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縄で縛られ、修太達は海軍要塞に連行された。
どうしても、先ほどの処刑場のことが頭をよぎる。最悪の事態を考えて、修太は吐きそうな気分だった。
(このまま処刑されるんだろうか。ごめん、オルファーレン、あとちょっとなのに!)
冷静に考えれば、そんな危機をサーシャリオンが放置しているわけはないのに、静かにパニックになっている修太は、エレイスガイアの創造主オルファーレンに謝り倒していた。
そのまま、奥まった位置にある立派な部屋に通される。
中に入って扉を閉めるなり、兵士は胸に手を当て、敬礼する。
「サマル提督、ご命令通り、賊狩り殿とご一行様をお連れしました!」
「ご苦労、オド」
窓辺に立っていた赤髪の青年――サマルが振り返り、部下をねぎらった。
「……は?」
オドという名には聞き覚えがある。
修太がレステファルテで海賊にさらわれた時、官船に保護された。その際、船内を案内してくれたサマルの副官だ。焦げ茶色の髪を持つ地味な青年だったと記憶している。
(地味すぎて、印象に残ってなかった……)
道理で、グレイがまったく反撃に出なかったわけだ。
サマルは右手を上げてあいさつする。
「やあ、久しぶりだね。手荒な歓迎になってすまない。とりあえず、お茶でもしながら話さない?」
相変わらず、態度が軽い。呆れたのは修太だけではなかった。
「おい、サマル。どういうつもりだ。そいつが、お前が呼んでいるというから、大人しくついてきたが」
グレイが切り出すと、サマルは大げさに肩をすくめる。
「怒らないでよ、グレイの旦那。っていうか、君達、まだ一緒に行動してたんだね。驚いたよ。しかも、可愛い弟子君達も一緒じゃないか。その風変わりな団体で目立たないほうが無理じゃない?」
「うるせえ」
グレイは迷惑そうに言った。
「おお、相変わらず怖いねえ。最初は勘違いだと思ったんだよ。グレイの旦那には、そんな年の子どもはいなかったからね。いやあ、演技とはいえ、あの父親っぷりにはだまされたよ」
オドが手早く縄を解くのを横目に、サマルはつらつらと話す。修太は軽く手を上げ、サマルに問う。
「サマルさん、もしかして、あの処刑場にいたんですか?」
「いたよ。処刑を見届けないといけないからね。たとえ重罪の犯罪者でも、命を奪うならば目に焼き付けるのが、僕の責務だ」
そう断ってから、サマルは急に焦りを見せる。
「あ、誤解しないでくれよ。さっきの彼は、黒狼族ではないから」
「違うのか?」
意外そうに問うグレイに、サマルは苦い顔をする。
「処刑予定だった、別の犯罪者だ。身代わりにして、本物は逃がすつもりで準備していたところだ。君達と一緒に外に出すから、連れていって欲しい」
「どうしてそんな真似をする? バレたら、お前、ただでは済まんぞ」
グレイの声には、不可解と呆れの両方が含まれている。どうしてサマルがそんなことをするのか、心底謎だと言いたげだ。
「なぜって、間違っていると思ったからだ。確かに、本物は兵士を殺した。だが、ちゃんと理由がある。その兵士は彼のプライドをめちゃくちゃにしようと、尾を切り落としたんだ」
グレイだけでなく、トリトラとシークもうめき声を上げた。
「君達が君達である証明の黒い尾を切っておいて、ただで済むわけがない。その一人だけを殺したのだから、彼はむしろ我慢したと思うね。それでも、周りの兵が怒って、彼を痛めつけたよ。人間だったらとっくに死んでいたはずだ」
「……そんなに、状況は悪いのか」
「レステファルテでは、奴隷は財産だ。それなりの扱いは受けるよ。だが、黒狼族は使い捨ての駒扱いされてる。とても見ていられない」
サマルの顔から表情が消える。
「申し訳ないと言うのすら、はばかられるくらいだ。グレイの旦那、黒狼族にはレステファルテ人を恨んでもらって構わない。それでも、僕は助けられる範囲で逃がしているんだ。もしかしたら、僕が黒狼族に生まれていたかもしれない。恥ずかしい限りだ」
何かの感情を浮かべることすら、サマルには気が引けるようだった。
「助けてくれる者を、恨むものか。サマル、感謝する」
グレイは、すっと右手を差し出した。
握手を求められ、サマルは驚きに目を丸くする。それから少しだけ泣きそうな顔をして、握手を返した。
「すまない、グレイ。それでも、僕はこの国の軍人だ。表だって助けられないことを、許して欲しい」
「これで充分だから、そう言うな」
グレイは手を離すと、修太を振り返る。
「それはそうと、先ほどの話だが」
「え? すごくあっさりと方向転換するね、いつものことながら」
面食らった様子で、サマルは苦い顔をする。
「シューターを養子にした。だから、特にだましてはいない」
「…………は?」
サマルだけでなく、オドの声も重なった。