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黒狼族は一週間は飲食や睡眠をとらずに動き回れるし、一日に三時間ほどの睡眠で事足りるそうだ。
しかしハインはかなり疲れていたようで、それから翌朝まで眠り続けた。
翌日、テントの入口から差し込む朝日の眩しさで、修太は目が覚めた。
野宿の時は、何かあったらすぐ動けるように、寝間着には着替えず、旅装のままだ。
ポンチョをはおってからテントを出ると、美しい朝焼けの砂漠が広がっていた。空気はキンと冷え、どこか湿ったにおいがする。
気温を調整してくれる魔法陣つきのテントのおかげで快適だが、これがなかったら旅はずっとしんどかっただろう。なんとなくオルファーレンへと感謝してから、修太はブーツに毒虫が入り込んでないか入念に調べ、ようやく履く。
皆、まだ寝ているようだ。
焚き火番をしているフランジェスカがこちらを見たので、軽く手を上げて挨拶とする。すると、ちょうど起き上がったハインがぽかんとしていた。
修太はそちらに近づいて、小声で言う。
「おはよう、おじさん」
「ああ、おはよう、坊主。もしかして、朝か? すっかり寝過ごしたようだな」
昨日のように、相変わらずばつの悪そうな顔をして、ハインは頭をかく。薄っすらと伸びた無精ひげですら、渋さを増すアクセサリーなので、黒狼族の顔面偏差値の高さはすごい。
「疲れてたんだから、仕方無いだろ。体調はどう? まだ死にたい気分?」
修太が率直に問うので、フランジェスカに突っ込まれた。
「おい、他に言い方はないのか、クソガキ」
そこへ、岩の上からグレイが音も無く下りてきた。
「ご機嫌いかがってか。シューターのほうが分かりやすい」
「さらりとひいきするな」
グレイの軽口に、フランジェスカは嫌そうに返す。
「父さん、おはよう」
「おう。一晩中、上で見張っていたが、特に兵士の姿もない。ここいらは安全だ」
修太のあいさつに、グレイは頷く事で返事をして、フランジェスカに話しかける。
「それは良かった」
「おい、父さんってなんだ。お前、結婚したのか?」
ハインが口を挟むと、グレイは否定を返す。
「いや。最近、養子にした」
「養子か。それにしちゃあ、雰囲気が似てるが」
「悪かったな、容姿は劣ってて!」
思わず修太が噛みつくと、グレイが呆れた声で言う。
「そんなことは言ってないだろ。ありもしない裏を読むんじゃねえ」
「まあ、確かに坊主は普通だがよ」
どうやら余裕が出てきたようで、ハインは修太をからかった。
「それで、ハイン。どうなんだ? まだ死にたいか」
「いや。坊主達の言うとおりだな。清潔にして食事をとって、ぐっすり寝た。それで朝日を見たらどうでも良くなった。お前達の親切には感謝しているよ」
ハインは薄く笑った。まだ顔つきは強張っているが、あんなことがあったのだ、仕方ない。
「しばらく俺らと来ればいい。昨日の通り、恐ろしく変な旅になるが」
「それについて、ぜひとも詳しく教えてもらいたい」
「ああ、そうしよう」
グレイはハインの傍に腰を下ろし、片膝を立てて座る。
「話すのはいいけど、おじさん、起きたばっかだから、のどが乾いてるだろ。はい、お水。果物もあげるよ」
旅人の指輪から水瓶やコップ、果物を取り出す修太を、ハインは引き気味に見ている。
「いや、だから、どこから出して……」
ハインは溜息をつき、とりあえずコップと果物を受け取ってから、グレイの話に集中することにしたようだ。
「父さんもいる?」
「水だけもらう」
「見張り、お疲れ様。仲間で水入らずってやつ? 仲良くやってくれ」
修太がコップを差し出すと、グレイはけげんそうにする。
「仲良くってなんだ。気持ち悪い」
「やめろよ、坊主。同胞とはいえ、男同士で馴れ合わねえよ。ただの情報交換だ」
修太の表現は、黒狼族の男には不興だったようだ。
「シューター、大人同士の話し合いを邪魔するんじゃない。こっちに来い。暇なら手伝え」
「子ども扱いすんなよな!」
フランジェスカに言い返したものの、修太は素直に従った。協力すれば、早く朝食にありつけるのだ。
初めてスマホから投稿してみましたので、変なとこあったら、後でなおしますね。