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東京パンドラアーツ  作者: 亜武北つづり
だけど死ぬのは私じゃない
74/171

お前が打者で、僕は打球で

戦闘描写とかこの世からなくなればいいのに。そう願って止みません

「―――……」


 状況はすぐに把握出来た。

 どうやら開始直後の一歩で地雷(・・)を踏み抜いたらしい。

 この第四演習場は軍が撤退間際に地雷をばら撒いたアウターの一画を模していること、すっかり忘れていた。


 地雷と言ってもここは演習場だ、もちろん本物ではない。

 殺傷力のない圧縮空気型(エアボム)だ。その分衝撃は凄まじく、かなり吹っ飛ばされるので心底ビビるが、ダメージ自体はほとんどない。せいぜい足がへし折れる程度だ。


 ……それにしたってまさか一歩目で当たりを引くとは。

 今日も今日とて運が悪いのは相変わらず、と。


 空中で体に制動をかけ、体勢を立て直す。

 不幸中の幸いか、足は無事だ。過去に刷り込まれた教育の賜物といったところだろうか――。


「さて」


 状況確認は終了。対敵行動に移行する。

 一番近いのはホタルだ。背の小太刀を二本とも抜刀し、僕の落下予測地点へと疾駆している。

 地雷を躱しながら走る様は、シグレに鍛えられているだけあり、驚くほど疾い。


 それとほとんど同時に、アイ。ホタル同様に駆けるその手に携えているのは銃身切り詰め型(ソードオフ)のショットガン。

 見た限り魔導銃ではなさそうだが、脅威であることに変わりはない。


 アイはホタルと違い、放たれた矢のように直線的な動きで地雷原を駆けている。

 山ほど埋まっているはずの地雷は、奇妙なことに一つとして爆発しない。よほど運が良いのか、それとも。


 最後、コノエは最初にいた場所から動いていなかった。

 前を走る二人のバックアップだろうか、大型の拳銃を抜くだけでこちらを静観している。


 さて、さて、さて。


 この身動きが取れない状態で、二秒後到達する後輩二人をどう相手したものか。

 落下しながら一秒ほどたっぷりと考えて、結論に至る。


「……あれ、詰んだ?」


 そう呟いたとほぼ同時、腹を両断する軌道で小太刀が振るわれた。一瞬後に響くショットガンの撃発音、面で迫る鉛玉。

 敢えて小さな的である顔を狙ったのは、ホタルを巻き込まないようにするためか。


 ――未だ空中に在る身、回避防御共に不可能。

 ――斬撃到達は約二秒後、その半秒後に銃撃到達。

 ――可動部位、右腕と左腕のみ。


 で、あるならば。


「野球しようぜ後輩ッ――僕ボールな!!」


 目をカッ開いて笑い、今まさに僕を両断せんとする刀身を見据える。

 瞬間、空気が泥になったかのように世界から速度が抜け落ちた。


 超過集中による神経の異常駆動。1を100まで引き伸ばし、危機を脱するだけの時間を強引に作り出す。

 全てがスーパースローと化した中で、迫る刀身に対し、僕は、両手で迎え撃ち――


