かませたちの夜
以前投稿(現在は非公開)した拙作『【AI】王太子と皇太子が居酒屋で愚痴を言いあう物語をAIに生成させてみた』を、AIに資料集めだけ手伝ってもらい、人力で内容を再編集してみました。
筆者の偏見多めですので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
「店長、お替り! 大ジョッキで!」
王都の下町の路地裏に佇む薄暗い居酒屋。
その最奥の個室で、王立学院の制服を纏ったままジョッキをテーブルに叩きつけたのは、このクロックフォード王国の王太子エリアスだった。ちなみにこの国では飲酒は15歳からOKである。念のため。
「エリアス殿下、声が大きいですよ」
隣で眼鏡を指で押し上げながら呆れたように溜息をついたのは、宰相子息のルーカス。
向かいに座り、肉串をレイピアに見立てて突きを繰り出しているのは、騎士団長子息のギルバートだ。
「知った事か! なぁ、聞いてくれよルーカス! あの脚本家、また俺を『ボンクラ王太子』役にキャスティングしやがったぞ!?」
「今更ですね。もう数えきれないくらい演じたでしょうに」
溜息交じりにそう答え、店員が持ってきた大ジョッキから半分自分のジョッキに移すルーカス。宰相の息子である以上、倹約は美徳なのだ。決してセコいわけではない。
「さすがに飽きたっつーの! 今回の台本読んだ瞬間『いい加減現実の俺を見ろ!』って叫んだわ! 婚約者役の女主人公の踏み台にするためだけに俺を使うんじゃねぇ!」
憤懣やるかたなし、と言わんばかりに大ジョッキを呷るエリアス。
今日は随分口が悪いな、とルーカスは思ったが、よくよく思い返してみれば、この王太子はずっとこんな口調だったな、と思い返す。大丈夫か次代の国王陛下。
「信じられるか!? 今日は撮影現場で『はい殿下、もっと頭悪そうな高笑い頂戴! なんなら語尾に【ゾ☆】とかつけちゃいますか!?』なんて無茶振りされたんだぞ!」
「さ、さすがにそれは……」
「だろ!? こちとら王立学院の授業を受けながら、放課後は国家予算の割り振りから貴族派閥の抑え込みまで、現実の俺がどれだけ超絶多忙な公務をこなしてると思ってんだ!」
「大抵は殿下の婚約者がスケジュール調整している設定ですからね」
「婚約者とはいえまだ王太子妃にもなっていない他家の高位貴族令嬢に、そこまでさせる設定自体おかしいんだよ!」
「下手すると国政まで握ってる設定ですもんね、殿下の婚約者」
量産型ボンクラ王太子に婚約破棄された元婚約者が王宮を去った後、国政がガタガタになる物語のなんと多い事か。もしそれが本当なら元婚約者が女王になれ。大臣連中は何してんだ。
「いくら恋愛系の脚本家に女性が多いからって、女主人公がチート過ぎるだろうが! 誰がこの国を支えてると思ってんだ!? 現場でそんなボンクラ王太子役ばかり演じさせられる俺の悔しさが、あの机上の空論脚本家に分かってたまるか!」
エリアスが身を乗り出して叫ぶと、ルーカスが力なく首を振った。
「それは愚王を父に持った王太子の宿命でしょう」
「あんのクソ親父……王太子である俺やお前らを、『外貨が欲しいんで、ちょこっと出てやって☆』なんてホザいて、勝手に芸能事務所と契約しやがって! ……店長、おかわり!」
量が半分とはいえ、大ジョッキのビールをそこまで一気に飲んでは危ないと思うのだが、ルーカスは黙っておいた。
「その点お前はいいよな、ルーカス。氷の宰相子息役がよくお似合いで」
そんなエリアスの言葉に、さすがに聞き捨てならぬと反論するルーカス。
「なに言ってんです!? 僕だって散々ですよ! 氷の宰相子息役!? そんなのほとんどありませんよ! 大抵は『陰険インテリ眼鏡』役ですよ!? なんで眼鏡をかけてるってだけで、自動的に腹黒扱いなんですか!? むしろ僕なんて眼鏡が本体扱いですよ!」
思わぬ反撃にのけぞるエリアス。お前も結構溜まっていたんだな……と、今更ながらに知った。
