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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
セーセレティー精霊国編
92/340

 3



 ハプニングはあったものの、収穫祭当日。

 ギルドとダンジョン入口前の広場で開かれるコンテストを見ようと、会場は客でごった返していた。

 知人がグレイ以外は軒並みコンテストに出場するという異常事態に、修太はグレイと行動を共にしていた。勿論、コウも一緒だ。

 ぎりぎり舞台が見える広場の端っこで、屋台で買った焼き鳥を食べながら観戦する。


「すごい人だな~……」

「この町が一年で一番盛り上がる日だからな」


 修太の足元ではコウが伏せている。その横にグレイは立っていて、修太と同じく焼き鳥串を手にしていた。武器はなく、手ぶらだ。


「これ、おいしいんだけど、ちょっと塩辛いな」

「そうか? ハーブ焼きは美味いぞ」

「あ、ほんとだ」


 塩味の串を食べ終わると、紙袋に入れていたハーブ焼きの方を食べる。確かにグレイの言う通り、おいしい。

 グレイは、食事中はおいしいとか不味いとかは何も言わずに無言で食べ終わることが多いから、感想を聞くのは珍しい。もしかしたら、グレイの中ではかなりおいしいという部類なのかもしれない。


 思わずハーブ焼きを片手に真面目に考察する。

 そんな風にしてコンテストが始まるのを待っていると、ようやく司会が出てきた。銀色の短い髪をしたギルド職員らしき女性が、マイクのような物を持って挨拶する。


「紳士淑女の皆様も、そうでない暴れん坊の皆様も、お集まり頂きましてありがとうございます! 本日司会を勤めさせて頂きます、ギルド受付担当のエイミーです! どうぞよろしく! では、今年も盛り上がって行きましょう!」


 魔具なのか、わんわんと会場にこだまするテンションの高い声とともに、あちこちでパーンとクラッカーのようなものが鳴り、空中に星のエフェクトを撒き散らして消えていく。人々はわーっと盛り上がり、指笛の音があちこちから聞こえてくる。更に、エイミーちゃんと名を叫ぶ野太い声も響いた。それにエイミーはにこやかに手を振る。

 どうも人気ぶりはアイドル並らしい。


「あの光ってるの、何?」


 修太の問いに、グレイはちらっとクラッカーもどきの方を見て、淡々と言う。


「モンスターや猛獣をひるませるのに使う、猛獣脅しという名の魔具だ。逃げていくのは雑魚ばっかりで、迂闊に大物に使うと逆に怒らせるから、使いどころは難しいがな。あれは多分、遊び用に改造している類だろう」


「へえ……」


 ゴミが飛び散らないなんて、エコで良いな。だけど、猛獣脅しか……。まあいきなりあんなのが鳴って、エフェクトが乱舞したらそりゃ驚くよな。でも、遊び用ってことは、玩具屋に行くと置いてあったりするんだろうか。そもそも玩具屋があるのかも謎だが。


「ありがとう」

「……いや」


 短い返事が返る。これがフランジェスカなら嫌味の一言でも入るのだろうと思うと、グレイは良い人だと思った。そもそも、フランジェスカなんかと比べるのが間違いなのかもしれない。


「では、まずは挨拶をギルマスにお願い致しましょう!」


 エイミーの声が響く。

 幅広の袖をした紫色の上着と、黒いズボンといういつもの格好で、ベディカが颯爽と壇上に上がる。

 そして、軽く挨拶をすると、あちこちから、「きゃーっ、お姉さまーっ!」とか、「わーっ、マスターかっこいいーっ!」とかいった、冒険者らしき人達の歓声が上がる。大人気である。


