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大切な妹にヒドインが乗り移ったので姉の悪役令嬢がゴーストバスターする。

作者: くにのめめ
掲載日:2025/10/18

レイナは大切な妹がいる。その大切な妹がパーティに自分の婚約者に寄り添っていた。レイナは大切な妹を取り戻したかった。婚約者なんて、周りの目なんてどうでもよかった。レイナにとって一番の大切は、妹ただ一人なのだから。その妹が前と別人になっているのだとしたら、原因を突き止めるのが姉の役目。妹が変わってしまった原因は、妹に乗り移った悪霊の仕業であった。



※細かいことは気にせず読んでください。

 その日は卒業記念パーティが開催されていた。きらびやかなダンスホール、色鮮やかにビュッフェ、それはあくまで主役である卒業生たちや参加する在校生たちを彩るに過ぎなかった。


 だが、その中心で執り行われているのはダンスでも告白劇でもなく、人間一人を陥れようとする恐ろしい断罪劇である。


「レイナ・ストーゴ、貴様と婚約破棄をする」


 名の上がった令嬢レイナは、指をさしながら宣言した男を冷めた目で見ていた。レイナの婚約者であった第二王子の男は、とある女性を抱きしめていた。その女性はレイナの妹だ。……いや、妹だった(・・・・)


「理由は?このような場所でそのように言うとなれば、それなりの理由がおありなのですね?」

「とぼける気か!貴様は妹であるライラを幼いころからずっといじめてきたそうだな!そのような陰湿な人間を王室にいれるわけにはいかない!」

「はぁ、そうですか」


 このような事態を、レイナは想定しなかったわけではない。今から約一年前に始まったライラの不幸自慢は、瞬く間にレイナの悪行として広まっていったのだ。


 曰く、ライラのお気に入りの洋服を奪った。曰く、ライラが飲んでいた紅茶に毒を入れた。曰く、ライラを日常的にひっぱたいていた。など、など。これが本当の事であるならば、とんでもない女だと思うことだろう。


 しかし可笑しいのだ。レイナにはそんなことをした覚えがない。一切合切。そして証拠もない。信じるほうがおかしいのに誰もそこに気が付かない。


「ねぇライラ、覚えておいでかしら」


 レイナは第二王子を無視した。自分の妹だったはずのライラを見つめて、笑っていた。今彼女はこの衆人環視の中で責められていた。そのはずなのに。まるでそれが全部聞こえなかったかのように話し始めたのだ。


「え」

「ライラが何者になっても、私はライラを愛すると。私のたった一人の妹。私の大好きな妹。いつもいつもお姉さま!って言って私の後ろをついてきたライラ。ええ、大好きよ。私がライラをいじめる……?馬鹿なことを言わないでちょうだい?」


 くすくすと笑って、レイナはライラを見つめ続けていた。その周りにいる男たちなんて見えていない。ほかにいるはずの人間たちも見えていない。いいや見えていて敢えて無視している。二人だけの世界を作るために。


「ライラ、私との約束覚えてる?物心ついてから、ずっとことあるごとに確認してきたわよね?」


 レイナは自分の胸に手を当てた。そこには小さなピンクダイヤモンドのはめ込まれたネックレスがあった。アクセサリーを知っている人が見れば少しデザインが幼いと思うことだろう。けれどもそれはレイナの大切なものだった。


「……あら、どうして?ライラ、今日は絶対に私とおそろいのネックレスを付けてくると約束していたじゃない」


 ライラは思わず自分の首元を見た。そこに彩られているのは第二王子が贈ったネックレスが揺れていた。レイナがつけているよりも豪奢だったが、ライラには派手すぎだ。これなら小さな石のネックレスのほうがまだましだった。


