表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
レステファルテ国王都編
47/340

第八話 殻状都市オルセリアン 1 



 ――はあ、どうしましょう。困りました。


 彼女は大変困り果てていた。

 それというのも、少し眠っている間に、自分が景品とされていた為だ。

 眠っていたのは、孤島にある塔の中で、人間が見つけるのは難しい場所だった。

 完全に油断していたので、起きた時には心の底から驚いた。


 ――困りましたねえ、どうしましょう。


 端から見ると、本当に困っているのか疑わしい程、彼女は落ち着いていた。

 それというのも、彼女は生来おっとりさんだったので、慌てるということをしたことがなかったのである。

 のんびりしているが、とても困っているのは本当だった。


 ――ここで逃げてしまったら、番人さんに迷惑がかかってしまいますし。


 加えて、とてもお人好しだったので、誰かに迷惑をかけるのが嫌で困っていたのだ。


 逃げるだけならば、彼女はいつでもできた。

 彼女はしばらく悩んだ末、妹達に助けを求めることにした。

 ちょっと困ったことになったので、助けて頂けませんか、と。


 妹にすら腰の低い態度である。

 彼女は助けを求めると、久しぶりに力を使って疲れてしまい、またうとうとしてきた。


 どうせ人の姿に戻れないのだから、寝ても構わないだろう。

 そう判断すると、彼女は再び眠りについた。

 


 宝石箱の中で、大粒の柘榴石は美しく輝く。

 それが命ある魔女であるとは、宝石を見つけ出して献上したトレジャーハンターは露と思わなかったことだろう。宝石を守る番人もまた。

 彼女は彼女であることを知られぬまま、深い眠りに沈んでいったのだった。


     *


 ひどい!


 サマンサのことで頭の整理をする為に寝ていて、夕飯時に起きたら、すでにケイ達四人はいなくなっていた。


 一言くらい、あいさつをしていってくれてもいいのに。やっぱり、ひどい!


 マエサ=マナから王都までの旅程七日のうち、最初の日、ピアスはふくれていた。

 これでもプロを自負している冒険者なので態度には出さないが、内心は荒れすさんでいた。少しの間の付き合いとはいえ、それなりに仲良くなれたと思っていただけに、別れのあいさつもなかったのが腹が立ってしょうがなかった。


 二日目は少しおさまった。

 三日目。やっぱりむかむかしてきた。女性冒険者が他にもいるからとこの隊商の護衛依頼を受けたのに、サマンサは死んでしまうし、他の女性には客のフランジェスカがいたが、彼女も一緒にいなくなったわけで。つまるところ、男所帯が息苦しくなってきたのだ。


(女だからって見くびってくれちゃって……!)


 周りの男達が、ピアスがとても綺麗な顔立ちをしているせいで色目がちな目で見ているとは、ピアスはまったく気付いていなかった。


 レステファルテ国やパスリル王国、その他周辺国の常識ではピアスは美人だが、ピアスの生まれ故郷であるセーセレティー精霊国において、ピアスは美人に分類されていない。それどころか不細工なほうだった。


 豊満としていて肉厚的な――言うなれば、太った女性が美人だとされるセーセレティーの常識がどっぷりしみついているピアスは、まさか他の大部分の国では、程よく痩せた女性がもてるとは思いもしない。


 完全に、性別が女のせいで侮られていると思いこんでいた。


 隊商頭であるレナスの心配通り、王都までの道の途中にある岩山で盗賊が襲ってきた時も、盗賊に女だというだけで小馬鹿にされた時には我慢が限界で、あっさりぶち切れた。


 ピアスは〈赤〉と〈青〉のハーフだが、魔法は得意ではない。せいぜい、焚火に火をつけるとか、手を洗うといった程度の魔法しか使えない。だから、いつもなら短剣だけで戦うスタイルをとっている。だが、切れたピアスは、セーセレティーの民が使う秘儀を使うことに決めた。

 右上でパンパンと手を打ち鳴らし、くるりとその場で一回転する。


「我に(くだ)り、宿れ。汝、動物たる霊。名は猫」


 そう唱えた瞬間、ピアスは光に包まれた。光が消えると、丸かった耳は獣の耳に変わり、菫色の目の瞳孔は線のように細くなっている。


 周りは何が起きたか分からなかったが、ピアスと戦闘中だった盗賊は違いがはっきりと分かった。


 突然、ピアスの動きが俊敏になり、眼前から消えたと思えば、首の後ろに強烈な痛みが走って前へと吹っ飛ばされる。


 くるりと一回転して着地したピアスは、今度は岩山の上から矢を射かけてくる射手めがけ、岩山へ走る。軽い動作で、トトトッと(・・)を駆けあがり、目を丸くしている射手を身をひねって蹴り飛ばし、岩山から落とす。