「マスター、ありがとうございました! では皆様、お待たせ致しました。まずは美男子コンテストから始めたいと思います! 皆、ついてこいよーっ!」


 エイミーの掛け声に、わーっと歓声と拍手が乱舞する。


「すごいノリだな」


 高校の文化祭かよ。修太はやや気圧され気味だ。ついていけん。

 どぎまぎしながら見守っていると、舞台裏に控えていたのだろう、九人の男性が舞台上に上がってきた。そして、並べられた椅子十脚に奥から座る。


 一番左端に啓介が微苦笑気味に座り、その右隣にサーシャリオンが座る。サーシャリオンは楽しそうに、ときどき無関係に手を振って、女性のハートを射止めている。それに対し、右から二番目の椅子に座ったシークはどこか落ち着かないようにそわそわしていた。その左にはトリトラが座り、柔和な笑みを浮かべている。一番右端の椅子があいているのは、どうやらアーヴィンの席であるようだ。どこにも見当たらないのを見るに、今年も棄権扱いなのかもしれない。


「サーシャは流石というか……」


 呆れて呟くと、頭上からやはり呆れ声が降ってきた。


「完全に面白がっているな」


 流石としか言えない。

 乾いた笑いを零していると、サーシャリオンがこっちを見て、楽しそうに手を振ってきた。

 やめろ。女性達からの嫉妬の視線までこっちに来るじぇねえか、このアホ。

 だが気付いたからには無視も出来ず、引きつり笑いを零しながら手を振り返しておく。この人混みで見つけ出すサーシャリオンの目の良さには脱帽だ。流石、モンスターなだけはある。


「残念なお知らせです」


 ふいにエイミーがしんみりした声を出した。


「優勝候補のアーヴィン・テッダリタさんが、今年も棄権になりました! ああ、どうか皆様、迷っている彼を見かけたら、そっと会場まで案内してさしあげて下さいね!」


 エイミーの頼みに、はーいと良い子の返事が返る。

 ざわめきの中に、今年も棄権かよー、とか、どんな奴なんだろうなー、とかいった声がちらほら聞こえてくる。


(やっぱり、あの椅子はあいつの分か……)


 いや、すごい。読みを外さない奴だ。


「では、始めましょう! 私が質問いたしますので、選手の皆様は、お答え下さいね。お名前、好きな食べ物、好きなこと、の三つをお聞きします! では、一番右から参りましょう!」


 エイミーはにこやかに宣言し、シークの左斜め前に立った。


「一番手は、黒狼族のシークさんです! どうぞ!」


 マイクもどきがすちゃりとシークの前に出される。


「……ああ、シークだ。よろしく?」


 よく分からないと言いたげに眉を寄せるシーク。やはりそわそわしている。

 しかし、会場のあちこちからは黄色い悲鳴と、シークの坊主がんばれー! という男の声が響く。どうやら女性と年上の男性を味方につけた結果がこれらしい。

 エイミーはにっこり笑う。


「はい、よろしくお願いします! それでシークさん、好きな食べ物は何ですか?」

「肉!」


 きぱっと答えるシーク。

 返事だけは男らしい。


「では、好きなことは?」

「体を動かすのは好きだ。走るのや、戦うのも楽しい。剣で叩き切るのは楽しいよな!」


 いい笑顔で何だか怖いことを言う。しかし司会者は笑顔だ。


「ありがとうございました~! 皆さん、シークさんに拍手をお願いしますね!」


 わーっと拍手が飛び交う。


「では、お隣のトリトラさんに行きましょう。お願いします!」


 トリトラはにこっと笑い、頷く。

 女性の黄色い声は勿論のこと、男の声も混じっていて、修太は戦慄した。


「……グレイ。トリトラって、お、お、男にも……」

「それ以上は言ってやるな、不憫になる。それにこのことは絶対にトリトラに言うなよ。見つけだして血祭りにあげると言い出すからな」


 グレイが苦々しい声で答えた。


「了解です、サー!」


 思わず敬礼してしまった。

 なんかさ、なんか、怖いことに気付いてしまったんだが。もしかして、例の、女と間違えての人、実はトリトラが男だと承知で誘ったんじゃ……。あばばば。怖いからこれ以上は考えるのはよそう。うん。世の中には知らなくて良いこともある。


「僕の名はトリトラだよ。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします~! トリトラさんは、こちらのシークさんと幼馴染だそうですね?」


