死蹂奏《カルテット》d
◇
「【ビャクレンアーツ】ッ!」
魔法を撃ち放つ。
【アーツ】に等しい威力を誇る魔力光が100個、夜闇を裂いて突っ込んで来る軍人共に着弾していく。
一発一発が上級魔導師すら打ち倒す必殺の魔法――しかし敵の被害はゼロだ。
煙が晴れたその先には、巨大な結界によって完全に【ビャクレンアーツ】を防御した軍人共の姿。
防御魔法に特化した部隊による防御陣。結界と結界の掛け算、並立魔法による特大の結界は並外れた練度によるもので、パンドラアーツの理外の魔力を受けてなお傷ひとつ付いていない。
更にはそのすぐ後ろから攻撃魔法に特化した部隊が飛び出し、前へ。
声を掛け合うことなく、互いを見ることなく、しかし連携の取れた動きで突っ込んで来る。
「くっ!」
銃弾、刀剣、爆弾、ナイフに魔法にエトセトラ。ありとあらゆる種類の攻撃が、どれ一つとして互いの邪魔になることなく僕へと殺到する。
役割ごとに最適の行動を取り、その役割すら臨機応変に転換して攻撃を行う様はまさに一つの生き物のようだ。
「シィィッ!!」
右腕を鋭く振るう。斬撃の衝撃波が飛び、軍人数人の胴を切り裂く。
しかし、浅い。寸前で直撃を避けられた。シグレの三日斬月には及びもつかない威力だが、それでも視界を一掃出来るような威力の技なのに。
戦闘開始から30分と少し。
僕の攻撃はほぼ全てが防がれ、あちらの攻撃は重軽はあれどほぼ全てを喰らっている。
『今だ! 奴の左側面を抜けろ!』
指揮官らしき男の声が飛び、二つの部隊が即応して疾走。止めようにも、攻撃直後の僕は動くことが出来ない。
これまでにもう三部隊か四部隊――三十人近くに突破されている。
これ以上は、アイツらが不味い。
「う――おおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」
ウォークライを放ち、敵の動きをまとめて全員一瞬だけ止める。
その一瞬で僕は体勢を立て直し、左の二部隊に接近。手が届く者には拳打を、届かない者には衝撃波を見舞ってやる。
致命傷こそ与えられなかったものの、敵の位置を押し下げることは出来た。
深追いはせず、元いたこの広場の中央へと跳び退る。
――と。
「がっ……!?」
突然重力が増したかのように体を押さえつけられ、その場に崩れ落ちる。
網だ。超硬度を誇る、魔法科学による特殊金属製の網。それが三つも頭上から被せられている。
身動きすら取れない凄まじい圧力。重力系統と拘束系統の魔法が使われているらしい。僕の鋼糸と同じく、魔力を流し込むことでギミックが発動するタイプの道具なのだろう。
しかし、不味い。動けない。パンドラアーツの身体能力を振り絞っても、微動だにしない。
このままでは、拘束に参加している魔導師以外の全員に突破されてしまう。
そうなれば、マンション内の二人が――死ぬ。
それは、それだけは、駄目だ。
僕は網に触れ、魔力を流し込む。
「――【キリサキセツナ】ァッ!」
大量の血液が噴水のように噴き上がった。
膨大な魔力によるゴリ押しで瞬間的に切断力を増した網。鋭利な刃物と化したそれが僕の全身に喰い込み、切り裂いていく。
だが――僕の鋼糸のような『魔力を通すと意思通りに動かせる』という性質がないため、魔法の発動は酷く不完全だ。強化率は大したことがなく、いつものような切断力には到底及ばない。
故に網は骨まで断つことが出来ず、脳や心臓まで到達することはない。2センチメートル寸前で僕は命を繋ぎ――そして、強化が網の先端まで到達する。
拘束用の魔力を注ぎ続ける補助部隊の指先へと。
指先という神経の末端を刻む音、連鎖する苦悶の声。
その結果として拘束の緩んだ網を、僕は跳躍とともに吹き飛ばす。
超重量の網が冗談のようにを舞う中、ありったけの魔力を叩き込んだ左腕を真下へと突き出し――叫ぶ。
「【センレンアーツ】―――!!」
千の光が放たれ、流星群のように地上へと降り注ぐ。
防御部隊が多重結界を張るも、咄嗟だった分先ほどよりもよほど脆弱だ。光弾が着弾するたびにズドンズドンと震え、結界の至る所に亀裂が入っていく。
魔力の放出が終わると同時、僕は空を蹴飛ばして加速する。
目標は多重結界、目指すは破壊ただ一つ!
