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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
ミストレイン王国 王位継承編
213/340

 3



 こうして鬱々とした状態で、二日が経った。

 全体的に見ると何の進展も無いが、修太にとっては状況が悪化した。原因はサーシャリオンだ。

「何を悩んでおるのだ? 我にどーんと打ち明けてみるがよい! きっと良き助言が出来るだろう。さあさあ」

 と、うざい大人が思春期の少年に絡むかのごとく、啓介に纏わりついたせいである。

 流石の温厚な啓介も、二日目にはブチ切れた。

 静かな怒りを称えた微笑を浮かべ、啓介は修太のもとにやって来て言った。

「シュウ、サーシャのことをよろしくな」

 その笑顔の冷たさときたら、修太のいる辺りだけブリザードが吹き荒れているかのようだった。無論、修太はこくこくと勢いよく頷いて、サーシャリオンを引き受けた。

 どうやら、啓介は修太がサーシャリオンをけしかけたと誤解しているようだったが、余計なことを言える雰囲気ではなかったので、修太は訂正しなかった。

(啓介……、お前は頑張った。むしろ二日もよく耐えた)

 寝室に立ち去る啓介の背に、修太は心の中で声をかけた。

 サーシャリオンのしつこさとうざさは、修太だったら一日目の一時間くらいで切れて、サーシャリオンを無視しているレベルだ。心なしか、黒狼族の面々も、啓介に同情的な視線を向けている。

「ははあ、大人に頼るのが恥ずかしいのだな。難しいお年頃、というやつだな?」

「サーシャ、お前、相談役には絶対に向いてない。もうあいつに構うな。そっとしておいてやって、頼むから」

 とぼけたことを言っているサーシャリオンに、修太は必死に言う。けれど当のサーシャリオンはきょとんと修太を見下ろすだけだ。伝わっていないどうしようと修太が考えを巡らした時、扉をノックする音が響いた。

(こんな時にいったい誰だよ)

 修太は八つ当たり気味に心の中で呟いて、扉に向けて返事をする。訪問者は侍従のラインだった。

「お寛ぎの所申し訳ありません。あなたがたに、ラヴィーニャ王女殿下からの伝言を承っております」

「ラヴィーニャ王女から?」

 修太は首を傾げる。

 アーヴィンならともかく、ラヴィーニャから伝言をもらう覚えは無い。

「内容は?」

 グレイがラインに問う。ベランダ前の長椅子に座り、得物の手入れをする手を止め、ラインを見ている。

「明日の午後、皆様とお会いしたいそうです。いかがなさいますか?」

 ラインはそう返した。

 修太はどうするべきかと考え、意見を求めてグレイとサーシャリオンを見る。するとサーシャリオンが、人間の男“リオン”の時に使う丁寧な口調で返す。

「構いませんよ。用など何もありませんしね。いい退屈しのぎになります」

「おい、リオン!」

 修太はサーシャリオンの失礼な発言を咎める為、左隣に座るサーシャリオンの脇を肘で突く。しかしサーシャリオンが気にした様子を見せないので、修太は代わりにぺこぺことラインに頭を下げた。

 ラインが怒ったかは修太には分からない。彼はいつも通りの無愛想な顔でこちらを見て、丁寧にお辞儀をした。

「畏まりました、それではお話を受けるとお伝え致します。明日の黄の三時に迎えに参りますので、お支度の方をよろしくお願い致します」

 そして、すぐに部屋を出て行った。

 黄の三時とは、地球での十五時と同じくらいの時間だ。エルフの国での時間の単位は、六時間ごとに赤・橙・黄・緑に分割されている。一日は二十四時間で、赤の一から六時と数えていくのだ。

 水の豊富さを利用して、湧水から魔力を動力源として引き出す、時計型の魔動機があり、それで正確な時間を計っているらしい。その時計を管理している者が、六時間ごとに鐘を鳴らし、それでおおよその時間を知らせている。

 修太がラインからの受け売りを思い出していると、トリトラがチェストの上に置かれた水差しを取ってグラスに水を注ぎながら言う。

「王女からの呼び出しなんて、何だろうね」

「あの魔女絡みじゃねえの?」

 シークがテーブルの上にある果物に手を伸ばしながら言い、噛り付いた。カシッと小気味良い音がする。

「まあ何でもいいよ、ずっと部屋にいるとどうかなりそうだ。動けるなら別に」

 トリトラがうんざりした様子で言い、グラスの水を飲む。

 修太はちらりとベランダの方を見る。

 壊れていたベランダは、今は破片が取り除かれ、危なくないようにと布とロープが掛けられている。他の部屋に移動する方が危ないかもしれないとラインが言うので、同じ部屋を使い続けているのだが、この状態のベランダをうろつくのは危険だから、たまに空気を吸いに出る程度である。

「部屋が広いから、鍛錬する場所があるのはいいんだけどなあ。狩りでもしてきてえ気分。体がなまっちまう」

 続けて、シークがやれやれと息をついた。

 人間嫌いのエルフを刺激しない為、客室から出ないように言われているのだ。だが、同じ場所に居続けるというのも、そろそろ飽きてくる。

「明日、ついでに黄石の魔女に頼んでみようぜ。庭か鍛錬場を貸してくれって」

 修太の提案に、彼らは揃って頷く。

「そいつぁ良い考えだな。よろしく頼むぜ、チビスケ」

「それか元ダークエルフの旦那でもいいけど」

 シークがにかっと笑う横で、トリトラがサーシャリオンを見る。

「そうさのう、我も飽きてきたから話そうか」

 サーシャリオンの同意を取り付けて、トリトラやシークは「よしっ」とガッツポーズする。

「良かったな。さて、俺は読書でもするかな」

 修太は旅人の指輪から取り出した本をテーブルに広げる。

 だが、よっぽど暇を持て余していたらしいトリトラやシークに、久しぶりに文字を教えるようにせがまれ、仕方なく教えることになった。


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