鬼さんこちら
更新遅くて申し訳ございません。
感想評価など本当に励みとなっております、はい。
「実はワタシ、お兄さんみたいな若い人は初めてなんだよねぇ。どんな悲鳴を上げるのか、考えてるだけでゾクゾクする」
言葉とともに、少女がチェーンソーのリコイルスターターを引っ張り上げた。けたたましいエンジン音が鳴り響き、聴覚より頭痛が生じる。
頭に手を当て堪えながら、僕は現状について考える。
――何となく殺気を感じたので跳んでみたら、空から幼女が降って来た。
――その幼女曰く自分は巷で噂の殺人鬼で、次のターゲットは僕だと言う。
……僕が何したってんだカミサマ。
そんな不毛な感想は、取り敢えず置いといて。
差し当たって、僕はまず笑うことにした。
「……あー、はは。えっと、自称殺人鬼ちゃん? 二、三個質問したいんだけど」
「んー。じゃあ三つまでならいいよ」
「ありがとう。早速一つ目。巷で噂の殺人鬼、っていうのは最近の魔導師殺害事件の犯人って解釈で大丈夫?」
即ち、この少女が藤城の話に出てきた犯人なのかどうか。
まぁ同じ期間に連続殺人犯が何人も出るとは考え難いから、まず間違いないだろうが。
果たして少女は、あっさりと肯定した。
「そうだけど。それが?」
「なら続けて二つ目。そんなお強い犯人サマが、何で僕なんかを狙うんだ? ターゲットはプロの魔導師ばかりって聞いたけど」
「は、それ誤解だよ。ワタシは魔力をいっぱい持ってる人を襲ってるだけ。お兄さん狙ったのもそれが理由」
「魔力……?」
想定以上に馬鹿げた話に、思わず間の抜けた声が漏れた。コイツは今なんて言った?
一般的に人の体内にある魔力は、人間の感覚神経では感知出来ないとされている。
簡単に言うなら、体内の血液を目視出来る人間がいないのと同じだ。
よって個人の魔力量を測るには、専用の設備で測定するしかないのだが……他の魔導師ならいざ知らず、僕はここ数年間そんなものを利用した覚えはない。
……ハッタリか?
普通に考えればそれしかない。というか、それ以外の可能性はあまり考えたくない。
僕はへらへらと笑い、口を開く。
「……はは、そりゃまた光栄。でも僕ただの学生だよ? そんな魔力があるわけないって」
「あっそ。隠そうとするなら好きにすれば? どのみちワタシには分かるから関係ないし」
……嘘は言っていない、か。
これがどういうことかは――また後で考えるとして。
「じゃあ最後だ。お前みたいなちんちくりんが僕に勝てるって、本気で思ってる? 成長して性徴するまで家から出てくるなクソガキ」
「あはっ、ワタシに殺されたオジサンたちと同じよーなこと言ってる。流石は魔導師、つまんないねお兄さん。うん、つまんないから――」
苦しめて、殺しちゃおうか。
――その呟きは、すぐ目の前から聞こえた。
「……は」
「じゃ、さよならバイバイ」
首目掛けて剛速で振るわれるチェーンソー。僕は必死に上体を反らす。
空振った斬撃が路地の壁に長い長い傷痕を刻みつけた。
「あっぶ――」
瞬間、猛烈に嫌な予感が股間に走る。
僕は自身の身体能力を全力で活用し、一秒足らずで体勢を立て直す、と。
直後、おぞましい勢いの蹴り上げが、股間目掛けて放たれた。
「――なあああああ!!?」
絶叫。
圧倒的な股間の危機に両手が全速で駆動。振り上げられる膝を抑え、急所を守る。
ドンッ! というえげつない衝撃に、僕の総身が宙に浮いた。
「っこのクソ幼女! そこ狙うのはダメって暗黙のごぶぅっ!?」
僕の抗議お構いなしに放たれる拳打。打ち抜かれる顎。
意識が明滅する中、凄まじい威力そのままに吹き飛ばされた僕は、ゴミだらけの路地をゴロゴロと転がる。
やがて大の字に仰臥した体勢で停止すると、僕はそのまま動かなくなった。
少女はこちらにゆっくりと近付きながら、言う。
「……へえ、生きてるんだ? やるねお兄さん。顎ごと脳みそ砕いたつもりだったんだけど」
「…………」
「死んだフリしても無駄だよ。言ったでしょ? ワタシはお兄さんの魔力が見えてるって。時間の無駄だし、三秒以内に起きないとそのまま殺すから」
「…………は、ガキはガキらしく馬鹿正直に引っ掛かれよ」
ふらつく体を起こし、舌打ち混じりの毒を吐く。
少女は警戒しているのか、ある程度距離を空けた位置で立ち止まっていた。
とは言っても先ほどの動きを見る限り、魔法なしでも一投足で詰められる距離と考えるべきだろう。
――そう。コイツはさっきの挙動において、一切の魔法を使っていなかった。
アレはただの身体能力。しかし実際に発揮された瞬発力、膂力はどちらも異常と言っていい強さだった。なにせ、僕の動体視力を以ってしても視認出来なかったのだから。
身体能力、魔力感知の真偽、魔導師を襲い、殺そうとする動機。
……分からないことだらけだ。というかいろいろと展開が急過ぎて頭が付いて行ってくれない。
ひとまず、分かったことだけでも言っておくとしよう。
「……お前、本当に人殺しだったんだね。噂の事件の犯人かはまだ分からないけど……はは、ヤバイ人間ってことは分かった」
「……は? 何言ってんのお兄さん。さっきワタシそう言ったじゃんか。そ痴呆?」
「似てるけど違うかな。ただ単に自分が見たもの、感じたものしか信じないようにしてるだけ。ほら、言葉ってとっても薄っぺらいでしょう?」
一度でも嘘を吐いた者は、全ての言葉に対して多かれ少なかれ裏を探してしまう。
例えどんなに相手が誠実だろうと、自分の汚さを相手に見ようとし、安心しようとしてしまうのだ。
汚泥じみた戯れ言を、自称殺人鬼の少女は興味なさげに聞き流す。
「あそ。どーでもいいよ」
「はは。残念」
「――で? 事実の再確認も済んだところで、お兄さんはどうするつもり? 逃げる? ワタシを殺す?」
言って、少女はチェーンソーを構え直す。
自分で口にしておきながら、その二つを許すつもりは全くないようだった。
「生憎だけど、『人とは生かして活かすもの』ってのが先生の教えでね。殺す気はないよ」
「へぇ。ステキな教えだね」
「はは、だろ? だから――」
だから僕は逃げる。
制服の上着を脱ぎ、少女目掛けて投げつける。
風邪を孕んだ制服が広がり視界を遮る中、僕はくるりと翻る。
方向転換完了。
よーし逃げるぞ。
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