7.まったくもう………
話を変更しました。
「レイ、落ち着いたかしら?」
俺の事を全て話し終わった。
未だに母さんは俺をぎゅっと抱いたまま頭を撫でてくれている。
落ち着いてくるとかなり恥ずかしい……!
高校生が母親に泣きつくのは事案まであるわ。
「うん……。急に泣き出してごめんなさい」
俺は謝りながら、座っていた母さんの足から降りようとする。
「気にしないでいいのよ。遠慮しないで母さんにどんどん甘えなさい。ほらっ」
と言って、俺を抱きしめる。
今の母さんは母性本能を刺激されたのか、俺を甘やかす気満々のようだ。
くっ、すごく落ち着く……!
「つまりレイは精神は違う世界の大人という訳ね」
この世界では15歳で成人となり、酒が飲めたり、結婚できたりする。
「うん、やっぱりこんな子供は嫌かな……?」
俺はどうしても不安に思ってしまうようで、喋り方も体に引っ張られているようだ。
「あらあら、そんなわけないじゃない。むしろ母さんはうれしいわよ?周りから見たらレイは天才じゃない。母さんは鼻が高いわ」
本当に誇らしそうな顔をして胸を張る母さん。
「後は、普段から見た目相応に甘えてくれるともっと嬉しいわ」
「う、うん」
あの胸の中に飛び込んで来い、と?
それは、とても甘美な誘惑……!
俺、不純すぎだな。
「それに今のレイになら、母さんの事も教えてあげるわ」
「えっ、ほんと!?」
母さんなんだかんだ言って自分の事教えてくれなかったから、これは嬉しい!
「ステータスオープン。リアライズ」
リアライズ、といった瞬間に目の前に青い板みたいなものが出てくる。
「おぉ!こうしたら母さんのステータスが見れるんだね!」
「うふふ、そうよ。さぁ、母さんのステータスを見て頂戴」
そうして母さんのステータスを見る。
☆ステータス☆
名前:カミア・キルシュ・サンベルジャン
Lv:123
種族:ヒューマン
年齢:19
性別:女
職業:冒険家【白金】
称号:【天涯孤独】【固定砲台】【氷の魔女】【白金冒険者】【母性本能】
HP:184/184
MP:139/139
STR:C
VIT:E
INT:A
MID:C
DEX:C
AGI:D
LUK:E
スキル:・攻撃系 【全基本属性魔法Lv.5】【氷結魔法Lv.5】【☆槍連砲】
【☆氷地獄】【☆氷結剣】【☆氷結盾】【☆氷翼】
【☆氷結武装】
・耐性系 【毒耐性Lv.2】【麻痺耐性Lv.3】
・生産系 【農業Lv.2】【製薬Lv.3】【裁縫Lv.2】【料理Lv.3】
・補助系 【暗視】【充填】【並行詠唱】【鑑定】【隠蔽】【生活魔法】【魔力探知】【魔力操作】
・特殊系 【???】【???】
お、おぉう……。
母さんのステータスを見て思わず呆然とする俺。
まずレベルがかなり高い。そして恐ろしく強い。
更に、基本属性全てと上位属性である【氷結魔法】がLv.5の魔道兵器クラスの魔法使いであり、エルダーエルフである夕莉と並ぶ化物クラスのINT。
そして、オリジナル魔法には☆表記が付くのだが、これを六つも覚えている。
【氷地獄】に関しては、必殺技感がすごいな。
また職業の『白金冒険者』も半端ない。
一歳を過ぎて半年したころにリネアに冒険者について聞いた事がある。
この世界では、魔物を狩ったり、迷宮を攻略する職業を『冒険者』という。
各町にある『冒険者ギルド』で試験に合格する事で、冒険者になる事ができる。
そして冒険者のランクは、一定の依頼をこなし昇格試験に合格する事でランクを上げる事ができる。
また、依頼にもランクがF~SSまであり、冒険者のランクの高さによって受けられる依頼が決まる。
冒険者のランクは、
【青銅】:冒険者登録時のランク。依頼内容は採取依頼のみ。
Fの依頼のみ受ける事ができる。
【純銅】:最も在籍数の多いランク。依頼内容に討伐依頼が追加。
Dまでの依頼を受ける事ができる。
【純銀】:対人の経験が必要になる。依頼内容に護衛依頼が追加。
Bまでの依頼を受ける事ができる。
【純金】:トップクラスの実力保持者。依頼内容に指名依頼が追加。
Sランクまでの依頼を受ける事ができる。
【白金】:単体で国と同等の戦力とされる。
全ての依頼を受ける事ができる。
となっている。
……母さんが化物なのは、ほぼ確なようだ。
この強さと実績を19歳にして所持している事はおかしい。
ていうか、19歳!?
若すぎませんかね……。
そして、称号に関しては、
【天涯孤独】:一人になりやすい人生となる。一人で行動すると全ステータスがアップする。
【固定砲台】:冒険者としての二つ名。止まって魔法を使うほど、魔法の威力がアップする。
【氷の魔女】:冒険者としての二つ名。【氷結魔法】の威力がアップする。
【白金冒険者】:数少ない最高峰の冒険者に贈られる称号。全ステータスがアップする。
【母性本能】:庇護欲がすごい。庇護対象の状況に応じてステータスが変動する。
うん……、色々すごい。
自分の能力を上昇させる称号が多い。
ツッコミどころも多いがな。
固定砲台ェ……。
「一通り見たよ、母さん。とりあえず、ひとつ言わせてくれ」
そういって俺は、母さんの顔を見る。
母さんのステータスを見ていろいろ思ったが、これだけは言わねばならない。
「母さんは、僕が、……いや、俺がいる限り絶対に一人にはさせないからな」
ステータスが下がらないのであれば一緒にいてもいいはずだ。
それに俺も母さんと別れるのは嫌だしな!
