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第19話:王女帰国(2)

 アルベルティーナ王女がカルデイ帝都ダエンを出発しベルヴァースに帰国する日が来た。


「良かったらまたいらっしゃい」

 エリーカと親しくなったカルデイの侍女が、エリーカに声をかけているのを見つけた王女はとたんにその侍女を

「二度と来るものか。ばか者!」と怒鳴りつける。


 怒鳴りつけて馬車に乗り込み、エリーカにも早く馬車に乗る様にと怒鳴りつけた。王女は馬車の中でも怒鳴り続けていた。


「侵略し無理やり連れてきておいて「また来い」とは、何を考えておるのじゃ!」


 エリーカも確かに王女様の言う通りかも知れないと素直に思った。カルデイ人は楽観的と聞いてはいたけど、これほどとは……。


 そして道中もアルベルティーナ王女はエリーカを聞き手に愚痴を言い続け、数日後ベルヴァース王都エルンシェに到着すると、さっそくベルヴァース王国のトシュテット王とディアナ王妃は1人娘の王女が無事帰ってきた事を喜び、王女を奪い合う様に交互に抱きしめる。


 だが母国に戻ったアルベルティーナ王女は、早速彼女の生甲斐であるともいえる悪態をつき始めた。勿論お父様用に彼女なりに抑えた口調で。


「お父様! ランリエルのサルヴァ王子から多額の金銭を要求されているそうで御座いますね。戦いの報酬として金銭を要求するなど、傭兵の様な氏素性も知れない者のする事。由緒ある王族のする事とは思えませぬ。その様な約束など守る必要などありません!」


 聞き様によれば、相手が王族の場合以外の約束は守る必要が無いとも聞こえ、身分差別はなはだしい発言である。だが王女のこの発言は重臣達を活気付かせた。


 他国のとはいえ王族に対して強く抗議するのは臣下の身分としては憚られたが、ベルヴァース王国の王族がランリエル王国の王族に対して抗議し、自分達はそれに便乗するだけならば問題はない。


 王女とはいえ12歳の少女を担いでの抗議というのも情けない気もするが、それは身分の差というものである。


 トシュテット王は内心、とはいえベルヴァースがカルデイから守られたのはランリエル軍のおかげであるという事を理解していたので、王女の言う様に一方的に強気に出られる状況には無いと思っていた。


 だが結局は国王も王女の剣幕に押し切られた。父親として娘の剣幕に押し切られるというのも情けないが、この様な父親であるからこそこの様な娘に育ったといえる。


 翌日には、正式に王子からの要求を断る為にとデスデーリを王城へと呼び出した。


 正面に国王夫妻と王女、さらに文武の重臣が左右に居並ぶ中、デスデーリは臆することなく現れ国王の前に跪いたが、その手には一つの文書が携えられていた。

 サルヴァ王子から託されていた例の二通目の新書である。


 まず国王より無事王女がカルデイより送り返された事について話があった。


「これも全て帝国軍を追い払う事に協力してくれたランリエル軍の御蔭である。これからも両国はお互いに支えあって行きたいと考えている」


 そして「だがしかし……」と、言い難そうにサルヴァ王子からの要求についての話を続けようとした時に、今まで跪き顔を伏せていたデスデーリが顔を上げ、口を開いた。


「トシュテット国王陛下。陛下のお言葉を遮るのは不敬であるとは存じておりますが、今この時にこそとサルヴァ王子から預かっている、トシュテット国王陛下へのサルヴァ王子からの親書が御座います。この場で披露させて頂いてよろしいでしょうか」


 そして「うむ。よかろう」と国王の許可を得たデスデーリは親書を披露した。


 その内容は要約すると次の様なものだった。


 アルベルティーナ王女をカルデイより無事取り戻す事をランリエルも切望している。だが、カルデイはそう簡単にアルベルティーナ王女を帰国させはすまい。

 それはベルヴァースとランリエルとが手を組みカルデイに対抗しようとしているとカルデイは考えており、その時の切り札として王女を手元において置きたいが為である。


 だがベルヴァースとランリエルの関係が悪化すればカルデイは安心してベルヴァースとの関係を修復しようとするだろう。そしてその為にはカルデイはアルベルティーナ王女をベルヴァースに帰国させる必要がある。


