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東京パンドラアーツ  作者: 亜武北つづり
だけど死ぬのは私じゃない
83/171

高く上がれば落ちるだけ

◇◆◇◆◇



「……そうか。いや、気にするな。ああ、何か分かったら連絡を頼む。それじゃ」


 別れを告げて通話を切る。

 痛いほどの静寂が耳を突き刺してくる。思った以上に長時間の通信となったせいだろう、どうやら汐霧もクロハもとっくに寝ているらしい。


 ――通話の相手は梶浦だった。

 駄目元で軍の方で何か掴んでいないか確認してみたのだが、やはりというか収穫はゼロ。暗中模索の状態が続いているとのことだった。


 嘆息してベッドに倒れ込むと、目の端に壁掛け時計が映り込んだ。

 その短針は、日付が変わってから既に一時間も経っていることを無慈悲にも教えてくれる。


 ……そういえば最近は深夜零時消灯の我が家ルールが全然守れてないな。妹にバレたら怒られてしまいそうだ。

 今ある問題が片付いたら一週間くらい自主的に朝飯を抜こう。うん、そうしよう。


「…………」


 さて、脇道に逸れるのもこれくらいにしておいて。

 これからどうするか、少し本気で考えてみよう。


 まず前提として、敵の正体は掴めそうもない。教団の生き残りを把握し、そこからいろいろと割り出していくつもりが完璧にご破算だ。

 残りの日数で使えるような手段で、敵の正体まで辿れそうなものはない。そういうわけでこの方針はバツ、と。


 では何をするべきか。

 数少ない残り時間で出来ることといえば、四日後にクロハを攫われないための準備だろう。

 というより前向きなものがそれくらいしかないからな。


 だが、その準備にしたって取れる方針はそう多くない。

 一つは自軍の戦力の強化。敵の戦力は藍染の言葉から千――は流石にブラフだろうが、膨大な数であることは間違いない。

 翻ってこちらは僕と汐霧の二人だけ。双方共に質は悪くないものの、数においては大きく劣っている。


 加えて僕はコロニー内じゃパンドラアーツを解放出来ないし、汐霧は藍染が出てきたら30秒で殺される。自軍の強化は必須とも言えるだろう。

 ……が、問題はそれが可能かどうかなわけで。


 僕の事情を知っていて、クロハの事情を話しても問題ない程度に信頼が置け、その上で戦力になる――最低でも汐霧、梶浦程度の単独戦闘能力は欲しい――そんな人材。


「……はは、いるわけねぇー」


 パッと思いつくのはアリス達だが、曲がりなりにもアイツらは軍属の人間だ。正規軍に多数の内通者が潜んでいることを考えると頼りには出来ない。

 いないなら作り出せばいい――そんな悪魔じみた案が浮かぶが、それには氷室の協力が必要不可欠だ。

 前に会ったときの様子からして、恐らく今こちらから連絡しても間違いなく無視られる。アイツからの連絡を待つしかない。


 そうなるとあとは逃走手段の確保や連携の確認、緊急拠点の準備となるが……僕も汐霧も元々裏側の人間だ。常日頃からその辺りは心得ている。

 よって今更必要なことは特にない。貴重な時間を潰してまで行う必要性は皆無だ。


 ――だったら。


「よーし、パパ本気出しちゃうぞぉー」


 へらへらと呟いて、僕は瞳を閉じた。





 そうして翌日。


「……遥」

「なに汐霧。麻薬の禁断症状?」

「10年前に克服してます。いえ、あのですね」

「だったらなに? つわり?」

「無神論者なのでマリアになる気はないです。や、だからそうじゃなくて」

「欲求不満なら回れ右してホテルへGO」

「さっきから遥は私をなんだと思ってるんです!? というか一々遮らないでくださいわざとですよねコレぇ!」


 がーっと吠えたてた後、汐霧は頭痛でもしたのか額に手を当てた。


「……いえ、もういいです……それより今この状況の説明お願いします……」

