14.やら、せるかよっ!
話を変更しました。
どうも!10歳になったばかりのレイヤードだ!
俺は今、ブライン西区で開かれている市に来ている。
年に一度の市なので、かなり大規模に行われており、普通の屋台から、自分で作ったポーションだったり、武器や防具など様々なものが売られている。
元の世界のフリーマーケットの異世界版的な感じかな。
至る所でいろんなものが売られているので、正直興味を引く物が多すぎてすぐ足が止まってしまう。
「お兄ちゃんっ!また止まってるよ!早く行こうよぉー」
俺の右手がぐいぐい引っ張られるのでそちらを見る。
フランが俺とつないだ左手を引っ張っていた。
「おい、興味があるのはわかるがそんな毎回止まらなくてもいいんじゃねぇの?」
ミナ姉も少しめんどくさそうだ。
今回の市はフランとミナ姉の三人で来ている。
市があると聞いて行きたがったフランを、俺とミナ姉が連れてきた感じだ。
ミナ姉は12歳になって大人びた雰囲気がかなり増したスレンダーさんに成長している。
ん?女性的な成長?やめてさしあげろ。
フランも8歳になって元気っぷりが増したように思う。
最近では常に俺の手を引いて、色んな所に連れて行って欲しがるのだ。
まさしく小動物っぽさのある可愛さ全開だ。
ここ二年は頑張りました。
師匠たちとは稽古を重ねて、3人ともイメージしていたスキルを身に着ける事が出来ていた。
師匠はさらに鋭さと速さが増した剣技に、【魔力付与】の能力を覚え、かなり高ランクの『魔法剣士』となっている。
剣を振るたびに火を纏う様は、ゲームのスキルを使ってるようでちょっと憧れる。
持ち前の雰囲気と相まってかなりカッコいい。
エリゼさんはまだ少してこずっている。
スキルとして【浮遊剣】は覚えたのだが、型を取り込むのに苦労している。
それでも、いくつかの型は取り入れて、理想だったらしい『剣舞』のイメージには届きそうだ、と嬉しそうにしている。
一番化けたのはハイネさんだ。
師匠と組み手を続けた事で、元々持っていたAGIを生かしたヒットアンドアウェイのスタイルを確立させている。
ただ、その『ヒット』の部分で大爆撃が起こるので、かなりの戦闘力になっているのだ。
三人で魔物討伐をしていた時、斥候として探索に出て、そのまま爆撃させてきた事も何回もあるのだとか。
まさしく爆弾魔ですね、わかります。
この三人との練習に最近はシロアがいつの間にか参加していた。
持ち前のハイスピード戦法にはさすがのハイネさんも勝てないが、それを隙の無い戦い方で抑えるのが師匠だ。
だが、師匠は近距離戦闘なので、爆撃ハイネさんには勝てない。
じゃんけんのようだ。
え、エリゼさん?
俺と一緒に浮かばせた剣グルグル回して遊んでいるよ?
あ、そういえば夕莉が族長をしている村は順調のようだ。
エルフとダークエルフを仲良くさせるのは一苦労だったと思う。
それを成し遂げた夕莉の行動力はすごいよな。
そんな夕莉に早く村を見せたいらしい。
だから、そろそろこの世界での立場を固めていきたい。
11歳になったら、学園都市に行こうと思っている。
そこで、今以上に知識と地力をつけていきたいと思っている。
学園都市は平等国家なので、獣人差別などは無いと聞いている。
それならシロも安全に生活できる。
この国よりはよっぽどましだ。
そこで、この世界でも通じる実力を身に着けてから、夕莉に会いに行ってそれからを決める予定だ。
ただ、普通に行っても恐らく村のエルフは夕莉と俺が行動を共にすることを反対するだろう。
だから、学園都市では何か肩書も付けたい。
最強にでもなれば拍がつくよな。
頑張る。
そのためにもそろそろ冒険者にでもなっておきたいよな。
実力をつけるなら、やはり実際に経験する事が一番だと思う。
その話を母さんにしたら、母さんが冒険者になった11歳になれば許可してくれるらしい。
それまでに、魔物の知識も付けるべきかな?
「ねぇねぇお兄ちゃん!」
考え事をしていたら、急に腕を引っ張られて転びそうになる。
「んぁ?どうした?」
引っ張っていたのはフランだ。
すると、頬をぷくーっと膨らませてこっちをにらんでいた。
「お兄ちゃん!今はフランとミナお姉ちゃんと遊んでいるの!だからこっち見て!お空ばっか見上げちゃダメっ!」
どうやら俺は考え事をすると空を見上げるらしい。
「あぁ、悪かったよ」
頭を撫でる。
「えへへ、わかればいいのっ」
にへー、と気の抜けた笑顔を顔に浮かべるフラン。
「まったくだ。レイは反省しろ」
「はいはい」
フランの言葉に乗っかって俺に文句を言うミナ姉。
そうやって三人でじゃれあっていた。
かなり気が抜けていたんだと思う。
ここは異世界で日本ではないんだと忘れていた。
思えば、俺の称号を持っていても、ここまでなるとは思っていなかったんだ。
来てもおかしくはなかった事態を、来ないと高を括っていたんだ。
ブシュッ!
「………え………………?」
俺の胸から血に汚れた槍が生えていた。
「なん、だ、これ………?」
何で俺の胸からこんなものが出てきているんだ?
どういうことだ?