「可笑しいわねぇ、可笑しいわねぇ?ライラ、忘れているのね?どうしてかしら?」


 だんだんと、レイナの語気が強まってきた。それに気が付いたのか、第二皇子やほかの取り巻き達が思わずライラの前に躍り出ようとした。しかしそれは出来なかった。


 床が、光りだしたのだ。


「……ねぇ()()、私ライラが大好きなの」


 レイナは目の前にいるはずの女性をライラ(いもうと)と呼ばなかった。それに気が付いたのか、ライラは慌ててその場から逃げようとした。けれども光りだした床から足が離れない。男たちが必死になってライラを動かそうとしても、けして。


「貴様!何をしている!」


 第二王子がレイナに向かっていき、そうして頬を叩いた。その時の大きな音に、近くにいた人たちは思わず目を閉じた。レイナは口を切ったのか、つう、と口から血をこぼした。それがぽたりと床に垂れた。


「決まっているわ、返してもらうのよ」


 床の光が一層激しくなる。それに伴って、ライラが苦しみだした。同じ光の上にいる男たちには一切反応せず、ライラだけがもがいている。


「いや、いやああ!いや!助けて!なにこれ!きいてないなにこれ!もうすぐでゲームクリアのはずなのに!知らない!やだ!やだやだやだ!私はライラ(ヒロイン)なのよ!こんな、こんな……いやあああああ!!!」


 ライラが激しく痙攣すると、金切り声をあげてのけぞった。顔を覆っていた手がぶらりとしたに垂れ下がり、半開きになった口から、黒い何かがもわりと出てきた。


(完璧だったのに!完璧な逆ハーエンドだったのに!どうして!わたしがライラ(ヒロイン)なのに!)

「往生際が悪いのね貴女。人の妹に憑依して人の気持ちをないがしろにして……それが完璧なものですか」


 第二皇子にぶたれた頬など気にせずに、レイナはヒールの音を鳴らして前に進んだ。右手を宙に動かして、そうして黒い何かに突き刺した。


「さっさと消えなさい死にぞこない。もう二度とこの世界に来ないで!」


 ぐっと力を入れると、黒い何かは霧散していった。甲高い、声ともいえない何かを叫んだそれは、サラリ、と空気に混ざるように消えていった。


 床の光が消えたころ、のけぞったままだったライラの身体がふらりと倒れた。近くにいた男が慌てて受け止めたが、レイナがそれを邪魔だと言わんばかりに押しのけた。


「ライラ!ライラ!聞こえるかしら!よく頑張ったわねぇ、本当に、よく、よく頑張ったわ……!」


 レイナはいじめ疑惑が上がる前は、完璧な令嬢として人々の羨望の的であった。公爵令嬢としての気品に態度、第二王子の婚約者として日々精進する姿。いいや、何が起きたところでレイナは変わっていなかった。変わったのは周りの態度なだけだったので。


 今のレイナは、そんな仮面が全部はがれた、ただの女の子だった。たった一人の妹が大事な姉だった。


「……おね、さま」

「ライラ、気が付いたのね。よかった、本当によかったわ」


 いったい何が起きたのだろうか。第二王子も取り巻きも、周りで見守っていた人々も、一瞬にして始まって終わったこの劇に関してついていけていなかった。しかしレイナは今すぐ説明できる状態じゃなかった。ライラを一刻も早くここから離したかったからだ。


「ごめんなさい、おねえさま、わたし、わたし、どうにもできなかった」

「大丈夫よライラ、おねえちゃんはわかってるからね。全部あなたの言葉じゃなかった。全部あの悪霊のせいだった」


 悪霊?と周りが反応した。レイナはライラに肩を貸しながらその場を去るべく歩き出そうとした。心身ともに衰弱しているライラは力がうまく出せないようで、二人そろって倒れそうになっている。


「……まて、説明を」

「今はライラを人のいないところに連れて行くのが優先です。王子、どうかご理解くださいませ。婚約破棄でも何でも致します」


 そもそものはじまりは婚約破棄宣言から始まったことを皆思い出した。第二王子ですらそうだったと思い出した。しかしなぜ自分は婚約破棄など言い出したのか、それがわからなかった。


