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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
スオウ国 夜宮編
266/340

 7



 啓介達と忘れじの丘で別れ、修太とササラ、アルヴィーラはまた洞窟を通って、夜宮の屋敷へと戻った。

「うおおお、揺れてる。気持ち悪い」

「うう……」

 ほうほうのていで戻った頃には、すっかり太陽がてっぺんを通り過ぎていた。

 修太とササラは蛇に運ばれての酔いでダウンして、入口に土下座のような体勢でうずくまる。

 地面が揺れている気がして眩暈がする。

「食事をしてなくて良かったです。吐いてたかもしれません」

 行きよりも帰りの方が、疲れがたまっている分、気分の悪さがひどい。

 ササラはそう言って、ふと青ざめて顔を上げる。

「あ! 朝餉の膳を取りに行ってませんわ! わたくし!」

 すると、洞窟脇でとぐろを巻いて寝ていたハクラヴィーラが口を開いた。


 ――それなら、手下に取りに行かせた。

   屋敷に置いてある。


 ――おお、アネサマ、ありがとうございます。


 アルヴィーラがハクラヴィーラにお礼を言うと、ハクラヴィーラは目を細めて微笑むような仕草をした。


 ――アルヴィーラ、よくやった。

   これでわたくしは気兼ねなくオルファーレン様のもとに還れる。


 ハクラヴィーラは深々と安堵の息をついた。

 こちらが心配になるくらい、細くて長い息だ。

「俺はここを出るために、一芝居打つことにした。水神の勘気に触れて殺されるっていう計画だ。ふりだけど」

 修太は、サーシャリオンのアイデアをハクラヴィーラに説明する。

 アルヴィーラでは心もとないので、ハクラヴィーラの協力が必要そうなのだ。


 ――なるほどね。わたくしが死の間際に狂い、止めることも出来ずにお前が喰い殺されるというわけか。その娘はどうする。


「日ノ宮様には保護をお願いしているし、置いていこうかと」

 修太は気遣わしげにササラを見上げた。

 ササラはずっとここで暮らしてきた。共に外に出るのは構わないが、今更、外で生きるのはつらいのではないだろうか。

 ササラは思案気に赤い目を揺らしている。

「わたくしは……」

 ササラが何か言おうとした時、ハクラヴィーラが青い目でじっとササラを見て言う。


 ――それが妥当だと言いたいところだが、その娘も連れて出て行け。住み慣れた地を離れるのはつらいだろうが、その娘には、夜宮を救えなかった罰が下されるはずだ。


「罰って何で? 本来、傍付きはここには来られないはずだろう」

 目をむく修太に、ハクラヴィーラは面倒くさそうな空気を漂わせる。察したアルヴィーラが代わりに説明する。


 ――夜宮とその傍付きは水神への捧げもの――というていをとっているのだ。夜宮が死ぬ時は、傍付きも後を追うしきたりがある。


「まじかよ!? ああ、そうか……それで日ノ宮様は、俺のことを生贄って言ってたのか」

 急に日ノ宮と初めて会った時のことを思い出した修太は、ハクラヴィーラのすすめることが腑に落ちた。

「でも後を追うって……随分、古臭い因習だな。古代じゃあるまいし」

 歴史の教科書を思い浮かべ、修太はうなる。

 例えば王が死んだ時に、天で不自由しないようにと、動物だけでなく人間も殺して共に埋葬したという話がある。

 渋い顔をする修太に対し、ササラは強い口調で否定する。

「夜宮様の傍付きになるのは大変名誉なことなのですよ、シュウタ様。天の国でもお傍にいられるなんて光栄です」

「うわ、聖殿で、そんな洗脳をされてるのか?」

 どん引きする修太に、ササラは首を横に振る。

「この国で生まれた者は、皆、夜御子様のお陰で外敵から守られているのです。そんな方々に奉仕するのは民の務めです!」

「分かった、分かったから大声を出さないでくれ」

 修太は根負けして両手を挙げる。

 今、気分が悪いので、がなりたてられると頭の中で声がわんわん響いて最悪だ。

 叫んだササラもダメージを受けたようで、二人そろって、しばらく無言で耐える。


 ――大丈夫か、二人とも。賢いくせに、馬鹿だよなあ。


 アルヴィーラが呆れたように言う。

 

 ――ひとまず食事をとって休んでおいで。決行は今夜。夕餉の後だ。わたくしが闇に戻る前に、渾身の演技を披露してやるよ。


 ハクラヴィーラはふふっと笑った。


「水神様……」

 ササラは目を潤ませて、悲しげにハクラヴィーラを見上げる。

 かと思えば、突然、その場に両手をついて頭を下げた。

「ボスモンスターだろうと、あなた様は我が国の守り神であらせられます。お亡くなりになられると思うと、胸がいたみます。長年、国の為にありがとうございました」


 ――湿っぽいのはおよし。ギブアンドテイク。わたくしは無用な争いは避けたかった、だから初代の王の提案に乗ったまでのこと。騒がしいのは嫌いでね。


 しゅるりと伸びてきた舌が、ササラの顔をべろりとなめる。

 驚いて顔を上げるササラに、ハクラヴィーラは微笑みを向けた。蛇の顔であるのに、優しさが感じられる。


 ――だがわたくしと王の取引が、お前のような者を作りだしたのかと思うと、正しいことだったかは分からぬ。今後は、自分らしく生きていきなさい。


「……はい」

 ササラは困ったような顔をしたが、素直に頷いた。

 ハクラヴィーラは再び寝る体勢に戻る。

 修太はギタルを手に立ち上がり、ササラやアルヴィーラとともに屋敷へと引き上げた。


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