「ブチ……抜、けッッ!!」
言葉と、それ以上に力を込めた右腕を多重結界に叩きつける。
隕石の如き一撃が結界を大きく揺らし、亀裂を深め――完膚なきまでに打ち破った。
バラバラに砕け散り、光の欠片となって消える結界。フィードバックで防御部隊の魔導師が吹き飛ばされ――僕と軍人たちを隔てるものが何もなくなる。
だが僕も今ので突撃の勢いをほとんど使い切ってしまい、追撃には移れない。
落下、着地してすぐさまバックステップ。今度こそ中央広場の真ん中に降り立ち、体勢を整える。
「……ふー……」
『…………』
戦場に、奇妙な沈黙が訪れる。
軍人共は距離を開けて僕を取り囲んでいる。警戒しているのか仕掛けては来ないが……代わりに気持ちの悪いものを見るかのような視線が向けられている。
どうやら彼らの人生の中で、僕を超える気色悪い存在は遭遇したことがなかったらしい。
羨ましいなとへらへら笑っていると、輪の中から一人の女性軍人が前に出てくる。
ガッチリした体型、筋肉質な胸部、顔はまあ悪くない……ではなくて、階級章は大尉だ。
恐らくは、この中隊全体の指揮官。
「……解せんな」
その指揮官様がポツリと呟く。
眉を顰め、ああ心底気色が悪くて仕方ないと言わんばかりの表情で、言葉を続ける。
「何故……誰も殺さない? まさか殺人を躊躇しているわけでもあるまい」
「……は、全然殺されてくれないのはあなたたちでしょうに」
「貴様のような化け物を相手にして、未だ損害ゼロなどあり得るか。……何が狙いだ」
「狙い、ねぇ……」
別に話して困ることではない……というよりそもそもの目的が敵指揮官と話すことなのだが、そうとは知らさずにうーんと考え込んで見せる。
全員が全員亜音速以上で動くこの戦場では一分一秒が途方もなく永い。こうした問答は、時間稼ぎにこれ以上ないほどうってつけだ。
とはいえ敵は愚鈍じゃない。不自然に引き伸ばし過ぎれば普通に攻撃を再開することだろう。
そうならないギリギリを狙って、僕は口を開いた。
「ええ、まぁ、ちょっとした狙いがあるのも事実ですよ。でも人を殺さないなんてこと、はは。そんなの当たり前のことじゃないですか。平和と正義を愛していて、何か問題でも?」
「黙れ邪悪が。我らが大義を阻んでおいて何が正義か。真にその二つを願うなら即刻首を刎ねてやる。どうだ、光栄だろうが?」
「全然全く塵ほども。こんな美形が胴体と生き別れるなんて世界の損失ですもの。でも、そうですか。我らが大義、ねぇ?」
それだ。
木っ端兵士では知りようもない、黒幕に繋がる線。
それが知りたくて、それを知っているだろう敵指揮官を万一殺してしまわないように、僕はここまで不殺を貫いてきたのだ。
「その大義とやら、差し支えなければお教え頂いても?」
「ハッ、今から死に行く貴様に話して何になる」
「少なくとも時間つぶしくらいには。それに、はは。お互い様じゃないですか――今から死に行くなんてのは」
正確には、嘘だけど。僕は死ぬ気なんて更々ない。
だが、コイツらは違う。
黒幕から使い切るつもりでこの戦場に投入され、事実明日には梶浦の手により一人の例外もなく処刑場に叩き込まれるだろう。
行動の対価として確定した、変えようのない絶死の運命。
それが分かっていて、今この場にいる彼女たちは――悲しいかな、ある意味では彼女たちの黒幕より、よほど僕の方が近い場所にいる。
「その縁に免じて、お一つお聞かせくださいな。なに、300人の命を注ぎ込んでも成し遂げようとするくらい高尚なお題目だ。クズ一人に話したところで、まさか減るものでもないでしょう?」
「……よく吠える」
「弱い犬ですから。わんわん」
「死ね。……だが、そうだな。口車に乗せられたようで癪だが教えてやる。冥土の土産には上等だろうからな」
……冥土の土産とか本当に使う人初めて見た。
若干引きながら、そんな場合じゃねえと自分の頭をブッ叩く。
弾みで耳に溜まっていた血がバケツをひっくり返したみたくドバッと溢れ落ちた。
あースッキリ。
「んじゃ単刀直入に聞きます。あんたらの目的は?」
「世界の救済だ」
「わーすっげーぇ。…………え、マジで?」
