言語統制、空を飛ぶ
はてしなく、シュールです。
朝、高校生の学は目が覚めるとテレビを点け、ニュースを見た。朝にニュースを見るのは彼の日課である。いや、彼どころか国民の日課であった。国民は毎朝七時半のニュースを見なければならない。重要なお知らせがあるからだ。
そしてニュース。
「ニュースです。政府は本日午前八時より『青』『死ぬ』及びそれらの活用形の言葉を禁止する事を発表しました。」
学はタメ息をついた。また、言語統制。これでは話す言葉も少なくなるではないか。しかし、その愚痴を言うことはできなかった。なぜなら『言語統制』も禁止ワードだったからだ。もし、その禁を破って話したらどうなるか。それを考えるだけで学はぞっとした。
その日学は友人たちとぶらぶら歩いていた。友人の健が話した。
「見た?今日のあのニュース。」
「うん。」
「今回はなかなかややこしいよね。」
もちろん、言語統制された『青』と『死ぬ』について言っているのである。学はひたすら相づちをうつ。
「うん。」
一行は前を歩いた。太陽がぽかぽかと照っていて、空には雲ひとつない。
武が言った。
「晴れてるね。」
「確かに。」
「綺麗な空だね。」
「本当、雲ひとつないまっさ…」
学は口ごもった。うっかり「真っ青」と言いそうになったのだ。『青』は言ってはいけない…学は言い直した。
「まっさ…まさに快晴だね。」
「う…うん。」
友人たちの間に密かな緊張が走った。ちょっとした発言が命取り。言葉に注意しなければならなかった。
しばらくして別の会話。
「そういえばさあ、テスト明後日だよ。」
「明後日?」
「あ、勉強しわすれたー。」
「死んだー。」
はっ、と友人たちはその発言をした勇という青年を見た。勇も自分の失言に気づき、青ざめた。禁止ワードの『死ぬ』を言ってしまった…友人らは勇から徐々に離れた。
次の瞬間、勇は地面から離れ、ものすごい勢いで空へ落ちていった。
「がああああああああぁぁぁぁぁぁ………・・・・。」
勇の姿は空の上に段々小さくなり見えなくなっていった。
しばしの沈黙の後、学らは勇を忘れて前を歩く事にした。
一行は大きな公園に着いた。太陽は照り、じりじりと学らを照りつけた。
「暑いね…」
「うん…先に避暑所とかないかな。」
一行はさらに前に進んだ。公園のくせにあまり木がないため、なかなか涼む場所が見当たらない。アブラゼミがジイジイと鳴く。
「…暑い…」
「ほんと、暑い…」
「暑くて死にそ…がああああああああぁぁぁぁぁぁ………・・・」
「涼む場所ないの?」
「もうすぐだ。ほら。」
学が指差すと、かきごおり売店を発見した。屋根がある。とりあえず学らはかきごおりを買うことにした。
「いらっしゃいませ。」
「えーと、スイください。」
「かしこまりました。」
「レモン味ください。」
「かしこまりました。」
「では僕はブルーハワイ…」
そう言った途端、武の身体は屋根を破って空に落ちていった。
「がああああああああぁぁぁぁぁぁ………・・・・」
「俺はイチゴで。」
「かしこまりました。」
かきごおりを食べた後、一行は、公園を出た。六人いたのが今や三人しかいない。三人とも怖いので、もう喋らない事にした。
だが、おばあさんが通りかかり、三人に話しかけた。
「そこの若い方…駅までの場所を知りたいんだけど、どこかわかるかねえ?」
三人は目配せし、やがて、純が代表して答える事にした。
「ここから、まっすぐ行って、右に曲がります。そしてまっすぐまっすぐ行って、洋服の青山の左いけば…す…ぐ…がああああああああぁぁぁぁぁ」
『青』山と言ってしまった純はおばあさんを残して空へ消えていってしまった。途方に暮れているおばあさんに学は話しかけた。
「まあ、分かりましたよね?」
「ええ…まあ…はい…ありがとう…」
学は健と話した。
「二人だけになったね…」
「ほんと…」
「ねえ、『洋服の×山』はいまどんな名前なのかなあ…」
「さあ…『洋服の山』じゃね?」
「そんな…」
「ところで学、これからどうする?」
「さあ…二人しかいないし、四人とも飛んでいったしね…」
その時健の顔が一気に青ざめた。学は気になって尋ねた。
「どうしたんだよ?」
「お前…さっき…言ったよな…」
「え?あっ!」
学は察した。さっきの言葉…「四人とも飛んでいったしね」…「飛んでいったしね」…「飛んでいった・死ね」
学は必死に叫んだ。
「違う違う!そんなつもりで言ったんじゃない!そんなつもりじゃ…」
その時、学の足が地面から離れるのを感じた。次の瞬間、学は猛烈な勢いで空へ落ちていった。
「がああああああああ!」