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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
エシャトール国 夢を見る町編
313/340

 5



 日が落ちて、夜空に双子月が上った頃。

 迎えにきてくれたラングディドラムの背に乗り込んで、修太達は空を飛んでいた。

 この火山地帯でも、さすがに上空は寒い。だが、体の震えを忘れるほど、見事な景色が眼下に広がっていた。

 暗闇に浮かび上がるのは、硫黄ガスが燃える青い炎だ。線となって斜面を這い、不可思議な景色を作り出している。


「すげぇ……綺麗だ」


 修太にはちんぷな感想しか出てこない。


 ――あれを見るため、観光客がやって来るんだそうだ。硫黄ガスを吸い込んで死ぬ者もいるそうだから、人間とは変わっているよな。


 ラングディドラムはゆっくりと上空を旋回しながら、エシャトールの観光事情についてつぶやく。


「確かに綺麗だけど、命をかけてまで見たいとは思わんなあ」


 フランジェスカがそう言うと、皆も同意を返す。


「離れた山から見るんじゃ駄目なのか?」 


 シークの問いに、ラングディドラムは「さあ」と返すだけだ。


 ――オレにもよく分からんが、地形の問題ではないか? 遠くから見づらいのかもしれん。しかし、これだけのために、危険な山脈越えをするのだから、不思議な生き物だよ。


 ラングディドラムの手下モンスターは火山の周りに多いが、山脈のほうにもちらほらと棲みついている。登山だけで危ないのに、モンスターに襲われる危険もあるのだそうだ。


「硫黄の採掘所も危険地帯なのですか?」


 ササラの問いに、ラングディドラムは「いや」と返す。


 ――あちらは最短経路となるように、山脈にトンネルを作ったようだぞ。レディが言うには、エルフの魔動機(オートマ)――浮遊する車をロバにひかせて、荷や人を運んでいるんだそうだ。


「パスリルでも滅多とお目にかかれない品だぞ。エシャトールでは国宝クラスではないか?」


 フランジェスカが驚きをあらわにする。修太はセス達を思い浮かべ、フランジェスカに質問する。


「ああ、確か銅の森にいたエルフ達は、パスリルに税を納めてたんだっけ? その中に、魔動機が入ってたのか?」

「いや、彼らは金で納めていた。だが、その金を得るために、まれに魔動機を売りに出すことがあってな。王侯貴族や富豪の垂涎(すいぜん)(まと)だと聞いている。私のような一介の騎士には、とても手が出せない代物だ」

「へえ、そんなに高価なのか、あれ……。え!?」


 修太は思わぬ事実を知って、声が裏返った。


「だから、俺がスノウフラウに乗ってると、商人が売ってくれって寄ってきてたの?」


 一度は壊してしまった魔動機のバ=イクだが、ミストレイン王国を出る時に、セスが『スノウフラウ・改』と名付けた、スノウフラウの部品をリユースした二号機をくれたのだ。目立つのであんまり乗っていないが、修太は大事にしている。


「はあ? お前、何を今更なことを言ってるんだ」


 フランジェスカのほとほと呆れた声に、ピアスも続く。


「そうよ。エルフからもらえるなんてすごいって、あたしも前に言ったでしょ!」

「いや、そう言われてもなあ……」

「ほんっと変わってるんだから。でも、そういうとこが、セスさんにはうけるのかしら?」

「セスさんはめちゃくちゃ長話をするんだよ。俺は面白いからずっと付き合ってたら、なんか気に入られたんだよな」


 修太がそう説明すると、フランジェスカがうんざりしたように言う。


「ああ、あれか。私は勘弁してくれって感じだったな。息子にも煙たがられていたぞ、あの長話。シューターは老人の長話をずっと聞いていられるっていう、妙な特技があるからな」

「特技っていうか、好きなんだよ。面白い」

「老人じみてるだけあって、うまが合うんだろ」

「うっせーぞ、フラン」


 皮肉を言うフランジェスカを、修太はにらむ。


「その観光客は、どうやってあの場所まで行くんだ?」


 グレイが問いかけるとラングディドラムは山脈を見るように言う。旋回でラングディドラムの背が傾いたおかげで、山脈の尾根にポツポツと見える明かりが見えた。


 ――ほら、見てみろ。あの辺に焚火があるだろ。登山をしてあの辺まで来るみたいなのだ。そこまでして見たいものかな? さて、もうそろそろいいだろう。野宿場所まで送るぞ。


 ラングディドラムは最後にもう一周してから、ゆっくりと修太達の野宿ポイントまで降りていく。途中、レディもついてきた。


 ――鱗磨きをありがとう。近くまで来たら、また顔を見せるといい。あんなゴミでよければ、くれてやるからな。


「ピャア」


 レディも甲高く鳴いて、羽ばたいて空へ舞いあがる。


「いろいろとありがとう」


 修太が礼を言うと、仲間達もそれぞれ感謝を示す。ラングディドラムはゆるりと尻尾を振り、赤い翼を広げて空へ飛んでいった。


「お前達といると、飽きないな」


 ボスモンスターと側近が去るのを眺め、グレイがぽつりと言う。


「ええ、確かに」

「竜の背に乗って観光した奴なんか、他にいないですよねえ」


 トリトラとシークの同意に、皆もいっせいに頷く。ササラは恍惚(こうこつ)を込めて修太を褒める。


「さすがはシュウタさんですわ」


 いや、意味が分からないんですけど、その賛辞。


「あたし、あの時、ケイ達についてくって決めた自分を褒めてあげたい。最高に楽しいわ!」

「さすがだ、ピアス。ケイと気が合うだけある」


 ピアスはすごい女子だと、修太は見直した。


「変なことばかりに遭遇するのはあれだが、こういうのは悪くはないな。この調子で、呪いを解く方法も分かればいいんだが」

「ワフッ」


 フランジェスカに向け、「がんばって」と言いたげにコウが吠える。


「犬に慰められた……」

「宝石姉妹の呪いなんだから、サフィを封印できたら、一緒に呪いも消えるってことはないのかな」


 修太のつぶやきに、フランジェスカはそわっと期待を見せたが、グレイがばっさりと返す。


「そうなら、すでにあいつらがそう教えているんじゃないか」

「グレイ殿、ひどいぞ。少しくらい期待したっていいだろ!」


 眉を吊り上げて抗議するフランジェスカを一瞥し、グレイは修太に問う。


「シューター、どうしてこいつは怒ってるんだ?」

「はは……」


 希望を一瞬で破壊したのに、グレイは何が悪いのか分かっていないらしい。

 修太はちょっと面倒くさくなって、乾いた笑いを零した。



 拍手から、啓介に誕生日おめでとうって送ってくださった方、ありがとうございます。

 五月二十日、啓介の誕生日なんですよ。少し触れただけなのに、覚えていてくださってありがとうございます。作者も忘れてましたよ…。

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