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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
パスリル王国辺境編
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第三話 地底の塔 1 



 三日後。

 ヘリーズ村の住人総出で見送られ、修太達は旅路に戻った。

 彼らにほとんど押し付けられるようにして渡された餞別(せんべつ)の品が、バ=イクの荷台で山になっている。


 旅人の指輪について教えなかったせいだが、どうしてこんなことになったのか、修太には不思議だった。だが、啓介が村の若者達に声をかけられているのを見て、納得した。

 また啓介が笑顔をばらまいて、人を魅了しまくったせいだろう。


 それはともかく、エルフの長老達――四百歳オーバーの者達はそう呼ばれるらしい――が、近くまで来たらまたおいでと静かに送り出してくれたのが、修太にはとても嬉しかった。老人の持つ静かな空気や泰然とした態度が好きだ。自分も将来はこうなりたいなあと思っている。


「啓介、ナイスだ。食料をこんなに貰えるなんてな」


 山になっている食料に、にまにまと笑いが止まらない。

 これでたくさん食べられる。


「何を言ってんだよ、シュウ。これ、お前あてらしいぞ。見送りに来てくれた人達が、長老達に持ってけって言われたって」

「ええっ、爺ちゃん達が!?」

「やけに食いっぷりが良いから、旅の食料がもたないだろうってさ」

「なんて良い人達なんだ……!」


 おいしい食べ物をくれる人は善だ。思わずヘリーズ村に向けて南無南無と拝んでしまった。

 バ=イクに乗ったまま、荷台の荷物の山を振り返る。食料の間に、石や動物の牙らしきものがある。


「じゃあ、この石とか牙は?」

「それは皆が俺にくれたんだ。旅費の足しにしてって。町で売れば良いらしいぜ」


 啓介はのほほんと答えた。


 森でたまに拾えるというブラッドストーンという石、森狼の牙だ。

 赤い色のブラッドストーンはどこにでもありそうな石ころだが、ある鳥のモンスターの糞なのだという。その鳥は赤い石や木の葉を食べ、腹の中で宝石に変わるのだそうだ。森狼は普通の動物で、緑色の体毛をしているそうだ。牙は十センチくらいの長さがあり、細工や武器の一部に使える。どちらも割合高値で売れるらしい。


 モンスターと動物の違いは、殺した時に死体が残るか残らないかで分かると、修太は長老達に教えて貰った。モンスターは死ぬと黒い霧になって消えてしまい、死体は残らない。一方、動物は死体が残る。


「お前達、二人そろっていれば、一つの村くらいあっさり陥落するのではないか?」


 呆れきったフランジェスカの言葉に、修太は目を瞬く。


「何を言ってんだ、あんた。啓介一人の間違いだろ」

「いや、シュウこそおかしいだろ。陥落って攻め落とされるって意味だろ? 俺一人じゃ無理だよ」


 そういう意味じゃねえ。

 天然ボケなことを返す啓介に、修太は溜息をつく。頭が良いのに、ときどき妙な理解の仕方をするから困る。


「まあ、どちらでもいいがな。私も久しぶりに人里でのんびりと過ごせた。夜はたいてい外で朝が来るのを待っていたからな」


 修太はフランジェスカをちらりと見る。


「なあ、この国以外にも、白教が普及してるのか? あんただけじゃなくて俺も、もしかしてずっと野宿するはめになるとか……」

「いや、白教が国教なのは我が国だけだ。だが、白教を普及させるために数々の国を戦で攻め落としたから、領土はかなり広い。街道が整備されているのもその為だ」


 そこで一呼吸置き、フランジェスカは続ける。


「隣国レステファルテと我が国は、ここ十年ほど、にらみあいの状態だ。ノコギリ山脈があるせいで我が国も攻めあぐねている。あちらも同じだろう。領土の広さなら我が国が上だが、レステファルテは海上貿易が盛んで金があるからな、戦力も多いのだ。まあ、戦ってもどちらも痛い目を見るだけだろうから、緊張感を保てばちょうど良いだろう」


 ――ふうん、山のお陰で大喧嘩にならずに済んでいるのか。


 宗教を広める為に戦争をするとは、聖戦とでも呼んでいるのだろうか? この分だと、異教徒への差別感も激しいに違いない。


「フランさん、そんな国に入れるのか? 国境で追い返されるんじゃ……」


 懸念を口にする啓介に、フランジェスカは首を振る。


「それは大丈夫だ。エルフ達も交易に出かけると言っていただろう? 交易が盛んな国だけに、余所者には寛大なのだ。それが敵対国からの商人や旅人だろうとな。我が国は草原と森の多い国だ、海に面した平坦な国だけに、得られない物もあるのだろう。荒野も多い土地だしな」


「じゃあ、その反対に、パスリル王国でもレステファルテの商人や旅人の通行を認めてるんですか?」

「まあ、そうだな。武器商人の通行はどちらでも禁じているが、食料や特産品なら許可されている」

「へえ、なるほどね。フランさんは物知りだね」


「ふふ。私は第三師団の副団長を務めているからな、訓練や任務の時以外はほぼ書類漬けだ。団長の補佐も楽ではない。ただの一平民であるが、自然と知恵がつくというものだ」


 フランジェスカはにやりと唇を微かに持ち上げて笑う。

 どう見ても悪役の笑みにしか見えない。もう少し笑い方を考えるべきではないだろうか。修太はフランジェスカの笑みに内心で感想をつぶやく。


「隣国の前に、塔だよ。遺跡ってこっちで合ってるのか?」


 修太の問いに、フランジェスカは首肯する。


「ノコギリ山脈の、西から三番目と四番目の峰の間にあるそうだ。この森を北に行けば、エルフ達が夏の間に羊を飼う放牧地に出るらしいから、そこから山へ登るようエトナ殿が教えてくれた。山小屋の使用も許可してくれたぞ」


「さっすがフランさん、気がきくね!」


 啓介が横から笑顔ではやすと、フランジェスカは満更でもなさそうに微かに笑みを浮かべる。


「どういたしまして、ケイ殿。湧水ポイントも確認済みだ。水の補給もせねばならん。湧水で休憩をして、山小屋で一泊し、明日には遺跡に着く予定だ。二人とも、そのつもりでいろ」


 フランジェスカがいつの間にか立てていた計画に、修太と啓介はそろって頷いた。


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