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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
スオウ国 夜宮編
258/340

 13



 焼いた手羽先がたっぷりと、味噌漬けのゆで卵、味噌汁につやつやの白ご飯。そして漬物。

 ここでの食事は煮物が多いが、今日の夕食は豪勢だった。


「うまーい!」


 ――この卵は最高にうまいな。


 手羽先にがっつく修太の横では、アルヴィーラが味噌漬けのゆで卵に夢中になっている。

 そんな修太とアルヴィーラを、ササラは微笑ましげに見る。

「ササラさんは食べたのか?」

 修太の問いに、ササラは首を横に振る。

「いえ、後程頂きます」

 その言葉に、修太は食事の手を止めた。

「後で食べるんなら、一緒に食おうぜ。今日はアルがいるからいいけど、本当は一人で食べるのって味気ないから嫌だったんだよな」

 一人暮らしをしていた時はそれが当たり前だったのに、エレイスガイアに来てからは、誰かしら一緒に食事をしているせいで、すっかり慣れてしまった。人がいた方が、同じ食事でも数倍おいしく感じる気がする。

「しかし、私は傍付きですから」

「いいじゃん、他に誰もいないんだ。入ってきても日ノ宮様だろ? 俺が命令したって言うから大丈夫だって」


 ――しもべならば、主の言う事は聞かねばならんぞ、ササラ。


 味噌漬けのゆで卵を丸のみしたせいで、お腹がぽこっと膨れている格好で、アルヴィーラが言った。真面目に言っているつもりのようだが、あんまり格好がついていない。

「水神様もおっしゃるなら、では……失礼して」

 押しに負けたササラは、一度台所の方に消えると、膳を持ってきた。

 修太のものと違って、肉やゆで卵はついていない。煮物と雑炊の簡単な食事だ。

「え、護衛で体力使うのに、肉を食べないのか? これやるよ、食べなよ、ササラさん」

 修太は、修太の皿にはちょっとした山になっている鳥肉とゆで卵を、ササラの皿に勝手に入れた。どうも修太が大食いなのを見て、量を多めにしてくれているようなのだ。最初の頃よりおかずの量が増えていた。

「ええっ、いけませんわ、シュウタ様。しっかりお召し上がりになって、体力を付けて頂かなければ」

 ササラはそう言ったものの、お腹がくうと正直な音を立てた。

 顔を真っ赤にして、おろおろと慌てふためくので、修太は笑う。

「いいよ、気にすんなって。俺は多めにもらってるし、ご飯をおかわりできたら充分!」


 ――アニサマ、その小柄な体格のどこにこれだけ入るのだ? しかもまだ食べるのか?


 アルヴィーラが驚いたように言った。

「ああ。お前は卵一個でいいのか?」


 ――私はそもそも、普通の食事は取らないからな。これはおやつみたいなものだから、一つで充分だぞ。


「そうだったな」

 修太は頷いた。

 モンスターは、自然と漂っている負の要素――毒素を主食としているのだ。

 ササラは修太達の話が分からないようだが、ひとまず修太に勧められるままに食べ始めた。味噌漬けのゆで卵を食べた時には、幸せそうに顔が緩む。

「ふわあ、おいしいです……。あ、失礼しました」

 慌てて凛々しい表情に戻すササラを見て、どうやら彼女は卵が好きなようだと修太はこっそり心の中にメモをした。

「これ、本当にうまいよなあ。ここの料理人は料理上手でありがたいよ。あちこち行ってきたけど、スオウの食事が一番合うな。故郷と似ているからかな」

 修太は味噌汁に感動して思わず呟いた。

「シュウタ様の故郷はどちらなのですか?」

 ササラは興味を惹かれたようで、修太をじっと見た。

 どう答えようかと思った時、アルヴィーラがあっさりと零す。


 ――オルファーレン様の啓示によるなら、断片の使徒は異界からの迷い子とか。違う世界の出身ということで合っているのか?


「うわ、こら、蛇! お前、それは言っちゃ駄目なやつ!」


 ――え!? 駄目だったのか!? すまぬ。どうしよう。


 アルヴィーラは困ったようで、おろおろとしていたかと思えば、座っていた座布団の下に潜り込んでしまった。

「頭隠して尻隠さずの見本だな、アル。尻尾が出てるぞ」

 修太の指摘に、アルヴィーラはしゅっと尻尾を巻きとった。だが座布団にこんもりと小さな山が出来ているだけで、そこにいるのは分かるので、修太は溜息を吐く。

 困るとこんな風にすぐ隠れるのを見ていたら、ハクラヴィーラが叱りつけたくなるのも分かる気がした。

「異界? 違う世界なんてあるのですか? 啓示って……創造主オルファーレン様って本当にいらっしゃるのですか!?」

 ササラは唖然とするや、箸と食器を膳に戻す。

 アルヴィーラは座布団の下から頭だけ出した。


 ――いらっしゃるぞ。永久青空地帯(エターナルブルー)に浮かぶ霊樹リヴァエルに住んでおられる。アニサマはオルファーレン様の御使(みつか)いであるから、私よりも格が高いのだ。


「やめろよ、格が高いとか。てゆか、御使いというより……おつかい?」

 修太が首を傾げると、アルヴィーラは蛇の顔でもよく分かる、苦い表情をした。


 ――アニサマ……その冗談は全然うけませぬ。


「うっせえな! そこは適当に笑うとこだろ!」

 修太が言い返すと、アルヴィーラはしゅっと頭を座布団の下に戻した。

 分が悪くなると隠れやがってと、修太は舌打ちしたが、ふと横を見ると、ササラがキラキラと目を輝かせて修太を見ていた。

「な、何? ササラさん」

「シュウタ様、ササラにはよく分かりませぬが、創造主様の御使いであらせられるだなんて、感動です。そんな方にお仕えできて、ササラは恐悦至極にございます!」

 その場に平伏するササラを見て、修太は呆れた。

「……ササラさんはもう少し、疑うことを覚えた方が良いと思う」

 この人は結構純粋だよなと思いながら、修太は仕方なく、自分の身の上と、水神と日ノ宮の取引に至るまで、あれこれとササラに説明するのだった。



「そのようなことに……この世界は滅びる直前だったのですか? なんとも恐ろしいお話です」

 話を聞き終えると、ササラは青ざめてそう呟き、どうしていいか分からないという態度を取った。

「でもこの間、会った感じだと、かなり持ち直してたぜ」


 ――オルファーレン様にお会いしたのか?


「ハイエルフが守ってた秘密の通路―― 一方通行のやつがあってさ。もうそこは閉じたけど、俺らも通ったんだ」


 ――ほう。ではこの国の断片も探しておるわけか、それはいい。私はそれがどこにあるか知っているぞ。


「本当か!」

 修太は座布団を横に放り投げ、アルヴィーラに詰め寄る。


 ――今度連れていってやろう。だが、まずは私を稽古するのだろう? でないと、世界が滅ぶ以前に、この国が水没してしまう。


「あ、そうだった! よし、急いで飯を食うぞ」

 修太は慌てて食事を再開する。


 ――そこで先に食事を取るのか。アニサマは面白い御仁だな。


 ササラは困ったように修太とアルヴィーラを見比べた後、結局彼女も食事をすることを選んだようだった。


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