9月2日 金曜日
9月2日 金曜日
無事だった。
とうとうこの一週間を乗り越えた。
いつも以上に気合いを入れて仕事をした感があり、上司にも少し変わってきたと褒められた。
怪我をしないように気を付けて仕事をしていただけだとは言えなかった。
15時に仕事が終わり、休憩室でコーヒーを飲んでいると、
「おつかれちゃん」
軽いノリで橋本さんが入って来てコーヒーを作り始めた。
「おつかれさまです」
仕事前より気合が入っているのがバレバレである。少し橋本さんが口の端を上げて笑う。
「恋愛成就のお守りを持って来てやったぞ」
「え、お守りですか?」
もうお守りなんて必要ないですとは言わなかった。橋本さんの気持ちを無駄にする分けにもいかない。
キョロキョロと他の人が居ないのを確認すると、社服の胸ポケットから小さな四角いお守りを取り出して僕に手渡した。
変わったお守りだった。四角形で0.02㎜と印刷してあり、それは……!
「――こっ! これってコンドー」
「シー! 声がでかい」
初めて手にした。
四角いフィルムの包装の中に、丸くて小さな輪ゴムの様な物が入っている。
「これがあれば安心して彼女の所に行けるだろ。だからお守りだ」
食入る様に見ている僕にそう言って御利益を聞かせてくれる。
自分では買えなかった。
使った事もないし、使う必要もないのに買う事なんて出来なかった。
店の人に見られるのも恥ずかしいし、自分自身にも恥ずかしかったのだ。
ひょっとすると、世の男性全てが初めの一つは誰か大先輩から貰うのではないかと思う。
「あ、ありがとうございます」
「次からは自分で買えよ」
「え? は、はい」
コーヒーをクイッと飲み干すと、お先と言って橋本さんは帰って行った。
橋本さんには……かなうわけないなあ。
受け取ったお守りを財布の中のカードのさらにその奥へと仕舞った。