「うわあ、なんだ! あの女!」


 他の射手が動揺して射かけてくる矢をことごとくかわし、一足飛びに隣の岩山に跳んで、またも蹴り落とす。


「上は任せて!」


 ピアスの声に、隊商護衛をしていたグレイや商人、サマンサ達四人の代わりに雇った黒狼族の女戦士二人は返事を返す。


 黒狼族達にかかれば、二十人程度の盗賊はそんなに怖いものではない。上から降ってくる盗賊を見もしないで避け、眼前の敵を(ほふ)り、やがて立っている敵がいなくなると、辺りは血の海と化していた。


 ピアスが蹴り落とすかナイフで足を刺して身動きを封じるかしかしていないのに対し、他の者達は容赦なく賊を殺している。


 ピアスも冒険者だ。賊に襲われれば反撃して命を奪ったこともあるが、正直、できるなら殺さないでおきたい。人殺しは好きじゃないというよりは、面倒だった。死体があるとモンスターが寄ってくるし、返り血を浴びればピアスにもモンスターが寄ってくるわけで。


(こんな所で血の惨劇って。ああ、嫌なモンスターおびき寄せなきゃいいけど)


 戦闘が終わって地面に下り、降霊術を解いて元の人間の姿に戻りつつ、ピアスは内心で溜息を吐いた。


「ピアスさん、すごいんだな。あれがセーセレティーの民が使う降霊術という魔法か?」


 レナスが褒めるように言う。ピアスは首を振る。


「魔法ではありませんよ。精霊を媒介にする術ではなく、契約を交わした低級霊を体に降ろすっていう術なので」

「霊とは。セーセレティーの人達は幽霊が見えるのか?」


 レナスは驚いたようだった。


「見える人もいますけど、大部分は違います。私達が踊りを好むのは知ってますよね? 踊ることである意味トランス状態になって、そこに寄ってきた霊と契約するんです」


 仮面をつけて舞うので、酸欠気味になって軽い恍惚状態というか酩酊状態になるのだ。そうすると、何故か周りの霊の姿が見える。踊りには型があり、その型でないと霊は見えないから、それを知る為にセーセレティーの秘儀と云われている。


 パスリル王国民のような熱心な白教徒にとって、セーセレティー精霊国民は邪教徒扱いだが、別に悪霊信仰をしているわけではなく、祖霊祭祀と精霊祭祀の傾向が強いだけである。ここに白教徒がいなくて良かった。


「それより、行きましょうレナスさん。こういう場所にはモンスターが寄ってきやすいですから」

「ああ、そうだな」


 ピアスの促しに、レナスは頷いた。盗賊達は放置して、再び隊商は進みだした。


     *


 その瞬間は、静寂をもって切り開かれた。


 ふいにグレイが馬で前に出て、馬を飛び降りてハルバートを構えた。


 続くように、黒狼族の女戦士エンラとリンレイが無言で左右に展開する。二人は二十代半ばほどで、どちらも漆黒の衣服に身を包み、上半身だけを守る皮製の簡易鎧を身に着けていた。短い黒髪と青目がエンラで、青みがかった長い黒髪を三つ編みにして黄土色の目をしているのがリンレイだ。エンラはやや小柄である。


 エンラは無言でボーガンを構え、リンレイは槍を構えた。

 前を見ていたグレイがハッと上を見ると、岩山の一番上から、大岩すら飲み込みそうな巨大な赤蛇が口を開けて突っ込んでくる所だった。


 目論見が外れて舌打ちするグレイ。

 そこをリンレイの〈黄〉の魔法がガードする。岩壁から急速に生え出た大岩が、巨大な蛇の横っ面を弾き飛ばす。蛇は隊商から離れた所に飛ばされ、落ちてズゥゥンと地面を揺らした。


