6.あらあら、嘘おっしゃい。生まれた時から使えていたでしょう?
話を変更しました。
「ん、んんっ!」
「ん?」
子犬をひたすらモフモフしていると、後ろから注意を引くような咳が聞こえた。
子犬を撫でたまま、頭だけ後ろに向けてみる。
興味深そうに俺をガン見しながら耳をピクピクさせているリネアと、ニコニコ笑う母さんと目が合った。
あ、勢いでやったが二歳児が魔法を使ったんだよな。
しかも【回復】。
やってしまった感が……。
【回復】を使った訓練を使って半年頃、魔法の練習をしていた夕莉から聞いた話だが、どうやら【回復魔法】は普通では使えないらしい。
まず、町にある教会に行って洗礼を受ける必要があり、それでも全員が使えるわけじゃないらしい。
また、使えたとしても【軽回復】らしく、使い続けることによって強化されてから【回復】が使えるようになるらしい。
【回復魔法】はレベルによって回復できるレベルが増える。
Lv.1【軽回復】:浅い切り傷、擦り傷程度の怪我を治す。HP少量回復。
Lv.2【回復】:普通の切り傷など、まぁまぁの怪我を治すことができる。HP中量回復。
Lv.3【範囲回復】:半径5mの中にいる生物を回復。回復量は【回復】と同等量。
Lv.4【超回復】:かなり深い傷まで修復可能。ただし、腕などの部位欠損は再生せず、傷をふさぐのみ。HP多量回復。
【状態回復】:毒や麻痺といった状態異常、病気を回復する。HPは回復しない。
Lv.5【神の奇跡】:部位欠損まで回復可能。HP全回復。
【神の奇跡】が使える人はいない。魔法が存在する事は知られているが、使っているをも誰も見たことがないらしい。
教会の教皇や枢機卿クラスで【超回復】らしく、この世界では部位欠損してしまうと直せないのがほとんどだとか。
それでも、そのような大けがや状態異常にかかると、並みのポーションでは回復しないらしく、そのような人達が教会に行って回復してもらうらしい。
だが、それなりに良いお値段を『お布施』として取られる為、本当に危険な時だけしか行かないんだとか。
お布施が高いのはしょうがないと思う。
向こうも生活が懸かっているし、一芸を極めた才能のある人達なのだから貴重だしな。
部位欠損を他に直す方法はただ一つ。『神薬』だけらしい。
神薬は、迷宮都市にある迷宮の最下層付近の宝箱で稀に出るとか。
迷宮都市とか聞くとワクワクしますね!
まぁ、話が脱線しだしたのでこの話はまた今度しよう。
つまり、教会にも行っていない二歳児が【回復】が使えるのはおかしいってことだ。
………まぁ二年使い続けたのは伊達じゃなく【範囲回復】までなら使えるんですが。
どうやら、【回復魔法】を与えるアルカナから直々にもらったため、レベルのが上がりが早いらしい。
「あー、えっと。これは、あのね?」
意図せずバレてしまったので、なんて誤魔化せばいいのかわからん。
そこの子犬、撫でるのをやめたからって背中に頭突きをするな!今はそれどころじゃないんだ!洗ったらいっぱいモフってやるから!
そんな感じで慌てる俺を見て、母さんはいつも通りニコニコしている。
「言いたい事はいっぱいあるんだけど、まずは小屋に戻りましょう?その魔物ならもう襲ってこないでしょうけど、他の魔物が来るかもしれないわ」
そう言って、俺の手を掴み小屋まで引き返し始めた。
「あっ、待ってくださいよぉ!」
リネアも慌てて俺らの後をついてくる。
子犬もトコトコとついてきた。
かわいい。
あぁでも、この子犬も魔物か。
不用意に近づいた事も怒られそうだなぁ……。
大人しく母さんの手に引かれながらロッジハウスまで戻った。
「さて、何から言えばいいかしらねぇ」
ロッジハウスに戻ってすぐ、母さんはリネアに子犬を洗うように頼んだ。
子犬も最初は俺のそばを離れなかったが、俺が頼み込んだら渋々リネアについていった。
もしかしたら言葉がわかってるのかもしれない。
頭のいい子だと思う。
そして今は母さんと部屋のテーブルで向かい合って座っている。
「まず一つ目。あれだけ一人で動いちゃダメって言ったのに走って行っちゃった事。離れたら、私達はあなたの事をすぐには守れないのよ?」
母さんはそう言って右手の人差し指を立てる。
いつものニコニコした顔じゃなく、真剣な顔をしていた。
本当に怒っていることが伝わる。
「二つ目。危ないかもしれない動物に不用心に近づいた事。もっと大きい魔物だったら食べられてたかもしれないのよ?」
そういって、中指も立てた。
「三つ目。噛みつかれたのに避けなかった事。何か病気を持っていたらどうするの?」
薬指まで立ち上がった。
あぁ、その考えは無かったな………。
これは確かに不用心だった。
今の俺じゃ病気は回復できないし。
「レイはこんなに悪い事をして、母さんやリネアに心配をかけたのよ?何を言うべきかしら?」
そう言って、少し悲しそうな顔をする母さん。罪悪感が半端じゃないです。
「勝手に動いて心配かけてごめんなさい!!」
テーブルにぶつけそうな勢いで頭を下げる。
マジで、今度から不用意な行動をしないように気を付けよう。
「すぐに謝れるのはいい子よ。リネアにも後で誤っておきなさいね?」
母さんはニコニコした顔に戻ると、そういって俺を撫で、頭をぎゅっと抱きしめる。
マジで包容力すごい。
俺に反抗期は来ないと確信。
………着痩せするタイプなんですね、そうですか。
こんな状況でそんな事を考える俺最低じゃないですか。
「さて、そんないい子のレイなら私の聞きたい事もわかるわよね?」
うっ、頭が捕まっていて逃げられない。
俺は1歳くらいからなぜか回復魔法が使えて、自分のけがを治しているうちに回復できる量が増えた、と説明する。
神様云々は信じてもらえないと思ったし、変人扱いされて母さんに嫌われたくなかった。
前世では、母さんの記憶はない。
妹が生まれてすぐに病気で亡くなってしまったため、物心ついた時にはもう父さんしかいなかったのだ。
父さんには申し訳ないが、小さい時には母さんが欲しいと思った事も何回かある。
なので、この世界での母さんであるこの人に嫌われてしまうのはとても嫌だった。
なので、大事なところはぼかして説明したのだが……。
「あらあら、嘘おっしゃい。生まれた時から使えていたでしょう?」
えぇぇぇぇ、バレテーラ……。
「えっ?何で知ってるの?」
隠すのも忘れて普通に聞いてしまったが、それくらい驚いている。
え、なんでばれてるんだ?