「大真面目だ。話を聞く気がないなら今すぐにでも再開するか?」
いや、真顔で世界の救済なんぞ言われたら正気を疑うのは至極当然な気もするが……。
まあ、相手は推定宗教かぶれ。少しくらいトチ狂ってる方がらしいと言えばらしいかもだ。そんなお約束は不必要にもほどがあるが。
「東京コロニーを守護する大結界。最上級魔法の中でも頂点に君臨する結界魔法だ。貴様は知っているか? それが一人の少女を生贄にして創り上げられたモノだと」
「……へぇ? そうなんですか。はは、とてもビックリです」
まさか一介の大尉如きがそのことを知っているだなんて。
「当時はその少女を犠牲にすることでしか東京を救えなかった。研究者連中も軍のお偉方も、揃いも揃って『必要な犠牲』などという言葉で正当化した……忌々しいことに」
「……はぁ。でも仕方ないんじゃないですか? 東京に住む人々全員の命とたかだか女の子一人の命。仮にも軍人なら、最小限の犠牲で済んだことを喜ぶところでしょうに」
「ハッ、私があのグズ共と同列か。あぁ……全く、その通りだな」
皮肉げに笑う女大尉だが、自分の中で完結して喋るのはやめて欲しい。だったら最初から喋るなと。
あんまり人間している様を見せつけられると衝動的にブチ殺してしまいたくなる。
「だがこの方法は破綻していた。神の名を冠する少女とはいえ人間だ。一分一秒休むことなくあのような結界を張り続けていれば早死には避けられん。遠くない未来、このコロニーは滅亡するだろう」
「はぁ、そりゃ大変ですね。でも研究所と軍の連中のプロジェクトなんでしょう? だったら保険や代替案の一つもあるでしょうに」
「よく分かっているじゃないか。ああその通りだ。アマテラス計画……一人の負担を今度は百人に強いる、ただ犠牲を増やすだけのより醜悪な計画がな!」
唐突に語気が強くなる。件のアマテラス計画への所感は僕と正反対、とても許せるものではなかったらしい。
「確かに負担を分散させることでアマテラスたちは今のよりは長生きできるかもしれないさ。だがせいぜい二年か三年の違いでしかない! 否、そもそもこれはイザナミを使い潰すのが前提の計画だ! そんなもの許容出来るわけがないだろうが!」
「……。まぁ、そうですね。でもそれが? そんなの僕たちに何か関係あります?」
事実、あの妹を名乗るお姫さまが死のうと僕はそれほど困らない。
そもそも『結界装置』がその存在をひた隠しにされているのは、防犯目的以上に一般市民が変な罪悪感を持たないようにという上の配慮によるものだ。
故にアイツが死んで、アマテラスたちが結界を引き継いだとしても僕たちの生活レベルにはまず影響などない。
まぁ、僕は塔管理局なんかの上の方に融通を効かせるパイプが一つなくなるので、アイツが死んだらそこそこ困る。
一応はアイツも妹。出来れば長生きして欲しいものだが……まぁ、無理だろうな。
あら酷い、とあのお姫さまの嗤い声がどこかから聞こえた気がした。
「彼女は今この瞬間にも、私たち東京に生きる者全てを守護している! 自分の命を削ってまでな! それが関係ないと、本当にそう思うのか!?」
「ええ。そもそもあなたの言ってることが本当だって証拠もありませんし。仮に本当だったとして、はは。そんな運命の元に生まれてきたソイツが悪いだけでしょうに。運も実力のうちって言葉、ご存知ないです?」
「貴ッ様ァァァァ……!!」
へらへら笑う僕に対し、女大尉……どころかこの場にいる軍人の全員が僕へと激烈な殺意を向けてくる。
なるほど、なるほど。つまりコイツらはただの操り人形ではなく、アイツの救済に命を己を捧げた同志ということか。
はは、くっだらね。
「自らの意思で生み出されたわけでもなく、自ら生き方を選ぶことすら出来ない! そんな少女を救いたいと思うことの何がおかしい!」
「わお、お顔真っ赤っか。夜だから見えませんけど。ま、それは最高におかしいですよ。人生は楽しんだ者勝ちです。自分の人生を楽しむことも出来ない馬鹿なんて救っても救ってもキリがない。そういうヤツは自力で幾らでも不幸を生産しますからね」