「え、見りゃ分かるでしょ。というか今更?」

「分かりますし今更なのも承知してますけど、遥にも何か考えがあってのことだと思っ……思いたかったんですよ……!」

「過去形なのが気になるけど……まぁいいや。なんだかんだと聞かれたら教えてやるのが世の情けだからね!」

「……わー、テンション高ーい……」


 恨めしげに僕を見る汐霧に親指を立て、周囲をぐるりと見回す。

 辺り一面人の海。甘ったるい砂糖菓子の匂いに舞い上がる紙吹雪。色とりどりの風船がそこかしこで揺れている。

 踊るマスコットキャラクター、そびえ立つ中世風のお城、黄色い悲鳴、耳付きカチューシャを付けたクロハ。


 つまり、一言で言うと。


「――遊園地に来たぞォ!」

「いええええええええ!」

「なんでですか!? 諸々まとめてホントなんでですか!? あとクロハちゃんテンション高っ!?」


 汐霧が何やらぎゃーぎゃー騒いでいるが、遊園地テンションな今の僕とクロハは全く動じない。

 あははうふふと仲良く笑い合い、汐霧にもにっこりと微笑みかける。


「ひっ……は、遥が普通に笑ってる……!?」

「あっは酷いなぁ、でも許しちゃう! なにせここは遊園地だからね!」

「き、きもちわるい……!!」


 とても感情の込められた言葉だった。

 僕は興奮した。


 閑話休題。


「こほん。……えー、ここは『アメノウズメバンケットランド』。ウズメランドって呼ぶのが一般的みたいだね。この前開園したばかりで、最新技術が使われた数々のアトラクションが売りらしいよ」

「ご説明どうもありがとうございますどうでもいいです。私が聞きたいのはそういうことではなくて――」

「はは、分かってるよ。ちゃんと話すから心配しないで」


 元より汐霧には話すつもりだった。

 だがその前に、だ。

 僕はさっきからずっとそわそわしているクロハの肩を叩き、膝を折って視線を合わせる。


「クロハ、ちょっといい?」

「よくないわハルカ、早く移動しましょう。せっかくウズメに来てるんだから時間がもったいないわ」

「ああ、すぐ行くよ。でもその前にほら、あそこにお店あるだろ? お金渡すから僕たち分の耳を買ってきてくれないかな。どれにするかはお前のセンスに任せるから」

「すぐ買ってくるから待ってなさい」


 言うや否や、駈け出さんばかりの早歩きでお店へと向かって行くクロハ。

 その後ろ姿を見送ってから、僕は汐霧に視線を寄越す。


「さ、これで心置きなく嫌な話が出来る。話題はお前に任せるよ」

「……ではそのステキなお心遣いに感謝して、単刀直入に聞きます」


 汐霧は紅の瞳をすっと細め、言う。


「――クロハちゃんのこと、諦めるんですか?」

「……人聞きが悪いなぁ」


 その遠慮のない問いに、僕は思わず苦笑を浮かべてしまう。


「半分正解で半分間違い。クロハを諦めるつもりはないけど、これ以上は対策の立てようがないからね。出もしない解決策なんて考えてるくらいなら遊園地で遊ぶ方がよっばまで有意義でしょ?」

「それは……でも、それでも……」

「うん、お前がそう考えるのは間違いじゃないし、それだって一つの正解だよ」


 コンマ数パーセントでもクロハを守れる確率が上がるなら是が非でもそうするべきだ――そう考えるのは何もおかしなことではない。

 それだけクロハを想ってくれていることを密かに嬉しく思いつつ、僕は言葉を続ける。


「正直なところ、クロハを守り切れる勝率は概算して二割がいいところだ。このまま行けば恐らくクロハは攫われる。その先に待ち受けてるのが何かは分からないけど、きっとアイツにとって愉快なことじゃないだろうね」

「…………だったら」

「クロハはこれから高確率で嫌な……いや、地獄のような思いをすることになる。それなら、それが少しでも薄まるように残った時間を目一杯使って楽しい思いをさせてやりたい。そう考えたから、ここに来た」

