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「で? なんで連れてきてんだよ、フラン」
「私のせいじゃない!」
修太の問いに、フランジェスカは怒って返した。ピアスがぺろりと舌を出して謝る。
「だって、有益な情報があるっていうから~。前に言ってたでしょ、人を喰う本の噂。あれよ。資金的な問題でね。パーティのお金は私が管理してるけど、旅の全体はケイでしょう?」
ピアスの可愛い仕草に顔を赤くした啓介が、うんうんと頷く。
「そうだね。断片の情報なら、俺が出すよ。いくら?」
入口に立ったジャックは肩をすくめる。
「疑わないので?」
「前に一回ボコボコにされたのに、売ろうっていうなら、それなりに信用できるんだろ?」
何を当然なことをと言いたげに、啓介はあっさりと返し、部屋のテーブルを示す。ジャックは居心地悪そうにしているものの、椅子に座った。
ベッドに移動して座った修太に、ピアスが声をかける。
「それとシューター君、ササラさんが武器を買いたいんですって」
「ああ、読めたぞ。そいつが売りつけようとしたのか? フラン、悪いけど、物と値段次第で決めてくれよ。俺は武器のことは分からん」
修太の頼みに、フランジェスカは頷く。
「分かった。こいつの人間性はともかく、良い商売をするからな」
「お褒めにあずかり光栄。どうです、他にも商品がございまして……ええと、こちら、カタログになります」
「貴様、本当に抜け目がないな」
さっと羊皮紙を取り出すジャックに、フランジェスカは呆れている。しかしカタログは受け取って、内容に目を通す。
「ふむ。値段は妥当ってところだが、あとは品次第だ」
「しっかりしてらっしゃる。店があるので見ていってください。カタログは差し上げます、店の場所はそちらに」
ジャックはにっと笑った。
(本当にやり手だな、こいつ……)
修太も呆れたが、それよりも情報の話だ。修太がちらりと啓介を見ると、啓介が話し始めた。
「それでおいくらです?」
「五千エナです。白銀貨五枚」
ジャックの返事に、グレイが片眉をはね上げる。
「ずいぶんぼったくるな」
「まさか、安い方ですよ。所有者、保管場所も分かっているし、噂も本物。ただ、私には手に入れられなさそうなので、手を引くことに。実は部下も本に喰われてしまいまして。流石にこれ以上、部下を失うのはつらい」
ジャックは溜息を吐いた。すかさずフランジェスカが茶化す。
「貴様にも人情があるのか」
「部下の教育に、どれだけつぎこんだと? 一人失うだけでも大打撃です。大損ですよ」
「……感心して、損した」
けっと毒づくフランジェスカ。部屋に白けた空気が流れる。
啓介も白い目をしてジャックを見つつ、金を支払った。
「毎度、ありがとうございます」
ジャックは白い歯を見せて笑い、素早く代金を懐におさめてから話す。
「場所は気まぐれ都市サランジュリエ。保管場所はシュタインベル学園の図書室。所有者は校長のシュタインベル夫人です。つい最近、生徒が一人、本に喰われて行方不明に。それで冒険者ギルドで、救出依頼が出ています。高額な成功報酬につられた冒険者が参加しましたが、みんな本に喰われて消えてしまいました。以上です」
「それであなたの部下もそこに参加したの?」
ピアスの質問に、ジャックは頷く。
「開かなければ問題ないのかと思いきや、本から襲ってくるそうでしてね。運びようがないんじゃあ、売りようがないので、私はあきらめました」
「意味わかんねえのに、そうなんだって思う自分が嫌だ」
天を仰ぐ修太に対し、啓介は銀の目を輝かせる。
「面白いなあ。でも被害者が出てるんじゃあ、喜んでばかりもいられないね」
「とりあえず行ってみるしかないな、その気まぐれ都市って所に」
「確かイミルさんとラミル君がそこに行くって言ってたよ。学校に通うって」
「なんかもう、都市から変なんだな」
どうも想像がつかない。修太が首を横に振ったところで、ジャックがカタログを示す。
「ちなみに、気まぐれ都市は季節が毎日違うこともある都市です。もし防寒着をお求めでしたら、取り扱っておりますよ!」
ササラが明るい声を出す。
「まあ、品ぞろえが豊富なんですね! すごいわ」
「商売上手なだけだよ。ササラさんって純粋だよなあ。詐欺師には気をつけてくれ。こういう奴は要注意だ」
修太がびしっとジャックを指差すと、ジャックは心外そうに肩をすくめる。
「こんなに善良なる商人はそうそうおりませんよ」
「ぬけぬけと、よく言う」
フランジェスカが鼻で笑った。