 この度のランリエルからベルヴァースへの不当な金額の請求は、カルデイに対してベルヴァースとランリエルの友好関係が悪化したと思わせる為の策略である。


 そしてその策略は、アルベルティーナ王女をカルデイより取り戻す為のものである。勿論今回の不当な金額の請求は取り下げる。


 デスデーリが親書を読み終えると、ベルヴァースの重臣達は静まり返った。


 今まさに、サルヴァ王子自身が言う「不当な金額の請求」について一斉に抗議しようとしていた所なのだ。それが実はアルベルティーナ王女を救う為の策略だったと聞かされては、ばつが悪い事この上無い。


 ベルヴァース王国重臣達の視線がアルベルティーナ王女に集まった。


 サルヴァ王子の要求に抗議しようという筆頭が、その「サルヴァ王子によって救われた」アルベルティーナ王女なのである。


 だがアルベルティーナ王女は素直な性格とは程遠い。自分の間違いを素直に認める様な事とは無縁だった。


「勿論、わたくしはサルヴァ殿下のお考えを察しておりました。しかし王子からこれが策略であると打ち明けられる前にわたくしの口からその事をみなに説明しては、折角の策略を台無しにしてしまう。それでは王子に申し訳ないと考え黙っていたのです」


 あまりの転進振りにあっけに取られる重臣達を尻目に、アルベルティーナ王女は普段とは違う丁寧な口調で平然と言ってのけたのだ。


 そして重臣達の様子に非難を抑える必要を感じたのか王女はさらに言葉を続けた。


「殿下の策略をわたくしもお手伝いしたいと、我が国の重臣達に心ならずも殿下への批判を言った事もありましたが、みなもわたくしの心を察し、理解してくれている事でしょう」


 こう言われては重臣達も黙るしかない。さすがにグレヴィは平然としたものだが、他の重臣達は、ある者は唖然とした様に他の者の様子を伺い、ある者は苦虫を噛み潰した様な表情で俯き黙り込んでいる。


 それに対し王女は、何か文句があるのかと言わんばかりに重臣達を見渡した。


 その間デスデーリは頭を下げ控えていた。


 一見礼儀正しく顔を伏せて王女の話に聞き入っている様に見えるが、実はアルベルティーナ王女と重臣達との茶番劇に、優秀な外交官たる彼とも有ろう者が笑いを堪えるのに必死になっていたのだ。


 やっとの事で笑いの波を押さえ込む事に成功したデスデーリは、顔を上げわざとらしくも王女に対して

「アルベルティーナ王女のお心にサルヴァ王子も喜びましょう」と御礼の言葉を述べた。


 そしてデスデーリが、目線でトシュテット王に退室してもよろしいでしょうか。と問いかけると、国王も居心地が悪かったらしく「下って良い」とすぐに許可を与えると、デスデーリはうやうやしく一礼しトシュテット王の元を辞した。


 アルベルティーナ王女を、カルデイからベルヴァースに取り返させる為に派遣されたデスデーリである。もはやベルヴァースに用は無いと早速ランリエルに向けて出発する。


 数日後、ランリエルに帰国したデスデーリから報告を受けたサルヴァ王子は、アルベルティーナ王女と重臣達との茶番を、是非観たかったものだと大笑いしたのだった。


 そしてベルヴァースに対してカルデイを攻める為の援軍を要請したのである。


 ベルヴァースではランリエルからの要請を、今は王国を復興させる為に人員も金も必要な時に迷惑な。と思いながらも帝国軍から王国と王女を救ってもらった手前断る事も出来ず、しぶしぶ了解した。


 勿論、ランリエルの使者には「多恩あるランリエルに協力して、憎きカルデイを叩くというなら喜んで参加させて頂きましょう」と勇ましく返答したのだった。


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