「そうだよ。この馬鹿の幼馴染だから、とても大変なんだ」

「んだとーっ!」


 さらっと笑顔で毒を吐き、それにシークが眉を吊り上げて怒る。会場はわっと笑いに包まれた。


「なるほど、確かに大変そうですね」

「なんだと、てめっ」


 シークが口を挟むが、エイミーは無視して続ける。


「それでは、トリトラさん。お好きな食べ物は?」

「魚や卵料理かなあ。生まれる寸前のヒヨコ入りの卵も好きだよ。おいしいよね」


 トリトラは素晴らしい笑顔で答えたが、薄ら寒さに会場の熱気がやや引く。

 しかしエイミーは笑顔だ。


「セーセレティー精霊国の名物料理ですね! 私は好きじゃないですけど、通もたくさんいらっしゃいますもんねえ」


 名物料理なのか。それってケテケテ鳥のヒヨコってことか?


「では、好きなことは?」

「好きなこと……」


 少し考えたトリトラは、ポンと手を叩く。


「狩りだよ! 仕留めた獲物をばらす……いや、解体するのが好きなんだ。面白いよね」


 しん…………


 会場が静まり返った。

 集まった人々を静寂と恐怖に陥れた本人は、優しくにこにこ笑っている。隣では、シークが頬を引きつらせてそんなトリトラを見ていた。


 そのうち、誰かが近くで「これだから黒狼族はよぅ……」とうめいた。

 修太もまたどん引きで、思わずうめくようにグレイに問いかける。


「トリトラってさ……」

「……うん?」

「ぜってぇ、サドだろ」

「そうか?」


 グレイに訊いた修太が間違いだった気がした。

 普通だろと返されて、沈黙する。あれでサドじゃないなら、黒狼族でのサドってのはどんな奴なのだと怖くなった。


(しかしすごいな。開始十分で会場がどん引いてるよ……)


 あの二人だからかと思ったが、そうではなかった。

 その後のインタビューでも似たような受け答えが続いたせいだ。

 近くにいる人の台詞が、「これだから冒険者は……」に変わった頃、八番目であるサーシャリオンの番になった。

 サーシャリオンは司会の問いに、楽しげな笑みを浮かべる。


「我はサーシャだ。食べ物は、美味ければ何でも好きだぞ」

「では、お好きなことは?」

「昼寝だ! 引きこもってごろごろしているのが好きだ。その次が面白いことだ。だからケイらと旅をしている。こいつは実に楽しい人間だ」


 サーシャリオンは、にこにこと聞かれてもいないことまで話した。変人臭さ大爆発であるが、それまでの応答が殺伐としていたのもあって、会場の空気が和やかに変わる。あちこちで笑いが起きた。

 左隣の席に座る啓介が、楽しい人間と言われて本気で照れている。


(いや、だから、それは褒め言葉じゃないだろ)


