馬を求めて
「歩くのも楽じゃねえなあ」
陳はそう言った。おそらく本心で言っているのではなくただの雑談だろう。そういえば旅を始めてから、それほど陳とは喋っていなかった。
「そうだな。馬でもあるといいな」
「馬か。いくらくらいするんだろうな」
「さあ。ピンキリだろうな」
馬の値段は本当に分からなかった。二人とも路銀(旅行費)はほとんど持っていない。馬など買うことはできない。この旅は歩いていくしかない。クンルン山脈までどれくらいかかるのだろうか。それとも何かの方法で馬を手に入れるか。どうやって。盗む?そんなことを考えてまた黙り込んでしまった。
大きな屋敷の前にたどり着くと、立て看板が目にとまった。
『乱低序を手に入れたものには、望みの品を進呈する』と書かれていた。
乱邸序ってなんだろうか。よく分からない。この屋敷の大きさから言って、結構な豪商のはずだ。そんな豪商でも手に入らないものだ。
「おう。これは馬を手に入れるチャンスかも知れないな。」
「乱邸序って何だ?」
「なんだ。乱邸序も知らないのか。簡単に言えば、有名な書家が書いた文章だ。」
「なるほど。で、陳はどこにあるのか知っているのか?」
「ああ。知っているさ」