喋りながら、一つ確信する。
コイツらはイザナミに会ったことがあるわけでも、彼女が虜にしたわけでもない。ただどこかからその話を聞いて義憤に駆られているだけだ。
例えば央時のような塔管理局の局員はイザナミ自身の手により彼女の虜にされている。
結界魔法の応用だったか、対象の心に自分の存在を植え付ける魔法。アイツは自分がそこそこ気に入った者にそれを使い、掌握することを楽しみとしていた。
だが、コイツらは違う。
ただ話を聞いただけでここまで憤れるものなのかは甚だ疑問だが……アイツのことを『哀れな女の子』と思っている時点で、お姫さまのことを何も知らないと言っているのと同義だ。
「自分本位のクズがァア……!!」
「えぇー、そんなのあなたも同じでしょう? クロハ――それこそ小さな女の子を、その少女とやらの救済のために使おうとしている。さっき言ってたことと見事に矛盾してるじゃありませんか」
襲撃が始まったときからおかしいと思っていた。『神子』……邪教の信仰対象としてクロハを求めているなら、間違ってもあんな乱暴な攻撃はしてこない。クロハを巻き込みかねないからだ。
なのに連中の仕掛けてくる攻撃といえば、クロハの存在など少しも考えないような範囲攻撃ばかり。
これが意味することとは――
「あなた達はクロハを『道具』として必要としているのでしょう? アイツの不死性か、はたまたもう一つの方か……どちらにせよ、それって人を見下すに値する善行ですか?」
「……!!」
「あはは、そんな睨まないでくださいな。図星突かれたからってみっともない。……そうだ、そんなに胸が張れないようなら切り落としてしまえばどうです? 見た目が今よりもっとアマゾネスに近づいてお似合いですよ、きっと」
「……―――」
……空気が変わった。
煽りに煽ってやった女大尉は元より、この場の軍人全員が激怒しているのが分かる。
まあ、大事なリーダーを諸共に志を馬鹿にされたのだ。キレるのも当然だろう。
これ以上会話を引き延ばすのは出来そうにないし、元よりするつもりもない。
体感時間にして10分と少し。つまりは戦闘開始から約45分が超過した。
いい頃合いだ。
「ああ、ちょっとお待ちを。一方的に喋らせるだけじゃ不公平ですからね。二つほど、僕からもいいことを教えましょう」
「…………」
怒りに燃える瞳の中に残った、ごく僅かな理性の光が言ってみろと先を促す。
流石は軍人。どんなに怒っていようが自分を失うような無様は晒さない、か。
「一つ目。あなたの言う通り、僕が非殺を貫いた理由。これはうっかり指揮官を殺して今の話を聞けなくなることがないようにするためです。うちのクロハを狙ってるのがどこの変態か、皆目見当も付いていなかったのでね」
手掛かりがないなら敵に直接聞いた方がよほど手っ取り早い。結果、敵の正体を絞ることが出来た。
もう一つは……
「二つ目はホテル内に侵入する部隊を見逃した理由。疑問に思ってたんじゃないですか? 突破出来たのはまだしも完全に無傷での侵入、それも30人以上もが叶ったのはおかしいって」
「……わざととでも言いたいのか」
「ええ。いくら何でもそこまで無能にはなれませんから」
まぁ、真面目にやっても一、二部隊くらいは侵入されたかもしれないが。それだけの強敵であったのは間違いない。
多過ぎず少な過ぎずを維持するのはそこそこに骨だった。
「では何故そんなことを? 自分の首を締めるような真似を、わざわざ? ――理解出来ませんか? 出来ませんよねぇ! ええ、そうでなくては困ります! だって――それが狙いなんですから!」
「……戯言を」
「ところがどっこい! なにせ僕たちがここから逃げるにはあなた方の度肝を抜く必要がある! 予定通りに屋上から跳んでいたらめでたく対空火器の餌食だ! ここに装甲車も戦車もないのがその証拠でしょう!」
敵は決して愚かじゃない。この選択肢の限られた状況では、僕らの考えなど簡単に見切られてしまう。
更にはここに来るまで散々見せた跳躍による包囲の回避。
僕たちが12時と同時に屋上から跳ぶことくらい、バレてない方があり得ない。
ではどうするか?
