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第14話:毒舌王女

 アルベルティーナ王女は、現在カルデイ王城内の一室に軟禁されている。


 ベルヴァースから王女と共に帝国に着いてきたのは、王女着きの侍女のエリーカひとりのみ。厳重に閉じ込めなくても脱出など不可能だ。


 そもそも12歳の王女とその侍女が自身の力だけで脱出し自国まで逃避行を続け逃げおおせる、という発想自体彼女らには無いだろう。


 アルベルティーナ王女の身の回りの世話は当然エリーカ1人ではまかないきれず、帝国の侍女も王女の世話を行っている。


 だが王女はその侍女達を偉そうにあごで使っていた。


 自分には手が出せないと思い、さらに侍女ならばどこの国の侍女であろうと王族に対して奉仕するのが当たり前と考えていたのだ。


 当然の様に帝国宮廷でのアルベルティーナ王女の評判はすこぶる悪い。


 帝国によるベルヴァース王国征服が成功していたならアルベルティーナ王女を妃にする予定だったファリアス皇太子も、王女を妃にしなくてすんだ事についてだけはベルヴァース攻略が失敗したのを内心喜んだほどだった。


 しかし王女がどれほど傍若無人に振舞おうと、侍女や兵士達が王女に苦情を言う訳にも行かない。


 その為王女付きの侍女であるエリーカに抗議が集中した。自分達が捕らわれの身である事を王女の分まで自覚しているエリーカは、苦情を言われるたびに平謝りするのだった。


 王女の侍女であるエリーカは21歳の茶色い髪の女性だった。女性としては背が高く、12歳としては標準的な身長のアルベルティーナ王女より頭一つ半近くは背が高い。


 成人女性に対しても大抵は頭半分ほど高かった。長い茶色い髪を結い上げて、背は高いがほっそりとした肢体でゆっくりと動くその姿はある者が見れば優雅に見え、ある者が見ればノロマに見えた。特にアルベルティーナ王女などから見れば。


 ベルヴァース王国ではエリーカ以外にも多くの女性が王女付きの侍女として仕えていたが、その中でもエリーカは王女と一緒に帝国軍に捕えられるつい半月前に王女付きの侍女に任命されたところだった。


 仕えて僅か半月で王女のお供に選ばれた彼女は不幸としかいい様がなかったが、それには理由があった。


「こんなどうでも良い任務を仰せつかるとは……」

 王女と一緒に帝国へと連れて行く侍女を選抜する役目を仰せつかった士官は、うんざりしていた。


 そして一室に集められていた侍女の群れの中から適当に指名した指差した。


「あの金髪の女にしろ」


 だが侍女達を監視していた兵士はその仕官に問いかけた。


「どの金髪です?」

 金髪の侍女など沢山居たのだった。


「では……あの黒髪の……」

 だが仕官が視線を巡らすとやはり他にも黒髪の侍女の姿が目に入り、口を噤んだ。


 同じ髪色の侍女など沢山居る。当然みなの服装は侍女の制服で統一されている。どう指名したものかと当方にくれた士官の目にその時エリーカの姿が止まった。


 この娘だ! そう思った士官は自信を持って叫んだ。


「あのでかいのにしろ!」

「はい。あのでかいのですね!」


 こうして背が高かったからという理由で帝国まで連れて来られる事となったエリーカは自分が選ばれた理由は知らず「なぜ私が?」と不思議に思いながらも、他の侍女に哀れみの目で見送られ帝国に連れ去られたのだった。