 ほんとうちの幼馴染様はずれていると思う。


「仲が良くて素晴らしいですね! サーシャさん、ありがとうございました!」


 わーっと拍手が起きる。


「では、男性陣、ラストに参りましょう。期待の新人、ケイさんです!」


 会場全体から歓声が上がった。

 びっくりしたらしきコウが、修太の足元に身を寄せる。なんだなんだときょろきょろしているが、修太も似たようなものだ。

 人気があるにも程があるだろ。


「ケイです。よろしくお願いします」


 会場の熱気に圧され気味に、啓介は苦笑気味に笑う。


「す、すみません。こういう場は照れますね」


 そう言って、本当に恥ずかしそうに頬を指先でかく姿に、司会のエイミーすらよろめいた。

 あちこちから、きゃーっという黄色い悲鳴とともに、照れてるのも可愛い、とか、兄貴負けるなー、とか、頑張ってーという応援が起こる。


 なんだ、ここは。アイドルのコンサートホールか。

 こういう時の啓介には絶対に近付きたくないと思いながら、修太は頬を引きつらせていた。すごいを通り越して怖い。


「新鮮な反応、ありがとうございます! ではケイさん、お好きな食べ物は?」

「ええと、好き嫌いは特に無いんですが、あえて言うなら、オニオンスープかな」


「オニオンスープですか?」

「はい。こっちにはないのかな? 玉葱っていう野菜で作るスープなんです。俺、あれがすごい好きで……」


 気恥ずかしそうに答える啓介を、修太は意外に思って見た。


「へ~、あいつオニオンスープが好物だったのか。そういや玉葱が好きだったな」


 啓介の家にお呼ばれして、庭でバーベキューをしていると、いつも肉より玉葱を多く食べていたと思い出す。

 修太は何でも好きだから、どれも同じくらい食べる。

 今度、市場で似たような味の野菜を探しておいてやるかと考えていると、エイミーが啓介に質問した。というか、引き伸ばしすぎだろう、司会。


「やはりお母様のお味が一番なんですか?」


 そして、どこからメモを取り出した。真剣に問うなよ。


「まあ、そうですね。あとは、たまにシュウの家でもご馳走になったりして。あ、シュウって幼馴染ですよ。よくギルドで手伝いしてる……」

「ああ、シューター君ですね!」


 おい、やめろ。俺の話題を出すな。嫌がらせか、嫌がらせなのか!?


 確かに修太の両親がまだ存命だった時は、互いの家に泊まりに行ったりもしていた。それで啓介もうちに泊まりに来て、修太の母親が料理を振舞ったりしてはいたが……。そんな特別な料理でもないぞ!? コンソメの素を入れて、塩コショウで味付けするくらいだろ! それをさも特別みたいに!

 ちょっ、こっち睨まないで下さい、お嬢さんがた!


「俺、料理出来ないんですけど、シュウは出来る方なんで、シュウにもたまにご馳走してもらったりしてたなぁ。あ、すみません、こんな長々と」


 おまっ、そこで切るとか、ほんと何の嫌がらせ!? しかし……。


(ん? あいつにオニオンスープなんか出したことあったか?)


 修太が作れるのは見た目より味と量な料理ばかりだし、凝った料理なんか作れないから、もしかしたら出したのかもしれない。

 そうなると両親の死後か……。そういや、一時期、やたらおじさんと一緒に買い物袋を引っさげてうちに来てたよな、啓介。あの時期かな。

 両親の死後三ヶ月くらいはとにかく色々必死で、あんまり記憶に残ってないんだよな。思い出せん。


「そうなんですかぁ。……幼馴染で仲が良いなんて、羨ましい話ですね」


 エイミーさん、後半、ドスがきいてるんですが、本当にそう思ってるんですか?


「ではお次に、好きなことは?」

「もちろん、不思議現象探しです!」


 ぐっと拳を握った啓介が、ものすごく熱を込めて言い放った。

 会場に、「……?」という空気が流れる。


「へえ、例えば?」


「七不思議とか、幽霊とか。とにかく変なことです! とりあえずビルクモーレの七不思議は全部回りましたよ! 面白かったです! 他にも変なことや面白いことがあったら、是非教えて下さい! 情報、待ってます!」


 こいつ、さりげなく宣伝しやがった。

 よく分からないという顔をしていたエイミーだが、あんまりにも気合の入った言葉に、気圧されるように頷いている。


「は、はぁ。分かりました。皆さんも、協力して差し上げて下さいねー? ???」


 最後まで首を傾げているのが、とても印象的だった。



      *



「なんか疲れた……。今更だけど、うちのメンバー、キャラが濃すぎ」

「きゃらとは何だ」


 グレイが問う。

 ところどころ通じない単語があるな。サドは通じていたが、それ以外はこっちでは日常的ではないのかもしれない。自動翻訳されるから、修太にも違いは分からないので困る。でもサドが日常的というのも嫌だな……。


「性格とか性質みたいな感じの単語だよ」

「……確かに濃いな」

「何で俺を見るんだ?」

「お前も充分に濃い」


 グレイだって濃いよ。とは、怖くて流石に言い返せなかった。


「ど、どこが。こんなに影が薄いのに」

「……それはない」


 ぼそりとだが、断定された。

 ええ。どういうこと!?


