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閑話.人生で一度のお披露目式の記憶

閑話その一

 これは俺が十歳の誕生日を迎えた時に行われた誕生会の話だ。









「はい、これで大丈夫よ」


 母さんが俺の襟元を整えてくれる。


「ありがと。でもこれ、すっごく動きにくいんだけど………」


 俺は、腕を上げたり足を開いたりと、母さんに着付けされた服の着心地を確かめながら言う。


 今日の誕生会で着る服は、いかにも中世の貴族服の子供verみたいな感じで、何やらごてごてしている。

 正直着心地は微妙だ。


「あらあら、でもその服じゃないといけないのよねぇ」


 母さんは俺が文句を言うのを聞いて、右手を頬に添えながら困ったように笑う。



 今回の俺の誕生会は、帝国内への俺のお披露目の意味が込められている。

 10歳になった王族の子供は誕生会を開き、周りへお披露目をするのが恒例らしい。


 まぁ、恒例じゃなかったら絶対にやらなかったに違いない。


 誕生会なんて一回も開いてもらった事は無いし、父様や兄貴達、帝国の貴族達からは嫌われている自信がある。

 実際この誕生会は、10になる王子に貴族たちが顔を売る為の式典らしいが、俺の場合は俺じゃなくて俺の兄貴たちに顔を売りに行くのは想像に難くない。



 だからこそ、俺は服装などそれなり程度でいいと思うのだが………。



「適当で行けば王族の恥だから、これ以上俺らの顔に泥を塗るなって感じだろうな………」


 だから、母さんに無理やり頼んだに違いない。

 正直父様や兄貴達はどうでもいいが、母さんに迷惑をかけるのは本意ではない。


「大丈夫だよ。ちゃんとこれで参加するから」


 そう母さんに伝える。


「そう?やっぱりレイはいい子ねぇ」


 そう言いながら俺の頭を撫でる母さん。


「ちょっ、俺の中身の話したでしょ!?」


「それでも、あなたは私の子供だもの。少しでも可愛がりたいのよ~」


 焦る俺を尻目に、そう言いながら撫でるのをやめない母さん。


「まぁ、母さんがそういうなら少しだけなら………」



 全然少しじゃなくて、結構撫でられました。





「いいか!?ちゃんと行儀よく参加しろよ!?」


「そうですよ。ちゃんとしてもらわないと僕の評価まで下がるんですからね?」


「はい」


 怒るように俺に言う第一兄貴と、厭味ったらしく言う第二兄貴。

 名前は全然覚えてない。

 興味ないしな。


「ふんっ。さっさとどこかにいけ!」


「視界に入らないでほしいんですよ。うっとおしい」


 俺を呼んだの二人なんですがねぇ?


「はい、失礼します」


 頑張って顔に出さないようにしながら、兄貴たちの部屋を出る。


「ふぅ………」


 あー息苦しい。

 マジで城の中しんどい。

 孤児院に遊びに行きてー。


 ウダウダ文句をこぼしながら、城の廊下を歩く。


 そろそろ城を出る事を真面目に考えるか………。

 出る理由どうしようか………。


 考え事をしていたせいで前から歩いてくる人に気付かずぶつかる。


「おっと、ごめんなさい」


「………いい、気にしない」


 ん?