 もっとも理由を知らなかったのはエリーカにとって幸いだった。自分の背が高い事を気に病んでいる彼女が真相を知れば、深く傷付いただろう。


 だがエリーカは自分の不運にめげず、他国にもかかわらず自侭に振舞う王女と他国の者達に挟まれながらかいがいしくよく働いた。


 その為彼女はアルベルティーナ王女の不人気に反比例するかの様に、帝国宮廷内で仕える侍女達や護衛の兵士達などから好感を持たれていた。


 そしてその中には、はっきりと彼女に対し恋愛感情持つ兵士も存在したのだ。


 その兵士は王女及びエリーカの護衛という名の監視を交代で行う役目についていたのだが、ある日彼女が1人になった時を見計らい熱心に求愛した。


 エリーカはこの兵士からの突然の求愛に驚いた。


 他国に無理やり連れてこられての生活である。自身の恋愛について考える暇などあるはずがない。当然彼女は丁重に断った。


 しかし、兵士は諦めず熱心に語り続け、その内にエリーカもカルデイに連れてこられる前は王女に仕えてまだ半月ほどだった事など、少しずつ自分の事を語り始めた。


 エリーカが心を開いてくれたと喜んだ兵士は、さらに熱心に彼女を口説き続けた。


「王女の侍女になってわずか半月でカルデイに来る事になったのは、君と僕とが巡り会う運命だったからなんだ」

 兵士のこの言葉にエリーカの心は揺れ動いた。


 それにこの兵士は、背の高いエリーカよりもさらに頭一つ分も背が高かったのだ。


 エリーカは急激な環境の変化に忘れていた、自分が男性と付き合うなら自分が見上げなければならないほど背の高い男性が良い、という自身の異性への好みを思い出した。


 もしかしたら本当にこの男性は私の運命の人なのかも……。


 そう考えたエリーカの心はさらに激しく揺らいだ。だがそこに、間の悪い事にアルベルティーナ王女が姿を現した。


「お前達、何をしておるのじゃ?」


 王女に問いかけられて、しどろもどろになり、

「ちょっとお聞きしい事が……」

 などと答える2人に、王女は何かを察したらしく、天使の様に可愛らしくにっこりと笑った。


 その王女の表情を見たエリーカは背筋が凍りつき、この兵士を早く逃がさなくてはと瞬時に考えた。


「では、私は用事がありますので失礼いたします」と王女に頭を下げ、兵士にも

「御親切にありがとうございました」

 と声をかけ、エリーカはその場を立ち去ろうとし、兵士にも立ち去る様に促した。


 だが王女は「ちょっとまて」と2人を逃がさない。


「なんで御座いましょう」


 そう返事する兵士に、今までにこにこと笑っていた王女が表情を改めて、深刻そうに口を開いた。


「エリーカの事でお前の隊長に伝えて欲しい事があるのじゃ。最近事もあろうにおぬし達兵士の中に、わらわの侍女に色目を使う者が居るらしくての。そちの隊長に厳重に注意して欲しいのじゃ」


「そ。そうでございますか」


「そうなのじゃ。おぬしもその様な不届き者が同僚にいるかと思うと情けなかろう?」


「は。まことに」


 兵士の声が段々と弱々しく成っていく。


「大体、わらわとわらわの侍女を無理やりカルデイに連れ着ておいて今またわらわの侍女を我が物にしようなど、まるで盗賊の様ではないか。おぬしもそう思おう?」


「はい……」


「まったく、高潔でなる帝国軍兵士の名に泥を塗る行為じゃ。おぬしとてその様な者を見つければ、八つ裂きにしてやりたかろう?」


「は……」


「まあおぬし達の隊長は話の分かる者のようじゃ。その様な不届き者はすぐにでも厳罰に処してくれよう。そうであろう?」


「……」


 もはや言葉もない兵士である。


 この様なやり取りがさらに十数度繰り返された後、やっと兵士は解放された。


 ほうほうの体で立ち去る肩を落とした兵士の後姿は、エリーカよりも小さく見えた。


 ため息を付くエリーカにアルベルティーナ王女が怒った様にその矛先を向けた。


「あの様な者の事など気にするで無い。わらわへの迷惑を考えず人の物を盗ろうなどという不届き者には、あれでも足りないくらいじゃ!」


 この王女の発言に、エリーカは不敬にもついまじまじと王女を見つめた。


 エリーカを物扱いした発言である。本来ならエリーカは怒っても良かったかも知れない。だが、人の良いエリーカは別の事を考えた。


 いくら、とてもとても口が悪くても、やはり異国で知っている者が居なくなるのは、この王女でも心細いのだと。


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