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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
レステファルテ国 激動の赤砂荒野 編
306/340

 8



 マエサ=マナに戻り、オアシスの報告を聞いた族長カリアナはポナの前に立った。


「エズラ山のボスモンスターよ、そのオアシスに怪我人だけ避難させて構わないだろうか」

 許可を求める態度に、ポナは条件付きで頷く。


 ――レステファルテの兵を追い払ったら出て行くって約束してくれるんなら、いいよー。あそこ、ポナ達の遊び場なんだもん。


「我が一族の誇りにかけ、約束する」


 ――うん!


 カリアナが礼儀を示したので、ポナは機嫌良く返事をする。


「へえ、立派な人だな。モンスター相手にもちゃんとしてる」


 ポナとカリアナの会話を遠巻きに眺めながら、修太は感心して呟く。するとグレイがあっさりと返す。


「意志疎通できないならともかく、あの鳥は言葉を話すだろ。意思を問うのは当然だ」

「そうなの?」

「誰だって、住処を追われるのは嫌だろうが。俺らがここに集落を構えているのは、先祖が住処を探して放浪したからだ。どこかに住んでは追い払われ、そういう繰り返しだった時期がある」


 なるほど、苦労の歴史があるのか。強いことが一番とはいえ、黒狼族は他種族に対しては、礼儀には礼儀を返すところがある。警戒はしても、その土地の住民を刺激しないためなのかもしれない。

 話がまとまったようで、一部を連れて、ポナ達の水場に避難することが決まった。持ってきた蛇肉は、集落の中で子どもが調理しているそうで、食べていくかと誘われた。修太達は話し合った末、断った。黒狼族達は仲間の食事を優先し、修太達人間は蛇肉を食べたくなかっただけだ。サーシャリオンは自分で捕まえて食べるからいらないと斜め上の答えを返していた。

 避難の手伝いをしていたら、そのうち夕方になったので、修太達はエズラ山のほうでポナと野宿することにした。夜中に奇襲でもあった時、巻き込まれると困る。


 ――シューさん、おやすみ~。


 日が暮れると眠くなったようで、ポナは自分の巣に帰った。その巣がある岩山の根元で焚火をして、簡単な夕食を食べてしまうと、見張りをするというグレイに任せて、修太達も早々に就寝する。

 なかなか怒涛(どとう)の一日だった。




 明け方近く、ポナに起こされた。


 ――ねえねえ、また黒狼の巣が襲われてるって! 


 見張りをしていた手下が気付いたんだそうだ。遠く離れていても、岩山の上からはマエサ=マナのほうで戦う魔法の光が見えるらしい。

 すぐに焚火の後始末をして荷物をまとめると、修太達はマエサ=マナに戻る。

 集落を囲む塀の一部が崩れ、大岩があちこちに転がっていて、昼間よりも被害が大きい。疲れた様子の門番に近寄り、サーシャリオンが問う。


「これはすごいな。どうしたのだ?」

「業を煮やしたレステファルテ兵が、遠くから投石機(とうせきき)で岩を飛ばしてきたのだ。あの岩、魔法で作りだしたのだろう。ついでに花ガメの花粉入りの玉が飛んできて、集落内で破裂してな。薬を飲む暇もなく……」


 どうやら門番もなんとか立っている状態らしい。槍にすがりつくようにして、顔を歪めた。吐きそうな様子だ。


「門番は私が代わろう。休んでいるといい」


 フランジェスカが名乗り出て、門番を座らせた。


「ああ、すまない。なんとか薬は飲んだが、あちこちににおいが残っていてな。吐きそうだ」

「結界でも防ぎきれなかったか」


 グレイは塀の一部に触った。ところどころに黒輝石(クローレ)の粉が塗られているようだ。


「黒輝石の粉を塗っている箇所が壊されてな。結界が駄目になった。――死人は出ていないが、怪我人がいる。カリアナ様を(かば)って、スレイト様も重傷だ。カリアナ様がそれで激怒なさって、残っていた者となんとか追い払ったが……」


 苦々しげに何か言おうとした門番だが、そこにカリアナが怒りに満ちた態度で門へやって来た。


「カリアナ様、いけません! まだ治しきっていません」


 カリアナの後ろから、〈青〉の女戦士が必死に追いすがる。


「これだけ治れば充分だ。私は仲間を助けに行く」

「しかし、スレイト様もあの通りで……。あなたがいなければ、立て直しができません!」

「代理はミドーレに任せてある」


 その後ろから、当のミドーレが槍を手にして出てきた。


「私も行きます、カリアナ」

「お前は何かあった時の代理だろう」

「ユユに任せました。娘を連れていった連中に、一撃くれてやるわ。バルも連れ戻さないと」


 目つきを鋭くするミドーレの腕や足にも包帯が巻かれている。治癒途中で出てきたようだ。


「どういうことだ? お袋」

「グレイ! ちょうどいいところに。混乱に乗じて、何人かさらわれたのよ。特に子どもが花ガメの花粉に耐性がなくて倒れちゃって。ええと……五人くらいよ。バロアと、子どもが四人ね」

