第四十三話 ドワーフの地下都市グランルート 1
レステファルテの奥まった砂漠の西側から、ノコギリ山脈に入った。
急峻な山脈も、この辺りはいささか低い。山頂部はまだ雪が残っているようだが、ふもとの白灰の岩肌には、草花が咲いている。
北が暑く南が寒いので、相変わらずエレイスガイアの気候は変わっている。
「そういえば、この辺に抜け道があったね」
「ああ、トリトラ。師匠が仕事で留守の時、ここいらをうろついてたもんな」
ハインが迷いなくノコギリ山脈に踏み入れる背を眺めながら、トリトラとシークが話し合う。ハインが肩越しに振り返った。
「よく迷わずに着いたな。この辺は流砂があるんで、慣れた者以外は近寄らないんだ」
「獲物を追ううちにね。砂漠の歩き方は、僕らにはなんてことはないよ」
トリトラはあっさりと返したが、修太や啓介は、ときおり見かける大きな蟻地獄の穴を見つけて、いちいち驚いていた。墓場砂漠と違い、こちらのほうが小さいせいで、巣穴は目立たない。
砂漠に慣れない修太達が足を踏み外す前に、グレイらが注意してくれたから、とりあえずは生きている。
「パスリルの関所が東にしかないわけだな」
フランジェスカがつぶやいた。比較的安全なルートにだけ、関所が設けられているらしい。それ以外は、危険な断崖を越えるか、急峻な山脈を通らなければ、レステファルテ側からはパスリルには入れない。
いがみあう二つの大国がこれまで戦争にならなかったのは、ノコギリ山脈のおかげだ。
「お前達は東のほうに行きたいんだったか」
ハインが確認するので、フランジェスカが返事をする。
「銅の森方面だ」
「よし、じゃあ、関所の連中に見つからないように、案内してやるよ」
それからハインはあと少しで街道に出るという位置まで、道なき道を通っていった。黒狼族の身軽さだから問題ないだけで、人間達は少し手間取った。
「ドワーフもあんな道を通るの?」
ようやく平行な足場に着いたところで、ピアスがうんざり顔で訊く。
「ドワーフは秘密の地下通路を使うさ」
「そうだったわね、ずるいわ。それにしても、モンスターがいないから良いけど、襲われたら最悪じゃない?」
「まあな。今回はそこの坊主がいるから、こっちにした」
ハインは、魔動機に乗っている修太を示す。この言いよう、どうやら他にもルートはあるようだ。
「近道だが、足場が不安定なのが玉にきずでね」
「ありがとう、ハインさん。雪が残る山脈なんてうろついたら、事故にあうかもしれないから、助かったよ」
啓介が笑顔で礼を言った。ハインが確認する。
「ここまで来れば大丈夫か?」
「うん。兵士もうろついていないようだから、あとはこちらでどうにかするよ。とりあえず、サーシャのダンジョンに行ってくる。家族と会っても、やっぱりセーセレティーに行くつもりなら、一週間後にここに来てくれ」
啓介の言葉に、ハインは頷いた。
「何から何まで、世話になった。お前達の親切には、感謝している。断片とやらが見つかるといいな」
ハインは手をひらつかせ、修太達に行くようにうながす。
修太達が街道に入り、サーシャリオンのダンジョンがある遺跡のほうへ向かい、途中で振り返ると、米粒みたいに小さくなったハインの姿は、まだそこにあった。修太達が完全に見えなくなるまで、ハインはじっと見送ってくれていた。
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