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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
セーセレティー精霊国 人を喰う本 編
272/340

 4



 気まぐれ都市サランジュリエは、横向きの六角形をした城壁に囲まれている大都市だ。

 門があるのは、南と北西の二ヶ所だけ。南門から入ることにした修太達に、門番はにかりと欠けた前歯を見せて笑った。

 グレイが紫ランクの冒険者カードを見た途端、親しげな態度に変わった。ダンジョン運営の都市は冒険者には優しい。


「今日は春のドラゴンですよ。晴れているし、初めての都市入りなら最高です。良かったですね」


 門から北のほうを、門番は指差す。

 高い塔がそびえ、てっぺんはかすんでよく見えないが、上からピンク色の花弁がひらひらと降っている。


「ねえ門番さん、季節のドラゴンに会ったことのある人はいるんですか?」


 啓介の問いに、門番は首を横に振る。


「あのダンジョンは半ばから急に危険度が増す、ハイレベルなダンジョンなので、登頂した者はいないんですよ。だいたい七十階あたりで死ぬか、逃げ帰るようです。挑戦するつもりなら、お気を付けて」

「ありがとう」


 啓介が礼を言い、門を通り抜けて都市へと入る。

 中は活気に満ちていた。


「やっと着いたね。セーセレティーでは、最も西にある都市か。辺境にしては大きな規模だよ」


 トリトラが感嘆しながら、西の方を見やる。

 堺町フェデクから北のルート、ビルクモーレ経由で来たので、貸しグラスシープを使ったのに、三週間ほどかかった。西ルートでもたいした違いは無い。どちらも王都を通らないと、この街には来られない。


「都市の西側に、地竜が棲むっていう小さな森以外は、西の方に灰狼族の集落ルース・ラースがあるくらい」


 ピアスが教えると、啓介が問う。


「鉄の森はその辺?」

「いいえ、鉄の森は南西で、双子山脈の近くだから、全然違うわ。灰狼族のいる辺りは、昔から荒地なの。人間ではとても暮らせないわ、灰狼族がタフだからやっていけるのよ」


 黒狼族も砂漠のど真ん中に集落があった。体の違いは住む場所にも影響を与えるようだ。


「ふん」

「どうでもいいかな」

「俺も~」


 グレイが鼻で笑い、トリトラとシークもつまらなそうな顔になる。


「お前ら、本当に嫌いだよな」


 態度の怖さに引きながら、修太はぼそりと言う。啓介やピアスも苦笑した。


「これ一枚で身分証になるって不思議です。スオウでは、村を出る時は、村長に許可証をもらって、そこから役所に行かないといけなくて……。許可証がないと、処罰されてしまうので」


 ササラは冒険者の身分証カードを眺めて、不思議そうにしている。


「え? それじゃあ商人はどうするの?」


 ピアスの問いに、ササラはカードを鞄にしまいながら返す。


「許可証を持っていますよ。確か移動できる範囲が決められていたはずです。商売するのにも、シマがあるとかで」

「縄張りかあ。スオウは小さな島国だから、問題にならないように取決めが多いんだろうね」


 啓介の結論に、修太も頷いた。


「確かに。こっちはスケールがでかいもんなあ」

「ええ、光都(こうと)でもないのに、こんなに大きな町があって驚きました。それもいくつも!」


 ササラにはカルチャーショックのようで、たびたび面食らっている。フランジェスカが笑う。


「まあ、家もあんな小屋のようだしな」

「失礼なことを言うな!」


 修太は言い返したが、フランジェスカは肩をすくめるだけだ。


「なんでもいいから、早く宿を決めよう。我は腹が空いたしのどが渇いたし、できれば甘いものが食べたい」


 なあなあと後ろから子どものように駄々をこねるサーシャリオンに、皆、いっせいに呆れの顔をする。


「しゃあねえなあ。ケイ、先にどっかで軽食とろうぜ。その辺に屋台もある」

「オーケー」


 行動を決めると、グレイ達三人が輪を外れた。


「それじゃあ俺はその辺で煙草を買ってくる」

「僕は良い宿がないか、何か買いがてら聞いてみるよ」

「俺は食う気分じゃねえから、周りを見てくる」


 あっという間にいなくなった自由すぎる三人に、ササラがまたもや面食らっている。


「ササラさん、あいつらに構うと疲れるから、放っておけって」

「ええ、でも、素晴らしいですね。町に入るなり、買い物しながら質問するのは、情報収集の基本ですわ。私もがんばった方がいいのかしら」

「別にがんばらなくていいけど、気になるなら屋台で聞いたら?」

「そうですわね、そうします」


 ササラは年上の女性だが、はりきる様子を見ているとなんだか和む。

 本人はまったく気付いていないが、旅の間もモテていた。美人で気立てが良くて、品も良いのだから、男受けが良いのも分かる。ただ、ササラはその全てを「親切な人が多い」で片付けているので、自分を地味子と思い込んでいるピアスとは、また違う方面で残念である。


「シューター、焼き鳥があるぞ。食べよう」

「おう。王都のサラマンダー焼きも美味かったよなあ。この街には何があるかな」


 サーシャリオンに誘われるまま、修太も屋台の方へ向かう。

 いいにおいなので、この街も食べ歩きにはもってこいみたいだ。


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