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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
レステファルテ国王都編
62/340

 3 

 こうして、サーシャリオンは本選三、四、五日目を、最小限の攻撃だけで相手を地に沈めて倒し、とうとう決勝戦に出ることが決まった。

 祭り六日目は休息日で、七日目が決勝戦と儀礼を行う日だ。


 休息日には、ダークホースの登場を邪魔に思った者からの差し金か、“リオナ”向けの刺客がやって来たり、喧嘩を売られたりしていたらしいが、サーシャリオンはそれらを裏道に誘い込むと、あっさり叩きのめして放り出してきたらしい。サーシャリオンからすれば、うるさいハエを叩いたくらいの印象みたいだった。


「道に放り出してきたが、もし身ぐるみはがされても自業自得と考えてよいのだよな?」


 夕方に思い出したみたいにそう問われて、初めて事が発覚したくらい、サーシャリオンにはどうでもいいことだった。

 つくづく敵に回したくないモンスターである。


 なんとなく賊が不憫になる修太であるが、フランジェスカやピアスが当然だと言い放っていたのを鑑みるに、どうやら普通みたいだ。啓介は苦笑しているので修太と似たような意見を持っている気がする。


 しかし、武闘大会で勝ち進んだからって、どうして刺客が来るくらいの大事になるのかよく分からない。

 しきりに不思議がっていたら、ピアスが答えをくれた。鞄から取り出した一枚のチケットとともに。


「そりゃあ邪魔でしょ。優勝者トトに響くしね! うふふ、魔王相手に勝てるわけないと思うし、稼がせて貰えそう」


 楽しげにチケットをヒラヒラさせるピアス。


「優勝者トト?」


 啓介が思わずというように問い、黄色いチケットを見る。


「優勝者を当てる賭けごとよ。今回の祭りは大損の人が多そうね。ま、あたしは本選一回目から買っているから、サーシャさんがここで負けても儲けは出るわ」


 本当にちゃっかりしている娘だ。

 基本的に良い子なのだが、ときどき守銭奴じみた部分が顔を出す。根っからの商売人みたいである。


「これで儲けが入ったら、アイテムクリエイトの道具を新調するの。だからサーシャさん、頑張って勝ち進んでね!」


 がっしりとピアスに両手を掴まれて、サーシャリオンはやや気圧されたようにのけぞる。


「あ、ああ……」


 サーシャリオンが引いているのだから、相当だ。


(たいがい大物だよなあ、この子……)


 こういうところを見て、啓介が幻滅したりしないだろうかとちらりと啓介を見ると、なんだかキラキラしい目でピアスを見て、しきりに感心したように頷いている。


(だからなんでそこで顔を赤くする)


 恋は盲目というやつか。そうなのか。


(つーか、こんだけ分かりやすいのに、なんで周りの奴は誰も気づいてねーの?)


 そこが大いなる疑問だ。

 フランジェスカはその辺の察しが悪いし、ピアスは天然で受け流している。サーシャリオンはモンスターだからか気付いてもいないようだ。


 そんなこんなで迎えた七日目。長剣を使う魔法使いと戦い、魔法を一切使わずに相手を打ち負かしたサーシャリオンは、観客達の熱狂的な拍手でもって健闘を称えられ、最年少記録を更新という伝説を築いた。十五歳で登録していたが、それまでは十九歳が最年少記録だったらしい。

 そして、その表彰式でもまた、サーシャリオンは伝説を打ち立てた。




「汝、リオナは、此度の大会にて見事優勝を果たした。よって、その健闘を称え、10万エナと褒章を授けることとする」


 レステファルテ国王自らの手での授与だ。

 王は三十代くらいの若い青年で、金髪と深紅の目を持ち、いかにも室内で生活しているというような白い肌をしていた。金糸での刺繍が施された、白い衣服を纏っていて、綺麗な顔立ちもあって神々しい。