「母さんねぇ?【鑑定】持ってるのよ」
「え」
ニコニコしながら衝撃の事実を暴露する母さん。
【鑑定】って異世界恒例のあれ?ステータス見れるやつですよね?
「それでね、レイが部屋のベットで目を覚ました時にステータス見たのよ。その時には【回復魔法】持っていたものね」
まさか、あの目が光っていたアレか!
「それにすごい称号もいっぱい持っているじゃない。将来有望だと確信したわよぉ」
そういって自分の事のように誇らしげに胸を張る。
「それに生まれてすぐからずっと魔法を使っていたでしょう?今ではMP私よりも多いものねぇ。しかも一歳くらいには新しい魔法まで作っちゃって。ほんとに自慢の息子だわぁ」
え、そっちもばれてるんですか!?
確かに常にMPを使い続けていたおかげで、MP上限はかなり増えたと思う。
ていうか、増えすぎた。
伝説のエルダーエルフである夕莉よりも増え、200を超えたのだ。
予想より増えた理由を夕莉と話し合ったことがある。
実は【回復魔法】は他の属性魔法に比べて使用MPが多いらしく、赤ちゃんにはかなりの過負荷が体に掛かったため、防衛本能が働いてMP切れを起こさないようにMPの上昇率が高くなったのではないか、と推測している。
増えすぎで困ることはないのでそこはうれしい。
「それに【魔力探知】と言って、魔法を探知できるスキルがあるのよ。レイは常に【魔力探知】に引っかかっていたもの、気づかない方がおかしいわ」
待ってくれ、そのスキルも初耳なんですが……。
「じゃあ母さんは僕が普通じゃない事を最初から知っていたの……?」
思わずおどおどと聞いてしまう。
母さんから気味悪がられていたのではないか、そう考えてしまい顔が自然に下に向いた。
どんな反応が来るのか、拒絶されるのではないか。
対面に座る母さんの顔を見るのが少し怖かった。
「えぇ、我が子ながら面白い子に育つだろうと思ったわよぉ」
「えっ?」
母さんからの予想外の言葉に、俺は驚いて顔を上げる。
母さんはいつもよりも楽しそうにニコニコした顔をして、穏やかに笑っていた。
自惚れじゃなければ、まるで俺の事を誇らしく思っているような顔つきだった。
「……気味が悪くなかったの?」
「あらあら、なんでそう思うのかしら?あなたは私の息子よ?」
そして、続いた一言は俺が抱えていた不安を簡単に吹き飛ばしてくれた。
この包容力は並大抵のものじゃないと、普通の母親を知らない俺でもわかる。
「うわぁぁん、かあさぁぁぁん!!」
安心してくると泣きそうになってしまい、思わず母さんに飛び込んだ。
「あら、急に泣き出してどうしたの?母さんはレイのそばにずっといるわよ?」
そういって、俺の頭を優しく撫でてくれる母さん。
精神はそこまで子供じゃないはずなのに、母さんに抱き着いているとすごく安心する。
改めて思う。俺は母さんの事が大好きなんだ。
だから母さんに真実を伝えるのが怖かったし、嫌われるのも嫌だった。
そして、母さんが嬉しそうにすると俺も嬉しくなるし、俺の事が自慢になるのなら頑張ろうと思えてくる。
初めて接する母親という存在に対し、俺はすっかりマザコンになってしまったような気がする……。
後悔は全く感じないけどな!
俺は、母さんに抱きついたまま、これまでの事を話す。
違う世界から来た事。
神様に連れ去られ、幼馴染と一緒に転生している事。
今は二人で自分の強化をしている事。
そのための一環として、魔法を使っていた事。
すべて話したと思う。
母さんはそれを無言で聞きながら、ずっと頭を撫で続けていた。