「レイ……」
俺の言葉に嬉しそうに笑う母さん。少し目が潤んでいた。
「なぁ、母さん。俺は、母さんのこれまでの人生を知りたい。教えてくれないか?」
母さんのステータスは年齢の割におかしい。
恐らく【天涯孤独】の影響を受けたのだと思う。
ステータスの一番最初の称号は、生まれた時から持っているものらしいから。
俺は母さんの人生を知らない。
でも、この称号はきっと母さんの人生に様々な影響を与えていたはずだ。
苦労もしてきたんだと思う。
その苦労を共有して、母さんを楽にしてあげたい。
今の俺の率直な願いだった。
「ふふっ、急に大人びた雰囲気になっちゃって……。面白い話じゃないわよ?」
「全然かまわないよ」
「あらあら、即答しちゃった。いいわ、教えてあげる」
そうして、母さんは過去を振り返るように上を見た。
ある冬の日の、迷宮都市『グランディア』にあった孤児院のシスターが、外に出た時に玄関の前に小さな籠が置いてあった。
その籠の中を見ると、赤ん坊と手紙が入っていた。
『この子はカミアと言います。私達では育てられませんので、よろしくお願いします』
と手紙には書いてあった。
シスターは赤ん坊を孤児院で育てる事にした。
カミアが孤児院に来てから四年たった冬。
迷宮からモンスターがあふれ出し、町で暴れていた。
孤児院には巨大な木の魔物、トレントが現れ、孤児院を中にいた人ごと壊してしまった。
偶然、外で本を読んでいたカミアは崩落に巻き込まれなかったが、トレントに捕まり迷宮の中へ連れ去られてしまった。
カミアは食べられると怯えたが、トレントはカミアに自分に実っていた実を食べさせた。
そして、水が出てくる不思議な水筒もくれた。
また、同じ階層にいる他の魔物にカミアが襲われそうになると、その魔物の前に立ちふさがり、魔物を排除した。
カミアはこのトレントが何をしたいのかわからなかったが、とりあえずここを出るために強くなろうと思った。
そこで自分が一緒に持ってきていた、魔法について書かれた本を読んで魔法の練習をした。
カミアはすべての基礎属性魔法を使えるようになった。
カミアがダンジョンに来て二年半。
ある朝、トレントはいなくなっていた。
代わりに、水色の実と綺麗な石の付いた枝が落ちていた。
カミアは、水色の実を朝ごはん代わりに食べ、水筒を肩にかけ、枝を持って、迷宮を上がってみる事にした。
お腹がすいたら、魔物と戦闘し、ドロップしたお肉を魔法で焼いて食べて飢えを防いだ。
お腹が痛くなったり体が痺れたりもした。
でも、我慢していると痛く無くなった。
また、いくつか戦闘しているうちに【氷結魔法】が使えるようになっていた。
【氷結魔法】を使って遊ぶのが楽しかったので、剣の形にしてみたり、盾の形にしてみたりした。
羽を使って飛ぶ魔物がいたので真似をして羽を作り飛んでみたりもした。
それから四年半。
11歳のカミアは迷宮の外に出た。
出た時にひと悶着あったが、黒いローブを着た女の人が守ってくれた。
その時、女の人が自分にいろいろ教えてくれたので、その人と同じ冒険者になった。
それからは毎日、その人と二人で依頼を受け、達成し、同じ宿で寝る、という生活を繰り返した。
更に四年。
15歳のカミアは純金冒険者になっていた。
ある日、一緒にいた女の人が一人でどこかに行って、次の日帰ってこなかった。
周りに聞くと、迷宮に行ったのだというので、カミアも迷宮に入った。
入ってもすぐには会えなかったので、会えるまで下に降りて行った。
下層と呼ばれていた辺りに降りた時に、女の人がいつも着ていた黒いローブが落ちていた。
赤い血だまりの上に落ちていた。
すぐ近くに竜がいたのでとりあえず倒した。
黒いローブを拾って迷宮を出た。
カミアは白金冒険者になった。
「白金になってから二年経った頃かしらね。宮廷魔法使いの指南依頼で城に来た時に王様と会ったのよ。そしたら、王様が一目ぼれしたとかで、結婚した流れかしらねぇ」
「話の最後、軽っ!?」
壮絶でなかなか重い話だったのに、最後が……。
しかも、父様からって、18に39がアプローチ掛けたのかよ……。
「どうだったかしら?面白くないでしょう?」
「すごい波乱万丈だったのはわかった」
ホントに、重たい過去を持っていましたよ、えぇ。
「レイは、こんな母さんは嫌?」
「別に?それよりも、迷宮の話を教えてほしいな!」
食い気味に母さんに詰めよる俺。
迷宮にはロマンがあると思いますっ!
「あらあら、こんな話をした後なのに………。まったくもう………」
母さんも困ったように笑っていた。