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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
レステファルテ国 再会編
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 2



 定期船は一週間かけて進み、ようやくグインジエの港が遠くに見えた。

 レステファルテに近づくにつれ、暑くなっていく。海上は風が吹いていて涼しいが、部屋に入ると潮風のせいで肌がベタベタした。


 しかも、この小さな船は、レステファルテで乗ったことのある帆船(はんせん)よりも居心地が悪い。窓が小さいせいで部屋にいると気づまりするので、自然と修太達は天気が良いと甲板に出て、海を眺めて暇をつぶしている。


 帆柱(ほばしら)の影に立ち、サーシャリオンは暑さでうんざりしていた。リオンの外見をとっているので、残念さがすごい。


「サーシャ、断片について何か分かったか?」

「まったくだよ。サフィの気配はつかめぬから、近辺にはいないのだろう。エシャトールで聞いた風変りな村というのが当たりだといいな」

「行商人なら立ち寄るべき村って話だったっけ?」


 啓介とサーシャリオンが行商人のふりをしていたので、商品を多く仕入れた店の主人がこっそり教えてくれた情報だ。


「エシャトールの人は親切だな」

「あわよくば、その村との行き来で、エシャトールにも輸入して欲しいと言っていたから、打算が八割だろうよ」

「うわあ、抜け目がない」


 訂正、エシャトールの商人はしっかりしている。


「とりあえず、行ってみるしかないか」

「そうだよ、シュウ。考えたってしかたないよ。いつもそうしてきただろ」


 ひょこっと顔を出した啓介が、修太と肩を組んだ。楽しそうににこにこしている。


「行き当たりばったりってやつな」


 スキンシップがうっとうしい。修太が離れる前に、啓介はそのままひそひそ声で言う。


「そこな、モンスターの素材で装備品を作るのに長けている村なんだって。どんな場所なんだろうなあ。そもそも、よそ者は入れるのかな?」

「なんで小声になるんだよ」


「だって、エシャトールの人がここだけの秘密って言うから」

「素直か! いかにもな常套句(じょうとうく)じゃねえか」


 修太が啓介にツッコミを入れると、サーシャリオンが笑い出した。そして、啓介の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。


「はははは、ケイは可愛いなあ。よしよし」

「なんで子ども扱いするんだよ、サーシャ!」

「ちょっ、俺まで巻き添えにすんなよ。うわ、力が強すぎ。首がもげるって、いたたた」


 サーシャリオンにもみくちゃにされ、啓介と修太が抗議の声を上げると、フランジェスカとピアスが歩み寄ってきた。


「何をじゃれあっているんだ、お前達」

「仲良しねえ。でも、上陸準備で忙しくなるから、客は部屋に入るようにですって。行きましょ」


 よっぽどツボだったのか、サーシャリオンはまだ笑っている。啓介が珍しく不満げに口をとがらせた。


「俺、そんなに変なことを言った?」

「まあ、お前がたまに天然なのは、俺は良いと思うぜ」

「……? それはフォローになってるのか?」


 首をひねる啓介を放っておいて、修太はずれたフードを整え、客室のほうへ向かった。




 ようやく船を降りる段階になって、修太ははらはらと落ち着かないでいた。

 国境の関所のように、波止場(はとば)にレステファルテ兵の検問(けんもん)があるかもしれない。それで兵に囲まれて、黒狼族の三人が捕まり、修太達も手助けしたからと捕まったりして。


 レステファルテ国とパスリル王国間の関所に寄ったことがないため、実際がどんな感じか分からないところも、不安をかきたてる。

 修太が無愛想で、フードをかぶっているから動揺がばれていないだけだ。


「お前、何を(あせ)っているんだ? そんなに挙動不審だと、疑ってくれと言っているようなものだ」


 グレイの指摘に、修太はぎくりとした。


「えっ、なんで分かったんだ?」

「きょろきょろして落ち着かないし、焦りのにおいがする」

「しーっ!」


 そういう黒狼族っぽさは隠しておいてもらわないと!


 修太は急いで周りを見回す。下船する客達は荷物のことで忙しく、修太とグレイのほうを気にする者はいなかった。フランジェスカがゴホンとわざとらしくせきをする。


「そろそろ降りるぞ。分かってるな?」

「分かっている」


 端から聞いたら意味不明の会話だが、修太達の間では通じている。

 セーセレティー精霊国から来た、啓介とサーシャリオンという二人組の豪商に、屋敷の護衛と使用人だけでなく、冒険者の護衛二人が一緒にいる。あんまり人数が多くても不審がられるので、修太とグレイは同じ行先だから同行することになった設定だ。


(ちょっとこじつけすぎじゃないかと思ったけど、旅は危険だから、大所帯で移動するものらしいからなあ。金持ちなら、こんなもんでいいとは)


 ちなみに、屋敷の護衛がフランジェスカ、使用人がピアスとササラだ。冒険者の護衛二人は、もちろんトリトラとシークである。コウはいつも通り、修太の飼い犬だ。


「砂っぽくて日差しがきついね。皆も、体調には気を付けて。大丈夫? リオン」

「大丈夫に見えるか?」


 啓介が優しく気遣い、サーシャリオンは日差しよけのフードを深くかぶってうなだれる。


「こちらは空気がカラッとしているが、私はセーセレティーのほうが好きだ。スコールが降るから、まだ涼しい」


 いかにも外国人ですというやりとりだが、サーシャリオンの場合は、口調以外は本音だろう。


 そのまま客の波に乗り、定期船の側面にかけられたタラップを降りた。波止場には他にも何(そう)かの船が泊まっている。いつか見た、レステファルテの官船らしき大型帆船は奥のほうにあった。

 レステファルテ兵が巡回しているが、検問所はない。

 修太はほっとして、肩を落とす。


「行こうか、父さん」

「ああ」


 グレイは頷く。黒衣に灰色のフード付きマントをまとうのはいつも通りだが、彼の手にある武器は(やり)だ。定期船に乗ると決めた時に、町で手に入れたものだ。ハルバートは目立つので、修太が旅人の指輪に預かっている。

 もう昼過ぎだが、今日はこのままグインジエを出て、砂漠で野宿する予定だ。



 できそうなら後で更新します。


 次のページは、残酷描写があるのでご注意ください。暴力表現ではないんですが、この作品ではたまに出している厳しい世界観です。


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