驚きで考えがまとまらない。
熱い何かが胃から上がってくる。
「ガハッ!」
それはすぐさま口からこぼれ出る。
見たらわかる。自分の血だ。
「お、お兄ちゃん………!」
「レ、レイ………?」
フランは驚いて、ミナ姉は唖然としている。
二人は後ろを見ている。
「ッ!」
槍が無理やり俺の体から抜ける。
激痛がやっと体に走った。
激痛でゆがむ顔を、後ろに向ける。
成人を迎えたばかり位の男がいた。
血に濡れた槍を持った。
目が完全に死んでいた。
「おかしい………おかしい………おかしい………」
何かをぼそぼそと呟く。
「何でこんな男がミナと一緒にいるんだ………?こんな一目見て嫌な気分になるやばい男と一緒にいられる?選ばれる!?こんな男がいるからミナがおかしくなるんだ!そうだ!だから俺は間違っていないっ!!」
喋りながら、男はどんどんヒートアップする。
「だから殺す!殺す!死ねよ!」
突然の殺意に俺は全く反応できない。
師匠と体術は学んだはずなのに動かなかった。
グサッ!
「ッ!」
また刺さる。今度は正面から。
それが何度も。何度も。
どうしても体は緊急事態に動かなかった。
おそらくこいつは孤児院の奴なんだろう。
それが、ミナ姉が俺としか遊ばない事に対する溜まった妬みと、俺の称号で蓄積された俺への憎悪が爆発しているのだと思う。
考えて無かった訳じゃない。
男の、俺への憎悪は称号のせいで勝手に溜まる。
それがここまで振り切れる可能性はあった。
俺を殺しに来る奴が出てくる事は考えていた。
だが、そこまでは子供に対して行わないだろう、という甘い考えがあった。
まだ、俺は大丈夫だろう、と勝手に思っていた。
忘れていた。
ここは
異世界だ。
日本ではない。
人の命が軽く簡単に飛ぶ世界だ。
それが、これまでの王城生活で抜けてしまった。
あそこは国の中でもトップクラスで安全な所だったのだ。
常に【魔力探知】でも使うべきだった。
人は少しは魔力を発している。
それを常に見て、危険を事前に察知しておくべきだった。
後悔は募る。
自分でわかる。自分だからわかる。
俺は助からない。
おそらく、肺だか心臓だかの重要な臓器がやられている。
俺の回復じゃあまだ回復できない部類の傷を負ってしまった。
だが、まだくたばる訳にはいかなかった。
こいつはもう俺を見ていない。
しかし後ろを見ていた。
ミナ姉を見ていた。
「ハハッ。やってしまった、やってしまった。俺はすぐに捕まるだろう」
明らかに狂気に染まった眼でミナ姉を見ていた。
「だから、それまでにミナもこいつも殺して俺も死のう。そうしよう」
動き出した。
ミナ姉は唖然とした顔のまま固まっている。
俺とおんなじ状況だろう。
それだけは………、それだけはやらせないっ!
そう思ったら【継続回復】が発動した。
俺が、常に包まれていた癒しの光がまた俺の傷だらけの体を包む。
痛みが少し引く。
体が動く。
これならいける!
「やら、せるかよっ!」
男の体を蹴り飛ばす。
俺を意識から飛ばしていた男は吹き飛ぶ。
「レイ!」「お兄ちゃん!」
フランとミナ姉が俺を呼ぶ。
任せろ。まだこいつはくたばっちゃいない。
ここで潰す。
後ろにはいかせない。
「グルゥゥゥラアァァァ!!」
男が叫びながら立ち上がる。
明らかに人ではなかった。
男の両腕が黒くなっていて、口からは牙が見えていた。
「ワオォォォン!」
獣のようになった男が俺に突っ込む。
槍が突き出される。
かなりの早さだった。
だが師匠の剣速に比べたらまだまだ!
その槍を横から腕で振り払う。
槍がへし折れる。
腕にまとった魔力に俺は気づかない。
腕と足をまとう金色の魔力に全く気付いていない。
この魔力が障壁になっていて、槍先に手をぶつけたのに傷がついていない事に。
この魔力が体を活性化させる【継続回復】が強化されたものである事に。
その為、元々鍛えていたのと相まって、身体能力が跳ね上がっている事に。
「シッ!」
全力で腕を振りぬき、男のボディに拳を叩きつける。
右手に金色魔力が集中し、渦を巻く。
「ッ!?」
男は俺が放った拳の速度に驚きながらも、咄嗟に両腕でガードする。
男の黒い腕は明らかに堅そうだった。
が、その程度では威力を抑えられなかった。
「グオゥ!?」
金色魔力がドリルのように渦巻き、腕に纏う。
その拳は男の両腕をへし折り、衝撃が男を貫く。
パリンッ
何かが砕けた音が聞こえた。
男は後ろに殴り飛ばされ、ぶつかった壁を壊して尚、吹き飛ぶ。
男はもう起き上がる事は無かった。
「ざまぁみ、………ガハッ!」
終わったと思った瞬間纏った魔力が消える。
口から流れ出る血が止まらない。
痛みがぶり返し、立っていられなくなり頭から前に倒れる。
どんどん視界がぼやける。
体が冷えていく。
自分の命が、血と一緒に零れている気がした。
「………ちゃ……!」
「…イ………!」
「…………いさ…!」
誰かが駆け寄ってくる。
おそらく、フランとミナ姉だろう。
やばいな、意識がボーっとする。
(悪い、夕莉。俺、も……う………)
念話を飛ばそうとするがうまく飛ばせない。
(どうしたの?怜司?ちょっと、ねぇってば!怜司!?)
悪い、返信もできそうにないな………。
ぼやける視界の中。
俺が最後に見たのは。
………え?
俺とキスをしているミナ姉の顔だった。




