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第11話:次なる戦いへ

 帝国軍全面撤退の報は、すぐにランリエル王都フォルキアへと伝えられた。


 その報告を聞いたベルヴァース王国のトシュテット王の喜び様は大そうなものだった。


「このたびのベルヴァースに対するランリエル王国の御友情、感謝に堪えません。あつくお礼申し上げます」

 トシュテット王は何度もランリエル国王に感謝の言葉を述べた。


 ランリエル国王でありサルヴァ王子の父でもあるクレックス王も、戦いが思いのほか早期に終結した事を喜んでいた。


 これで帝国は大人しくなり、ベルヴァースとの関係は以前より良好となり、自分の在位中にはもう大きな戦いは起こらないだろう。今後、軍事費の増加により王国の財政が苦しくならないと安著したのである。


 そしてその数日後、ランリエル軍総司令官のサルヴァ王子が王都フォルキアに凱旋し、王都の住民達の歓呼の声に迎えられた。


 サルヴァ王子が王宮に足を踏み入れるとそこでも多くの臣下の出迎えを受けたが、自分を取り囲む者達の輪から視線を外すと、王子の後宮の寵姫であるセレーナが僅かに離れたところに控えているのが見えた。


 寵姫といえど後宮から一歩も出れない訳ではなく、申請すれば侍女を共に後宮を出る事が出来るのである。


 王子と視線が合った寵姫は王子に微笑みかけ一礼した。お帰りなさいませ。という気持ちを込めて。

 それに対し王子も小さく頷いた。


 その後王子はしばし休んだ後、戦勝の祝いにと整えられた宴の席へと向かう。


 宴の席ではベルヴァース王国からも多くの特産の食材が提供され宴は盛大に行われた。


 宴にはランリエル、ベルヴァース両国の国王夫妻、そしてその両国の貴族達が数多く参加した。


 そしてその者達は口々に、純白に金糸をあしらった礼服に身を包んだサルヴァ王子に賛美の言葉を贈る。


 いわく「ドラゴネ王を超える軍神」「稀代の英雄」「古今無双の名将」


 会場の一段高い所にランリエルとベルヴァースの国王夫妻の席が設けられていた。中央に両国王が並んで座り、その外側に両王妃が座っている。


 金髪碧眼のランリエル国王クレックスの横に控える黒髪黒眼のマリセラ王妃は壇上から王子へと微笑みかけた。サルヴァ王子の髪と瞳の色はマリセラ王妃から受け継いでいた。


 笑顔の王妃は、サルヴァ王子が英雄と呼ばれるほどの称賛を受けている事を、母親として素直に誇りに思っている様である。

 自身の息子が褒められるのを喜ぶ母親の心情としては、一国の王妃であろうと市井の母であろうと変わるところは無いのだった。


 王妃の左に座する国王も満足げに手にした杯を大きく掲げた。


「我が子の比類ない武勲に余も誇りに思う」

 クレックス王は王子に称賛の言葉を贈り、さらに遠征に参加した将兵にも厚く恩賞を与える。と宣言した。


 サルヴァ王子は軽く身を屈め父に一礼する。

「いえ、父の徳政による名声に比べれば戦場での名声など知れたもの。恩賞については兵士達も喜びます。これで帝国もしばらくは大人しくなり、平和が訪れる事でありましょう」


 ついでランリエル国王のさらに左に座るベルヴァース国王トシュテットからも賛辞の言葉が贈られた。

「サルヴァ王子のおかげでベルヴァース王国は救われた。王子は稀代の英雄であり、もし我が娘であるアルベルティーナ王女が12歳という年齢ではなく王子と釣合う年齢であれば、ぜひ我が王女をサルヴァ王子の妃とさせて頂きたいところである」


 王子はこのベルヴァース国王に対してすまして返した。

「12歳という御歳にして、アルベルティーナ王女の美貌は、我がランリエルまで届いております。我が弟のルージならばアルベルティーナ王女と年齢は釣合いましょう。もしよろしければルージの妃にアルベルティーナ王女をいただければ幸いです」


 アルベルティーナ王女は国王の1人娘であり、その夫が次期ベルヴァース国王となる。 始めからランリエルの次期国王と目されるサルヴァ王子の妃にする気などベルヴァース国王にはあるまい。


 それに王族同士の結婚には、多少どころか親子ほどの年齢差でも問題にされる事は少ない。

 サルヴァ王子に心にも無いお世辞を言ったベルヴァース国王には相応しい返答だった。


 ランリエル国王の三男であるルージ王子がアルベルティーナ王女の夫となれば、ベルヴァース王国はランリエルの傀儡と成り果てる。


 ベルヴァース国王には受ける訳には行かない申し出であるが、この宴はベルヴァースに取ってランリエルに国を助けて貰った感謝の席でもある。

 無下に断るのは躊躇われた。とはいえ絶対に受けられない申し出である。


 トシュテット王は目に見えてうろたえ、左に座るベルヴァース王妃ディアナへと視線を向けたが王妃も引きつった笑顔で小刻みに首を左右に振り、どうにかして穏便に断る様に夫に訴えるばかりで何の助けにもならなかった。


