肩を貸してくれる。
意外と血を流し過ぎているのか、軽く頭がフラフラするんだよなぁ。
「以上。シーケンス『犠牲取引』を終了」
そんな俺を尻目に、ティナは冷静にシークエンスをなぞり切る。
ティナはゆっくりと地面に着地すると、眼のハイライトが戻る。
「………………」
ティナは、血をダラダラ流しながら肩を借りる俺をジッと見つめる。
「………私はマスターに何を差し出せば許していただけるのでしょうか?」
そして、そう零しながら小首をかしげる。と言うより、首が傾く。
どうやら、思った以上の状況になってて動揺しているようだ。
この状態では少し不謹慎だが、さっきの様子と比べると人間味を感じられるので、少し安心している自分がいる。
「気にするな。俺が頼みこんだ事だし、覚悟の上だ」
「ですが………」
「問題無い」
「それでも………」
「大丈夫だ」
意外と強情である。全く折れてくれない。
「分かった。じゃあ一つ頼みたい事がある」
腕もどうにかしないといけないので、早々にこっちが折れるしかないだろう。
「何なりと」
流れるように片膝をついて頭を下げるティナ。
「今度、ちゃんとティナの眷属化を行う。その際に、初代特級精霊組と俺の力になれそうな精霊を選んで、俺の眷属になるように説得してきてほしい。これでどうだ?」
恐らくティナは、俺がティナの眷属化を取りやめるかもしれないと不安視しているのだろう。
だがちゃんとティナの眷属化を行うと前提した上での頼み事だ。これなら、ティナの不安も解消しつつ味方も増やせる、まさしくWIN-WINな頼み事だと思う。
「了解しました。戻り次第直ちに行います」
ティナは即座に返事を返してくれた。
これで、戦力が格段にアップするぜ!
次の章を実質スローライフ枠にする予定なので、出来る限りこの章を急いで進めていきたいと思います。
魔物娘を早く出したい!