 ――そして、世界が元に戻る。


「――っ!?」


 漏れる驚愕。その主たるホタルの表情をたっぷりと堪能し、僕は笑う。

 小太刀は腹から数センチ先で止まっていた。その原因は刀身をガッシリと挟み込んでいる僕の両手。


 真剣白刃取り。

 元は酔っ払いが宴会で決まって振り下ろしてくる酒瓶を防ぐために習得した技だったが、先生の訓練により本物の刀剣相手にも立派に通用する技術となっている。


 景色が急激に流れる。踏ん張りようのない空中だ、斬撃は防げてもその勢いまでは殺さない。

 結果、僕の体は刀身に振り回されるように吹き飛ばされて――紙一重、ショットガンによる面射撃を回避することに成功する。


「よっ、と!」


 ホタルに反応される前に刀身から手を離し、慣性に乗って着地。その瞬間、またもや踏み抜いたらしい地雷が起爆した。

 丁度いいので一瞬刹那爆風と同速まで加速し、衝撃に乗って後輩共から大きく距離を取る。


 ……何とか上手くいったか。

 だが、こんな曲芸じみた回避が通用するのはこれっきりだ。次はもうない。

 そんな内心をへらへら笑って覆い隠し、代わりに言ってやる。


「ファーストライナー。はい、ワンナウト~」

「……ッ!」


 ふざけたのがよほど気に障ったのか、憤怒の表情となったホタルが弾丸のように飛び出した。

 身体強化の魔法でも使ったのか、先ほどより更に速い。30メートルはあった距離をたったの二歩で踏み潰す。


 魔法を使えない僕は、そんな彼女の動きに対応することが出来ない。

 怒りを狙った煽りは完全に裏目だったらしく、構える暇もないまま肉薄を許してしまう。


「【剣戟(けんげき)朱染無尽(あけぞめむじん)】」


 魔法名の唱句。彼女が両手に握る小太刀、その二つの刀身に朱色の輝きが灯り、翻る。

 剣戟という魔法名から、恐らく軍で使われている属性付与魔法の一種。

 梶浦の紫電のように分かりやすい見た目ではないが、当たってはならないことに変わりはない。


 そう、分かっていた。

 分かっていて、躱せなかった。単純、ホタルの方がずっと早かったからだ。


「くっ……!」


 捌き損ねた斬撃が身体中をくまなく巡り、刻み、削いでいく。

 速い、速い、速い。学院生なんて目じゃない。プロでもそうないような速度の剣戟、まるで軍用ライフルのフルバーストを相手にしているようだ。

 その上ただの斬撃だけでなく、飛距離のある斬撃――漫画などでよく見る、いわゆる斬撃波まで混ぜてくるのだから、本当にタチが悪い。


「ぐ、うぅッ!」


 ――直撃していれば、とっくにサイコロステーキなっていただろう。

 たった一息の間に、それくらいの斬撃を放たれた。全身から滴る血がその証だ。

 だが……何とか捌き切った。とりあえず距離を取り、体勢を――


「……焼けろ」


 そうホタルが呟いた瞬間、斬撃によって生まれた全身の傷が朱色の光を灯す。

 それらは炎のように揺らめいて――そして、一斉に燃え上がった(・・・・・・・・・)