「お、シロか」


 偶然ぶつかった相手はシロだった。

 今日も無表情で狼耳と尻尾をフサフサでモフモフさせながら、メイド服をスラっと着こなしている。

 モフモフ………。


「………兄様お疲れ?」


 フラフラ歩いている俺が気になったのか、表情の変化は少ないながらも、心配そうな雰囲気を醸し出しながら聞いてくる。


「俺は大丈夫だよ、心配してくれてありがとなっ!」


 心配を掛けたお詫びに、シロの頭に手を置いてわしゃわしゃと少し乱雑に撫でる。


 俺が子供の頃、妹が頭を少し荒っぽく撫でられるのが好きだったので、俺はこの撫で方が癖になっている。

 なんでも「兄さんっぽいから」とかなんとか。


 実際シロもこの感じで撫でられるのが好きらしい。

 今も、目を瞑って少し口角を上げて嬉しそうな雰囲気を出しながら、俺の掌にぐりぐりと頭を押し付けている。

 というより、尻尾がめっちゃパタパタと揺れてる。


 あぁ、モフモフだぁ………。

 荒んだ心が癒される………。

 尻尾もワフワフしたい………。


 そんな本心を隠しながらシロに聞く。


「せっかくの髪が荒れるからやめた方がいいか?」


 この撫で方は、シロのモフモフを堪能できるが、その分シロの髪型がぐちゃぐちゃになる。

 シロの髪はサラサラのドストレートだ。

 そんな髪をこんな分に撫でればぐしゃぐしゃになる。

 セットも大変だろうと思うと、自分の欲求の前に申し訳なさが来る。


「ダメッ!」


「うぉ!?」


 かなり珍しいシロの大声を聞いてめっちゃビビった………。


「………ゴメン」


「お、おう」


「………私は兄様に撫でられるの好き。………だから気にしなくていい」


 俺の目を覗き込むように上目遣いで俺を見ながら、シロはそう言う。


「そうか。俺もシロの髪好きだぞ!」


 そう言ってさっきみたいにまたわしゃわしゃ撫でる。


「………ん。………フフ」



 母さんの代わりじゃないですが、こっちもか結構撫でました。









「はぁ………………」


 城の廊下を一人で歩きながらため息をつく。





 パーティが始まった。


 感じ的には、皆がイメージする貴族のパーティとまんま同じだった。

 キラキラの会場に、盛られた食事。

 そして高そうな服を着た人たちが色んな所を立って回る。



 最初の自己紹介は、父様が全部してくれたので、頭を下げるだけでよかった。

 まぁ、余計な事を言われないようにしたんだろうがな!


 その後、群がる貴族のうっとおしい事うっとおしい事。


 俺に擦り寄り、媚びを売る。

 俺を持ち上げ、自分は味方ですよと言わんばかり。


 わかってるんだぞ?

 お前らが心の中で俺を蔑んでいるのは。

 ほしいのは俺じゃなくて『王族との繋がり』なのは。

 すぐにみんな父様や兄貴達とばっか喋ってたしな。


 そして、媚び売り貴族がひと段落したところで、俺はトイレに逃げた。

 そこである程度落ち着いたコートを羽織り、会場に戻る途中だ。


 誰も俺の顔を見てないんだぜ?

 服誤魔化せば何とかなるレベルだ。


 会場に戻った俺は、実際誰にも絡まれなかった。

 なので好都合と言わんばかりにテーブルを回り、食事をいただく。


 いや、これがマジでうまい。

 普段も高そうな飯だったが、今日はまた一段と良い食材を使っているようだ。


 今は良く分からん鳥のステーキを食っている。


 いやー、この鶏肉のうまい事うまい事。

 お肉が焼けるいい匂いを回りに振り撒く胸肉にかじりつくと、噛み応えと柔らかさが両立する最強の食感と共に口の中に肉汁が溢れ出る。

 そんなお肉を口いっぱいに頬張る。


 もうこれ食えるだけで、このどうでもいい会に出た事が報われる。


 そうやって各テーブルを回り、色んな食事をいただく。

 全て美味だ。


 実は今練習を兼ねて【魔力遮断シャットダウン】を発動しながら会場を回っている。

 これをすると、意外と気配を隠せるのだ。

 人間も魔力で何かを察知しているのかもな。





「ふぅ、食った食った」


 満腹だ。

 いくつかちょろまかしてシロの所に持っていきたいな。


 そう思い、思わず周りをキョロキョロする。

 すると、隣のテーブルにいた暗めの茶髪をボブカットにした少女に目が留まる。



 正直に言うと周りの人たちと比べると地味だったからこそ目についた。



 だが、それでもその少女は普通に可愛かった。

 失礼だが、地味可愛いという奴だろう。


 見た感じほぼスッピンだから地味に見えているのだろう。

 だが、確実に光れば輝ける原石な気がする。

 それに、肥えている他の貴族達とは違い、ほっそりしていた。


 それと、着ているドレスが大人しめなのだ。

 だが、そのドレスはしっかりと見るとわかる良い生地で出来ていて、いい仕立てをしている。


 俺の第一印象としては『堅実』だ。


 派手な装いじゃないが、所作の一つ一つがしっかりとしている。

 いい環境で育ったのだろうとわかる。


 俺は、贅沢してますよと言わんばかりに大きく肥え、派手なだけの貴族がどうしても『成金野郎』にしか見えなかった。

 だからこそ、この少女に興味をひかれた。



「どうも、こんばんわ」


「ッ!?」


 あ、【魔力遮断シャットダウン】切るの忘れてた。


 突然声を掛けられた少女は、慌てて手に持っていた皿を落としそうになる。


「おっと、ごめんなさい!」


 お皿を反対側から支える。


「い、いえ、こちらこそ、申し訳ありません!」


 お皿をテーブルに置き、頭を下げる少女。


 少し目立ってしまったかもしれん。


「少しあちらで落ち着いて話をしませんか?」


 会場の隅っこを示し、聞く。

 ナンパに等しいが、子供だから許してほしい。


「は、はい。わたくしで宜しければ」


 少女は、突然現れてナンパする俺に少し緊張しながらも、俺の誘いを承諾する。





「ヘスティ殿は、ずいぶんと遠くから来たのですね」


「いえいえ、レイ様が暮らすこの国は大きいですから、小国としてはこういう催し物には参加をしておかないといけないんですよ」


 少女との立ち話が盛り上がる。



 少女はヘスティ・メリオーナと言い、この国から遠い魔の森の隣に位置する国『ファルティア』の貴族の娘らしい。

 ちなみに、俺は『レイ』というこの国の貴族の息子を名乗った。


 ファルティアの話を聞いた。

 