「僕はただ役を演じているだけなのに、庶民から『父親の威光を振りかざす嫌味な奴』と、勝手に決めつけられて叩かれるんですよ!? それにいくらインテリ設定でも、婚約破棄の場面で王太子の代わりに長々と証拠もない罪状を読み上げた挙句、王太子の婚約者である高位貴族令嬢から悉く論破されるんですよ!? どこがインテリですか! 馬鹿そのものでしょうが!」
「お、おう。そうだな。まぁ飲め」
「いただきます! 店長、大ジョッキ2つ追加で!」
「……いや、3つにしてくれ」
ぼそりと呟いたのは、騎士団長子息であるギルバートだった。
「ルーカス……設定で言えば、俺の設定なんて『脳筋』オンリーだぞ?」
「あ……」
そうだった。むしろ騎士団長子息なんて、それ以外の役柄で見た事がない。
気まずげな表情になったエリアスとルーカスを見て、ギルバートが空になったジョッキをドカンとテーブルに叩きつける。
「ざっけんなってんだ! あの脚本家、俺に『ギルバート君、もっと知性を捨てて!』とかナメた指示出してくるんだぞ!? 知性捨てた奴が王立学院に入れるかっての!」
「うむ、確かにそうだな」
こればかりはエリアスも王太子として頷くしかない。
『王立』とつく以上、入学試験において替え玉受験や裏口入学など許されるわけがないからだ。
脚本家王立学院馬鹿にしすぎ説、あると思う。
「脳筋で書類整理が苦手!? それで騎士団の一員になれるか! 騎士になったら毎日日報提出するのが当たり前だっつーの! 騎士の実務ナメんな!」
確かにな、と頷くエリアスとルーカス。半ばテンプレ化したとはいえ、騎士に対する熱い風評被害と言わざるを得ない。
「だいたいなぁ、こちとらまだ学院の騎士科の生徒だぞ!? 今度騎士団の入団試験を受ける身なんだぞ!? あいつらが『脳筋で勉強が苦手』なんてレッテル貼りやがるせいで、親父から『入団試験には筆記試験もあるんだぞ? お前、本当に大丈夫なのか?』って事あるごとに言われるんだぞ!」
「お、おう……まぁ飲め。な?」
そう言って大ジョッキを3杯追加するエリアス。
倹約を美徳とする家に生まれたルーカスも今回は止めなかった。
「それに婚約破棄の現場で、何で俺が殿下の元婚約者を取り押さえようとして、一瞬で返り討ちに遭う噛ませ犬演じなきゃならねぇんだよ! 騎士団長子息の面目丸つぶれだわ! 親父の部下達から何回『お前、鍛え方足りないんじゃないか?』って言われた事か! そういう役だっつーの!」
「すまん……俺の父が愚王のせいで……」
いつの間にか、3人の前にあるジョッキが空になっていた。飲むペースが早すぎる。
こうなりゃいつものようにヤケ酒だ。そう思い、エリアスが店長にお替りを頼もうとした、まさにその時。
「――おいおい、随分と景気がいいな、兄上。今日のギャラ使い果たす気か? だったら俺達にも奢ってくれよ」
ガラリと個室の扉が開き、変装用のマントを外して入ってきたのは、エリアス達と同じく王立学院に通う第二王子の弟クリスと、唯一の大人であり圧倒的オーラを放つ、王弟ヴィンセントだった。
「な、なんでクリスと叔父上が……!?」
エリアスが真っ赤な顔で目を見開くと、クリスは爽やかに笑いながら、空いていた席にスッと滑り込んだ。
「いやぁ、ちょうど撮影が同じだった叔父上と食事に行こうとして、たまたまここの前を通りかかったら、兄上が『いい加減現実の俺を見ろ!』って叫んでいたのが聴こえたからさ」
「ほとんど序盤からじゃねーか!」
くそ、こいつにだけは聞かれたくなかったのに。
舌打ちしたくなったエリアスだが、この際酒の勢いを借りて言う事にした。
「ク~リ~ス~っ! お前さぁ、俺と同じ城で生まれ育って、同じ王族教育受けて、同じ王立学院に通う実の弟のくせに、なんで俺より有能な第二王子役なんだよ!? そこまで差が付くわけねーだろ! むしろ差がついたら王族教育の敗北だろうが!」
兄エリアスの言葉に一瞬きょとんとなるクリスだったが、兄の言葉を理解したのか、やれやれと首を振りながら口を開いた。
