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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
エシャトール国 夢を見る町編
312/340

 4



 鱗磨きを喜んだラングディドラムが、夜に青い炎の鑑賞会に連れていってくれることになった。

 ラングディドラムの巣の周辺は暑すぎるので、いったん山脈のほうに移動して、適当に見つけた洞窟に野宿場所を決めた。

 食事や寝床の準備をしていると、サーシャリオンが顔を出し、今晩は情報収集に使うと言って、チーズの(かたまり)を一つ置いていってくれた。


「すげー! こんなでかいの、初めて見た!」


 TVでは見たことがあるが、日本のスーパーで見かけるのは個別包装の小さいものだけだ。修太はテンションが上がって、触ってみたり持ってみたりと忙しい。コウはチーズをふんふんとかいでいる。

 重石にもなりそうなチーズは、表面がかたくてつるつるしている。そこに小さな穴がポツポツとあいているように見えた。


「いいねいいね、食べようよ」

「よっしゃ、ここに置けよ。切ろうぜ」


 トリトラはにこにこと言い、シークが綺麗な布を敷物にしいて、チーズをのせるように言う。チーズは重いが、修太が動かせるくらいだ。修太が立ったまま上から持とうと思ったら、グレイが横から手を出して、ひょいっと布に移動させた。


「シューター、その持ち方は腰を痛めるぞ。(ひざ)を使え」


 一度しゃがんでから、立ち上がりざまに持ち上げれば腰に負担がこないのだと、グレイが実演で教える。修太は反論する。


「でも、グレイはひょいって……」

「俺は腕力だけでいける」

「ぐぬぬ」


 黒狼族の腕力、うらやましい。修太は歯噛みした。


「シューター君、グレイと比べちゃ駄目よ」

「そうそう。師匠は一族で五本指に入る強さだし、器用さもずば抜けてるからね。張り合っても無駄だって」


 ピアスとトリトラが口々になぐさめる。


「張り合ってねえよ。うらやましいって思っただけ! 俺だって鍛えれば、腕力だけで……」

「無理でしょ」

「無理だろ」


 トリトラとシークが声をそろえ、きっぱり否定した。


「少しくらい夢を見たっていいだろ! ムカつくな!」

「うるさいぞ、シューター。チーズか。やっぱり肉料理かな?」


 メニューを考えるフランジェスカに、修太は挙手をする。


「はいはい! チーズフォンデュしたい!」

「チーズフォ……? なんだ、いったい」

「溶かしたチーズに、ゆでたり焼いたりした具材をからめて食べるだけ」

「ああ、鍋料理なら簡単だから、それにするか。それじゃあ、焚火を二つ用意したほうがいいんだろうな」


 フランジェスカが焚火を見ると、ササラがすっと名乗り出る。


「そちらはわたくしが」

「フランジェスカさん、私、下ごしらえを手伝うわ」


 ピアスがフランジェスカの隣に周り、グレイは独り言みたいに口を出す。


「だったら、俺はパンでも作るかな」

「何それ、どういうやつ?」

「本当は砂漠の熱を利用して作るんだが、上で焚火をすればここでもできるだろ」

「見てていい?」

「邪魔はするなよ」


 しっかり釘を刺し、グレイは小麦粉と岩塩と水を出すように言う。

 料理中はフランジェスカに邪魔にされることが多いので、修太はグレイの様子をわくわくと見守ることにした。

 洞窟の外のほうで、まず軽く穴を掘って、そこで焚火をする。薪が炭に変わるまで燃やすそうだ。その間に、グレイは小麦粉と岩塩と水を混ぜて、生地を()った。


「イースト菌って使わないの?」


 パンを膨らませるのにそういうのが必要なのは知っている。修太が問うと、グレイはけげんそうに問う。


「なんだ、それは」

「知らないならいいんだ」

