7.誰ガ許ストオモウカ?
更新が止まってしまい申し訳ない………!
謝罪の意味も込めて今回は普段の2倍の量になっています。
それと、少し表現が過激な場面もあります。ご注意ください。
02/06:最後の場面を走りすぎたので、多少追記しました。
オルの指示したメルエスとの国境付近には行った事が無かったので、走って行く事にする。
執務室から出て冒険者ギルドの一階に降りる間に、手早くローブとガスマスクをつける。ついでに、左腕を覆うギプスも外しておく。
どこから特徴を掴まれるかわかんないからな。ローブの左袖は無くて腕も明らかに動かないが、腕がズタズタにされた所は恐らく見られているから大丈夫だろう。
俺がギルドの一階に降りると、ギルド内はいつも通りの喧騒に包まれていた。
だが俺の存在を確認した瞬間、今まで騒がしかったギルド内が一瞬でシンッと静まりかえった。
「お、おい、あれ………」
「ほ、本物だ………」
「すげぇ、こんな近くで見れるなんて………」
「ん?あいつがどうしたんだ?」
「マジで言ってんのか?お前アイツ知らねぇのかよ」
「そういえば、お前は飛竜が出た時は長期任務でいなかったな」
「あぁ、そうだが。………まさか!?」
「そうだ、あいつがドラゴンを一人で討伐したコウって奴だ」
「はぇー、見た目にそぐわず凄いんだな」
「そうだろ?顔半分隠されてて見えないが、顔つき的に成人したかしてないかぐらいだもんな。若ぇわ」
「戦闘は俺らも遠くからしか見てないが、すげぇとしか言いようが無かったな」
「ドラゴンとなんて、どんな戦闘だったんだ!?」
「とりあえず、魔力がキラキラしてたな」
「確かにあのキラキラは凄かった」
「あぁ、あのキラキラは一見の価値があるな」
「キラキラだけじゃ分かんねぇよ!?」
「後、あのビュンビュンした高速戦闘はやばかった」
「確かにアレはビュンビュンしてたわ」
「あぁ、あのビュンビュンは見えなかったわ」
「だから、分かんねぇよ!?」
なんか絶賛されて恥ずかしいとか思ってたら、いつの間にか漫才みたいなのが始まってて一安心です。
あんまり長居する理由も無いのでギルドを出て、東の門を目指す。
そのまま門を通り抜けて外に出た瞬間、声をかけられた。
「御大将。待っていたぞ」
「え?」
俺をこんな呼び方をするのは一人しかいない。
「クリス先生!?」
何故かそこには、クリス先生がいた。
「今日は実力テストをやっていたんじゃないんですか?」
確か実技の担当にクリス先生の名前があったはずだ。
「あぁ、確かに担当者に選ばれていた。だが、私用が入ってしまってな。実力テストの担当をキャンセルしてグランディアに来ていたんだ」
そう言いながら、クリス先生は肩を竦める。
「その私用を済ませていた所にギルマスに見つかってな。そこで御大将の案内役を頼まれた訳だ」
つまり、龍が出た所までクリス先生が案内してくれるらしい。
クリス先生なら俺の秘密を知っているし、早急な移動も得意だ。緊急案件の案内役として申し分ないだろう。
「なるほど。是非お願いしたいです」
俺はクリス先生に案内をお願いする。
「勿論そのつもりでいるよ。それじゃあすぐ向かおうか」
クリス先生は俺の願いを承諾すると、そのまま駆け出す態勢に入る。
「全力で行くぞ!ついてこい!」
「ちょっ!?早っ!」
そう言うと、クリス先生は全力でスタートダッシュを決める。物凄い速度で駆け出してしまった。流石AGI:Aだ。
「って、置いていかないでくださいよ!?」
おいて行かれる訳にもいかないので、【魔力翼】を展開してクリス先生を追いかける。
これが、俺のぉ、全力だァッ!
