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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
スオウ国 夜宮編
259/340

 14



 食後、お膳を片付けると、ランプ型の魔具の明かりの中、修太とアルヴィーラは向かい合って座った。ササラは修太の斜め後ろに静かに控えている。


 ――稽古というのはどうやってするのだ?


 アルヴィーラは興味津々のようである。鎌首をもたげて、修太をじっと見つめている。


「さてな。とりあえず、アルがどんな風に水を抑えているのか、それを教えてくれ」


 ――そうさなあ。


 アルヴィーラは頭を傾け、その場でくねくねと身をねじって考え事にふける。なんだか見ている修太までつられて動きそうだ。


 ――まず、ボスモンスターには広いフィールド、縄張りがオルファーレン様より与えられておる。


「ああ、そういや、今までに会った奴も皆そんな感じだったな。サーシャでいうところの、地下の塔か?」


 ――その通りだ。縄張りの中のことは、私には何でも分かる。人間の侵入者も、動物やモンスターに至るまで。まあ、動物のことは放っている。全て気にしていると面倒だ。


 ササラが挙手して問う。

「外敵には反応するということですか?」


 ――そうだな。自分の住処に近付く怪しい者には、人間とて反応するだろう? だが、その辺の虫まではいちいち気に留めない。そんな感じといえばいいか。

   私の縄張りは、この先の洞窟が中心となっているが、お前達が入ってきた門が一番外のエリアになる。住処で騒がれるのは嫌だから、アネサマは日ノ宮と夜宮、その世話係以外の立ち入りは禁じたのだ。


「なるほどな。でもやけに狭くないか?」

 修太の問いに、アルヴィーラは笑う。


 ――あの洞窟は広範囲に広がっておる。カムナビと呼ばれておるエリアは、実際はかなり広いのだぞ。


「……広い洞窟に、たくさんの蛇か。あ、無理。鳥肌立った」

 修太は怖気で身を震わせた。蛇一匹ならどうということもないが、蛇がうじゃうじゃとうごめいている光景には総毛立つ。

 例えば日本にいた時、冒険もののアクション映画を見ていて、蛇がたくさんいる箱に主人公が落ちそうになるシーンなど、とても直視できなかった。


 ――アニサマが来る時は、配下には顔を出さないように言っておこう。


 アルヴィーラは嫌がるそぶりも見せず、鷹揚に返した。


 ――この国は、ほとんど円形の島なのだが、海岸部を除き、やはり円状に山脈が取り囲んでおる。そして光都のあるこの一帯は、最も広い平地だ。

  山間部にも、狭いが平らな土地はあるが、ここまで広いのはこの一帯のみだ。

  だが昔はこの辺りは、湿地や沼があちこちにあった。


「ああ、いかにも蛇の住処って感じだな」

 修太はとても納得した。アルヴィーラはその通りと肯定して、説明を続ける。


 ――何故なら、周囲の山の水が地下を通り、この一帯に流れ込んでおったのだ。

   山からしみ出した水の、湧水地というわけだな。

   そこを利用して、人間達は米を作ったりもしていたようだが、頻繁に起こる洪水の為、普段は山に住んでいたそうだ。


「ええ、存じております。そうやって、畑仕事のために山から下りていたと……。ですからわたくしどもは、住めるようにしてくださった水神様を敬愛しているのです」

 ササラはありがたそうに言い、アルヴィーラは頷いた。


 ――左様。というのも、私の縄張りこそ、最も多くの水が湧き出す場所でな。

  ボスモンスターは自分の住処のことはなんでも分かるし、能力を最大限に発揮することが出来る。それがオルファーレン様より頂いた加護だ。

  水を操るのに長けているのに、一部の人間は気付いたようでな。その者がアネサマに交渉に来て、その子孫が代々秘密を受け継いでおるというわけだな。


 修太は顎に手を当てて、話を整理する。

「つまり、周りの山から流れ込んでくる水が、一番多いのがこのエリアで、ハクラヴィーラがそれを能力で堰き止めていた。だが、ハクラヴィーラの死が近づき、アルが生まれた。そしてアルにはハクラヴィーラ程の能力はないから、水没の危険があるってことか?」


 ――そういうことだ。アネサマは水の流れを緩やかにする能力を使い、洪水を抑えておられた。洞窟の近くで見ただろう? あんな風に苔玉に水を蓄え、雨の少ない時期に川に水を流しておった。

  だから干害も無く、安定的に水が供給されておる。

  しかしな、私はまだ生まれたばかりで、アネサマ程の大量の水を操ることが出来ない。


「どれくらい違うんだ?」

 修太の問いに、アルヴィーラはパッと玄関の方を見る。


 ――アネサマが先程の水盆の量として、私はそこの入れ物くらいだな。


「こんなに違うのですか!」

 ササラがのけぞり気味に言った。

 彼女の驚きも分かる。大雑把でも十倍は違う能力差だ。


 ――私はドラゴンではないからな、ある程度、能力を鍛えるのに時間がかかるのだ。


 アルヴィーラは溜息混じりに行って、その場でとぐろを巻いた。落ち込んだらしい。

「そんな……本当に水没してしまうのですか?」

 ササラは青ざめて、天井を仰いだ。

 しかし修太は特に取り乱すこともなく、考えを口にする。

「じゃあ、やることは能力の稽古じゃねえな。その能力で何が出来るかを考えてみるか」


 ――は?


「え?」

 アルヴィーラとササラは間の抜けた声を出した。ササラは怪訝そうに問う。

「しかしシュウタ様、この差では絶望的ではございませんか?」

「出来ないって思うから出来ないんだよ。そもそもハクラヴィーラとアルは違う蛇なんだから、アルに向いたやり方を探すところから始めねえと。能力が十分の一だろうと、水を操れるんなら、何か突破口があるはずだ」


 ――あ、あ、アニサマあ。


 アルは目を潤ませる。


 ――アネサマは無理だと嘆いて怒るばっかりだったのに。アニサマは会ったばかりの私を信じてくれるのか。


「信じるっていうか、お前もボスモンスターなら、出来るだろ」

「なんですか、その根拠のない自信……」

 さしものササラも呆れ混じりにツッコミを入れたが、先程の沈んだ空気は消えてしまった。


 ――頑張る、頑張るぞ!


 アルヴィーラはやる気に満ち溢れ、その場で勢いよく飛び上がった。

 ガシャンと音を立て、調度品が板間に落ちる。

「おい、落ち着けよ。ったくこれだからガキってのは……」

 修太のぼやきに、ササラは苦笑する。

「ボスモンスターを子ども扱いなさるだなんて、やはりシュウタ様はただ者ではございませんね」

「はあ? 意味分からないこと言わないでくれよ、ササラさん」

 修太は眉をひそめて返し、テンションの上がったアルヴィーラがこれ以上物を壊さないようにと、尻尾を掴んで座布団の上に引き戻した。

 それに「あわわ」とササラが右往左往していたが、アルヴィーラが特に怒らなかったので、ほっと胸を撫で下ろした。


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