 そう、わからなかったのだ。なんでここまでレイナを恨んだのか。ライラの言葉だけを信じたのか。


*****


「事の発端は入学式の少し前、ライラが高熱で倒れたことに始まりました」


 そこはストーゴ公爵邸のライラの部屋。そこにはベッドに寝かされたライラ、そばでライラの手を握るレイナ、ついてきた第二王子と取り巻き。それとレイナとライラの両親がいた。


「一日高熱でうなされて、次の日の朝にけろりとして起きたかと思ったら、まるで別人になったかのような言動を繰り返すようになったのです」


 両親は思い出す。あの日、ライラの様子は可笑しかった。ベッドの上でレイナを指さして「あんたは!」と叫んだかと思うと、次の瞬間にドレッサーの前に行って「やったー!」と嬉しそうにしていた。奇妙だった。気味が悪かった。もしかしてライラは一度死んでしまったのではないかしら。そう思うくらいにはそれ以降の様子も変だった。


 食卓に座れば「これいらない!」と食べなかったり、「お菓子持ってきて」と姉のレイナに命令したり、家庭教師にも「こんなことするために私はここにいるわけじゃない!」と逃げ出したり。


 それまでのライラは、レイナを見本にしながら淑女としての教育を進めてきた、勤勉でかわいらしいお嬢さんと評判だった。わがままと言うわがままは少なかったが、レイナはすぐにライラのしたいことほしいものを見極めて、毎日ライラを喜ばせてきた。二人はこの家の宝であった。


 でもライラは変わってしまった。全く別人が乗り移ったのではないかしら、とレイナが思うのも仕方がないことだった。


 ライラは学園に入学してから、不幸自慢をするようになった。レイナにこんなことをされた。レイナにあんなことをされた。きっと私のことが嫌いなのよ。そう言いながら泣きまねをしながらほくそ笑む姿を見て、レイナはそこに自分の妹を見いだせなかった。わからなくなったのだ。妹の気持ちが。だったらあれは妹ではない。そう思った。


 きっと悪いものに憑りつかれてしまったのだ。そう思ったレイナはすぐさま国内にいる高名な退魔師や聖職者に連絡を取った。家に来てもらい、ライラを診察してもらった。そして全員が同じことを言った。早くアレを追い出さないと、彼女は死んでしまうでしょう、と。


「あの悪霊は、ライラの魔力を使って貴方がたに魅了の魔法をかけ続けていました。しかしライラの魔力は一般的な貴族の中でも少ないほう、あと少し助けるのが遅かったら、魔力が枯渇して間に合わなかった……」


 すぐに悪霊退治としゃれこめなかったのは、あの悪霊がこの世界に執着しているからだった。あの悪霊が言うには(ライラに取り憑いて以降独り言が多くなっていたので使用人に全部記録させていた)、この世界は自分のための世界で、この世界は自分だけの世界なのだそうだ。強制的に追い出すためにはライラの体に負担がかかるがこれ以上放っておくわけにもいかない。だから、今回の卒業記念パーティに目を付けた。


「あの悪霊がパーティでことを起こそうとしているのには気が付いていました。そのため学園長や教師に話を付けて、ダンスホールの中心に退魔のための陣を敷いたのです」

「それであの光か」

「媒体となっていたライラに一番近い人物がそばにいないといけないという欠点はありましたが……うまく行きました」


 すっかりと憑き物が落ちた第二王子は静かにレイナの話を聞いていた。ほかの取り巻きも同じく。そうして自分がおろかで仕方がないと頭を抱えていた。


「場所が少しでもずれていたら成功しませんでした。王子殿下と皆様のおかげです」

「……それはほめているのか、嫌みなのか」

「あら失礼な、ほめていますわよ」


 レイナはわかっていた。第二王子も取り巻きも悪いわけじゃない。ライラに取り憑いた誰かのせいで自分を失わされていただけだと。けれども言われたことにはちゃんと傷ついた。レイナは、第二王子と婚約していた。彼のために過ごした日々もあったのだ。