「始まるぞ」


 詳しく聞いてみたかったが、ちょうど美女コンテストが始まったので、そっちを見た。

 十人、椅子に腰掛ける。

 こういう場が嫌いなのか、フランジェスカから異様な殺気が放出されている。これから戦場に行くとでも言いたげな、隙の無い立ち居振る舞いだ。右から二番目がフランジェスカで、三番目に座っているピアスが、フランジェスカを見て苦笑している。ピアスが何か話しかけると、それでようやくフランジェスカの殺気が消えた。


(ピアスも結構苦労性な気がする……)


 何故だろう、自分の同志のように思えるのは。不思議だ。


「お待たせ致しました。準備が整いましたので、皆様のお楽しみ、美女コンテストを開催いたしまーす!」


 会場から拍手や歓声、指笛の音が響き渡る。


「一番手は、我らがギルドのギルドマスター、ベディカ・スース様です! 皆さん、拍手ー!」


 贔屓だ。完全なる贔屓だ。

 ここは盛り上げとけと言わんばかりの司会の言葉に、周囲もわーっと盛り上がる。

 それにベディカは苦笑している。


「ほとんどの方がご存知でしょうけど、私の名はベディカ・スースよ。好きな食べ物は、ケテケテ鳥の炭火焼ね。好きなことは、炎による大規模攻撃かな。え? これでは駄目? そうねえ、実は植物を育てるのが趣味なの。最近は食虫植物にはまってるわ。うふふ。蟻を捕まえて放るのよ。足りない栄養を知略で賄うって素敵よね」


 ああ、会場が最初からどん引いてる。

 ベディカさん、結構まともな人だと思ってたけど、やっぱり冒険者なんだな……。

 修太の頭の中では、すっかり、冒険者イコールサディストの構図が出来上がっていた。まあ、攻撃的でないとダンジョンになんて潜れないか……。


「あとね、一言言っておきたいんだけど。付き合いだからって私に票を入れなくていいのよ? 主催者は私達ギルドなのに、私まで入っていたら進行が大変でしょう。毎年言ってるのに、何で分かってくれないのかしら」


 頬に手を当て、ベディカは不思議そうに首を傾げた。

 いや、付き合いではなくて、本当に憧れから票が入っているのだと思う。挨拶の時の人気ぶりを見ていれば一目瞭然だ。


「マスター、毎年言ってますが、これは純粋なる好意による票ですよ。でも、そんなところも素敵ですわ、お姉さま!」


 あ、この人、ベディカに入れたのか。

 すごく分かりやすい。

 ベディカはほんのり苦笑を返した。


「皆さん、ギルドマスターに多大なる拍手を! どうもありがとうございました!」


 割れんばかりの拍手が鳴り響く。

 贔屓だ。どう見ても。


「ではお次は、新人さんですね。フランジェスカさん、お願いします!」

「うむ。私はフランジェスカだ。よろしく頼む」


 背筋を伸ばしたフランジェスカが、きりっと挨拶すると、会場から声が上がる。


「お姉さま、素敵ーっ!」

「姉御、どこまでもついていきますーっ!」


という、男女両方からの声援だ。


(お、お姉さま……)