「部隊の侵入を許したのは、マンション内に残った僕の仲間を追い立てて貰うためです。クロハは論外、汐霧も継戦能力は高くない……30人もの軍人を前にアイツらに出来るのは逃走だけですからね」
僕は彼女たちを信頼している――正確には彼女たちの弱さを信頼している。
各個撃破に徹しようと、あの数の軍人は荷が重い。アイツらに防衛線の維持は不可能だ。
「重ねて疑問に思うでしょう。どうしてそんなことを? ――その答えは、アイツらの場所をはっきりさせたかったから。どこにいるか分かってないと、この方法を取るのは危な過ぎますからね」
「……何の話だ」
良作で駄目なら狂策――昔先生に教わった言葉だ。
包囲を抜け出せるような良作はない。
であるならば――狂策に全霊を尽くそうではないか。
僕はふわりと身を翻す。自然に、気負うことなく、軍人たちの存在など忘れたような動きで。敵に背中を丸ごと向けてやる。
背後から訝しむような空気が漂う。無防備そのものな状態だというのに、銃弾の一発も飛んでこない。
当然だろう。こんな姿を見せられて、罠だと思わない方がおかしい。
それは本当に真面目で頭の切れる正規軍の軍人らしく――だからこそお前たちは負けるのだ。
両腕に魔力を注ぎ込む。
「ッ、防御陣形! 多重結界の準備を――」
煌々と輝く純白に、背後の軍人たちが血相を変えて守りを固める気配が伝わってくる。
だがそんなものはどうでもいい。何故なら僕の狙いは連中ではなく――!
臨界を迎えた魔力が燦然と輝いた。
両腕の血管が膨張、連鎖して破裂する。
その痛みを笑って、僕は両腕を突き出し、呟いた。
さぁ、壊れろ。
「【ソウレンアーツ】」
二筋――名前通り、双連の極光が奔る。
マンションに突き刺さり、紙切れのように貫通する。
純白の光がマンションの一階と二階を呑み込み、何もかもを吹き飛ばして行く。
基幹部分が消し飛んだ建物がどうなるかなど、言うまでもない。
何かが歪み、折れ、壊れる音が連鎖して反響、加速度的に巨大になり。
ガラスが片端から割れ、瓦礫が降り注ぎ、高層マンションの威容が見る間に傾いでいく。
「狂ったか貴様ッ―――!?」
失礼な――そしてそれ以上に順当な言葉がどこかから叩きつけられる。
自分の仲間が籠城する場所に砲撃を叩き込み、あまつさえその城をぶっ壊したのだ。端から見れば狂行以外の何物でもない。
――そうだ。その通りだ。
生き抜くために狂気が必要というならいくらだって狂ってやろうじゃないか。
「だけどお前に言われる筋合いはないかな」
照射の終わった左手を後ろに回し、即座に【アーツ】を撃ち放つ。
必死に抑えられていた軍人たちの混乱は、その一撃でいよいよ決壊したらしい。崩落するマンションと僕、どちらを排除すればいいのか混乱する声と気配が次々と聴覚に届いてくる。
その間にもマンションの倒壊は進み、落下物が雨のように地面を打ち始める。
女大尉の部隊を集める声が響く中、僕は崩落するマンションからその姿を発見した。
屋上の柵の中でこちらを見下ろすクロハ。
中階層辺りの窓から飛び出した――驚くことに今まで戦い続けていたらしい――汐霧。
その二人に向けて、僕は声を張り上げた。
「汐霧、魔法の準備を! クロハは今すぐそこから飛び降りろッ!」
「「――!」」
二人が頷いた、その瞬間に僕は地面を全力で蹴り飛ばした。
まず汐霧を抱き留め、近くにあった瓦礫を蹴りつけて再加速。ほぼ同時に空中に身を躍らせたクロハを抱き留める。
一瞬の停滞。
自由落下の開始点。
汐霧を見る。
頷きが返ってくる。
体の向きを入れ替えて、頭を真下へと向ける。
……さあ、準備は整った。
良策で駄目なら狂策。
そして、包囲に対する狂策とは――
「――正面突破、ただ一つ!」