「………………」
「………………」
無言で走るクリス先生と、静かに滑空する俺。
全力で駆け出したが、移動の基本として出来る限り周りにバレない様に移動している。
出来る限る魔物との戦闘を避けているというのもあるが、何かあった時は出来る限り先手を取る為だ。
「御大将。そろそろ国境を超えるぞ」
「分かりました」
クリス先生と言葉を交わす。
てか、クリス先生はこの移動速度の中で、自分の現在位置を把握しているようだ。すげーな。
「………ん?」
俺が驚いていると、ちょくちょく発動させていた【魔力探知】に魔力反応が現れる。
「クリス先生、ストップです」
「了解した」
俺の言葉を聞いて、何も聞き返す事無く即座にスピードを緩める。
そして、互いにスピードを落としきって身を隠す。
「それでどうした?」
「この先に魔力反応がありました。恐らく人型で、数は5人」
「………その探知力は斥候としての自信を失いそうだな」
そう言って苦笑いを浮かべるクリス先生。
【魔力操作】を使って、出来る限り【魔力探知】を薄く遠くへ伸ばしているからな。これはかなり練習している。
それと比べると、クリス先生は【魔力操作】を覚えたばっかりだ。これくらいなら練習すればクリス先生ならすぐにできるだろう。
「どうしますか?」
「とりあえず、様子をうかがおうか」
そう言って、クリス先生は【魔力遮断】をスッと自分にかける。
相変わらず、一度覚えるととても綺麗に魔法を使える先生だ。
俺自身も【魔力遮断】を使って、二人で息をひそめながら【魔力探知】に反応があった所に向かう。
「………あれか」
「はい」
反応元が見える地点まで着き、ひっそりと様子をうかがう。
森の中にある少し開けた空間に、件の反応主達はいた。
「おい、これからどうするよ」
「どうしましょうかね?」
反応主は、男3人女2人の人間の集団だった。
やたら豪華そうな剣を腰につける青年ほどの男。
全身鎧を着こむ大盾持ちの巨漢。
軽装備でナイフで手遊びをするチャラそうな男。
やたらと肌を見せつける様な派手な魔術師風の服を着た女。
ボロ布のような貫頭衣を着て首輪がかけられた眼が虚ろな女子。
見た感じを見るに、冒険者の集団に見える。
ただ一目見ただけだが、俺はどうにも好きになれそうにない雰囲気の集団だった。
「なッ!?………ッく!」
その集団を見ていたクリス先生の【魔力遮断】が唐突に乱れる。
クリス先生は、その乱れを慌てて抑え込む。その行動の速さのお陰で、集団からは何とかバレずに済む。だが、クリス先生は物凄い形相を崩さない。クリス先生のそんな顔初めて見た。
「………クリス先生、どうしたんですか?」
俺は声を抑えてクリス先生に質問する。
クリス先生はその表情を崩さないまま答える。
「私はあの首輪を掛けられている女子を知っているぞ………!」
クリス先生はあの集団を鬼の形相で睨みつけている。
「あのお方はティオ様だ………!」
ティオ様?どこかで聞いたような?
えっと、確か、何だっけ、教会の………。
「………教皇の孫娘の!?」
ガルザードに拉致られた子か!
「そうだ………!私は数回あった事があるから、間違いない………!」
なるほどな。会った事のある人があんななってたらそりゃ鬼の形相になるわ。
ボロ布を着せられて首輪を付けられているなんて、どう見ても奴隷と同じ扱いだ。しかもあの目は感情を一切感じない。完全に自我が死んでる目だ。確実にまともな扱いなんて受けてないだろう。
「つまりアイツらはガルザードの屑共か」
「あの虫ケラ共ガァ………!」
ヤバイ、クリス先生が自我を失い始めている。
「お、落ち着いてください………!」
俺は慌ててクリス先生を地面に押し倒して、全力で押さえつける。
「止メテクレルナ、レ―――モゴッ!?」
大きな声を上げそうになったので、口も押える。
やべえ、ドラゴニュートが持つ竜としての本能が暴れ出しているのかもしれない。スゲェ力だ。かなり全力で押さえつけている状況だ。
「俺だってどうにかしたいですよ………!」
俺だってかなり苛立っている自覚はあるのだ。今クリス先生を押さえつける手だって、かなり荒めになっている。余裕は無い。
「だけど、何の準備もしないまま突っ込むのはまずいですよ………!」
ティオ様の生殺与奪は、あの屑野郎どもが握ってしまっている。首輪を付けてしまっているって事は命令も思うがままなのだ。
