11.それではレイ様、今日の訓練を始めましょうか
話を変更しました。
今日はレッスンも騎士団の練習もない。母さんはシロアを連れて買い物に出かけている。
という事でお城にいても楽しくないので、お城から出て遊びに行こうと思う。
この街はガルザード帝国の首都で、『ブライン』という街だ。
首都なだけあり、この国で一番大きい街となっている。
この街は円形の防壁に囲まれており、中心に城がある。
そして、壁の門とつながる十字の大道路で東西南北と街を区切っており、それぞれの場所の雰囲気が異なっている。
北側は貴族街。貴族の屋敷と貴族御用達のお店が集まっており、常に騎士が見回っているので、首都で一番安全な場所だと思う。
逆に南側は平民街。普通の人たちが暮らしている。壁の方に行くにつれて雰囲気が少しずつ悪くなり、壁側にはスラム街があるらしい。
また、西側は商業施設が集まった場所となっており、朝市が開かれたり屋台が並んでいる。
肉や野菜などもいろいろな種類があり、知らない物を見つけると気になってしまう。
東地区は様々なものが集まっている。
一番大きい建物は冒険者ギルド。
その次に大きいのは教会だ。
この二つを目的に人がかなり集まっている。
また、旅人を目的とした料理屋や宿屋もこの地区にあるので、人がこの街で一番集まるのはこの地区だ。
俺は、南区に向かっている。
南区を壁に向かって進み、門が見え始めたぐらいで裏路地に入る。
そこを進み、少し薄暗くなった辺りに目的地である孤児院はある。
街の孤児院はどれも国からの支援を受けているので、貧乏という事は全く無い。
父様は善政をしっかりと敷いていると国民からも好評である。
俺はこの孤児院に身分を隠して、『レイ』という名前の子供として遊びによく来ている。
「ライサさーん!遊びに来ましたー!」
孤児院の門でそう叫ぶと、修道服を着た優しそうなおばあさんが出てきた。
この孤児院の代表をしているライサさんだ。
「あら、レイ君また遊びに来てくれたのね。助かるわ、フランちゃんやミナちゃんが来るのをいつも楽しみにしてるのよ」
「そうなんですか?じゃあ早くあいつらのとこに行きますね」
「二人の事よろしくね」
「はい」
そういって、孤児院の中に入る。
すると玄関に入ってすぐ、ドタドタと廊下を走る音が聞こえる。
どうやら、俺がライサさんを呼ぶ声が聞こえたみたいだ。
「お兄ちゃん!」
「おっと」
すぐに、空色の髪の色をした女の子が飛びついてきた。
この子は、フラン。
俺の2歳年下の6歳だ。
この子はリネアを幼くしたような性格をしており、遊びに来る俺を兄と慕ってくれている。
「お、レイか。オッス」
「ミナ姉か。オッス」
フランに続いて奥から出てきたのはミナ。フランとは逆に俺の2歳年上の10歳になる。
灰色の髪をさっぱりとショートにしている。女性としての体つきに成長中らしい(本人情報)
年の割にサバサバしており、周りの子供とは遊ばず一人でいる事が多い。
「何しに来たんだ?」
「遊びに来たに決まってんだろ?」
「まぁ、だろうな」
そういって肩をすくめる。
ミナ姉はなんかそういう動作が似合うんだよな。
この様子なのに俺が来るのを楽しみにしていたらしいので、女子はわからないものだ。
「そうなの!?じゃあフランのお部屋で遊ぼうよ!」
そういってフランは俺の手を引っ張る。
「わかったわかった。ミナ姉も行こうぜ」
「行こうも何もフランの部屋はアタシの部屋でもあるから行くに決まってら」
この対極の二人と仲良くなったのはこの二人が同室で過ごしている事が理由だ。
初めに遊びに来た時、フランに連れていかれて部屋に入ったらミナがおり、フランがミナも巻き込んで遊び始めたのがきっかけだ。
