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断片の使徒  作者: 草野 瀬津璃
セーセレティー精霊国 断片探しの寄り道編
168/340

 7



 トリトラとシークが屋根の修理に駆り出されたので、残った面子(めんつ)は遺跡に素材を集めに行くことになった。

 遺跡にはよく行くというピアスが案内で、アリッジャの街を西門から出て、長閑(のどか)そうな森に入る。この森は、住人達が(たきぎ)を得る為の森でもあるらしく、手入れされているので日差しがよく降り注いで明るい。

 ピアスは先頭を歩きながら、遺跡の説明をする。


「遺跡はホウラ遺跡っていうのが正式名称よ。だいたい五百年くらい前のもので、モンスターが大量発生した事件のせいで、一晩で滅んだ町なの。ほら、この通り」


 森が少し開けたなと思った時、眼前には古代の町が広がっていた。

 砂色をした石造りの家はほとんど崩れかけた状態だが、それでも区画ごとに建っている為、町だと分かる。熱帯雨林の中にある為か、雑草が生い茂り、森に飲みこまれかけているような状態だ。


「すげえ……」


 修太があんぐりと口を開けて目を奪われている横で、啓介も目を輝かせている。


「わくわくするなあ、こういうの見ると」


「アリッジャはね、ホウラ遺跡に住んでいた人達が作り直した町なの。でも、遺跡には綺麗な湧水があるし、その湧水の近くじゃないと育たない植物があるから、町で共同管理しているのよ。で、その植物が今回のお目当ての品の一つね」


「一つ? 他にもあるんですか?」


 ピアスに問い返すクリム。ピアスは頷き、おばばに渡された紙片に視線を落とす。


「リストには、六つの品が載ってるわ。湧水を(かめ)に一杯、青蔓(アオカズラ)を十束、ダイダイゴケを少し、ヒヨコキノコ五個、ブルーストーン十個、ヤミシシの牙二本って具合ね」


 聞いても何のことかさっぱり分からない。


「ヤミシシの牙ということは、動物か?」


 フランジェスカが問うのに、ピアスは頷き、遺跡の隅を指差した。


「あれよ」


 指先を追って見れば、左手奥の方に巨体を持った黒いイノシシもどきが一頭いた。遺跡に咲いている黄色い花を食べている。ここは離れているので安心だが、近付くのはかなり躊躇する巨大さだ。


「あれを狩ってくればいいのか?」


 グレイがちらりとピアスを一瞥して訊く。


「そういうこと。ちなみに、お肉もとってもおいしいわよ。ただ、ものすごく獰猛(どうもう)だから、あたし一人だと狩るのは厳しい動物ね。たいていは、四人で組んで、遠くから弓で狙って弱らせてから仕留めるの」

「そうか。ならばあれは俺が引き受けよう」


 グレイはぽつりと返し、静かな足取りでヤミシシの方へ歩いていった。


(いや、今、四人で狩るのが普通って言ったよな?)


 グレイは気に留めていなかったので、一人で平気なんだろう。とはいえ。


「フランはついていかないのか?」


「ん? 私はお前達の護衛だから、こちらにいる。アレと似たようなものに出くわさないとも限らないからな。それに、グレイ殿は一人で戦うのが得意なタイプだ。私が傍にいるとかえって邪魔になる」


「格好良いなあ、フランさん! 騎士の鑑っていう感じだね」


 啓介が無邪気な笑みを浮かべてフランジェスカを褒め、フランジェスカは照れたように僅かに目を反らす。


「いや、当然なことだ。それにケイ殿、集団で行動する際は、それぞれの得意分野を任せると効率的なのだ」


 フランジェスカの言いたいことは分かる。グレイは狩りが得意だ。どうも黒狼族に共通する得意分野のようだが。


「うん、そうだな。こっちにはピアスとサーシャがいるから、残りの素材は簡単に見つけられそうだ」


 啓介がそう返すと、ピアスが「任せて」とどんと胸を叩き、サーシャは当然だというように頷き返した。

 そして、残りの素材集めを開始した。


 まず湧水に行き、ピアスが保存袋に入れてきた甕にまず水を確保し、湧水の出る小さな泉に生えている水草の一種らしい青蔓を採取した。そして、遺跡の壁に生えているダイダイゴケを小瓶に採取する。ヒヨコキノコは、遺跡の壁の隅に、親指サイズの小さな黒いキノコが生えているのを摘み取る。黒いヒヨコが座っているように見えるキノコだ。ケテケテ鳥のヒヨコに似ているからそう呼ばれているそうだ。最後のブルーストーンはというと、この森に棲むヤーバという、青い羽をした大きな鳥モンスターの糞なんだそうだ。青く透明な水晶に似た石で、装飾にもなるし、〈黄〉のカラーズが魔力を溜めて魔石にすることも出来るらしい。