「何故、姉さんも? 長の補佐をする程度だ、強いだろう」

「あんたと同じで、花ガメの花粉にものすごく弱い体質でしょ。動けなくなったところをね。一撃離脱であっという間だったわ。人手が足りないの、手伝ってちょうだい」


 ミドーレの頼みに、グレイは首肯を返す。


「分かった」

「はいはい、師匠! 僕も行きます!」

「俺も!」


 トリトラとシークも挙手し、シークはミドーレに問う。


「ところで、イェリのおっさんとアリテは?」

「二人は避難した重症者の世話をしてくれているわ」


 彼らが避難先のオアシスにいるのは、不幸中の幸いだ。


「あの馬鹿王子の魔法が厄介だな。〈青〉のほうがいい」

「では私がそちらに同行しよう。皆はどうする?」


 フランジェスカが問いかけ、修太達は話し合う。

 マエサ=マナにピアスとササラが残り、サーシャリオンが再びモンスターを呼んで警戒に当たらせ、あとは奪還組に回ることにした。


「おい、なんでお前も来るんだ」


 フランジェスカに鬱陶しそうにされて、修太は肩をすくめて返す。


「俺がいたほうが、魔法を封じられる」

「この前、発作を起こしたばかりだろうが」

「ギタルを使えば、まだ調整できるし、どうにかなるだろ。ポナと一緒に行けば、的にされることもないだろうし。啓介は空から雷を浴びせてやりゃあいい。殺さなくても、兵士を無力化できればいいってことだろ?」


 修太がポナのほうを見ると、ポナはバサッと羽ばたく。


 ――ふふーん、ポナは強いんだよー! ブーンと行って、ドカーンってしちゃうの!


「素早く飛んで、魔法で攻撃するの?」


 啓介が優しく問うと、ポナはピョンッと跳ねる。


 ――そうだよ! ねえ、砂嵐を起こしてあげようか? ポナのかっこいいところ、見せてあげる~。


「砂嵐か。そりゃあいいな」

「おい、仲間まで巻き込まれるだろう」


 カリアナが口を挟むので、修太はぶんぶんと頭を振る。


「そういう意味じゃないよ。撤退する時に砂嵐を起こしてもらうんだ。何度も襲撃されては追い払うんじゃ、負けが見えてるだろ。あっちのほうが財力も兵力も多いんだぜ。それじゃあ、できるのは心理戦じゃねえか? つまり、ここを攻めるのは損にしかならないと思わせられればいいんだ。王子は馬鹿かもしれない。でも、他の王族が止める可能性がある」

「ポナちゃんが兵士に砂嵐をぶつけてれば、そのうちあっちが諦めるってことか。人間は自然にはかなわない」


 啓介がパチンと指を鳴らし、結論を出す。修太はポナを見上げて、にやりと笑う。


「上手くいけば、ここが静かになって、ポナ達も平和に暮らせるってことだ」


 ――本当~? それならポナ、がんばっちゃう! あの人達、怖いもん!


 カリアナはこくっと頷いた。


「そうだな。我々だけでは、あとは退却しかない。まさかエズラ山のモンスターと協力戦をする日がくるとは思わなかったが、お互いの平和のため、共に励もうではないか」


 ――よーし! そうなったら、皆にも手伝ってもらうね。何人来るの? 他の子には一人しか乗れないの。


「トリトラがそいつに乗ってたよな。俺はその鳥と行く。シューターがあの馬鹿の魔法を止めたら、俺が突っ込んでぶちのめす。あの一団は将が倒れたら総崩れだろう」


 グレイが提案すると、皆、異論もなく頷いた。


「まあ、それが良かろうな。我はあまり人同士の戦いに手を出したくない。援護だけしてやろう。脅かす程度だぞ」

「サーシャの脅しはえげつねえから、それで大丈夫だと思うぜ」


 サーシャリオンに、修太は親指を立ててみせる。


「なんなら竜に戻ろうか?」

「じゃあさ、こうしようぜ。撤退の時にポナが砂嵐を起こすだろ? それで……」


 修太の悪(だく)みに、サーシャリオンは楽しそうに目を細める。


「ははっ、それはいい! 戦で見た幻か現実なのか、誰にも分からぬというところだな。死人が出ないのもいいな」


 修太とサーシャリオンはハイタッチをして笑い合う。するとピアスに眉をひそめられた。


「シューター君、サーシャの悪いところに似ちゃ駄目よ。性格が悪くなっちゃうわよ」

「失礼だぞ」


 サーシャリオンは言い返したが、気にしていないようだ。

 それから、女戦士が三人追加され、岩塩鳥の助っ人を九羽呼ぶことになった。ポナがいったんエズラ山に飛んでいき、その間にカリアナが作戦をまとめる。

 戻ってきたポナ達にも伝えると、即座に空へと舞い上がった。

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