前奏曲
これは、ぼくらの戦争歌。
「抗って見せよ」
と、遥か遠くで無責任な神は嘲笑った。
【妖怪】――人の理解を超えた不思議な現象や不気味な物体
古来から人と、妖怪と呼ばれる人外の生命は、居場所や同胞の為多くの血を流し戦ってきた。
人を殺す妖怪もいれば人を愛す妖怪も居、また妖怪を憎む人も居れば妖怪を愛す人も居た。
そうして幾度も刃を交えながら歴史を歩んできた世界は。
人の荒廃により、均衡が保てずに破綻しかけた。
妖怪は今までの鬱憤と憎しみを晴らすため人を殺し、縄張り争いの為戦を起こし、人は人同士の戦を何度も重ね、荒れ果て、そして妖怪とでさえも剣を交えるようになった。
これはありきたりな悲劇で始まり、ありきたりな惨劇で終わる、ありきたりな者騙り。
舞台は日本、東京区切国町。
妖怪を取り締まる人間・正義課。
人の世を造り替えようとする組織・鴉。
人を憎み妖怪の世を作ろうとする組織・コンビクト・サーカス。
人の世に溶け込み愉快に生きるネット上の集団・フルムーン。
そして、人との共存を望むヴィツィオ書房店。
この六つの組織が、積み重なった火種を切欠に、ぶつかり合い、繋がりあい、切り捨てあっていく。
『僕バカだから、人の愛し方がわからないんだ』
『幸せやった。―――幸せやったよ』
歌が必ず終わるように、この物語には当たり前のように終焉がある。
『自分は弱いから嫌いです』
『時の為なら死んでもいい』
足並み合わせて、描かれたシナリオ通りに目指すは“トルゥーエンド”がかかれた最後の楽譜。
『仲間は大切になさい、敵は消しなさい』
『だから、……返します。ぜんぶ、あなたに、…』
胸に潜めた各々の誓。
『すべてをやり直そう。そうして、私たちが笑える世になるよう、願うんだ』
『主が滅べと命ずるなら、我は』
歪みは消えない。
『君の心は強くなったね』
『逃げるが勝ち、にゃんだから』
届かないのに歌う恋歌。
『お前は俺が守る』
『あかねさんが妖怪でも幽霊でもなんでも、自分はそれ事愛します』
『報われないだなんて簡単に言わないでよっ……!』
『……愛してとは言わないよ。ただ、最期の我儘ね。君の腕の中で、逝かせて』
過去に囚われたまま溺れる心。
『君に会えるなら、この命すら惜しくなんてないのに』
『お前があの時の鬼なのか?!答えろ!!』
どこかでかけ間違えたボタン。
『ねえ、楽しかったよ、大蛇。ありがとう、どうしようもない僕のそばにいてくれて。―――嗚呼、終われる』
『なあ優太朗。お前は、幸せに死ねたか…?』
『アレ、なんで、あたし……泣いてるんだろう』
垣間見える仄暗い過去。
『忘れてしまえと願った。でも、忘れてほしくなかった。ねえ、ぼくは何とも複雑な感情を持ってしまったようだよ。きみに忘れられるのが、怖いんだ』
『”ひと”っていうのはね、感情があって自分の意思で行動する存在をいうんだ。だから零は人じゃないから』
『了解』
終わりを求める命達。
『知ってたよ?あなたが、お兄ちゃんじゃないことくらい』
『このクソだらけの人生も漸く終わる』
『唄う、晴れやかにで、うたはるだよっ……』
歩む道を違った過去の親友。
『どうしてお前は、そっち側にいるんだよッ……!俺の道、正してくれよ!』
『俺、お前と酒飲みたかったなぁ』
闇に気づかず笑う人間たち。
『ひとも、妖怪も、やってることは結局いっしょなんだよ。』
『妖怪も人間も本当はみんな優しいんだよ』
『例えアイツらが妖怪だろうと、オレは関係ねェよ。ただの知り合いで、ダチッつーだけさァ』
笑え、
『…そっちよりこっちのが面倒がなくて済む』
嗤え、
『相棒だから。…キミを救いに来たんだよ』
『あなたは私みたいになっちゃだめ、人の為に生きなさい』
『人の涙にゃ弱いんだ。オジサン見てると辛くなっちゃうぜ』
哂え、
『自由は、怖いの』
『頭がいい奴は大嫌いだよー』
『人間と妖怪なんて、どこが違うっていうんだよ』
『いつか来る終わりが今日だった、それだけのこと』
最後に屍の上でラストワルツを踊るは誰か。
さあさあ皆様お手を拝借。
これより幕が上がるは、
面妖で、
最弱で、
不幸で、
絶望で、
理不尽で、
奇怪で、
愉快で、
惨劇で幕を閉じる、世にもありふれた歌劇で御座います。
どうぞ、御静聴願います。