「こちらは俺がどうにかする。先に行け。岩山を抜けた先、砂漠の中で待て。すぐに追いつく」


 グレイはレナスや他の護衛達に指示を出す。


「あれを一人でどうにかできるのか?」


 エンラが低く問うと、グレイは頷く。


「問題無い。むしろ、隊商がいると足手まといだ」

「……なれば、その言葉、信じよう。行くぞ、リンレイ」

「ああ。武運を祈る」


 エンラとリンレイは隊列に戻り、レナスを促してその場から去る。

 一人残ったグレイは大物を無感動に見つめ、少しだけ口端を持ち上げた。笑みのような仕草。


砂漠の悪魔(デザート・サーペント)、か。狩りがいがある」


 これでモンスターではなく動物なのが愉快だ。

 赤砂荒野に生息する、大型種の蛇である。

 グレイは右手だけでハルバートを振り回すと、刃を上にして構えの形をとる。

 一人で狩るのは初めてだが、どうにかなるだろう。護衛しながらの方が戦いにくい。グレイはソロでの戦闘の方が気兼ねなく戦える性質だった。

 シューシューと舌を震わせる砂漠の悪魔と睨み合い、やがて二者は激突した。


     *


 例によってサーシャリオンの手助けを勝手出た下位モンスターの背に乗って、修太達は空を飛んでいた。

 空を飛ぶと、徒歩だと三日かかる距離でも軽く一日で飛べるのだ。夜明け前から飛び出して、時折休憩を挟みつつ、午後三時頃には王都までの道にある赤砂荒野の中の岩山に差しかかっていた。


 赤い色をした大型の鳥モンスター二羽に二人ずつ分乗し、空を駆けていると、岩山を見下ろしてモンスターが「ギュアア」と鳴いた。


「血のにおいがするそうだぞ」


 サーシャリオンの通訳を聞き、何げなく渓谷のような岩山の底を見る。


「うわっ」


 修太は思わず口元に手を当てた。

 白い麻の衣服に身を包んだ男達の死体がいくつも転がっている。


(勘弁してくれよ……)


 海賊船以来だ、こんな光景を見るのは。

 急に胸焼けを覚えた時、少し先で砂煙が上がっているのが見えた。近付くと、ドォンと地響きのような音もしている。


 啓介と相乗りしているフランジェスカが、啓介の後ろから下を指差した。風音がきつくて声を聞きとれないので、指で合図したのだろう。どうやら下りようと言っているらしい。


「ええ、行くのか?」


 修太が嫌そうな顔をしたのは遠目でも分かったのか、フランジェスカが眉を吊り上げ、腰の剣に手を当てる仕草をした。


 渋るんじゃない、クソガキ。たたっ斬るぞ。


 そういう意味だろうか。うん、そんな気がする。

 フランジェスカの言いたいことが分かるのが嫌だ。それだけフランジェスカの悪態に慣れてきている自分も嫌だ。


「サーシャ、下りようってよ」


 自分の前に座っているサーシャリオンの背中を軽く叩く。


「ふふ。なんだか面白そうなにおいがするな」


 楽しげに言いながら、下に下りるようにモンスターに促すサーシャリオン。

 面白そう? 厄介事の間違いだろ。

 修太は正義感の強い騎士殿の催促に、そっと胸中で嘆息するのだった。


     *


 力量は五分五分といったところだった。

 なかなか決着が着かないのにグレイは焦れ始めていた。ほとんど膠着(こうちゃく)状態で、大蛇と睨み合う。

 頭から突っ込んでくる砂漠の悪魔を、跳躍でもってかわし、宙で反転し、ハルバートの先についている穂先で頭を刺す。


(――固い)


