1.世界樹の話が出てからほとんど話聞いてないじゃない
話を変更しました。
「ほら、おきたまえ。連れてきただけで気絶するとは、まったく人間は脆弱だな」
何か声が聞こえる。頭が痛いんだ、寝かせてくれ。
「だめだ、さっさと起きろ!」
声が頭に響く。ものすっごく痛かった。これが二日酔いか?
「二日酔いかは知らんが、早く目を覚ますのだ」
その声につられて目を開けてみると、そこは真っ白な神殿だった。
その神殿の奥のほうに神聖そうな羽衣をまとった人みたいなのが背を向けて立っていた。
天使みたいな羽が生えてて、足は膝上まで白い毛におおわれている。
明らかに人間じゃないな。
「そうだ、我は人間ではないぞ、神だ」
いまだに背を向けながら話す鳥人間。
これは、あかんやつかもしれない。この現実離れした空間といい、人ではない自称神といい、最近読んでいた異世界物の影響を受けすぎだな、この夢。
起きたらものすごく恥ずかしい思いをしそうだ。
「夢でもないぞ、公園にいた君達を我が連れてきたのだよ」
え、マジでこれはリアルだってのか?
「そうだ」
じゃああの光はお前が?頭が痛いのもそれが原因か?
「人間如きにお前呼ばわりされるのは気に入らんが、確かにその光とやらは我が使った【転移】だな。無理やり下界の者を神域に引っ張ったのだ、負担が来ているんだろうな」
なんでそんな迷惑な事を……。
てかさっきから普通に心読まれてるな。まぁそういうものなんだろう。
それよりも、夕莉はどこにいるんだ?いや、いますか?って一応敬語にしとくか。
「すべて聞こえておるのだよ。無礼者めが」
無礼でも構いませんから夕莉はどこに?
「あの女ならばもうここにはいない、先に転生済だ」
転生?まさか異世界か?
「そうだ。そんな芸当ができる我こそ世界神アルカナである」
唐突な自己紹介を行い、やっと鳥人間は振り返った。
白いロングヘアーの似合うイケメンだった。
なぜ俺らを連れてきたんだ?
「我がイケメンなのは当然である。まぁ機嫌がよいので質問にはスマートに答えてやろう。暇だったからだ」
ん?いろいろ言いたいことがあるぞ?
「ここ最近どの世界でも面白い事がない。暇だったのでな、下界を見下ろしたときいちゃつく二人が見えたので異世界に飛ばしてやろうと思ったのだよ」
この神喋れば喋るほど残念になるな。てかそんな理由で呼ばれた俺ら……。
「この人間敬語忘れておるし……。まぁよい、というわけで異世界に行って何かしてきてくれ」
敬語使う気も起きないわ。何かってなんだよ何かって。
それよりも、妹の事が心配だ。
俺と妹には両親がもういない。だから二人で頑張ってきたんだが、俺がいなくなったら妹は一人になってしまう。
だから転生するわけには……。
「貴様の妹なら、先に転生した女の親に預けるように操作してやろう。それで問題ないだろう?」
夕莉の親か……。迷惑が掛かってしまうが、それなら安心できる。
妹よ、強く生きてくれ。俺と夕莉も頑張って見せる。
妹はそれで頼む。それで俺や夕莉が転生するのはどんな世界なんだ?
「転生先は、下界で流行りの剣と魔法の世界というやつだな。大丈夫だ、完璧な我は人間の言いたいこともわかる。チートが欲しいのだろう?やらんがな」
まじかよ。
「そんなの面白くもないだろう?まぁ、普通程度の能力ならくれてやろう」
チート無しか。ちなみに夕莉も何かもらったのか?
「もちろんだ。あの人間はお前との繋がりが欲しいと即答しておったので貴様とどこでも話ができるように『念話』をやったぞ。この能力は対になっているので貴様にもやろう、あの女に感謝するがいい」
あいつそんなことを言ってくれたのか……。夕莉と絶対に合流して頑張ってお礼するしかないな。
能力かぁ。何がいいのかわからないな。
「わからないなら適当に我が与えられる『回復魔法』をくれてやろう」
ちょ、選ばせてくれんじゃなかったのかよ。
「悩まれるのはめんどくさいのだ。あと面白味を増すために人生を荒らしそうな称号でも送っておくか」
おい、待て。そんなものはいらないぞ!
「貴様に拒否権はない。称号は後で確認しといてくれ。それではサヨナラだ、せいぜい楽しませてくれ」
最後めんどくさくなって投げやがったな!
その言葉を最後に目の前が真っ暗になった。
意識が戻る。
目を開けてみる。
「あぅあー(訳:知らない天井だ)」
まぁこれは言っておかないといけない。喋れてないけどな。
今の場所はそれなりに大きい部屋の中で、俺は今赤ちゃん用のベットの上にいるようだ。
俺の視界に入る一面の壁には壁いっぱいに本がある。
これはぜひ全部読んでみたいな、文字読めるかわかんないけど。
でも、本がこんなにいっぱいあることや、机やベッドなどの家具がすごく高そうなんですが。
俺は貴族の子供か?