更に【精霊眼】でティオ様を見ると、ティオ様の体に何か魔力が纏わりついている。確実に何かあるだろう。
そんな俺らを知ってか知らずか(知らんだろうが)、男たちの会話は続く。
「にしても、この女マジでやべーよな」
チャラ男がティオ様の顔の前で手を振る。ティオ様は微動だにせずに、虚ろにどこかを見つめたままだ。
「それに、物凄く馬鹿だよなー。俺らみたいなのに騙されるとかマジ乙だわ」
豪華な剣持がゲラゲラと汚い笑い声をあげる。
「頼みたい事があるとかテキトー言ったら、馬鹿正直に信じちゃってねー。首輪付けんのマジ余裕だったわ」
派手な魔術師も笑い始める。
「そこから更にやべーって思ったのは、首輪がかかった瞬間に【自贄の取引】を躊躇い無く行った所だよな」
「あぁ、後で聞いて分かったが確かにやべぇよなぁ」
チャラ男の言葉に、剣持男が乗る。
「【自贄の取引】ってあれでしょー?自分の何かを犠牲にして、その代わりに何かを得る悪魔の取引だよねー?」
「あぁ、それを教皇様の孫娘自ら行うんだから狂気だわー」
「コイツ、躊躇い無く『感情』と『自我』を贄にしやがったからな」
「その代わり、この女に他の人が触れなくなったのは痛いわよねー」
「そうだなぁ、俺好みに染めてやろうと思ったんだが出来ないし。マジくそったれだよ」
つまり、ティオ様に身体的な被害は出てないという事か。強姦とか凌辱展開にはなっていないらしい。ただ、その代わり、感情と自我が無くなってしまったという事か………。結局ダメって事かよ、くそったれが。
「ただ、首輪を使って命令自体はできるからまだ良しとしようぜ。こいつの結界マジで強いしな」
チャラ男は肩を竦める。
「あぁ、そうだな」
剣持が頷く。
「そのおかげでエルフ共を捕まえられたしな」
何?
「あのエルフ、生きが良かったよなぁ?必死に抵抗してて」
そう言いながら、剣持がまたゲラゲラ笑う。
「そーだなぁ。捕まった瞬間のあの絶望した表情と言ったら何とも言えねぇわぁ」
チャラ男も同意を示す。
「でも、結局加減できなくて体切っちゃったもんねぇ?」
派手魔術師がそう言いながらうすら笑う。
は?
「あぁ、そこが残念でしょうがない。流石の俺もあんな血塗れには手は出したくないわな」
「だからこそ、あの奴隷商に売れてよかったよな」
「そうね、なかなかの資金になったわね」
「おまけに予想より多く出た余剰分で、獣人のメスも買えたしな」
…………………。
「今頃あの奴隷どうなってるかなぁ?」
「ゴブリンの巣に放り込んだときのあの顔、マジで傑作だったわ」
………………………。
「あの後の続き見たかったんだけどねぇ」
「あぁ、まさかあそこで竜が出るとは思わなかったぜ」
「ここまで来てやっと逃げ出せたものね」
「さて、本当に今からどうするかねぇ?」
「………クリス先生」
「………アァ」
俺の両腕と両足からピキピキと音がする。体が勝手に変質する音がする。
だが、逆らわない。
むしろ、その波に身を任せていく。
クリス先生の胸元の竜鱗がどんどん広がっていくのが見える。
恐らく俺もあんな感じなんだろう。
『アタシ二、ヤラセヤガレ』
頭の中で声がする。
その瞬間、体のスイッチが切り替わったかのような感覚に襲われた。
そして、全身から暴威のような荒れ狂う魔力が噴き出した。
「ん?なんだ?」
ふと、チャラ男は何かを感じ取り横を向く。
そこには両腕両足に鮮やかな紅の竜鱗を纏った人のような者が飛び出してきていた。
その紅の竜人は、普通の人間の白目の部分が真っ赤に染まった瞳をこちらに向け、殺気を隠そうともせずに睨んでいた。
「なっ、にげ―――」
「シネヨ、クズガ」
赤い竜人の右腕から赤黒いスパークのようなものが起きる。
その瞬間、右腕が目にもとまらぬ速さで動く。
パァァンッ!!
右腕が振り抜いた形で動きを止めた時、チャラ男の頭が弾け飛んだ。
首無き胴体はそのまま崩れ落ちる。
「な、何ッ!?何なのっ!」
魔術師が喚き声を上げながら、杖を振り抜く。
「【炎槍】ッ!」
魔術師のすぐ横から炎が上がり、瞬間的に槍を形どる。そしてそれは猛スピードで紅の竜人に迫る。
「フンッ」
紅の竜人は左肩を振る。
すると、今まで全く力が入っていないように見えた左腕が動き、横に振り抜かれる。
ジュゥボァッ!