「兄上、それは学力や教育の差じゃない。表現力の差だよ」
「ひょ、表現力?」
「そうだよ。俺は脚本のセリフをそのまま吐くんじゃなく『ヒロインをキュンとさせる間』を意識して演じているだけさ。だから脚本家も演技力を認めてくれて、ヒーロー役を増やしてくれるんだよ。……何も考えず馬鹿真面目に演じている兄上と違って、ね」
「むっきゃー! 腹立つわーこいつ! お前なんて俺のスペアのくせに! スペアならスペアらしく、おとなしく倉庫で埃かぶってろ!」
見苦しい兄弟口喧嘩に眉をしかめ、『つきあいきれん』と席に腰を下ろした王弟ヴィンセントに対し、酔ったルーカスが嚙みついた。
「王弟殿下! そもそも貴方、いつまで王宮に居座り続けるつもりですか!? 30過ぎたらとっとと臣籍降下して、公爵位でも貰って王宮から出てくださいよ! 『王弟殿下』という肩書にそこまで拘る理由は何なんですか!?」
お前はなにを言っているんだ? と、脳内に某格闘家を降臨させつつ、ヴィンセントはルーカスの問いに答えた。学院長役も務める機会の多い王弟ヴィンセントは、若者の教育に熱心だった。
「……私とて、好きで居座っているわけではない。現国王である兄上の補佐と軍の指揮権掌握、万が一の継承権調整のために臣籍降下を許されないのが、我が国の現実だ」
「結局あの愚王が原因ですか」
「事実ではあるが口は慎め、ルーカス」
嘘でも愚王という評価を否定しないヴィンセントは正直者だった。
「それに脚本家から『圧倒的オーラのある美形役は、ヴィンセント殿下にしか務まらない』と頼み込まれたから、仕方なく配役に応じているだけだ。撮影直前に【実はヒロインを愛していた】という設定が追加されるのも、決して私の要望ではない」
「ぐぬぬ……これだからイケメンは……っ!」
悔し気に歯を食いしばるルーカスを見て『いやお前も大概イケメンだろうが』と思いつつも、ようやく落ち着いて酒が飲める、と、空いている席に座ったヴィンセントに対し、次に噛みついたのは酔っぱらったギルバートだった。
「納得がいきません! 王弟殿下、貴方が近衛軍と魔導師団を統括して無双するから、騎士団の肩身が狭くなるんですよ! なんのために騎士団と騎士団長が居ると思ってんですか!? 実際の公務でも脚本の配役でも勝ち確って……ずるいですよ!」
ギルバートの言葉に思い当たるふしがあったのか、何も言えなくなるヴィンセント。
エリアス、ルーカス、ギルバートの噛ませ三人衆の怒りが爆発し、個室内の雰囲気が極限まで悪くなりつつあった、その時――
――ガチャリ
店の戸口が開く音がした。と同時に、店内の視線が1人の男に集中する。当然エリアス達の視線も。
というかクリスとヴィンセント、個室の扉はちゃんと閉めろ。個室の意味がない。
店に入ってきたのは、本日の撮影・公演を終えたばかりのヒーロー役――辺境伯子息のシオンだった。
彼の私物であるサーコートの裾にメイクの血のりをつけたまま、圧倒的なオーラを纏っている。
「……やけに騒がしいと思ったら、皆揃って飲んでいたのですか?」
シオンは店主から手渡された、いつものウーロン茶のグラスを手に、やれやれといった面持ちで店内を見渡した。
その瞬間、先程まで言い争っていたエリアス達全員の動きが、ピタリと止まった。
「……シオン」
エリアスが、ガタリと椅子を引いて立ち上がる。
続いて、さっきまで余裕ぶっていたクリスも静かにグラスを置いた。
「兄上……今回ばかりは、私も兄上に加勢せざるを得ないな。なぁ叔父上?」
「あぁ。お前と私がヒーロー役に担ぎ出される事など、こやつに比べれば可愛いものだ」
ヴィンセントまでが重々しく頷く。
シオンはウーロン茶のグラスを握ったまま、嫌な予感に眉をひそめた。
「……なんですか、皆さん。何か問題でも?」
「なんですか、じゃない!」
居酒屋の天井をも吹き飛べとばかりに、エリアス達はシオンに食って掛かった。
ジョッキを振り上げながら口火を切ったのはエリアスだ。