「……要するに、思い出づくりですか」

「はは、言い得て妙だ」

「笑わないでください。気持ち悪い」


 言ったきり、汐霧は黙り込んでしまう。

 頭のいいコイツのことだ。僕が話すまでもなく、きっと分かっていたのだろう。同じようなことを昨夜からずっと考えて、葛藤していたのは想像に難くない。

 ……生き辛そうな奴だ。相変わらず。


 そうしてしばらくの間無言の時が続いたのち、ぽつりと汐霧が呟いた。


「……別に、責めてるわけじゃないんです。(なじ)ってるわけでも、怒ってるわけでも。ただ……」

「割り切れない?」

「はい。遥が、……私よりもずっと長い間クロハちゃんと過ごしてきた遥がちゃんと決断したのに、私は迷ってばかりで……情けないです」

「僕は迷わないだけだよ」

「え?」

「何でもない。……ああ、ところでこんな話がある。世の男性にはノーメイクの美人よりもナチュラルメイクのそこそこな美人の方がウケがいいらしいんだとさ」


 美しい者より美しくあろうとする者の方がよっぽど美しい。子どもでも分かるようなことだ。

 ……ああ、前にもこんなこと思ったな。

 今と同じようにコイツを見て、僕と比べて。


「遥……」

「っと、クロハが戻ってきた。辛気臭い話はここまでにしたい。いいよね?」

「……ええ、そうですね。せっかく高い入園料払って遊園地に来てるんです。しっかり元取ってやりましょう。楽しまなきゃ損です」

「はは、そうこなくちゃ」


 へらへら笑って、駆け寄ってくるクロハに合流するために足を前に出す。

 こうして末期患者が最期に家族と過ごすような、そんな四日間が始まった。





 そんなわけで。

 午前10時。


「お化け屋敷に来たぞォ!」

「ヒャッハァーーー!」

「……あの、今日一日そのテンションでいくんですか?」

「合いの手ありがとう。ッエーイ」

「っえーい」

「……いくんですね」


 …………


「いやァァァァァァァァァ!? 来ないでッ、来ないでェェェ!! そ、そうか金だな!? いいよいくら欲しい言い値で払ギャアアアアアアアアアアアア!!!」

「へぇ、随分リアルなのね。メイクと衣装であんなにも……流石は最新式、話題になるだけはあるわ。ふふっ、ふふふふっ」

「け、結構雰囲気ありますね……クロハちゃんはなんでそんなに、――っ!?」

『ヴォアァァァァァァァァァ!!!』

「まあゾンビさん。御機嫌よう」

「……ぶ、武器預けててよかったです。危うく撃っちゃうところでした……」

「もう、あなたの方がよほど怖いこと言ってる自覚を持ちなさいな。ああ、それとさっきの質問の答えだけど……ほら、あれ」

「? あっちに何か……」


「ヒィィィィィ!? アヒィィィィィィ!!! やめろこっち来るなあっちに行け違う偉そうな口きいてごめんなさいでしたァァァァァァァァァ!!! いやあああああああああああ!! セ、セツナッ、助けてセツナァーーーーー!!!」


「……………………うわぁ」

「自分よりパニックになってる人を見ると落ち着くものよ。……アレは流石にないけれど」

「ええ、よく分かりました。……アレは流石にないですが」

「ふふ。さ、いつまでもここにいても仕方ないわ。私たちは先に進みましょう」

「そうですね。あ、せっかくですし手を繋いでいきませんか?」

「私から言おうと思っていたところよ」

「ふふっ。ではお手を拝借しますね、フロイライン」

「ええ。それじゃ私を外までエスコートしてくださいな、可憐なナイト様」


『ふんぎゃあああああああああああ!! やめてえええええ見逃してええええええええ!! ひいぃぃぃぃぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 …………