「あれほどおおごとにしたんですもの、いまさら撤回は無理ですわよ」

「……すまない」

「まぁ、まぁ、そのように謝罪ができるようなら、もう大丈夫ですわ」


 王子は自分がレイナの頬を打ったことを思い出す。あれも自分の意志ではなかった。そうしなければいけない気がしたからそうした。誰かに動かされているようだったといまなら思う。でも、結局はしてしまったのだから、謝罪しかできないのだ。


「ライラ嬢は今後どうするのですか?」


 取り巻きの一人が挙手してそう発言した。レイナは両親のほうを見た。そうねぇ、と母が言う。


「しばらくは空気の綺麗な土地で療養ね。だいぶ心も傷ついているとのことだから、人から離れたほうがいいわ」

「私もついていきますわ」

「ライラ……」

「だって私、レイナが苦しんでるのにすぐにどうにもできなかったの、本当に悔しいの」


 小さいころに、レイナとライラは約束をした。お互いに困ったことがあったら絶対に助け合おうねと。たった二人の姉妹がそうやって約束した。両親に買ってもらったおそろいのネックレス。いつもつけていようね、お姉さまの大切な日には、卒業記念パーティには絶対おそろいでつけようね、そう約束もした。


「私なら大丈夫よ、勉強だって今まで以上にするわ。お父様の跡を継ぐと決めたのだから」


 今回、魅了によって操られた王子によって婚約破棄はおそらく言い渡されると思っていたライラは、先んじて事情を両親にも話していた。両親から王城にもつながり、ライラの次期公爵への道筋は出来上がったのだ。


「旦那を取るかは後で決めるわ。ライラに色目を使うような相手ならいらない。男はしばらく見たくないわ」


 まぁお父様は別だけど!とにっこりと笑っていた。


 第二王子も取り巻きも、何も言えなかった。きっとレイナが男性を嫌になる原因を作ったのは自分達だともうわかっているからだ。彼らは元は物わかりのいい子供だった。悪霊にそそのかされて魅了されてしまったのが運の付きだ。謝っても謝り切れない。


「さて今日はお開きにしましょう、王子殿下、よいですわね?」

「……あぁ、本当に、申し訳なかった」

「そう何度も頭を下げるものではなくてよ、せいぜい、私よりもいい婚約者をお探しなさいな」


 きっとむりだろうな、とその場にいる皆が思った。でも言わなかった。


 人々が去ったライラの部屋で、レイナは一人ライラに寄り添っていた。いつまでもいつまでも、ライラが目覚めるまで。


*****


 1ヶ月が経って、ようやく動けるようになったライラと、彼女に寄り添うレイナがいた。二人は仲睦まじい姉妹だった。昔からそうだったのだから、この一年間の変貌ぶりがあまりにおかしいと今ならわかるだろう。


 もう、終わったことだが。


「お姉様、結局私に憑りついてたのはどんな方でしたの?」

「そうねぇ、自意識過剰で厚顔無恥な世間知らずってとこかしら。あの世で苦しんでいるでしょうね」

「まぁ……消えてくださって本当に良かった」

「そんなことよりおやつにしましょう、今日はレモンパイよ」

「まぁ嬉しいわ!」


 第二王子や取り巻きたちはことあるごとにストーゴ公爵家に顔を出し、謝罪や婚約破棄の進捗を話し、姉妹の今後を祈った。二人は過ぎたことを気にしすぎることはない。ただ、思うのは、今後自分たちと同じような苦しみを味わう人がいませんように。たったそれだけなのだ。


 庭に二人の声がする。それだけでこの空間は美しい。

最後までご覧いただきありがとうございます。


悪霊はいわゆる憑依系ヒロインだったのですが、逆ハーエンドのためにレイナの悪評を広めたり魅了の魔法を使ったりしたい放題でした。この世界のもとになったゲームではそれが攻略の鍵だったのですが、生きている人間相手ではそうはいきませんよね。

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