「がっ……ぁああぁあああぁあああああああ!!?!?」


 叫ぶ、叫ぶ、堪らず叫ぶ。

 這い回る焦熱、人体の焼ける匂い、体を内側から焼かれる信じられないほどの痛み、痛み、痛み、痛み。

 頬が、肩が、胸が、腹が、腕が、足が焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける。

 思考が、理性が、意思が、正気が焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける。


「……―――」


 そうして、焼けに焼けて爛れた果てで。

 僕へと振り下ろされる鈍色の何かが、見えた気がした。



◇◆◇◆◇



「……【コードリボルバ】っ!」


 髪飾りを加速器に変える。

 剣舞に全身を斬られ、炎によって焼かれた。傷だらけ、隙だらけのその体に今、トドメの一閃が振り下ろされようとしている。


 まさに絶体絶命。今割って入らなければ遥が殺されてしまう。

 故に憂姫は駆け出そうとして――肩をがっしりと掴まれ、止められた。


「だめだよ、だぁめ。もう、ここからがいいところでしょ?」

「……ッ!」


 にこにこと笑うアリス。全力で振り払おうとするが、出来ない。

 どころか肩にかかる圧力は更に増し、骨がみしみしと嫌な音を立て始める。


「うーん……弱くはない……B上位かA下位くらい? うん、でもやっぱりA下位かなぁ。あ、ねえねえどう? 当たってる?」

「……離してください」

「だからだめだって。それにもう遅いよ? ほら」


 アリスが指す方を見ればその通り、ホタルの刀は既に振り下ろされていた。

 よほど力を込めたのか、半ば地面に埋まって停止する刀身。


「……ピッチャーゴロ。はは、ツーアウトだ」


 ――その紙一重の距離で、へらへらと笑う遥の姿。


「……え」


 その声は自分とホタルのどちらの言葉だったのか。


「あはは、ホタルもアホだねぇ。素直に爆発でもさせとけばまだダメージになったのに。あんなんじゃノーダメだよノーダメ」


 楽しそうに言うアリスの言葉通り、遥の立ち姿は負傷した者のそれではなかった。体幹も重心もブレておらず、傷を庇う様子もない。

 へらへら、へらへらと笑い、驚愕する少女を嗤っている。


「そう驚くことでもないでしょ? ホタルの魔法は傷つけた場所を焼くんだから、そもそもの傷が浅ければ大したダメージにはならないもの。ハルカ、出血は派手だけどちゃんと全部捌いてたもんね」

「……だからって痛みまで軽くなるわけじゃないです。体を内側から焼かれる痛みは、決して無視できるようなものじゃありません」

「おっ、意外と分かるクチ? えーっと……ユウヒちゃん、だっけ? もしかして拷問非処女かな? かなかな?」

「……まあ、そんなところです」


 察するに、ホタルの使った魔法は斬った場所に高熱を発生させ、人体を内側から焼くというもの。

 それだけ聞けば、確かに傷が浅ければ運動に支障は出ないかもしれない。


 だが、体を焼かれる痛みというのは想像を絶するものだ。神経という神経が悲鳴を上げ、まともな認識能力など塵ほども残らない。憂姫自身、暗殺者時代の訓練で嫌という程経験したから分かる。

 当然、音速で振り下ろされる刀剣など反応すら望めない。間違いなくそのはずなのだ。


 そのはずなのに、遥は今もホタルの斬撃を軽々と躱し続けている。


「あは、そんな難しく考える話じゃないよ? ハルカがとっても痛みに強くて慣れてるってだけだもん。ハルカが【ムラクモ】にいた頃なんて体焼かれるくらいもう日課だったんだから」

「……他人事みたいに言ってるけれど、一番やっていたのはあなたとあの人でしょう」

「あっははー、まぁねー。なにおチビちゃん、ハルカから聞いた……」


 そこで、それまでずっと笑みを絶やさなかったアリスの顔が崩れた。

 訝しむような表情は次第に驚きに変わり、そして再び満面の笑みへと変わっていく。


「……クー公? ねぇ、もしかしなくてもクー公でしょ! へえ、なんだ生きてたんだ! ふふっ、わぁ、すっごい久しぶりだねぇー」

「勝手に殺さないでちょうだい。けれど……そうね。久しぶり、アリス」

「や、ごめんごめん。だってあの任務以来すっかり見なくなっちゃったからさぁ。てっきりハルカ辺りが殺したのかなーって」

「ふんっ……」


 不満げに鼻を鳴らすクロハ。それがある意味では図星であることを、彼女はよく知っている。

 クロハは視線を上げ、きろりとアリスを睨んだ。


「私は全部覚えているわ。あなたが、あの人が、ハルカを毎日嬲っていたことも、あなた達がそれを心底から愉しんでいたことも、何もかも。――忘れたなんて絶対に言わせない」

「まっさかぁ。あーんな楽しいこと忘れるわけないじゃん。あははっ、クー公は相変わらずハルカ好き好きだにゃー?」

「当たり前ね。あなたみたいなビッチと違って私は一途なのだもの。いい加減、」

「あ、ストップ。私クー公のこととか超どーでもいいからそれ以上話さなくていいよ? そんなのよりさ、ほら」


 そう言い、アリスは演習場の方向を指差す。

 そこには遥と、距離を取って彼を囲む新人三人の姿があった。


「――動くよ(・・・)