 僅かな手ごたえしかなく、そのまま身をひねって、砂漠の悪魔の背に片足で着地、また跳んで、三歩程背の上を跳んだところで、尾に行き当たる。


「はああ!」


 気合いとともにハルバートを一閃する。

 重い手ごたえとともに、蛇の尾が斬り飛ばされる。赤い血がはね、金臭いにおいが鼻をつく。


「ジュラララァ!」


 砂漠の悪魔の悲鳴が上がる。

 激昂した蛇は、鎌首をもたげ、口から何かを勢いよく吐きだした。

 よけると、じゅっという音がして地面が焦げた。紫色の液体は、猛毒といったところか。


「……面倒な」


 流石にあれを食らうと軽い怪我では済まなそうだ。

 さて、どう料理してやろうかと思案した時、乾いた空を切り裂いて、頭上から光が落ちてきた。


「ジュラァァァ!」


 雷が砂漠の悪魔に命中し、砂漠の悪魔は断末魔とともに体中から煙を出して倒れた。


「…………」


 無言で空を見上げる。偶然にしてはでき過ぎている。


「おーい、大丈夫かー?」


 鳥モンスターの背に乗った人間が、手を振りながら何か叫んでいる。

 モンスターを操る人間なんて、一組の旅人しかグレイは知らない。


「……またあいつらか」


 余計な真似を、と思ったが、護衛の仕事に差し支えるから助かったというべきだろうか。

 グレイは表情を変えることはなく、内心でそんなことを考えた。


    *


 啓介が試しにと言って魔法で雷を落としたのには驚いた。

 こいつができる奴なのは知っていたが、それでも雷を落とすなんていう非科学的なことが目の前で起きたので、修太はかなり驚いていた。


 光の魔法を使う〈白〉はいいなあと思った。〈黒〉は鎮静か魔法の無効化だから、身を守るには少々心許ない。特に人間相手は。

 〈白〉だったら、妙な輩に因縁をつけられたとしてもスタンガン代わりにちょいっで終わりだろう。


 しかし、山みたいな大きさの蛇と互角にやりあっているなんてどこのどいつだと思ったら、グレイだったのにはまた驚いた。

 つくづく縁がある男である。


「お兄さん、すごいなあ。こんな蛇と斧で戦うなんて。俺だったら怖くて逃げちゃうよ」


 地面に降りた啓介が感心しきりに言うと、グレイは無表情のまま啓介を見る。


「あんなすさまじい雷を落とす奴に言われたくない」

「す、すみません」


 グレイの無感動という名の睨みにびびったのか、啓介はすぐさま謝った。ややしょんぼりした啓介に心動かされたのかは、グレイの顔面筋を見る限りさっぱりだったが、グレイは一応感謝の言葉を付け足した。


「手助け感謝する。隊商を待たせているから、俺はこれで失礼する」


 あっさりと言い、岩山の隅に隠れていた馬のもとに行き、馬上の人となると、グレイは岩山の奥へと駆けて行った。


「三日ぶりに見たが、無表情ぶりは変わらないな」


 フランジェスカがどこか呆れた様子で呟く。


「安心しろよ。フランの無愛想な顔も会った日から変わってねえから」


 修太がにやりと笑むと、フランジェスカも嫌味っぽい笑みを浮かべた。


「貴様も変わってないぞ。嬉しいだろう?」

「…………」

「…………」


 修太とフランジェスカの間で、無言のまま火花が散る。

 一度でいいからフランジェスカを言い負かしてみたいのだが、口が達者なので勝てない。


「隊商がすぐそこにいるのか……」


 なんだかとても心ひかれた様子でグレイの向かう方を見る啓介。どこかぼんやりしている。

 この様子。

 やはり勘違いでも見間違いでもなく、そうなのか。

 修太は何となくそうじゃないかと思っていたことを、再認識した。


「ケイ殿、隊商の方々に会いたいのか?」


 気付いていないフランジェスカがストレートに訊くものだから、修太はフランジェスカの小脇を右肘でつつく。

 眉を寄せるフランジェスカに、ひそひそと言う。


「おい、察してやれよ。啓介にやっと春が来たっぽいってのに。あからさまに訊くなって」

「春? この暑さで何が春だ」

「そ、う、い、う、意味じゃ、ね、え」


 日本の言い回しだと通用しないのか。っていうか、察し悪いなあ、この女。


「――で、サーシャはさっきから何してんだ」


 こっちが大事な話をしているというのに、サーシャリオンは蛇の死骸に近付いて、おもむろに鱗をべりべり剥がしては地面に積み始めていた。気持ち悪いからやめてくれませんかね。


「人間はこういうものをアイテムクリエートの素材にするのだろう? せっかくこんなに巨大な蛇の死体があるのだから、活用してやれと思ってな。肉を食らってもいいが、蛇は少々生臭いから我は好かない」