まぁ、この二人はそれぞれの年代の男子から人気がある。
可愛くて明るいフランと、同年代から見たら大人っぽく見える美人さを持ったミナ姉である。
当然であった。
だが、フランは俺が来るようになってからほかの男子とは遊ばなくなり、ミナに関しては男子を避けていた。
そんな二人と仲良くしていれば、男子から嫉妬の目で見られるのは当たり前で、【女群集の呪】の効果と相まって俺は男子からは嫌われているので、遊ぶのはこの二人だけとなり、また男子から嫉妬の目で………、というループにはまっている。
男子と仲良くするのはとっくに諦めました。
それでも、この二人と遊ぶのは俺の楽しみでもあるのでやめられないんだけどな。
その日は、お昼もごちそうになり、夕方まで二人で遊んだ。
また別の日、今日は城の裏側にある騎士団の訓練所にいた。
「今日の訓練はこれにて終了するッ!」
「「「「「ありがとうございましたっ!」」」」」
騎士団の訓練に参加していたのだ。
帝国騎士団は連携のレベルも高く、戦闘としてのレベルはかなりのものだ。
ただ、その分選民意識が高いように思う。
『俺は騎士だが、貴様は平民だろう?』とでも言いたそうな。
俺がいても何も言わないのは俺が第三王子だからであり、俺がいない時は普通に悪口を言ってるのを聞いた事がある。
まぁそれはいつもの事なのでどうでもいい。
この練習で体を鍛える事も大切だが、この後に入れている訓練はさらに力を入れている。
そのため俺は訓練が終わっても訓練所に残り、周りの騎士たちが居なくなるのを待つ。
全員がいなくなった頃、一人の女騎士が俺の所に歩いてくる。
その女騎士は、赤い髪を高めの位置で纏めた、まさしくポニーテールという感じの髪型をしており、女性の中でも少し長身な体つきや凛々しい顔つきでありながらも、所々で女性を感じさせる雰囲気は、まるで某歌劇団の主役のようであった。
彼女が俺の剣の師匠であるアルレイナだ。
初めて訓練に来た時、俺は人がいなくあったら素振りをしようと思って訓練所の奥に隠れていた。
体力は走り回っていたので、普通の子供よりもはるかに多かったし、訓練中も【継続回復】を使っていたので、余力があったからだ。
その時に彼女が一人残って練習で素振りをするのを見た。
綺麗だった。
彼女の顔や雰囲気も綺麗だった。だがそれよりも綺麗なものがあった。
俺は彼女の剣舞をとても綺麗だと思った。
しなやかに動く彼女から繰り広げられる剣筋は鋭く早かった。
素振りをしているだけなのに隙を感じさせず、周りを警戒する圧のある雰囲気を出していた。
素人目に見ても分かるそのすごさは俺を圧倒した。
俺はあの剣筋に憧れた。
だから、彼女の素振りが終わった時急いで駆け寄り、「弟子にしてください!」と土下座した。
するりと土下座が出るレベルでお願いしていた。
最初はそんな俺に驚いていたアルレイナだったが、にべもなく
「まだ私は弟子をとれる強さではないのです」
と、断られた。
だが、俺は諦めずに訓練後必ず残る彼女の所に毎日通い、頭を下げ続けた。
それを二週間ほど続けた。
「そこまで私に教えてほしいのですか………。わかりました。これから訓練の後は私がレイ様に私ができる限りの剣術を教えましょう」
と、向こうが根負けして弟子入りを認められた。
それからは騎士団の訓練がある日は毎日残り、彼女から剣術を教わっている。
「それではレイ様、今日の訓練を始めましょうか」
そういって彼女は俺に木剣を渡す。
「はいっ!」
「それではいつも通り、まずは私と同じ動きの素振りをそれぞれ二百行いましょう。その後、私と組み稽古を行いましょうか」
「わかりました!今日もよろしくお願いしますっ!」
改めて【継続回復】を掛け直し、素振りを始める。
今日も組み稽古ではボロボロでした。