◇◆◇◆◇



「はぁあッ!!」


 場の硬直を最初に打ち破ったのはホタルだった。

 鋏のように薙がれる二刀。狙いは当然のように首。空気摩擦で半ば赤熱している刀身は、装甲板だろうと容易く刻む。


 間一髪、体を沈めて回避――した瞬間、足元の木の葉が偶然(・・)僕の両目を覆うように巻き上がる。刹那、ゼロになる視界。

 ――まただ。

 ぞくりと首筋を刺す悪寒に従い、バク転を切る。直後、僕のいた空間を無数のスローイングダガーが貫いていった。


 それが誰によるものかを確認する暇もなく、ホタルの振り下ろしを跳び上がって避ける。

 空中で無防備を晒す僕に殺到する斬撃波、銃弾、ナイフ。回避する余地はなく、この場で全て叩き落とすしかない。構えを取り、真正面から迎え撃つ。


 しかし、攻撃が届くその寸前で僕らの間を風が吹き荒れた。

 結果、不幸にも(・・・・)攻撃は予測軌道をことごとく外し、防御を掻い潜っていく。


「あぁもう……!」


 四肢を全力駆動。斬撃波を手刀で崩し、ナイフを蹴りで幾つか弾く。その応力で僅かに方向転換、銃弾の大半から何とか逃げ延びる。


 だが、そんな綱渡りじみた回避が完全なわけもなく――。


「っ……」


 地上に降り立つと同時、ビチャッという音と共に足元の草が赤く濡れる。

 原因は脇腹と左足。回避が間に合わなかった分の銃弾が抉っていったその場所からは、止め処なく赤い滴が垂れ落ちている。


 しかも運の悪いことに(・・・・・・・)、銃弾は貫通せずに体内に残っている。そのせいで体内の異物感が凄まじい。

 だからと言って再生の使えない今では無理矢理摘出することも敵わない。異物感にも激痛にも耐えるしかないのだ。


「……満塁、フルカウント。そんなところかな」


 へらへら笑ってやると、返ってくるのは二つ分の失望の視線。

 こちらを冷たく見据え、まずホタルが口を開く。


「……手抜きの私相手に防戦一方。防御も回避もほとんど運頼み。痛みには耐性があるみたいだけど、それだけ。……拍子抜け。弱すぎる」

「は、言ってくれるなぁ。平和主義者なんだぞ僕ぁ」

「黙れ雑魚。……アイ、やっぱり言った通りでしょ?」

「……そうだね。いつもみたいにリーダーが話盛ってただけだったのかな。読み違えたのはちょっと恥ずかしいけど……こんな糞雑魚に憧れ続ける恥よりは万倍マシだよ」


 前にコノエが話していた、アリスが現メンバーに僕の話をしているという件か。

 ……本当に余計なことしかしねえな、あのクソ女。


「“ハルカ”。【死線】を始め歴代最強と名高い第八期メンバーに師事し、第二次東京会戦のムラクモ壱班の唯一の生き残り。魔法を使えない身でありながらリーダー達に一目置かれる戦闘力を有する。……本当に憧れてたのに、蓋を開けたらちょっと痛みに強いだけの雑魚なんてね」

「だから何回も言ったのに。そんなのいるわけないって」

「あはは、憧れるくらい許してよ。それに、こうして見たくもない現実見ちゃったんだからさ……よいしょっ、と」


 ガショッ、とポップアップするショットガン。

 その銃口越しに伝わる殺気に、それが今までのような手抜きの構えでないことはすぐに分かった。


「降参なんて許しません。ハルカ先輩、あなたはここで殺します。一時でもあなたなんかに憧れた馬鹿なアイと一緒に」

「……阿呆言うね。僕のことを勝手に持ち上げてたのはお前のおめでたい脳味噌だろうに」

「……口だけは一丁前なんですね」

「数少ない個性だからねえ」


 薄く笑い、くつくつと体を揺らす。

 ああ、ああ。事ここに至って、こうして少しだけ喋ってみて、ようやくコイツらが僕との戦闘を望んだ理由が分かって来た。


 要するに、コイツは“ハルカ”の――歪められた事実ででっち上げられたハリボテの英雄に憧れたのだ。

 それは例えば、【死線】に憧れたどこぞの中佐や、どうしようもないクズを善人だと信じてしまうどこぞの少女のように。


 こんなどうしようもない世の中だからこそ、彼は英雄に夢を見た。その英雄が自分のすぐ近くにいると知り、確かめずにはいられなかった。最初に感じた好意は、恐らくそんなところに由来するものだろう。

