第四十一話 オブリガンテ村 1
白波を立てて、船は進む。
船べりから半島の陰を眺め、修太は傍らのトリトラに話しかける。
「無事に火山地帯を抜けたな」
「君がいるから、彼らは船を襲ったりしないでしょ」
灰色のマントですっぽりと身なりを覆い隠したトリトラは、しごく当然という調子で言った。
エシャトールの港から、船でレステファルテ国のグインジエを目指している途中だ。
「商人から変わった職人の村があると聞いたはいいけど、お前ら、本当に一緒に来て大丈夫なのか? 別行動でも良かったのに」
「しかたねえだろ、場所が場所だから、鳥に乗っていくわけにもいかねえんだしさ。ま、どうにかなるんじゃね?」
船べりに座って、白い海鳥とたわむれながら、シークが適当に返す。こちらも灰色のマント姿だ。あんまりぞんざいな格好をしていると、黒い尾が見えそうではらはらする。
船上では、観光客達がパンくずで海鳥に餌付けしている。
修太も餌を買ってみたが、するどいくちばしを持った海鳥がいっせいに集まるのが怖くて、餌の入った袋を落としてしまい、そのまま海鳥に強奪されてしまった。
「なあ。この鳥、うまいのかな?」
指先にとまった鳥の脚を、シークは素早く捕まえた。まじまじと眺めてつぶやくシークが怖くなったのか、「ギェーギェー」とひどい鳴き声を上げて暴れる鳥。
「やめとけって、みんな、楽しんでるんだからさ」
「そうだよ。非常食にするんなら、ともかく」
修太に続いて、トリトラがそれでいいのかと思うようなことを言った。シークはパッと手を離す。海鳥は大急ぎでマストのほうへ飛んでいった。
陸地が近いので、海鳥は船を休憩所代わりにして、周りで魚をとっているのだ。観光客の餌を目当てにしてもいそうだ。
今日は快晴で、太陽はギラギラしているが、風はいい感じで吹いている。
「あ、そういえばさ。前に白い人が言ってたんだけど、彼には妹がいるんでしょ。どんな子なの? 教えてよ」
「雪奈のこと? やめてくれよ、違う世界からでものろってきそうで怖いんだ」
「本当に魔女なの?」
「人間だけど、おっかない奴なんだ。ブラコンで……って言っても分からねえか、とにかく兄であるケイのことを溺愛してて。ケイのストーカーなんかを全部撃退してた」
修太は遠くを見る目をした。
あの日々が懐かしい。
「俺が幽霊とか嫌いなのを知ってるくせに、俺への仕返しが、ホラー映画……怪談ものの劇の鑑賞とかでさ。ほんと、恐ろしい女だよ。啓介に、雪奈の悪いところを教えようものなら、何をされるか分からねえ」
「師匠とどっちが怖い?」
「雪奈に決まってんだろ!」
「そんなに!?」
トリトラはのけぞりがちに驚いて、首をかしげる。
「ええー、あのお人好し人間の妹でしょ? 想像がつかないなあ」
「見た目は天使、中身は悪魔だ」
「君がそこまで言うなんて、すごい悪女なんだね。ちょっと会ってみたいかも」
トリトラが興味を示し、シークがせせら笑う。
「性格が悪い者同士、お似合いじゃねえの」
「うわあ、手がすべったぁー」
「おわっ」
わざとらしい声でトリトラが言い、シークの腕を押す。シークは船べりから落ちそうになり、あわてて体勢を戻す。
「あにすんだ、トリトラ!」
「僕、性格が悪いからさー。ごめんねー?」
「まじで腹黒!」
二人がぎゃあぎゃあと口喧嘩を始め、修太はあまりのうるささに、耳に手を当てる。
「うるさっ。――あ、鳥がエシャトールのほうに帰っていく」
海鳥がいっせいに舞い上がり、青空に白い線を引いて、飛び去った。
定期船は、沖に出たようだ。
導入部をちょっとだけ。
第四十一話は、リクエストでいただいたサマルとの再会話と、以前から書くつもりでいた、モンスター素材で布を織る職人の村を出そうと思ってます。
変わった村があると聞き、断片はないかと訪れることにした修太達。
グインジエについたはいいが、街中でグレイ達黒狼族が兵士に見つかり、修太達は拘束されてしまう。
そして連れていかれた砦では、提督であるサマルが待っていた。
…みたいな感じですね。
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