 女子校かよ。

 ベディカの時もそうだが、格好良い女性は女性にモテるから、それによる票なんだろう。男の方はどうも部下希望らしい。あんなのを上司にしたら鬼だと思うが。


「フランお姉さま、お好きな食べ物は?」


 頬を赤くしたエイミーが、可愛らしく問う。

 エイミーの趣味が少し心配になってきた修太だ。おーい、正しい道に戻ってこい。


「辛い食べ物が好きだ。美味い」

「そうなんですか! この国には少ない料理ですねぇ。レステファルテにそういうの多いんですよね」


「だが、この国の果物はとても美味い。それは誇るべきだろう」

「ちょっと、八百屋さんに果物屋さん、今の聞きました!? なんて素晴らしいコメント! ありがとうございます!」

「……う、うむ」


 八百屋や果物屋だろう。ものすごい歓声が一部から上がった。それにフランジェスカは動揺したように身を引く。


「では、好きなことは?」

「狩りだな。モンスターを狩るのが好きだ。ダンジョン以外では、狂いモンスターに限るが。剣の腕を鍛えるのも好きだ」

「なんて格好良い回答! お姉さま、ありがとうございました!」


 エイミーが拍手する動作をし、つられて会場も拍手をした。うん、これも贔屓だ。


「それでは次に参りましょう。セーセレティーの民である、ピアスさんです!」

「ピアスです、どうぞよろしく」


 にこっとはにかんだ笑みを浮かべるピアス。

 今日も天使のように綺麗可愛い。主に男性陣の歓声が会場で上がる。


「好きな食べ物は何でしょう?」

「花冠っていうお店の、アストラテ風ゴロゴロスープよ。レステファルテの王都に行ったら、絶対に寄るの」

「ほぉ、そんなにおいしいんですか! それはメモしなくてはいけませんね!」


 エイミーはまたもやメモを取り出し、さらさらとメモを取る。仕事しろよと思うのは修太だけなんだろうか。


「では、好きなことは?」

「アイテムクリエートよ。今はまだトレジャーハンターが主流だけど、店を出したら皆さんどうぞ宜しくね」


 うふっと微笑むピアス。

 会場から、喜んでーという野太い歓声が返る。

 こいつも、さりげなく宣伝しやがったよ。


(流石、抜け目ないな……)


 こういうところは商人の血を感じる。

 良い子なのだ。美人で、すごく良い子。だけど、守銭奴だなあって思う瞬間がたまにあるってだけだ。金に厳しいのは良い事だろうが、ちょっと気になる修太だ。まあ、啓介が気にしていないから問題はない。

 ピアスの次はエルフの女性で、その次はダークエルフだった。六番目に、ヒルダが紹介される。


「あたしはヒルダだよ、よろしくね! 好きな食べ物? 骨付き肉だよ! ケテケテ鳥もグラスシープもたまんないよね。特にハーブ焼きが好きかな」


 緑色の目を細め、ヒルダはにひひと笑った。


「良いですね、肉が好きな女性。格好良いです! それでヒルダちゃん、好きなことは?」


 どうやらエイミーとヒルダは友達らしい。ヒルダだけ「ちゃん」呼びだ。


「風で思いっきり敵をぶっ飛ばすことだよ! それでたまにエアのこと巻き込んじゃってさぁ。エアの奴、普段でもゴーグル付けるようになったんだよね。顔は良いのにもったいないよね。しかもほら、キスする時なんかも邪魔で……」


「はいはいはいはい、ありがとうございましたーっ! くぉら、何さらっとのろけとるんじゃ。子どももいるってこと、忘れ、な、い、で、下、さ、い、ね!」

「いだだだだ! 痛いってエイミー! ごめんってば!」


 肘で頭頂部をぐりぐりされて、ヒルダが悲鳴を上げる。

 ヒルダとエアは付き合っている割にいっつもさばさばしているが、やっぱり恋人同士であるようだ。これはきっとエアは赤面ものだ。今度からかおう。


 修太はにやにやとエアをからかう算段を考える。今の自分は子どもだから、真面目なエアは相当焦るだろう。楽しそうだ。

 あとは知り合いもいないので割愛する。

 それで結果はというと、美男子コンテストは予想通り、啓介が優勝した。そして、美女コンテストは、つやつやした毛並みが美しい灰狼族のノーノだった。


(いやー、価値観分っかんねーわ)


 コンテストが一通り終わっても、さっぱり分からなかった。

 とりあえず、ドワーフの美形は、男だといかに筋肉があってごついかで、女だと背が高いことだというのは分かった。うん、分からん。

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