「お前が登場すると、俺の役柄が8割がた『量産型ボンクラ王太子』から『腹黒陰険王太子』になるか『シオンの幼馴染』にジョブチェンジさせられるんだよ! なんでお前が出るか出ないかで台本書き換えられて1からセリフ覚え直さなきゃならないんだ!? そもそもなんでお前んちは王家より強そうな空気出してんだ!? 王家ナメんな!」
続けてルーカスがメガネを指でクイと押し上げながら畳みかける。
「そうです! そもそもシオン、君の実家である辺境伯なんて爵位、イギリスやフランスには存在しないドイツローカルの爵位なんですよ! 語源はただの『国境の伯爵』のくせに! そもそも何故公爵家の僕より偉そうなんですか!? 辺境伯なんて、イギリスやフランスなら侯爵ですからね!」
普段は余裕の笑みを絶やさないクリスも、今回ばかりは皆に同調した。
「兄上が腹黒王太子か幼馴染役にスライドしたしわ寄せで、今度は俺が『引き立て役のボンクラ第二王子』に役を変更されるんだよ! 兄上の割を食って、俺の存在価値までガタガタにされて、挙句セリフを覚え直さなきゃならん俺の身にもなってみろ! 辺境伯っていう言葉の響きだけで脚本家に依怙贔屓されやがって!」
重々しく腕を組んだヴィンセントが、低い声でさらに追撃する。
「なにが『辺境の英雄』だ? 笑わせるな! 私が王宮で軍の指揮権を握り、王都全体の防衛網と補給線を維持しているからこそ、お前たち辺境伯家が前線で無計画に無双できているんだろうが! 実際の政治でも脚本でも、王都で泥を被る我々の苦労を無視しよって! あとお前が登場すると、王弟の私はほぼ100%兄王を追い落として私が王になる脚本に変更されるんだ! 私も1からセリフを覚えさせられる被害者なんだぞ!」
最後にギルバートが、肉串をシオンに突きつけながら叫んだ。
「そうだそうだ! こっちは脳筋設定なのに、なんでお前だけ文武両道がデフォなんだよ!? それに毎回毎回、婚約破棄の現場で俺が殿下の元婚約者を取り押さえようとした瞬間、俺を一瞬で返り討ちにしやがって! 対魔物戦ならともかく、対人戦で日々訓練重ねて騎士団目指してる俺が、一瞬でお前に負けるわけがねーだろ! なんでお前を引き立たせるために、俺の戦闘能力にデバフかけられなきゃならねーんだよ!?」
他人から見れば理不尽とも言える5人の苦情に、シオンは中腰のまま固まった。
「……あの、俺は明日も早朝から殺陣の撮影なんです。それに役柄がご不満なら、俺ではなく脚本家に言うべきでしょう? そもそも辺境伯子息役だって、無茶振りされて殺陣が多すぎて傷だらけだし、現実の領政手伝いとしても年中無休で魔物と戦ってて、ぶっちゃけ王立学院で恋愛ゴッコしている暇なんて一切ないですし――」
「うるさい!!」
シオンが正論パンチで反撃した瞬間、5人の手が同時に伸び、シオンの衣装をガッチリと掴んだ。
「逃がすかぁぁぁ!!」
「居酒屋でウーロン茶? はっ! 意識高い系のつもりか!?」
「今夜は朝まで『何故辺境伯とその子息だけが美味しいところを持っていくのか』を徹底討論するぞ!」
「まずはビールだ! 店長、大ジョッキ6つ!」
「ちょ、やめてください! 衣装が汚れる……っ!」
「「「「「やかましい! 悔しかったら量産型ボンクラ辺境伯子息にでもなってみろ!」」」」」
王都の下町の路地裏に佇む居酒屋に、脚本家に自らの立場と役柄に振り回された男達の悲痛な叫びが、見事に1つとなって響き渡ったのだった。
「辺境伯なんて爵位、イギリスやフランスには存在しないドイツローカルの爵位なんですよ! 語源はただの『国境の伯爵』のくせに」
これを書きたいがためにこの作品を書いたのは内緒。実際は神聖ローマ帝国時代がうんたらかんたらあるみたいですけど、大雑把に。
あと第二王子クリスが言った
「辺境伯っていう言葉の響きだけで脚本家に依怙贔屓されやがって」
これきっと真理だと思うんですよね。だって響きが格好いいもん。
少なくとも恋愛系ジャンルで、辺境伯がヒーロー扱いされていない作品って自分は読んだ事ないです。