ベットの上であー、うー、唸りながら部屋を見ているとドアが開く音がした。
音のしたほうを見ると、一見地味だが何か存在感を感じさせる黒いローブを着た怪しい人が入ってきていた。
ローブはかなりゆったりと作られており、外観での性別はわからない。
誰だ、この人?
「あらあら、もう起きていたのね、レイ」
声を聴く限り女性のようだ。
レイ?俺のことか?
黒ローブの人は俺の隣までパタパタと歩いてきて、
「わかるかしら、あなたのママよー」
そう言って手をヒラヒラ振る。
この人が母さん!?パッと見、不審者にしか見えないわ。
母さんの顔が見てみたいんだがフードで顔が見えないな。
「あうあー(訳:フードが邪魔だな)」
「急にバタバタしだしてどうしたのかしら?」
「ビシッ(フードに腕を伸ばす)」
「あらあら。フード被ったままだったわね。ごめんなさいね」
自称母さんがフードを慌てて外す。
セミロングの緑色の髪をしたの、おっとりした雰囲気の美人さんだった。
これが母さんだったら自分の将来が期待できるレベルの美人だ。
あとは、前の世界じゃありえなかった緑色の髪を見てここは異世界なんだな、と改めて実感。
母さんが俺をベットから持ち上げて、揺らしながら抱きかかえる。
「ふふっ、かわいいわ。我が子ながら将来有望そうねー」
親バカが早い。
それにしても、この揺れるリズム…眠く…なる…な……。
眠る直前、母さんの目はうっすらと光っているような気がした。
(……て)
何か声が聞こえた気がした。
目を開けてみると部屋が真っ暗なのでどうやら夜のようだ。母さんのゆりかごで思いっきり寝てしまった。
今はもちろんベットの上だ。
それにしても声が聞こえたと思ったんだが、周りに誰もいないな。気のせいか?
(……ってば)
気のせいかと思ったが違うようだ。
ん?この声……。
(夕莉か!)
(その声は怜司ね?そろそろこっちに来ているかと思って『念話』を使ってみたの)
(なるほどな。ってか使い方知らないのに勝手に念話できてるな、俺)
(それは私につられたからかもね、少し練習しましょうか)
そういって夕莉は、いろいろ言いたいことがあるはずなのに俺の練習に付き合ってくれた。
その甲斐あって、何とか覚えることができた。
ホントにありがとう。
(なるほど、意識を夕莉に向けて頭の中でしゃべる感じか、慣れるまでむずいな)
(それはしょうがないわ。私は転生先が魔法に詳しい人ばかりだったから)
(それは頼もしいな。教わった事はぜひ教えてくれ)
(わかったわ)
少しドヤっている夕莉の顔が浮かぶ。
(そういや魔法に詳しいって転生先はどこだったんだ?俺は貴族の人間っぽいんだけど)
(私?えーっとね、エルダーエルフ?って種族らしいわ)
(え)
エルフはまだわかるとして、エルダー?転生なのに?
詳細を聞いてみた。
エルフにはレベル(レベルがある事にも驚いた)が上がり種族進化(進化する事も驚きだよ)する事でハイエルフになるらしい。
まぁ、進化する個体が出るのは百年に一度ほどらしいが。
で、そのハイエルフがレベルを上げ種族進化することでエルダーエルフになるそうなんだが、進化するときに進化後の能力に耐えられず眠りにつくらしい。
そして進化後に体が適用できたら眠りから目を覚まし、晴れてエルダーエルフになるらしい。
でどうやらこの眠りの生還率は相当低いらしく、百人に一人ほどだとか。
そんな状態でただでさえ数の少ないハイエルフはこれに挑む事はほとんど無く、エルダーエルフは伝説の存在らしい。
(よかったな、伝説だってよ。レック〇ザ位すごいな)
(茶化さないで、話の途中でしょ)
(ごめんなさい)
で、どうして夕莉がエルダーに転生したか。
実は最近眠りについたハイエルフがいて一週間ほど寝ていたそうだ。
だがそのハイエルフは昨日息を引き取ったらしく、今日が別れの儀式の予定だったと。
この別れの儀式の最後に、水をかけて体を清めて世界樹の根元に埋めるらしい。
んで埋める前に水を掛けたら、「冷たいじゃない!」とそのハイエルフが切れながら起きたと。
それが夕莉らしい。
(なんでお前また死体なんぞに)
(好きで死体に入ったわけじゃないわよ!)
(それよりも世界樹についてkwsk)
(最後まで話を聞きなさいよ………)
ほかのエルフの予想だと、件のハイエルフはエルダーエルフにはなっていたらしい。ただ、もうすでに魂が抜けていて、器だけある状態だったと思われるそうだ。
そこに魂でこの世界に放り込まれた夕莉が器に吸い寄せられたとかなんとか。
(魂がどうとかはわからんが、つまり世界樹がすごいってことだな?)
(世界樹の話が出てからほとんど話聞いてないじゃない)
だって、だって………!