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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
スオウ国 夜宮編
261/340

 2



 ――なるほどね、その方法ならアルヴィーラでも水を治められそうだ。


 その後、提灯(ちょうちん)を片手にハクラヴィーラのもとへと出かけた。修太とアルヴィーラの報告を聞いたハクラヴィーラは、安堵したように言った。修太の肩に乗っているアルヴィーラは頭を持ち上げて言う。


 ――アネサマ、私どもは実験をしに忘れじの丘までまいろうかと。


 ――ああ、そうするといい。そしてわたくしを安心させておくれ。


 ハクラヴィーラは溜息をついて言うと、洞窟の入口の横にとぐろを巻いた。疲れたように目を閉じる。


「え、もうヤバイのか? 消えるの?」


 焦る修太に、ハクラヴィーラは否定を返す。


 ――眠いだけだ。だが何度も言っているが、いつ消えてもおかしくはない。アルヴィーラのことを頼んだよ、断片の使徒。


「はい、分かりました!」


 ――では、アニサマ。上に羽織るものを持ったら、出発しようぞ。アネサマ、アニサマの傍付きも洞窟を通します。


 ――好きにおし。これからこの地を担うのはお前だ、アルヴィーラ。


 その言葉を最後に、ハクラヴィーラは寝息を立て始めた。

 本当に死が近いのだと修太は戦慄する。


「急ぐぞ、アル」


 ――はい、アニサマ!


 修太は屋敷へと取って返した。




 それぞれ羽織(はおり)を着こむと、今度はササラも連れて、水神の住処である洞窟の前に戻った。本来は人間では夜宮しか入れない場所なので、ササラは感動しきりだったが、首を傾げてアルヴィーラを見る。

「これから実験場所に向かうのは分かるんですが、どうして敷物が必要なんでしょう?」

 ササラは首を傾げた。彼女は折りたたんだ敷物と、水筒と軽食を入れた風呂敷を抱えている。修太は提灯と、アルヴィーラにこわれてギタルを持っていた。

「途中で野宿するのか?」

 修太の問いに、ササラは敷物を見下ろす。

「それならもう少し大きいものを持ってまいりますわ」

 今、持っているのは、二人並んで座れる程度の広さしかない。ササラが取って返そうとするのを、アルヴィーラが止める。


 ――それでいいのだ。それをそこに広げて、二人は座るがいい。


「は?」

「え?」

 修太とササラは怪訝な顔になる。


 ――洞窟の中は、人間が歩くにはちと暗く動きにくい。私の手下達に運ばせる。


「よく分からないけど、言いたいことは分かった」

「はい」

 修太とササラはとりあえず、言う通りに敷物に座る。


 ――違う違う。隣り合うのではなく、縦に一列だ。途中で引っかかる。


 アルヴィーラに駄目出しされて、修太が前に座って、ササラが後ろに座る。

(あ、これ、ガキの時にした空飛ぶ絨毯ごっこみてえだ)

 なんだか急に恥ずかしくなった。


 ――アニサマ、手下を呼ぶので、目を閉じていて欲しい。


「ん? ああ」

 修太は言う通りに目を閉じたが、後ろでササラが「ひっ」と悲鳴を上げた。シュウシュウという音がたくさん聞こえたと思ったら、敷物が持ち上がった。


 ――もうよいぞ。


「……なあ、アル。もしかして」

 敷物の下で何かがうごめいている感じがする。修太は背筋がぞわぞわした。振り返ると、ササラが頷く。

「そうです、シュウタ様。たくさんのお蛇様が今、下に!」

 ササラはまたパニクっているのか、オヘビサマなんて呼んでいる。


 ――たくさんの蛇を見るのが嫌だと申しておったから、見せなかったぞ。


 アルヴィーラは誇らしげに言い、修太の頭の上に、自分の頭を載せた。


 ――よし、これでよい。私がぶつかりそうだと思ったら、ちゃんと止めるから安心して欲しい。ササラは、アニサマより頭を低くするとよいだろう。


「は、はい」

「肩に掴まってていいから」

「ありがとうございます」


 修太に礼を言い、ササラは修太の肩に手を置いて、頭を低くする。

「えーっと、これで洞窟を移動するのか?」


 ――そうだ。提灯の明かりは消しておくれ。皆、暗闇に慣れておるのでちとキツイ。


「分かった」

 修太は蝋燭の火を吹き消す。


 ――では、行くぞ。


 アルヴィーラが号令すると、敷物が地面を滑るように動き始めた。

「え、うわ、結構速い。速いって、ちょっと!」


 ――はははは、明日の朝には着きますぞ。


 修太の抗議も気にせずに、洞窟へと修太達は飛び込んだ。

 暗闇の中を突き進む、安全ベルトの無いジェットコースター。例えるならそんな感じだ。

「うわあぁぁあああ」

「ひぃぃぃぃっ」

 修太とササラの間抜けな悲鳴が、洞窟に響き渡った。


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