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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
旅の終わり
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 8



 三十分ほど休憩すると、ルインはようやく動けるようになった。

 ルインとハンナはバ=イクを初めて見たようで、スノーフラウ・改を囲んで、興奮気味に騒ぐ。


「わあ、これ、どういう仕組みで浮いているんだ?」

「これがエルフの英知なの? すごい! 図録本でしか見たことがないわよ」


 鍛冶や細工を得意とするドワーフの間で育ったせいか、ルインとハンナは未知の技術に目を輝かせている。


「全部済んだら、ゆっくり見せてやるから、行くぞ。魔女を放っておくと危ないんだって」


 軽食もとって元気を取り戻した修太は、まとわりつくルインとハンナを追い払う。


「約束だぞ」

「約束よ」


 兄妹がつめよるので、修太はこくこくと頷く。本気すぎて怖い。


「エルフの浮遊技術を、ドワーフが使えるようになったらいいのに。上手くいった試しがないのよ」

「鉱石や重い荷物を運ぶ時、便利なのにな」


 二人はそんなことを言いあって、残念そうにしている。修太はエルフが非力すぎて、浮遊技術を作り出したことを知っているので、微妙な気持ちにさせられる。


「ルインは後ろに乗れよ」

「え、いいのか?」

「さっきまで動けなかったんだから、無理をしないほうがいい」

「ありがとう」


 ハンナはうらやましそうな顔をしたが、ルインが怪我をした原因がハンナをかばったことなので、何も言わない。バ=イクを起動させると、ふわりと宙に浮く。仲間達も歩き始めた。


「そういえば、皆さんはどちらから地下に迷いこんだんですか?」


 ルインが思い出したように質問した。修太達は返事に困り、サーシャリオンを見た。サーシャリオンはむすっとして、嫌そうに答える。


「我の家からだ。掘り神が穴をぶちあけた」

「掘り神様、地上に出たんですか?」

「いいや。我の家は、地下へ伸びる塔ゆえな」

「はあ。ダークエルフの家って変わってるんだなあ。そんなものがノコギリ山脈にあったとは知らなかった」


 神竜のダンジョンだと真実を告げるわけにもいかず、修太と啓介は気まずく思いながら視線をかわす。

 それからしばらく黙々と歩いていくと、ふいにルインが険しい声を出した。


「まずいな。大穴がこのまま進んでいるなら、グランルートに当たるぞ」


 まるでルインがそう言うのを待っていたかのように、大穴の先から悲鳴や怒号が聞こえてきた。

 グレイが耳元に手を当てながらつぶやく。


「心配が当たったようだな。これくらいなら、そこまで遠くない」

「急ごう! ドワーフの人達が危ない!」


 啓介がダッと走り出し、修太達も移動速度を上げる。

 そして進んだ先で、先導していたグレイがスッと右手を横に出した。


「止まれ」

「うわっと、なんだこれ。崩落してる!」


 啓介が大穴の先を覗いて、大きな声で言う。

 どうやら掘り神様の開けたトンネルはどこかにつながり、崖になっているようだ。


「ここ、グランルートだわ! よりによって、一番大きな地下都市に掘り神様が来るなんて!」


 さらに啓介の傍に並んだハンナが悲鳴を上げる。

 修太も皆に遅れて、バ=イクで宙に浮かんだまま崩落地点に近づく。

 一瞬、状況も忘れ、修太は目の前の景色に息を飲んだ。

 地下都市と呼ぶのも当然だ。広々とした鍾乳洞は、町がすっぽりとおさまるほどの大きさだ。空はない代わりに、岩肌の天井にはヒカリゴケが淡く輝き、あちらこちらに置かれた人工光はまばゆいばかりである。そんな場所に、石でできた家がひしめいている。階段状の集合住宅になっているものもあれば、畑や家畜も見られる。


「わあ……。って、驚いている場合じゃなかった。掘り神様はどこだ?」


 地下都市は明るいが、ここからは修太には遠すぎてよく見えない。

 グレイの足元にしゃがんだトリトラとシークは、目の上に手でひさしを作って、地下都市を見回す。


「あ、あれだ。低いほうに向かってる」


 トリトラの指さすほうには、でかい図体のわりに静かに素早く進んでいく巨大ルグーの姿があった。


「速すぎだろ」


 まるで水中を泳ぐように、地面をえぐりながら進むルグーの姿には、恐ろしささえ感じられる。幸い、大きな通りや広場を進んでいるが、目の前にあるものはなんでも破壊している。ドワーフが悲鳴を上げながら、逃げ惑っていた。


「なんとか重傷者は出ていないようだが……」

「あの方々が化け物だと叫ぶのも分かりますわ」


 フランジェスカがつぶやき、ササラは理解を示す。

 掘り神様には限られた者しか近づけないルールだと、ハンナが言っていた。自分の目で見たことがない者からしてみれば、掘り神様はモンスターのように見えるのだろう。怒って魔法をぶつけている者までいるが、掘り神様はびくともしない。

 掘り神様が進む先に気づいて、ルインがわっと声を上げる。


「まずいぞ、掘り神様、採掘坑のほうに進んでる!」

「兄さん、黄色い旗が出てる。皆、仕事に行ってるのよ。このままだと、大惨事だわ!」


 サーシャリオンが後ろから声をかける。


「ふう、やれやれ。我は先に行く」

「え?」


 修太が振り返った瞬間、サーシャリオンの姿が影の中に沈んだ。

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