 反対に、ホタルが向けてきた敵意はそんな偶像への反感だ。【ムラクモ】に属していたくせに英雄扱いなどふざけるな、冗談じゃない、気に入らない――そんな単純な敵意が、アイの憧れと相乗して膨れ上がった。


 そして今、英雄などどこにもいなかったという現実を知り、そんな普通のことも見えていなかった自分への羞恥と失望を、僕へとぶつけようとしている。


 ……さて、そろそろこれら考察の結論に移ろう。

 思考の渦から顔を上げ、僕は溜息を吐いた。


「空振り三振、スリーアウト。チェンジだ」


 次の瞬間、先ほどまでの三倍以上の鉛玉と、数と鋭さを倍に増した斬撃波が撃ち込まれた。

 僕は目を閉じて、それらを迎え入れる。


 土煙と衝撃波が、キノコ雲のように演習場に巻き上がった。



 ホタルは残心を保ちながら、もうもうと立ち上がる土煙を眺めていた。

 ――結局、何をするわけでもなくただ突っ立っていただけ。手向けとはいえ一瞬でも本気を出した自分が恥ずかしくなるような相手だった。


 彼女の持論として『名刀は斬るものを選ぶ』という言葉がある。

 アリスの話はほとんど信じていなかったが、それでも歴代最強の第八期【ムラクモ】に最年少で属していた相手だ。かなりの実力者であることは間違いないと、そう思っていた。


 それが、この結果。

 達成感も何もない、虚無感ばかりが湧き立つような勝利。

 本気や奥の手はおろか、魔法すらほとんどほとんど使わずに終わってしまった。


「…………はぁ」


 未熟な自分への羞恥を溜息に込め、両手の小太刀を収刀。あとでリーダーには苦言を呈しておこう、そう思いながら振り返る。

 ギャラリーであるアリスとシグレ、雑魚の連れの魔導師と幼女。それより自分に近い場所に立っているコノエ。ああ、そういえば彼もいたのだったか。


 戦闘に一切参加せず、またその必要もなかったためすっかり失念していた。聡明な彼のことだ。もしかするとこの結果が分かっていたのかもしれない。

 だとすれば文句の一つでも言っておこう。そう心に決め、歩き出そうとしたとき――微笑を浮かべたコノエが、チョイチョイと自分の後ろを指差した。


「?」

「何が――」


 ホタル、そして同様に歩き出そうとしていたアイは疑問符を浮かべながら足を止め、背後を振り返る。

 うっすらと見通せる程度に晴れた土煙、最後の攻撃により多数の弾痕、斬撃痕の残った地面。そして血肉をブチ撒けて転がる男の死体――


 ――では、なく。


「「―――――!!?」」


 そこにあったのは、半身を力なくだらりと垂らした男の姿。

 沈黙し、微動だにしないその姿に、二人は何か途轍もない異様さを感じ取った。


「……………………」


 男は上体を垂らしたまま、緩慢に顔を上げていく。

 蛇が鎌首をもたげるようにゆっくり、ゆっくりと。


 隙だらけ――しかし、何故か二人は動けない。敵の生存が分かったなら、一も二もなく先制を叩き込むべきなのに。

 蛇に睨まれた蛙のように、怪物に遭遇した人間のように、動けない。


「……―――」


 そして、永遠にも感じられた時間の果てに、男の顔が遂に正面を向いた。


 その場の全員が見守る中、遥は閉じていた瞳を、ゆっくりと見開いて――


「 あ は っ !」


 ――醜悪に、笑んだ。

次話はこの三つのうちどれかになります


①ホタルとアイの連携によってクズ消滅。世界は平和になりました


②ドラム缶の決死の説得により和解。今度お茶でもどうですか?


③未来ある少年少女、トラウマを得たり


良ければ予想してみてください



次話「少女よ、これが絶望だ」

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