 どうやらファルティアは魔の森付近の為危険な魔物が出る事もあるらしいが、その分強い冒険者もいるらしく安全とか。

 また、獣人の国『サフィルス』とも隣しているらしい。

 その為、獣人に対する差別はほとんど無いという。

 よっぽどの事をすればお隣から獣王が来るのでそこ辺りは気にしているらしい。


「へぇ、それはいい国ですね」


「この国で獣人に対して友好的な貴族がいるとは思いもしませんでした」


 まぁ、この国は人種主義だからな。


 横に用意していたリンゴジュースを飲む。

 瑞々しくておいしい。


「まるで、今回の主催者である噂の第三王子のようですね」


「ブッ!?」


 アブねぇ、初対面の少女にぶっ掛ける所だった!


「だ、大丈夫ですか?」


 ヘスティは心配そうに聞いてくる。


「え、えぇ、騒がしくてすみません………。ちなみに第三王子の噂とは?」


 怖いもの見たさで聞く。


「えっと………」


 ヘスティは戸惑っている。


「あ、この国の貴族である自分の事は気にしなくていいですよ。是非他国から見た第三王子の話を聞きたいんですよ」


 そんな国の人には聞かせられない噂が………!?


「えっとでは、わたくしが聞いた話では『人種主義であるガルザードの王族でありながら獣人を愛する虚弱な変人』ですわね………」


「がふっ!?」


 分かっていたとはいえ、予想以上のダメージを心を負う俺。

 でも、ほとんど間違って無いのが辛い………!


「た、確かにここの第三王子は変わり者ですから………」


 自分で傷口をえぐっていくスタイル。


「でも、わたくしはそんな王子にどうにかして一目会えないかと思って来たのですよ」


「へぇ、それは何でですか?」


 どんな理由があれば、そんな明らかにやばそうな噂聞いて会いに来るんだろうな?


「ガルザード帝国のような国の中でも獣人を愛していける人で、周りから色々言われようとも主義を曲げない。そんな人柄を感じたのですよ」


 お、おおぅ、予想以上に褒め殺し………。


「まぁ、人が多くて会えなかったのですがね」


 ヘスティはそう言って笑う。


「大丈夫ですよ。希望は叶ってますから」


「うん?どういう事でしょうか?」


 俺の漏らした言葉に、ヘスティは目敏く反応する。


「俺が第三王子ですから」


 ニコッっと笑ってみる。


「へっ?」


 急な俺のセリフに呆然とするヘスティ。



「改めて自己紹介を。ガルザード帝国第三王子、レイヤード・キルシュ・サンベルジャンです」



 そう言って、漫画で貴族がやるようなお辞儀をしてみる。



 実際ヘスティにならバラしていいと思った。

 この短期間でも良い人だとわかったし、俺としても繋がりを持っておきたかったから。



「えっ?えっ!?」


 ヘスティは突然の展開に追いつけないようでアワアワしている。


「今日は楽しかったですよ。ですがそろそろ時間なので戻りますね」


「は、はいっ!」


「ははっ、そんな緊張せずに先ほどのように話してくれると私は嬉しいですよ」


「は、はい」


 緊張が抜けてないっぽいが、本当にもうすぐタイムリミットだ。

 元の席に戻らないといけない。


 その前に『お願い』を伝えよう。


「ヘスティ殿。私は今日の話を聞いてファルティアに興味を持ちました」


「そ、それは恐縮です………」


 本当に恐縮そうに身を縮める。


「私は来年になったらクリカトル学園に入学する予定です。ですから四年経って卒業できるようになったら、是非私を迎えに来てください」


「え?」


「来てくれたら、そのままファルティアを訪れてみたいのですよ。お願いしますね」


「は、はいッ!」


「それでは楽しみに待っています。また5年後に」


「りょ、了解しました!」


 ガチガチになったヘスティと別れる。



 実際に、学園都市に行き、その後ファルティアに行きたいと思っている。

 ヘスティの話を聞いてこれからどうするかを決める事が出来た。


 嫌だったが、パーティに参加してよかったかもしれないな。


 また学園を卒業する時にヘスティにちゃんと会えるかは分からない。

 でも、俺はまたヘスティ話がしたい。

 再開出来たら、道案内でもしてくれたら嬉しいな。



 ここから先はほとんど覚えていないが、特に意味は無い時間を過ごした。





 これが俺の最初の貴族パーティの記憶だ。

予想以上に膨れました………。


次回も閑話を入れる予定です。

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