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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
レステファルテ国 激動の赤砂荒野 編
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 2



 気まぐれ都市サランジュリエを出て、ひとけがなくなったところで、サーシャリオンがモンスターを呼んだ。

 大きな鳥のモンスターの背に二人ずつ乗って、大空へと飛び立つ。

 途中で休憩もまじえながら、翌日の昼には双子山脈を越え、レステファルテ国の西部にある墓場砂漠の上空に着いた。そのまま南東へ向かうと、まるで塔が乱立しているような岩山の群集地帯に出る。岩塩鳥(がんえんどり)というモンスターの住処であるエズラ山だ。

 あちこちの岩山のてっぺんには、麦わら帽子をひっくり返したみたいな巣がある。その中央部にあるとりわけ大きな岩山に、岩塩鳥のボスであるポナが住んでいる。


 ――マァァァ


「ん? なんかこれは……」


 どこかから響いてくる声に、修太は眉を寄せる。


「聞き覚えがあるな」


 後ろにいる啓介もそんなことを言った。修太はきょろきょろと周りを見て、自分達にかかる影に気付き空を見上げる。太陽を背にして、巨大な鳥が突っ込んでくる。


 ――クロイツェフ様――っ、お久しぶりですー! きゃあああ、ぎゃーっ!


 最後には悲鳴に変わり、巨大な鳥は危うく地面に激突しかけて姿勢を立て直した。だが、結局、岩山にぶつかって止まる。


「相変わらず落ち着きのない奴だな。おい、大丈夫か?」


 ササラと同乗しているサーシャリオンが、鳥の背で悠々と立って声をかける。ピクピクと痙攣(けいれん)していた鳥――ポナはぶんぶんと頭を振って、恥ずかしそうに笑う。


 ――たはは、またぶつかっちゃったー! 


 ポナは前に会った時よりも一回り大きくなっている。姉鳥のピリカほどではないが、成長したようだ。

 岩塩鳥は、頭の部分は黄色、首周りは白いふわふわした毛、それより下は淡い黄緑色という、見た目がインコに似た鳥のモンスターである。(くちばし)と足は黄土色で、どちらも固そうに見える。


「クアー?」


 ポナはボスなので巨体を持つが、手下達は三分の一ほどの大きさだ。傍に集まってきて、心配そうに鳴いている。なんてけなげなんだろう。

 地面に降り立った鳥の背から下りると、修太はポナに話しかける。


「何やってんだよ、ポナ。怪我してんじゃねえか」


 ポナのすぐ下の地面に、白い塊がごろごろと転がっているので、修太は一応ポナを気遣った。岩塩鳥は、生きている時に怪我をしたり羽を抜いたりすると、それがたちまち岩塩に変わる。白、青みがかった白、ピンクがかった白の岩塩もあった。


 ――大丈夫だよ、シューさん。もう治ったよ!


「馬鹿、治るからって無茶をやっていいわけがねえだろ。もっと自重しろ!」


 ――ジチョーってなあに? 


「ピリカはいないのか?」


 ――うん。あの後ね、寿命がきて、霧に帰ったの。


「そうか。ええと、それは残念だな。お悔み申し上げます……でいいのか?」


 ――ありがとう。闇に帰るのは当然なんだけど、やっぱりまだちょっと寂しいの。


 悲しげにうつむいて、ポナは修太のほうにすり寄った。


 ――会いに来てくれてうれしい! 後で背中に乗せてあげるね!


「それは断る」


 ポナの嘴を叩いて慰めながらも、修太はきっぱり答えた。


 ――なんでー!? 


 ガーンとショックを露わにするポナ。

 さっきの飛行を見せた後で、よく言えるものだ。相変わらずのアホ鳥である。


「シューターってば、エズラ山のモンスターとも仲が良いなんて思わなかったな。だけど、なんか威厳のないボスだね」


 トリトラがこっちに歩いてきながら、ポナをまじまじと観察している。


「代が変わったばっかだよ。シークと気が合うんじゃないか? 馬鹿だから」

「んだと、どういう意味だ、ゴラァ!」


 シークがすかさず言い返す。


 ――無理ぃー。黒狼って怖いもん。あっち行って!

 

 でかい図体で修太の後ろに隠れるポナ。修太はゆるゆると首を振る。


「あーあ、嫌われちまったな、シーク」

「振られてかわいそうに」

「おい、なんだよトリトラ。お前もだぞ、他人事みたいな振りすんな!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐシークを横目に、啓介がポナにあいさつする。


「ねえねえ、俺は触ってもいい? 春宮啓介っていうんだ。ケイって呼んで」

「こっちは俺の幼馴染で親友だぞ、ポナ」


 ――シューさんのお友達なの? ちょっとジェラシー。


「なんだそりゃ」


 修太は小さく噴き出した。

 幼稚園児が、とりあえず単語を使ってみたかった感じと似ている。

 結局、ポナは啓介に触ることを許した。


「うわー、ふわっふわだ。可愛い!」


 ――そう。ポナはとっても可愛いの。ね、シューさん?


「はいはい、可愛い可愛い」


 ――ぶー!


 このやりとりに、ピアスが大ウケしている。


「あはは、近所のお兄ちゃんみたい」

「なあ、ポナ殿。私も触っていいだろうか?」

「わたくしも」


 フランジェスカとササラがおずおずと問う。修太が紹介すると、ポナは「いいよ」と気軽に請け負う。ピアスも加わり、首回りのふわふわの羽毛に歓声を上げた。

 久しぶりの再会を楽しんだ修太達だが、一回り小さな岩塩鳥がしきりに鳴き始めた。ポナがうっかりという顔をする。


 ――あ、そうだった! あのね、大変大変たいへーんなの!


「なんなんだよ、いったい」


 騒ぐポナに、修太は落ち着いて聞き返す。


 ――黒狼の巣がね、レステファルテの兵に襲われてるの! 大変なんだよー!


 この知らせに、修太達はいっせいに凍りついたのだった。


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