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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
スオウ国 夜宮編
262/340

 3



 その頃、光都を出て、忘れじの丘を目指していた啓介達は、月明かりの中を歩いていた。

「まったく読みが外れたな。都の外に出た途端、追手をかけてくるとは」

 フランジェスカは迷惑そうにぼやいた。

「逃げられて良かったよね」

 啓介はそう返して、苦笑いを浮かべる。今日の双子月は姉月が満月なので、夜道でも明かりがいらないくらいだ。歩きやすくて助かる。

「本当はのしてやりたかったけど、指名手配になる言い分を与えるなんて嫌だからさ」

 トリトラの言うことに、ピアスはうんうんと頷いた。

「ええ、逃げて正解よ。シューター君のことで、あの聖殿の長は機嫌が悪そうだったじゃない? 八つ当たりに違いないわ」

「シューターにやり返せないから、身内にってか。狭量な奴だ」

 鼻で笑うグレイは、長のことなど相手にもしていないようだ。くんとにおいを嗅いで、啓介に声をかける。

「ケイ、近くに人間のにおいは無い」

「わふっ」

 コウが同じ意見だというように吠えた。

「ありがとう。それならこの辺で野宿して、明日は日の出前に出ようか」

 遠回しに休憩を促すグレイに礼を言い、啓介は仲間をぐるりと見回す。

 フランジェスカがすぐに首肯を返した。

「ああ、それが良いだろう。うかうかしていると追っ手が来る」

 他に否定を出す者もいないので、啓介は右手を挙げる。

「それじゃあ野宿するってことで。どこがいいかなあ」

「あの辺はどうだ、街道から少し奥まっていて、広場になっている」

 サーシャリオンが街道脇の茂みの向こうを指差したが、啓介には見えない。月光の届かない森は啓介の目には暗すぎた。

「ああ、あそこか、確かにいいな。乾いてそうで」

「決定だね」

 シークやトリトラは賛同して、難なく暗がりへ踏み込んでいく。グレイも無言でその後に続いた。コウがたたっとついていく。

 夜目が効く黒狼族には何があるのか見えているようだ。

「行こうか」

 彼らが言うのだから間違いない。呆れ混じりに苦笑しているフランジェスカとピアスに、啓介は声をかけた。


     *****


 アルヴィーラの言う通り、翌朝には目的地に着いた。

 竹藪のある山の中に、ぽっかりと洞窟の入口があいていて、蛇達は敷物ごと修太とササラを置くと、洞窟に戻っていった。


 ――途中で休憩を入れたから、予定より時間がかかりましたな。


 アルヴィーラが残念そうに言った。だが疲労困憊の修太とササラは、がっくりとその場に手と足を着く。

 暗闇ジェットコースター耐久レースといった感じで、かなり体力を消耗した。座り続けているだけでも結構きつい。


「ああ、駄目だ。疲れた。ちょっと寝かせて……」

「わたくしもごめんなさい、酔いました」


 ――仕方ないのう、四半刻したら起こすからな?


「ああ」

「はい」


 ササラは修太に敷物を明け渡し、自分自身は、すぐ傍の地面に横たわった。揺れない平らな地面って最高だと、修太は思い切り仮眠を満喫した。

 四半刻――三十分なんてあっという間だ。


――地下水が出るポイントは更に奥だ。ついて参れ。


 すぐに起こされた修太達は、不眠不休の移動でだるさの残る体を引きずるようにして、アルヴィーラの案内で、竹藪の中を歩いて行く。

 枯れた竹の葉が地面を覆っているので、踏むとカサカサと音を立てた。

 しばらく歩くと、開けた場所に出た。

「うおお、眩しい」

「目が痛いです」


 午前の光が、徹夜した目に突き刺さり、修太とササラはうめいた。


 ――大丈夫か? 


 ちょっと呆れ混じりに、アルヴィーラは心配そうに問う。

「大丈夫じゃないけど、大丈夫……」

「わたくしも……」

 なんとも頼りない返事をして、歩みを進める。

 崖の縁に、枯れた花や人形などが供えられている所に着くと、修太の目は一気に覚めた。

「ひいいっ、何だよこれ、こわっ」

「まるでお墓みたいですね」

 不気味さに怯える修太に対し、ササラは冷静に言った。


 ――地下水が出るのはこのポイントなんだが……。


 修太はきょろきょろと周りを見回し、ふと視界に何か白いものが映りこんだ気がして、空を見上げた。

 アルヴィーラの説明する声が意識から外れる。

 修太は目を丸くした。

「……え」

 信じられない光景に、息をするのを忘れた。

「…………父さん……母さん……?」

 そこに浮かんでいたのは、交通事故で死んだはずの、修太の両親だった。


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