 午前11時。


「メリーゴーランドに来たぞォ!」

「わああああああああああ!」

「……。じゃあ私外で見てますから」

「お前も来るんだよ!」

「ちくしょうッ!」


 …………


「ふふ、ユウヒったら。あんなに嫌がっていた割にとっても似合っているわよ?」

「だから嫌だったんですよ……!?」

「ところでクロハさんや。お前何で僕とお前で一つの馬に乗ってんの? 狭くない? ねぇ僕落ちそうなんだけど」

「あら、仕方ないでしょう? 身長制限に引っかかってしまったんだもの」

「いやお前屈んでたよなぁ……!?」

「今更どうしようもないことをうじうじ言わないの。ほらハルカ、もっとくっつかないと落ちちゃうわ? ほらほらっ」

「嫌だよお前固くて痛いんだもんプゲェッ!?」

「……あ、落ちた」


 …………

 正午。


「ミネラル」

「チキンピース」

「パンケーキ」

「……」「……」「……」

「……一時間後にここ集合で。じゃっ」

「いや一緒に食べればいいでしょう」

「というか(ミネラル)を昼食にカウントするんですか……?」


 …………

 午後1時30分。


「コーヒーカップに来たぞォ……」

「もう、だらしないわハルカ。辛いなら休んでいなさいな」

「……心配してくれてありがとうだけど原因お前のチキンだからな? お前が無理矢理食わせ(アーンし)たせいだからな? あと本当に心配してるなら手ぇ離せや」

「ま、まあまあ……コーヒーカップならそんなに辛くないと思いますし、休憩がてらゆったり楽しみましょう?」

「出たよ平和主義者」

「法律の犬ね」

「寿司屋でカッパ巻きばっか食べるタイプだ」

「涼しい顔でブラックコーヒーよ」

「ヒップホップも聞けよ」

「どうせ趣味は乗馬なんでしょう?」

「……えっ、なにこの流れ……」


 …………

 午後3時。


「ウォーターシュートに来たぞォ!」

「FOOOOOOOOOOO!」

「わぁ涼しい……やっぱり水場があると違うものですね」

「ところでお菓子持ってきたけど食べる? バナナケーキなんだけど」

「まぁ、美味しそう。もちろんいただくわ」

「おやつにはちょうどいい時間ですしね。私もいただきます」

「はは、よかったよかった。早起きして作ってきた甲斐があったよ」

「はいユウヒあげる。口開けなさい」

「私ダイエット中なのでクロハちゃんにあげます。はいあーん」

「バナナはゴリラの領分でしょう。貪り食べることを許してあげる」

「うふふゴリラは優しいので小さい子からお菓子を取り上げたりしないんですよ。ってか誰がゴリラですかコラ」

「素手で装甲車に穴開ける化け物をゴリラと言って何が悪いのかしらメスゴリラ」

「ツッコミ待ちですか? いいですよ入れてあげますよ踵で」

「……あの、何でそんなガチな空気になってるの?」


 …………

 午後4時30分。


「ジェットコースターに来たぞォ!」

「……」

「あれ、クロハちゃん合いの手は……」

「汐霧さんはいっ!!」

「え、わ、私ですか!?」

「……」「……」

「……う、あ……」

「……」「……」

「……や、やっほー……」

「……」「……」

「……オラあああああああ!!」

「顔はヤメロォッ!!?」

「……」


 …………


「いぃやっほぉおおおーーー!!」

「きゃああああああーーー!!」

「」


 …………


「いやぁ、楽しかった!」

「そうですね! スリル満点ですごかったです!」

「『どーせお遊びでしょ?』って感じで絶叫系とかアクション映画とか避け気味だったけど全然そんなことなかった!」

「魅せ方が巧いんですよね! 特に途中の連続三回転のところとかもう、もう!」

「分かる分かる! アレ最高だった!」

「また乗りたいですね!」

「……」「っと、クロハはお前本当にクールだねぇ。乗ってる時もずーっと静かだったし」

「あ……すみません、私ちょっと浮かれてたみたいで……あーもう、恥ずかしい……」

「はは、今更?」

「あ゛?」

「……」

「お、おおう……まあそれは置いといて。ここいらで一旦休憩にしよっか」

「あ、いいですね。私もちょっと座りたいです。クロハちゃんは大丈夫ですか?」