「発言の許可を頂いてもよろしいか、王よ」


 片膝をついた礼の姿勢で頭を下げたまま、サーシャリオンは凛とした声を発する。

 王は驚いたようにわずかに目を瞠る。護衛の兵士が、サーシャリオンの非礼をなじる。


「王の御前であるぞ。勝手に発言するとは無礼な!」

「まあ、よい。なんだ、申してみよ」


 王に促され、サーシャリオンは顔を伏せたまま言葉を続ける。


「失礼ながら、褒賞金については辞退申し上げたい。褒章の品だけで結構だ」

「ほう。金はいらぬと申すか。何故だ? あっても困ることはあるまい?」


「多き金は災いの元となる。それに、我には不必要なもの。だが全て断るのも味気ない。ゆえに褒章の品だけ頂きたい」


 少女の口から紡ぎだされる老獪な言葉に、王や周りの重臣、観客達は驚いていた。

 王はじっとサーシャリオンを見つめ、ややあって頷いた。


「――許す。では、そなたにこの品を授けよう。顔を上げ、受け取るがよい」


 そして、銀細工を施した布張りの箱を、サーシャリオンに渡す。

 サーシャリオンが顔を上げ、捧げ持つようにして受け取り礼をすると、観客達はわっと歓声を上げた。


 おめでとうという声が響きだす。

 そんな中、王がサーシャリオンに何か話しかけ、サーシャリオンが返答していたが、声がうるさくて修太達には聞き取れなかった。





「どうだ、上手く人間らしく振舞ってみたが、うまく出来ていただろう?」


 再会を果たした時、サーシャリオンは自慢げに言った。


「少々無礼な物言いではあったが、祭りであるし大目に見て下さったのだろう」


 フランジェスカの正直な返事に、サーシャリオンは不思議そうに首を傾げる。


「そうか? 人間の王相手にしては、かなり頑張ってへりくだったのだがなあ」


 サーシャリオンからすればそうだろう。神竜の姿で出てくれば、脅すだけで事足りるだろうから。


「なあ、サーシャ。あの時、王様と何を話してたんだ?」


 啓介の質問に、サーシャリオンはあっさり答える。


「この国に仕えないかと打診を受けたが、断った。家臣ごっこまでする気はない。この国の王に貢献する義理はないからな」

「ふーん。やっぱスカウトされるんだな」


 修太はそんなもんなんだろうなと呟く。強い人間を発掘したいなら、武闘大会はうってつけの舞台だろう。


「興味ないのは分かるけど、サーシャさんたら、なんで褒賞金を断ったの? もったいない!」


 ピアスが心からもったいなさそうに口を挟む。サーシャリオンの答えはそっけない。


「そなた、突然現れたルーキーに大量の金をかすめとられてみろ。面白くないだろう? それに、この国に仕える気がないのだから、もし他国に仕えることを危険視されてみよ、また刺客だの追っ手だのが来るに決まっている。撃退するなど造作もないが、そなた達にまで危害が及ぶとも限らぬ。我はそのような愚行をおかす気はない」


「うむむっ」

「それに、我が大会に出場したのは、金や名誉のためではなく、柘榴石の魔女の救出だ。そこを履き違えられては困る」


「分かるけど。一石二鳥とかって考えないもんなの?」


 納得いかなさそうなピアスに、サーシャリオンは頷く。


「我に金はいらぬ。この童どもも金は十分に持っている。売るだけの素材もな。ゆえに必要ない」


 そして苦笑する。


「第一、そなたは十分に稼いだだろう?」


「うふっ、まあね! しめて1万エナよ~。ま、道具を新調したら、そんなに残らないんだけどね。アイテムクリエイトって、器材をそろえるのが大変なのが厄介だわ」


 そう零しつつも、ほくほくしているようだ。ピアスはにやけが止まらないという様子で笑っている。


「とりあえずさ、サーシャ。柘榴石の魔女と話したいし、宿に帰ろうぜ」


 修太の提案に、サーシャリオンは頷いた。


「そうだな。こんな往来ではうかつに呼び出せぬ」


 かくして、怒涛の武闘大会は、褒章だけを得るという形で幕を閉じた。




 第十話、完結。

 一部だけ試合書いて、あとはさらっと流しました。

 とりあえず、武闘大会ものを書ける人はすごいと分かりました。私はここで続ける気なくしたので、本編を進めようと思います。

 相変わらず突っ込みどころ満載;


 次回は、待ちに待った柘榴石の魔女の登場……予定。

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