 うん。とりあえず肉の味の好みはどうでもいいかな。

 修太は蛇肉を食うという考えを、真っ先に思考の外へ追い出した。しばらく肉を食べたくなくなりそうだから、そういうことを言わないで欲しい。


「確かに良い鱗だ。透明で、ガラスの代用品になる」


 サーシャリオンがはがした鱗を手に取って、光にかざして目を細めるフランジェスカ。


「これを手土産にすれば、あの隊商の頭もまた快く一行に加えてくれそうだと思わぬか?」

「確かに」


 レナスは商人だ。商人が多く存在するこの国では、どんなものでも活用しそうだ。商人というものはそういうものだろう。


「俺、手伝うよ」


 隊商に加わると聞いて、急にやる気を覚えたのか、啓介が腕まくりをして蛇の死骸に近付く。

 そして鱗の一枚を手で掴み、思い切り引っ張る。取れない。それで左足を添えて踏ん張って引っ張る。それでも取れない。

 うろんな顔で、べっりべりと軽快に鱗をはがすサーシャリオンを見る啓介。


「なんだよ、だらしねえな」


 修太も参戦してみるが、やはり取れない。

 フランジェスカもまた試したが、サーシャリオンみたいにはがすのは無理だった。


「お前、どうやってはがしてんの?」


 修太が納得いかないと低い声で問うと、サーシャリオンはにやりとする。


「我がモンスターなのを忘れておらぬか?」


 そうでした。面白い事が好きで、寝るのが趣味みたいな怠惰な竜でしたね。


「はがしてやるから、大人しく待っていろ。いやあ、面白い。そういえば、我も鱗の手入れをしなくてはなあ」

「え、何。手入れってどうやってするの?」


 啓介が興味津津の目を向けると、サーシャリオンは口端を上げる。


「鱗の生え変わりの時期があってな。古い鱗を自分で抜くのだ。すぐに新しい鱗が生えてくるから、痛くもないしの。そういえば、人間は竜の鱗を素材にしていたな。ほんに馬鹿で可愛いよ。我らと同じものを身に着ければ強くなれると勘違いする辺り」


 くくくっと肩を震わせるサーシャリオン。


「同じ人間として居たたまれなくなるから、そう言うのはやめてくれ。それから、竜の鱗は貴重な素材だが、加工できる者は人間ではほとんどいない為に伝説級素材とされているんだ」


「硬すぎて使えないってことか?」


 修太の問いに、フランジェスカは頷く。


「そうらしいな。ドワーフなら好きに扱えるそうだが」

「へえ、フランさん、詳しいね」


 目を丸くする啓介。フランジェスカはあっさり頷く。


「そうだな。父が鍛冶屋をしているから、素材に関する知識は少しくらいはあるんだ。それでだろう」


 そんな話をしている間にも、鱗は山を築いていく。

 もうそろそろ百枚になりそうというところでも手を止めないサーシャリオンを見て、流石に止めることにした。


「もういいんじゃないか、それくらいで」

「む? ああ、真だ。はがすのが楽しくて、時間を忘れていたよ」


 やたら熱心にべりべりはがしていたのは、単純に楽しんでいたかららしい。シールをはがして喜ぶ子どもか、お前は。老成している割に、ときどき妙に子どもっぽいことをする。


「せっかくはがしたのだ、全部持っていけ。指輪に仕舞えば重くもないだろう」

「……そうだけどさ」


 鱗一枚がハードカバーの本くらいの大きさだから、なかなかの量である。こんなに使うんだろうか。


 俺はいらないなあと思いつつ、邪魔になったら使いそうな人にあげるか、買い取ってくれそうな所で売ればいいかなと思う。これだけ綺麗なのだ、芸術的価値もあるだろうし。


 啓介と修太で半々に分けて持つことにして、旅人の指輪の中に仕舞いこむ。エルフに貰ったブラッドストーンや森狼の牙といい、ポナやピリカに貰った岩塩といい、着々と素材じみたものが貯まりつつある。持っていても仕方ないから、どこかで清算したいが、持っている金にも余裕があるので、金に替える必要性も感じない。贅沢な話だ。


「なあ、もう行こうぜ」


 啓介がそわそわと先を促す。


「ああ、勿論だ」


 その態度をやや不思議そうに見ながら、頷くフランジェスカ。


「またよろしくな、鳥さん」


 啓介が鳥モンスターに声をかけると、鳥モンスターは楽しげに「ギュルア」と鳴いた。



 タイトルは、殻状都市【かくじょうとし】と読みます。造語。

 章題をもっと物語性のあるものにしたいんですが、思い付かなかったので、色気も何も無いタイトルになりました。第一話みたいなのがいいんだけどなあ。


 最初の方はサブキャラ視点で書きました。

 導入部分以外は、あんまりこういう書き方しないんだけど、まあこういうのもありかな。

 本当は、主人公視点から出来るだけぶれないのがルールといえばルールなんですがね。まあ三人称だから出来る書き方かなあ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるーく活動中。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