「これがパンになる。レステファルテじゃ、パンを食べるだろ。本当なら、砂漠の砂の上にじかに置くんだが、ここに置く気はしねえからな、今回はこの鍋を使う」


 修太が出した、中華鍋みたいな底が丸い鍋の中に、グレイはパン生地を薄く延ばして貼り付けた。


「それで、この下が()になるんだ」


 焚火をしていた地面を浅く掘り、鍋を置いた。


「あとはしばらく置いておけば焼ける」

「へー! レステファルテで見たかったな」

「俺は普段はトランク一つだから、材料を持ち歩かねえからな。機会があったら見せてやるよ」

「やった!」


 出来上がったパンは、ナンみたいに平べったいパンだ。


「おお、懐かしいっすね」

「たまに食べたくなるんだよね、このパン」


 シークとトリトラは故郷の味を喜んでいる。二人はチーズを切って、一番外にあたる固い皮部分をナイフでそいで落としていた。ゴミとしてまとめているのを見て、修太はチーズを示す。


「その辺って捨てるの?」


 修太がトリトラに訊くと、トリトラは慣れた手つきで皮をそぎながら頷く。


「そうだよ。硬くなってて、食べられたもんじゃないからね」

「へ~。レステファルテでもチーズってあるのか?」

「まあ、山羊(やぎ)を飼ってたら作るよね。マエサ=マナじゃ、だいたい狩りで獲物をとるけど、少ないけど家畜もいるよ。あそこは餌になる草があんまりないから、たくさんは飼えないけど」


 それから、トリトラはポナの遊び場に生えていた木について話す。


「デナの実を食べたでしょ? 足りない栄養は、あれで結構おぎなってるんだ」

「俺にはちょっと甘くて苦手だけどなあ」


 シークがわずかに眉をしかめて言う。


「啓介も苦手みたいだったから、好き嫌いはありそうだよな。俺は好きだったぞ」

「ああ、お前はもう少し食ったほうがいいだろうなあ」

「どういう意味だよ」

「チビだろ」

「うっせー!」


 意地悪を言うシークに、修太は怒る。

 ぎゃいぎゃい言い合っているうちに、食事の支度が整った。

 ゆでた肉や野菜を皿に盛り、チーズを溶かした鍋につけて食べながら、グレイが作ったパンも頬張る。


「うまい! チーズと肉を巻いて食べてもおいしいな」

「そうか」


 グレイの返事はそっけないが、トリトラとシークは「懐かしい」と「おいしい」を連発しているので、黒狼族の口にも合う出来のようだ。

 見慣れぬパンを物珍しげに見て、恐る恐る食べたフランジェスカは、パッと明るい顔をする。


「へえ、グレイ殿、こういう料理もできるのか。意外だな」

「ああ、俺の場合はしないだけだ。だいたいのことはできる」

「それじゃあ、今度、黒狼族だけで作ってくれよ。興味がある」

「気が向いたらな」


 グレイの気まぐれ発言に、フランジェスカは肩をすくめる。


「ピアス殿、いつ風が吹くと思う?」

「シューター君が頼めば、一発で解決じゃないかしら」

「よし、食事の支度が面倒な時は、こいつをけしかけよう」


 聞こえてるぞ、お前ら。

 だが、グレイの料理はただ肉を焼いただけのものでもかなりおいしいので、折りを見て頼んでみようと思った。





 某番組で、砂漠でパンを作るのを見てから、出したいと思ってたネタ。

 鍋でできるか知らんけど、本当は砂にそのまま置いて作るらしいよ。時間はかかります。


 ※活動報告に、「現在のリクエスト状況」という記事を置いてます。そちらからブログに飛べるので、リクエストの確認に使ってくださいませ。

 こちらの本編についてのリクエストのことだったのですが、アフター編にもいただいてます。

 ネタが増える分には構わないので、読みたいものがあるのでしたら、送ってくださっていいですよ。無理ならいつか小話になります。

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