【炎槍】と左腕が接触した瞬間、紅の竜人は豪炎に包まれる。そして舞い上がった黒煙で姿が消えた。
「アハ、アハハ!どうよこの私の魔法は!」
魔術師は狂ったような笑い声をあげる。
「………ナンダ、コノ程度カ」
黒煙の中から声がした。
「………え」
魔術師の動きが完全に止まる。
「ハッ!」
ドォンッ!
「キャッ!?」
また声が聞こえた瞬間、爆音が響く。
すると、辺りに立ち込める黒煙は消え去る。
そしてそこには、傷一つ見せない竜人が立っていた。
「嘘……嘘よ……私の魔法が効かないなんて………」
魔術師は竜人に慄き、後ずさる。
スッ
「………え?」
背後から魔術師の首に何かが添えられる。
そして、一閃の煌きが起きる。
「サラバダ、グズヨ」
回る視界の中、魔術師はこの言葉を最後に全てが真っ暗になった。
「お、おい!ダズ!俺の前に立てよ!お前を俺に結界を張るんだよぉ!?」
「あぁ」
二人の仲間が呆気なく死ぬのを見た剣持は、大慌てで大盾持ちの背後に周り、奴隷に結界を張らせる。
大盾持ちは初めて声を上げ、男の前で盾を構える。
「ハハハ!これで俺は無敵だぁ!」
そう叫びながら男は剣を構える。
「私ガ、先ニ行コウ」
「アァ」
そんな男を尻目に、水色の鱗を体に纏う竜人と紅の竜人が言葉を交わす。
そして、水色の竜人が駆け出す。
「な、はや―――」
その速度に大盾持ちは反応できなかった。
だが盾を構えているなら、ココで防げばいいと思った。この竜人はあまり攻撃力が高そうに見えなかった。
そして竜人は掌底の構えを見せ、大盾に向かって放つ。
「フッ、馬鹿が」
大盾は受け止めきれる自信があった。
だが、予想は裏切られる。
大盾と掌底がぶつかる、まさにその瞬間―――
「【極貫通】」
水色の竜人の腕を青い光が覆われる。
そして掌底と大盾がぶつかる。
「ッ!?ガハァッ!?」
大盾は砕け散り、青い光が男を貫いた。
そのまま大盾持ちは、数分前に倒れたチャラ男と同じ運命を辿った。
「何が起きたんだよぉ!?」
突然の事態に、剣持は殆ど発狂していた。
そこに紅の竜人が迫る。
キュピィィィィィィッ!
だが、それを金色の光の壁が阻む。
「ど、どうだ!こっちに来れねぇだろ!ざまあみろよ!」
自分の優位を感じた男は威勢よく声を上げる。
だが、直ぐにその威勢はかき消される。
ダンッ!ガンッ!ゴンッ!グワンッ!ゴンッ!
紅の竜人は光の壁を殴りつける。何度も何度も。
「グルゥゥゥゥラァァァァァァ!」
ドドドドドドドドドッ!
そして、連続で殴り続けると―――
パァンッ!
甲高い音を上げて光の壁は弾け飛んだ。
「な、何だと!?」
剣持の横で、ティオが再度結界を張り直そうとする。
だが、そのティオの背後から水色の竜人が飛び出し、ティオの首輪を掴もうとする。
「【極貫通】ッ!」
掴む瞬間、また青い光が右腕に集まる。
そのまま首輪を握ると、首輪が砕け散った。
「う、嘘だろ!?」
驚きに染まった剣持は、そのまま尻もちをつく。
その剣持の頭に向かって、鋭利に輝く爪先が迫る。
「ま、待ってくれ、許し―――」
「誰ガ許ストオモウカ?」
「クリス先生急ぎましょう!」
「あぁ、分かっている!」
俺たち二人は直ぐに走り始める。
クリス先生は、首輪を砕いた瞬間意識を失ったティオ様を抱いた状態だ。万が一目覚めた際に、男の俺に担がれているのはまずいだろう、と言うクリス先生の判断だ。
………クリス先生はあくまでティオ様の意思が戻る前提で話している。
だが、今はそこに気を取られている場合では無い。
一分、いや一秒の時間も惜しい。
今は、殺した4人もどうでもよかった。
人を始めて殺したのに何も感じないのは、正真正銘人間をやめてしまったからかもしれないな。
だがそんな躊躇よりも、自分の心の変質も後回しだ。
まずは獣人の子を助ける!
そして、エルフたちもどうにかして見せる!