 次にベルヴァース国王はすがる様な目を右隣のランリエル国王に向けた。


 人の良いランリエル国王は苦笑しつつも話題を転じる。

「ですが、そのアルベルティーナ王女はまだ帝国に捕らえられたままであるとか。ご無事でしょうか。勿論、私は王女のご無事を信じておりますが……」


 ランリエル国王の漕ぐ助け舟に乗ったベルヴァース国王だったが、王女を思うとその心痛に王子からの言葉すら忘れたかの様に、その表情はたちまち曇った。


「そうなのです。近年の通例では、戦いに負ければ捕らえた王族を丁重に送り返す事になっております。しかし、実際に送り返されてくるまでは安心できません」


 そう近年では負けた側は、無用の恨みを買わない為捕らえた要人をすぐに送り返していた。


 あまりにも甘い対応と思われるが、特にこの様な時にベルヴァースの立場は有利だった。


 例え今回の様に、そもそもベルヴァースが帝国に攻められた事が発端の戦いであっても、結局はランリエルと帝国との戦いになる。


 双方がほぼ互角の国力ならば、後はベルヴァースがどちらに付くかで情勢が決まる。負けたのならなおさらベルヴァースの機嫌を取らねばならない。

 いつまでも捕虜を国内に留めていても意味が無いのである。


 そういう意味では捕らえられているとはいえ、王女が帝国で無慈悲な目にあっている事は考えにくい。


 帝国がアルベルティーナ王女をどう扱うかは、サルヴァ王子も大いに関心がある。


 それは帝国が、ランリエルは攻めて来ると考えているか否かに因るだろう。ランリエルが攻めて来ると考えているならば、王女を送り返しはしない。


 王族を捕らえ「身柄を返す代わりに降伏しろ」などという要求は通るものではないが「ランリエル軍への援軍はひかえろ」という要求ならば交渉の余地はあるはずだ。


 だがランリエルは攻めて来ないと考えているならば、早々に王女はベルヴァースに送り返し国交を回復させ様とするはずである。


 今回の敗戦で痛手を負ったカルデイは、今後数年から十数年の間は他の2国に対して自身から攻める力は無い。

 ならば無駄に外交関係を悪化させる必要は無いはずだ。


 今の所はもう少し帝国の出方を伺うしかない。しかし必要ならばこちらから何か手を打つ必要がある。

 サルヴァ王子は帝国の出方を待つ事にした。


「戦が終わった以上、アルベルティーナ王女は必ずや早々に王族の礼節に守られて送り帰されて来る事でしょう」

 ランリエルの王子はベルヴァース国王にそう気休めの言葉をかけた。



 宴の後父の私室で、父であるランリエル国王と改めて2人となったサルヴァ王子は、この度の戦はベルヴァースを解放だけで終わらせるつもりはなく、さらに帝国へと侵攻する考えである事を国王に打ち明けた。


 その息子の計画に父は、自慢の息子が行き成り精神の病にでも犯されたかの様な衝撃を受け、目を見開いて驚いた。


「我が王国も今まで何度もカルデイ併呑を目指した。しかし全て失敗したではないか。あの偉大なるドラゴネ王ですら失敗した。今回の失敗により確かに帝国軍は大きな痛手を負っている。だが、一国を併呑するという事は単にその国の軍勢を抑えればよいという訳ではないのだ」


 両手を広げ訴える様に計画中止を叫ぶ父に、サルヴァ王子は微笑んだ。


 調査では今回の帝国軍のベルヴァース王国侵略は、カルデイ皇帝ベネガスの強い希望によるものという事だった。


 26歳のサルヴァ王子は、自分の兄といってもおかしくない39齢という年齢の父が、カルデイ皇帝の様な夢想家で無い事を喜んだのだ。


 サルヴァ王子は父を安心させる為に微笑みながら答えた。

「御安心下さい。父上。私は帝国を併呑しようなどと思っている訳ではないのです」


「帝国の併呑が目的でないと言うなら、わざわざ何を目的にカルデイに軍勢を進めるというのだ?」


 国王は当然の質問を返し、サルヴァ王子は片方の眉を吊り上げにやりと笑った。


「そうですな。言うなれば講和に」


 戦はもう終わったではないか。それを講和をする為にもう一度わざわざ攻め込むのか? 訝しがる父に王子はその計画を説明し始めた。


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