「……」

「おーい、クロハー?」

「聞こえてますかー?」

「……」


「」


 …………

 午後6時。


「観覧車に乗るぞォ!」

「……ぅぶっ」

「大丈夫ですか? 袋いりますか?」

「み、見せないで……それ見ると歯止めが効かなくなるから……」

「悪いこと言わないから一回吐いちゃいなって。処理に困るなら僕が飲んでやるから」

「すみません素直にドン引きです」

「は? 美味しいだろうがゲロ」

「んなわけねーですからこのゲロ」

「いいからゲロゲロ連呼しないで頂戴……!」


 …………


「おお高い。夕陽が綺麗だことで」

「ハルカ、口説かないの」

「遥のことは尊敬してますけど異性としては正直クソとしか言いようがないですソーリー」

「あら正論」

「おい」

「慎重かつ総合的な選考を重ねた結果、誠に遺憾ながら今回の採用は見送らせて頂くことになりました。儚廻様の今後一層のご活躍をお祈り申し上げます」

「お祈りメールね。残念でもないし当然だわ」

「ねえ知ってる? 笑えない冗談って一種の暴力なんだよ」

「「あっはっは」」

「謝るから僕の真似だけはやめて……!?」


 …………

 午後7時30分。


「パレードを見るぞォ!」

「ウィィ! ウィィィィィィ!」

「ふふ、場所取れてよかったですね!」

「その場合は二人まとめて肩車する気だったから何の心配もいらないよ!」

「それはマジでごめんこうむりますがパレードに免じて許してあげます!」

「ハルカ見なさい、あれ、あれ! 猫がネズミを踊りながら食べているわ!」

「踊り食いですね! かっこいいです! あはは!」

「汐霧が今いいこと言った! ご褒美に持ち上げてあげようそーれ高い高ーい!!」

「あはは! やめてください! ブッ飛ばしますよ! あはは!」

「あ、あ、ハルカ、それずるいわ! 私にも同じのやりなさい! 私にも!」

「ヨッシャオラァ!」

「わ、高い高い! 高いわユウヒ、人がゴミみたい!」

「クロハちゃん、私の上にどうぞ! 三段タワーですよ三段タワー! 遥いけますね!?」

「ダッシャオラァ!」

「高い高い高い怖い! でも高いわあはははははははは!!」

「高いと楽しいですよねあはははははははははは!!」

「みんなめっちゃ馬鹿だからねあははははははははははは!!」


 …………

 午後9時。


「花火を見よーう……」

「わー……」

「きゃー……」

「なんだお前らもうおねむぅ……? だらしないなぁ」

「そういう遥も……心なしへろへろよ……」

「疲れましたぁ……疲労感がすごいですー……」

「はは、一日中騒ぎっぱなしだったしねえ。まあこれ見たら帰りなんだし、最後の力を振り絞ろうぜー?」

「あ゛ー……」

「ヴー……」

「おおう、口からいろいろ抜け出てやがる……っと」


「……おお」

「わあ……」

「綺麗……」


 …………


「うーし、それじゃ帰ろうか」

「……ハルカ、背中貸して……」

「あいよ……っこらせ。あ、汐霧はどうする?」

「冗談を言わないでください。ちゃんと自分の足で歩きますよ。なんならクロハちゃんおぶるの代わりましょうか?」

「いいよ、せっかく普段ニートさせてる身体能力の使い所なんだから。それより明日はどうする?」

「……」

「……」

「……」

「……とりあえず、お昼までゆっくりしましょうか」

「「さんせーい」」





 こうして四日間、このような楽しく和気藹々とした日々が続いた。

 僕たちと致命的に縁がなかった娯楽施設の数々は、そのどれもが素晴らしいものばかりであり、時間は飛ぶように過ぎていった。


 特に今まで家から出られなかったクロハなどは何度も「また来たいわね」と繰り返し、その度に汐霧が「はい、また来ましょう」と柔らかく応えていた。

 そんなびっくりするほど暖かな日々が――あったのだ。間違いなく。


 だからこそ――まるでその価値を証明するためかのように、終わりは訪れる。


 6月21日。

 藍染と交わした契約の終了が、すぐそこまで迫っていた。

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