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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
旅の終わり
337/340

 5



 修太達はサーシャリオンが操る風の魔法に乗り、地底の塔の最深部に降り立った。

 エレイスガイアに来てすぐの頃、そこで黒い竜体のサーシャリオンが眠っていた。あの時は狭く見えたが、ドラゴンがいないだけで、かなり広い場所のようだった。


「我の寝床ぉぉ」


 サーシャリオンは悲しい声を出して、その場に座りこむ。

 大穴が開き、前にサーシャリオンが竜体で丸まっていた辺りに土砂や瓦礫が流れこんでいる。


(お気に入りのベッドが、突然やって来た知らない人に、めちゃくちゃにされた感じか?)


 想像してみると、サーシャリオンがかわいそうになってきた。啓介とピアスがサーシャリオンに寄り添い、肩に手を触れる。


「サーシャ、元気を出して」

「まずはあの断片をどうにかしましょ。片づけなら手伝うわよ」


 二人に優しくされたことで、サーシャリオンは少し気持ちを持ち直したようだ。

 修太はほっとして、途中で見たことについて質問することにした。


「サーシャ、ダンジョンに穴が開いて、モンスター達は無事なのか?」

「巻きこまれたのは氷スライム程度だから、死んではおらぬ。そのうち地の妖精が救い出すだろう」

「へえ、あんまり見たことないけど、スライムって強いのか?」

「生命力はかなり強いが、ほとんど害にならぬよ。たいていどこにでもいて、小さい上に、微生物や腐ったものを分解する程度だな。堆肥作りには役立つゆえ、虫でいうならばミミズみたいなものだ」

「ミミズ~?」


 いまいち例えがよく分からないが、実は農家には人気のモンスターだったりするのだろうか。


「なあ、サーシャ。素朴な疑問なんだけど、氷スライムは氷を食べるの?」


 啓介の問いに、サーシャリオンは笑う。


「氷雪地帯でも動けるスライムというだけで、氷を食べるわけではない。その辺を動き回って掃除しておるだけだ。ダンジョンとはいえ、自己修復機能があるわけではないから、放っておくと汚れるからのう」


 どうやらスライムは掃除人要員らしい。


「皆、雑談は歩きながらしてはどうだ? 青石の魔女を追わねば、面倒なことになるのではないか」


 のほほんとし始めた場に、フランジェスカが冷静な指摘を投げる。


「うむぅ、そうさな……」


 サーシャリオンは立ち上がり、じっと暗闇の先を見つめる。


「我の寝床ほどの深さに、ドワーフの国があるものだろうか。そうだとしたら、あやつらはあの断片に国を荒らされることになるぞ」

「大変じゃないか!」

「途中でまた眠ってるといいけどな」


 顔色を変える啓介に、修太は楽観的なことをつぶやく。


「ですけれど、そこをまたあの方が爆破させたら、崩落の危険がありますわ。――ところで、先ほどの方はいったいどういうお知り合いなのでしょうか」


 ササラがそっと口を挟む。ササラはサフィとは初対面だということを、修太は思い出した。


「あ、そっか。双子山脈でのことは、スオウに行く前だったもんな」

「歩きながら話すよ。何が狙いか分からないけど、放っておくわけにはいかない」


 啓介は先に進もうとうながして、トンネルのほうへ歩きだす。


「ケイ、我が先頭を行く。足元がガタガタしておるから、転ばぬように気を付けて、ついてまいれ」


 掘り神様が造った横穴は、大雑把なものである。そんな道を、サーシャリオンはヒールで器用に歩いていく。

 修太は数歩歩いた所で、この少年の体では、大人達よりも歩きにくいとすぐに気づいた。旅人の指輪から、スノーフラウ・改を呼び出す。


「俺はスノーフラウに乗るよ。ピアス、荷台に乗るか?」

「乗る乗る! やった!」

「いいなあ。シュウ、後で俺も乗せてよ」

「それなら、ケイ。交代で乗りましょ」


 啓介がうらやましそうに言い、ピアスが和気あいあいと返す。

 一方で、ササラは不安げにきょろきょろしている。


「このような地底にも、モンスターや猛獣はいるのでしょうか。気を付けないといけませんね」

「虫の類はいるかもしれぬな。ランプに虫よけの油を入れておこうか」


 フランジェスカがハッカ油を取り出すと、トリトラがすぐに否定した。


「ちょっとやめてよ! こんな場所でそんなものを焚かれたら、鼻が馬鹿になるじゃないか」

「ああ、それもそうか。悪かった」


 フランジェスカはハッカ油入りの小瓶をしまいなおし、カンテラを持ち直す。他には荷台にいるピアスが魔具ランプを持っているだけだ。夜目の効く黒狼族達は薄暗いしんがりにいても、足取りが軽い。


「双子山脈で見たようなでかい虫は、俺でも勘弁だぜ」


 修太は思い出してうんざりしながら、スノーフラウの電源に魔力を注いで起動させる。そして、掘り神様が開けたばかりの未知の横穴に向けて出発した。

 この先にはいったい何があるのだろうか。

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