 最初の五つはあっさり見つかったが、この遺跡に咲く花を食べに来るヤーバの落し物であるブルーストーンだけは、なかなか見つけることが出来ず、修太達は足首に絡みつく雑草を踏み分けながら探し回った。


「ワンッ!」

「お、偉いぞ、コウ」


 コウと一緒に探していた修太は、ブルーストーンを見つけて吠えるコウを褒めた。嬉しそうにパタパタと尻尾を振り、口にくわえたブルーストーンを修太の手に落とすコウ。


「なんか、糞だって聞くとばっちいな……」


 ブルーストーンを見下ろして、修太は複雑げに溜息を吐く。

 どう見ても石だし、ベタベタしているわけでもないのだが、気分的な問題だ。

 そうして茂みから顔を上げると、近くで探していたピアスが、「あっ」と声を上げる。見れば、啓介の足元にキラリと光る石があった。


「あ、ケイ。そこ……」

「ケイ様、見つけましたよ!」


 教えようとするピアスの前にクリムがさっと割って入り、石を拾い上げた。啓介は笑顔で礼を言う。


「ありがとう、クリムさん」

「いいえ~」


 嬉しそうに笑ったクリムは、啓介がまた別の石を探す為に視線を反らした瞬間、ピアスを振り返り、勝ち誇った笑みを浮かべた。

 流石にピアスもむっとしたようで、ぷいっとクリムから顔を背けた。そして、クリムを避けるように、反対方向に探しに行ってしまう。

 一部始終を見てしまった修太は、若干うんざりした気分だ。


(うわあ、怖っ。女子のああいうとこ、ほんと苦手、俺)


 二面性を使い分ける態度というか、同性への敵対心を示した時の恐ろしさとかそういうのだ。何故修太がピアスやフランジェスカに苦手意識を持たないかといえば、どちらとも良い意味で裏表のない性格をしてるからだ。その点、クリムは裏表を使い分けているようである。


(別に、裏表があるのが悪いとは言わないけどさあ。あからさまに表に出す奴が苦手なんだよな……)


 出来れば隠しておいて欲しい。男の夢的な部分で。


「あの娘、すっかり仕事のことを忘れておるな。いやはや、どの時代も女人(にょにん)の争いはおっかない」


 遺跡の崩れかけた壁に腰掛けたサーシャリオンが、ブルーストーンをぽんぽんと投げて遊びながら、クリムに聞こえない程度の声で囁いた。


「その割に楽しそうだな、サーシャ」


 短い黒髪を風に遊ばれながら、ダークエルフ姿の青年が薄笑いを浮かべていると、悪巧みをしているように見えて少しだけ不気味だ。


「人間達の営みは、我にはどれも面白く、観劇に値するものだよ。暇つぶしにはもってこいだな」

「趣味わりい」


 口をへの字にする修太に、サーシャリオンはくすりと返す。


「そなたやケイ程に面白い人物は久しぶりだから、特に面白いぞ?」

「へえへえ、嬉しくないからなー」


 真面目に会話に付き合っていると苛立たしくなるので、修太は棒読みで返し、その場を離れる。

 その背に、サーシャリオンののんびりした声がかかる。


「シューター、左足の先、三歩の場所に落ちているぞ」

「ほんとだ。ありがと」


 修太は礼を言い、ブルーストーンを拾い上げた。





 一通り揃え終わって遺跡の入り口に戻ると、とっくにヤミシシを狩り終えたらしいグレイが、暇そうに煙草を吸っていた。


「ああ、終わったか。こちらはこの通りだ。――ピアス」


 修太の腕くらいの長さはある牙を二本、ピアスに差し出すグレイ。


「ありがとう、グレイ!」


 ピアスは喜んで受け取り、牙を保存袋に仕舞う。

 グレイは一つ頷き返しただけで、ヤミシシの蔦で一つに縛った後ろ足を掴む。どうやら掴んで引きずって持ち帰るつもりらしい。

 それを見たピアスが不思議そうにグレイに訊く。


「え? ここで解体しないの?」

「市場で解体してもらう。俺はこいつを見たのは初めてだからな、ついでに美味い部位を聞けるし、いらない部分を買い取ってもらうから都合が良い」

「なるほど、確かにその方が良いわね」


 そんな会話の後、一行はアリッジャへの帰路に着いた。


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